人物史

海外の主要デザイナー列伝——リン・ウィリス、マイク・メイソンとポール・フリッカー

サンディ・ピーターセン(初版設計者)の後を継ぎ、『クトゥルフの呼び声』を第5〜6版へ育てたリン・ウィリスと、2014年の大改訂・第7版を手掛けたマイク・メイソン&ポール・フリッカーの経歴・貢献をたどる。

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概要

『クトゥルフの呼び声』は、サンディ・ピーターセンが単独で作って終わったゲームではない。40年以上にわたる版の歴史は、複数の書き手によって引き継がれ、育てられてきた。ここでは、第5〜6版を長く支えたリン・ウィリス(Lynn Willis)と、2014年の大改訂・第7版を手掛けたマイク・メイソン(Mike Mason)&ポール・フリッカー(Paul Fricker)という、2つの世代を代表する書き手を紹介する。

リン・ウィリス——ケイオシアムを支え続けた編集者

リン・ウィリスは1978年、ボードゲーム『Lords of the Middle Sea』を携えてケイオシアム社に参加し、同社3人目の社員となった[1]。ボードゲームのデザイナーとしてこの業界に入った人である[1]。以後、同社のもっとも長く在籍した一人となり、『クトゥルフの呼び声』シリーズ全体を統括する中心人物へと役割を広げていく[1]。

代表的な功績として、ラリー・ディティリオ(Larry DiTillio)とともに初代『ニャルラトテップの仮面』(Masks of Nyarlathotep)を手がけたことが挙げられる[1]。キース・ハーバー(Keith Herber)の離任後はシリーズのライン・エディターを引き継ぎ、第5版・第6版の開発に携わった[1]。

『クトゥルフの呼び声』以外にも、ケイオシアム社の汎用システム「ベーシック・ロールプレイング(Basic Roleplaying)」、『RuneQuest』第2版・第3版、『Worlds of Wonder』『Ringworld』『Elric』といった作品群に共著者・貢献者として名を連ねている[1]。サンディ・ピーターセン、グレッグ・スタフォード(Greg Stafford)とともにWest End Games社の『Ghostbusters』TRPGも共作した。公式ブログは、この作品がd6ダイスプール方式の先駆であり、その仕組みが今日『スター・ウォーズ』などのゲームに見られると述べている[1]。

2008年、健康上の理由からケイオシアム社の編集責任者(editor-in-chief)を退任[1]。2013年1月18日に逝去した[1]。

逝去時に寄せられた追悼の言葉を、公式ブログが引いている。グレッグ・スタフォードとチャーリー・クランクによるものである。

He loved his work and brought all his abilities to the job. He was incredibly smart, astonishingly widely read, detail oriented, and capable. He is largely responsible for the high quality, playability, and popularity of the leading horror RPG in our field.

(彼は自分の仕事を愛し、持てる力のすべてを注いだ。並外れて聡明で、驚くほど広く本を読み、細部に目が届き、有能だった。この分野を代表するホラーRPGの品質・遊びやすさ・人気は、その大半が彼に負っている)[1]

「品質・遊びやすさ・人気の大半が彼に負っている」——設計者ではなく編集者に向けられた言葉として、重い評価である。

マイク・メイソン&ポール・フリッカー——第7版という大改訂

2013年、リン・ウィリスの死去を受けてマイク・メイソンがライン・エディターに就任した。ケイオシアム公式の紹介によれば、メイソンはそれ以前ゲームズワークショップ社でBlack Industries部門のマネージャーを務め、ENnie賞を受賞した『ウォーハンマー40,000』のTRPG『Dark Heresy』、『ウォーハンマーRPG』、『タリスマン』などのボードゲームを担当していた[4]。ケイオシアムに来る前は、2000年前後に『クトゥルフの呼び声』専門のファンジン『The Whisperer』を発行し、欧州各地のコンベンションで卓を立てるシナリオ書きの集団「Kult of Keepers」を組織・運営していた[4]。現在は同社の『クトゥルフの呼び声』クリエイティブ・ディレクターとして、発注編集とライン全体の執筆をまとめ、アートワークの方向づけまで担当している[4]。

