概要
セレファイスやウタールといった幻想的な都市が存在し[1][2]、猫の軍勢や食屍鬼[3]、夜鬼が独自の社会を形成している[4]。現実世界の物理法則ではなく、空想の強度や精神力が反映される。
原典での描写
「未知なるカダスを夢に求めて」での呼び方
「未知なるカダスを夢に求めて」の地の文で「夢の国」にあたる語を数えると、単数形の”dreamland”が三十例、”land of dream”が六例、複数形の”dreamlands”が二例、”land of dreams”が一例で、合計三十九例になる。いずれも普通名詞としての言い回しであり、「ドリームランド」や「Dreamlands」という体系名としての固有名詞表記は、この作品自体には登場しない。複数形が使われる箇所では、地球を巡る夢の国だけでなく、フォーマルハウトやアルデバランの見知らぬ伴星を巡る夢の国にも言及されており、夢の国は地球に限らず恒星ごとに存在しうるものとして語られている[5]。
目覚めの世界との出入り
物語冒頭、ランドルフ・カーターは浅い眠りに落ちたのち「七十段の階段」を下って「炎の洞窟」に至り、そこでひげの司祭ナシュトとカマン=ターに、未知なるカダスへ赴く計画を打ち明ける[6]。祭司たちの制止を振り切ったカーターは、さらに「深い眠りの門」へ続く「七百段の階段」を下り、魔法の森を抜けて旅立つ[7]。物語終盤、食屍鬼となった旧友ピックマンは、目覚めの世界へ戻る道として、教会墓地を抜けたのち浅い眠りの七十段で炎の洞窟へ、深い眠りの門へ続く七百段で魔法の森へと、探索をやり直すよう勧める[8]。行きと帰りに同じ二つの階段と一つの洞窟が繰り返し語られ、目覚めの世界と夢の国は、この定まった経路を通ってのみ行き来できる場所として描かれる。
夢の国の地理の語られ方
タナリアン丘陵の彼方にある都市セレファイスの王クラネスは、夢の国では意のままにできる栄華と美と歓喜のすべてを、目覚めの世界で純朴な少年として過ごすたった一日のために手放してもよいと思う人物として語られる[9]。ディラス=リーンの黒い商船が運ぶ紅玉については、「地球の夢の国のどの鉱山からも、これに類するものが採れるとは知られていなかった」と語られ、局地的にしか採れない特産として扱われている[10]。西方の玄武岩の柱の彼方は、単純な人々が語る楽園カスリアの手前にありながら、賢い夢見人にとっては地球の夢の国の大洋が虚無へ落ち込み、定められた宇宙の外へと通じる滝の門とされる[11]。さらにサルコマンドの遺跡に立つ双子の獅子像は、夢の国から大深淵(グレート・アビス)へ下る階段を永遠に守る番人として描かれている[12]。
結末で明かされる夢の国の正体
物語の結末、未知なるカダスの城でニャルラトホテプは、ランドルフ・カーターが探し求めた黄金と大理石の夕映えの都が、彼自身が若い日に見て愛したものの総和にすぎないと告げる[13]。ボストンの丘の屋根、コモンの花の香り、ロードアイランドの田舎家の思い出を並べたうえで、「ランドルフ・カーターよ、これらこそがお前の都だ。それらはお前自身なのだから」と語る[14]。夢の国そのものが幻だと言うのではなく、カーターが夢の国の彼方に求めた都だけは、目覚めの世界の記憶から作られたものだった、という筋立てである。
基本プロフィール
- 分類: 概念
- 欧文表記: DREAMLANDS
- 初出・出典: 未知なるカダスを夢に求めて(1926–1927年執筆/1943年発表)
由来と歴史 / 詳細設定
ラヴクラフトが敬愛したファンタジー作家ロード・ダンセイニの影響を強く受けて創造された。初期の『ウルタールの猫』や中期の『未知なるカダスを夢に求めて』で精緻な地図が形作られ、ラヴクラフトのドリームランド(夢の国)と呼ばれる独立した世界観を構成している。
性質と影響
コズミック・ホラーの冷酷な現実世界と対比され、怪奇幻想と美的なワンダー(驚異)が同居する、豊かなダークファンタジーの舞台を提供する。
関連する用語
ランドルフ・カーター、セレファイス、夜鬼、ウルタールの猫、深淵
出典
- [1] “the splendid city of Celephaïs in Ooth-Nargai beyond the Tanarian Hills, where reigns half the year the great King Kuranes”(訳: 「タナリアン丘陵の彼方、ウース=ナルガイにある壮麗な都市セレファイス、そこでは一年の半分を偉大なる王クラネスが統べる」) — H. P. Lovecraft, “The Dream-Quest of Unknown Kadath”(1926–1927年執筆/1943年発表), hplovecraft.com ↩
- [2] “in Ulthar, according to an ancient and significant law, no man may kill a cat”(訳: 「ウルタールでは、古く重要な掟により、いかなる人間も猫を殺してはならない」) — 同上, hplovecraft.com ↩
- [3] “His vanished friend Richard Pickman had once introduced him to a ghoul, and he knew well their canine faces and slumping forms and unmentionable idiosyncrasies”(訳: 「行方知れずとなった友人リチャード・ピックマンはかつて彼を一匹の食屍鬼に引き合わせたことがあり、彼はその犬めいた顔、猫背の姿、口にするのも憚られる奇癖をよく知っていた」) — 同上, hplovecraft.com ↩
- [4] “they never spoke or laughed, and never smiled because they had no faces at all to smile with, but only a suggestive blankness”(訳: 「彼らは決して話さず笑わなかった。というのも彼らには微笑むための顔というものが一切なく、ただ何かを暗示するような虚無があるのみだったからだ」) — 同上(夜鬼の描写), hplovecraft.com ↩
