散文詩 — EX OBLIVIONE

忘却より

現実に疲れ果てた語り手が夢の中で見出した黄金の谷と青銅の門を、ついに越えて辿り着いた先に待っていたのは、この上ない安らぎに満ちた無の空間だった。

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忘却より

「最後の日々が私に迫り、存在の醜い些事が、拷問者が犠牲者の体の一点に絶え間なく滴らせる小さな水滴のように私を狂気へと追いやり始めたとき、私は光り輝く眠りという逃避所を愛した」

— H・P・ラヴクラフト「忘却より」(1921年発表)冒頭部

概要

覚醒した生の陳腐さと苦痛に疲れ果てた語り手が、眠りの中に見出した安らぎと、夢の彼方にあるという黄金の谷、そしてその奥に立つ青銅の門を巡って綴られる、ラヴクラフト初期の散文詩。

作品情報

  • 執筆・発表年: 1920年末〜1921年初頭執筆/1921年3月「ザ・ユナイテッド・アマチュア」誌発表(ウォード・フィリップス名義)
  • 主題タグ: 夢と忘却への憧憬、現実からの逃避、虚無への安らぎ、ドリームランズ

登場神格・用語

(なし)

あらすじ

現実の些末な苦痛に疲れ果てた語り手は、眠りの中にこそ美を見出し、夢の中で古い庭園や魔法の森をさまよう。やがて彼は繰り返し同じ黄金の谷を訪れるようになる。その谷は影深い木立と廃墟へと続き、蔦に覆われた巨大な壁と、そこに穿たれた小さな青銅の門で終わっていた。目覚めている時間の味気なさに耐えられなくなった語り手は、その門の奥にこそ永遠に留まりたい夢の国があると信じるようになる。夢の都市ザカリオンで見つけた古い莎草紙には、その谷と門にまつわる賢者たちの記述があり、ある者は門の向こうの驚異を、ある者は恐怖と失望を語っていた。それでも語り手は未知への憧れに勝てず、門を開かせるという薬を服用する。ついに門をくぐった彼が見たのは、陸も海もない、ただ白い虚空だけが広がる領域だった。だが語り手はそれを恐れるどころか、かつて「生」という悪魔に呼び出される前にいた、水晶のような忘却の故郷へと再び溶け込んでいく安らぎを感じるのだった。

読みどころと注目テーマ

短い散文詩でありながら、現実への幻滅と夢への逃避というラヴクラフトの根源的なテーマを凝縮している。最終的な「無」への回帰を恐怖ではなく安息として描く結末は、彼の作品群の中でも異色の静謐さを湛えている。

執筆背景と影響

ダンセイニの影響を色濃く受けた初期のドリームランズ作品群の一つ。ラヴクラフト自身のアマチュアジャーナリズム活動の中で発表された小品だが、後年の「未知なるカダスを夢に求めて」に連なる夢幻文学の原型的な着想を示している。

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