ポール・フリッカーはケイオシアムのアソシエイト・エディターである[5]。シナリオ・キャンペーンの制作と開発に関わりはじめたのは2005年の『Gatsby and the Great Race』からで、現在はケイオシアム公式のユーザー投稿プラットフォーム「ミスカトニック・リポジトリ」に『Full Fathom Five』『Dockside Dogs』『My Little Sister Wants You to Suffer』の3本を出している[5]。Storytelling Collectiveの入門講座「Write Your First Adventure」では『クトゥルフの呼び声』向けの内容を組み立て、TRPG制作を志す人々の最初の一歩を支えてきた[5]。ホラー&ゲーミング系ポッドキャスト「The Good Friends of Jackson Elias」の司会の一人であり、メイソンとの短編朗読ポッドキャスト「Mason and Fricker’s Eldritch Stories」にも出演している[5]。リン・ハーディ(Lynne Hardy)との共作『Rivers of London』TRPGはENnie賞を受賞した[5]。

この2人が共同で手掛けたのが、2014年刊行の第7版である。能力値のパーセンタイル表記への統一など、初版(1981年)以来もっとも本格的にルールへ手が入れられた改訂として位置づけられ、日本語版『新クトゥルフ神話TRPG』(KADOKAWA、2019年)の土台にもなっている。

クレジットの並びも確認できる。現行のハードカバー版『Call of Cthulhu Keeper Rulebook』(2016年、448ページ、ISBN 978-1-56882-430-7)の著者欄は「サンディ・ピーターセン、マイク・メイソン、ポール・フリッカー、リン・ウィリス」の4名である[2]。初版の設計者と、故人となった前任者の名が、現行版にも残されている。

フリッカーとメイソンは、その後も同じ版元で仕事を続けている。ケイオシアムが出した『Rivers of London: The Roleplaying Game』(2022年、400ページ、ISBN 978-1-56882-459-8)の著者欄には、原作小説の作者ベン・アーロノヴィッチとともに、ポール・フリッカー、リン・ハーディ、マイク・メイソンの名が並ぶ[3]。第7版で組んだ二人が、クトゥルフ神話の外側の題材でも組み続けていることになる。

第7版のチームが作ったもの

第7版を担った顔ぶれは、ルールブックだけを作って終わったわけではない。ケイオシアムの公式商品情報をたどると、同じ名前が大型の資料集にも並んでいる。

書名 刊行 著者欄
Call of Cthulhu Keeper Rulebook 2016年 Sandy Petersen / Mike Mason / Paul Fricker / Lynn Willis[2]
Malleus Monstrorum(2巻組) 2020年 Mike Mason / Scott David Aniolowski / Paul Fricker[6]
Rivers of London RPG 2022年 Ben Aaronovitch / Paul Fricker / Lynne Hardy / Mike Mason ほか[3]

当サイトの神格記事で繰り返し参照している『Malleus Monstrorum』も、この二人の仕事である[6]。ルールの改訂者が、そのまま神格事典の書き手でもある——第7版以降のクトゥルフ神話TRPGが、どのような体制で作られているかが分かる。

世代の受け渡し方

このゲームの40年余を通して見ると、交代のたびに前任者の名前が残るという特徴がある。

  • 初版(1981年)の復刻版クレジットには、ピーターセンのほかスティーブ・ペリン、グレッグ・スタフォード、リン・ウィリスら7名が並ぶ[7]
  • 現行の第7版の著者欄には、2013年に没したウィリスの名が今も入っている[2]