- [5] “…whether it be in the dreamlands around our world, or in those surrounding some unguessed companion of Fomalhaut or Aldebaran. If in our dreamland, it might conceivably be reached; but only three fully human souls since time began had ever crossed and recrossed the black impious gulfs to other dreamlands, and of that three two had come back quite mad.”(訳: 「それが我々の世界を巡る夢の国の中にあるのか、それともフォーマルハウトやアルデバランの見知らぬ伴星を巡る夢の国の中にあるのかを。我々の夢の国の中であれば辿り着けるかもしれないが、開闢以来、他の夢の国との間を渡ってまた戻った完全な人間の魂はわずか三人しかおらず、その三人のうち二人は正気を失って帰ってきた」) — H. P. Lovecraft, “The Dream-Quest of Unknown Kadath”(1926–1927年執筆/1943年発表), hplovecraft.com ↩
- [6] “In light slumber he descended the seventy steps to the cavern of flame and talked of this design to the bearded priests Nasht and Kaman-Thah.”(訳: 「浅い眠りの中で、彼は七十段の階段を下って炎の洞窟に至り、この企てをひげの司祭ナシュトとカマン=ターに語った」) — 同上, hplovecraft.com ↩
- [7] “he boldly descended the seven hundred steps to the Gate of Deeper Slumber and set out through the enchanted wood.”(訳: 「彼は大胆にも七百段の階段を下って深い眠りの門に至り、魔法の森を通り抜けて旅立った」) — 同上, hplovecraft.com ↩
- [8] “…down the seventy steps of light slumber to the cavern of flame and the seven hundred steps to the Gate of Deeper Slumber and the enchanted wood”(訳: 「浅い眠りの七十段を下って炎の洞窟へ、そして深い眠りの門へ続く七百段を下って魔法の森へ」) — 同上, hplovecraft.com ↩
- [9] “though Kuranes was a monarch in the land of dream, with all imagined pomps and marvels, splendours and beauties, ecstacies and delights, novelties and excitements at his command, he would gladly have resigned forever the whole of his power and luxury and freedom for one blessed day as a simple boy in that pure and quiet England…”(訳: 「クラネスは夢の国では君主であり、思い描きうる限りの豪奢と驚異、壮麗と美、恍惚と歓喜、目新しさと興奮のすべてを意のままにできる身でありながら、あの清らかで静かなイングランドで純朴な少年として過ごすたった一日のために、その権力と贅沢と自由のすべてを永遠に手放してもよいと思っていた」) — 同上, hplovecraft.com ↩
- [10] “no mine in all earth’s dreamland was known to produce their like.”(訳: 「地球の夢の国のどの鉱山からも、これに類するものが採れるとは知られていなかった」) — 同上, hplovecraft.com ↩
- [11] “the Basalt Pillars of the West, beyond which simple folk say splendid Cathuria lies, but which wise dreamers well know are the gates of a monstrous cataract wherein the oceans of earth’s dreamland drop wholly to abysmal nothingness and shoot through the empty spaces toward other worlds and other stars…”(訳: 「西方の玄武岩の柱、その彼方には単純な人々の言う楽園カスリアがあるとされるが、賢い夢見人はそこが、地球の夢の国の大洋がまったくの虚無へ落ち込み、他の世界や他の星々へと空虚な空間を抜けて噴き出す、巨大な滝の門であることを知っている」) — 同上, hplovecraft.com ↩
- [12] “whose twin titan lions guard eternally the steps that lead down from dreamland to the Great Abyss.”(訳: 「その双子の巨大な獅子は、夢の国から大深淵(グレート・アビス)へと下る階段を永遠に守っている」) — 同上, hplovecraft.com ↩
- [13] “For know you, that your gold and marble city of wonder is only the sum of what you have seen and loved in youth”(訳: 「知るがいい、お前の黄金と大理石の驚異の都は、お前が若い日に見て愛したものの総和にすぎないのだ」) — H. P. Lovecraft, “The Dream-Quest of Unknown Kadath”, 公式アーカイブ ↩
- [14] “These, Randolph Carter, are your city; for they are yourself.”(訳: 「ランドルフ・カーターよ、これらこそがお前の都だ。それらはお前自身なのだから」) — 同上 ↩