設計者を一人に絞らないこの慣習は、複数世代が版を重ねてきたゲームの성格をよく表している。誰か一人の作品ではないという事実が、クレジットの形で保存されている。

まとめ

サンディ・ピーターセンが切り開いた「勝てないゲーム」という発想は、リン・ウィリスというケイオシアム社生え抜きの編集者によって長期にわたり守り育てられ、その死後はマイク・メイソン&ポール・フリッカーという新しい世代の書き手に引き継がれて、現行の第7版という形に結実した。一人の天才の発明ではなく、複数世代の書き手が版を重ねるごとに手を加えてきた、共同制作の歴史がそこにはある。

出典

  • [1] Chaosium公式ブログ「Remembering Lynn Willis, ten years after his passing」(投稿者Michael O’Brien、2023年1月18日付、該当ページ)。ウィリスがボードゲームのデザイナーとして業界に入り、1978年に『Lords of the Middle Sea』を携えてケイオシアムの3人目の社員となったこと、Basic Roleplaying・RuneQuest第2版と第3版・初代Masks of Nyarlathotep(Larry DiTillioとの共作)・Worlds of Wonder・Ringworld・Elric・Call of Cthulhu第5版と第6版への関与、Sandy PetersenおよびGreg StaffordとのGhostbusters RPG共作とd6ダイスプール方式の先駆であること、2008年に健康上の理由でeditor-in-chiefを退任したこと、2013年1月18日の逝去、およびGreg StaffordとCharlie Krankによる追悼の言葉を確認した(2026年9月15日確認)。 ↩
  • [2] Chaosium公式の商品ページ『Call of Cthulhu Keeper Rulebook – Hardcover』(該当ページ)。2016年、第7版、448ページ、ISBN 978-1-56882-430-7、著者欄「Sandy Petersen, Mike Mason, Paul Fricker, and Lynn Willis」(2026年9月15日確認)。 ↩
  • [3] Chaosium公式の商品ページ『Rivers of London: The Roleplaying Game – Hardcover』(該当ページ)。2022年、400ページ、ISBN 978-1-56882-459-8、著者欄にBen Aaronovitch、Paul Fricker、Lynne Hardy、Mike Mason らの名を確認した(2026年9月15日確認)。 ↩
  • [4] Chaosium公式サイト「The Chaosium Leadership Team」内のMike Mason紹介ページ(該当ページ)。『クトゥルフの呼び声』のクリエイティブ・ディレクターであること、発注編集とラインの主筆を兼ねアート面も統括すること、2000年前後にファンジン『The Whisperer』を発行したこと、Kult of Keepersを立ち上げ欧州各地のコンベンションで運営したこと、以前ゲームズワークショップ社でBlack Industries Managerとして『Dark Heresy』(ENnie賞受賞)・『Warhammer Fantasy Roleplay』・『Talisman』を担当したことを確認した(2026年9月15日確認)。 ↩
  • [5] Chaosium公式サイト「The Chaosium Leadership Team」内のPaul Fricker紹介ページ(該当ページ)。associate editor for Call of Cthulhuであること、2005年の『Gatsby and the Great Race』以降の制作参加、ミスカトニック・リポジトリの3シナリオ、Storytelling Collectiveの『Write Your First Adventure』への関与、2つのポッドキャスト出演、Lynne Hardyとの『Rivers of London』RPGがENNIE賞受賞であることを確認した(2026年9月15日確認)。 ↩
  • [6] Chaosium公式の商品ページ『Malleus Monstrorum – Cthulhu Mythos Bestiary – Slipcase Set』(該当ページ)。Year Released 2020、2巻組(216ページ/264ページ)、ISBN 978-1-56882-334-8、Authors「Mike Mason, Scott David Aniolowski, Paul Fricker」(2026年9月15日確認)。 ↩
  • [7] Chaosium公式の商品ページ『Call of Cthulhu Classic – 1″ Boxed Set』(該当ページ)。Year Released「1981, 2022」、Ruleset「2nd Edition Call of Cthulhu」、ISBN 978-1-56882-454-3、Author(s)「Sandy Petersen, William James Hamblin III, Steve Perrin, Greg Stafford, Anders Swenson, Lynne Willis, Charlie Krank」の7名(2026年9月15日確認)。 ↩
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