人物 — RANDOLPH CARTER

ランドルフ・カーター

原典

「ランドルフ・カーターの陳述」を皮切りに複数作品に再登場する、ラヴクラフト作品世界で最も重要な再登場人物。禁断の知識への探求者であり、夢の国を自在に旅する夢見る者でもある。

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ランドルフ・カーター

概要

ランドルフ・カーターの陳述」(1919年執筆/1920年発表)を皮切りに、「銀の鍵」「銀の鍵の門を越えて」「未知なるカダスを夢に求めて」と、少なくとも4作品に連続して登場するラヴクラフト作品世界で最も重要な再登場人物[1]。禁断の知識への探求者であると同時に、夢の国(ドリームランド)を自在に旅する夢見る者として描かれ、後年の作品では個人としての人格の枠を超えた宇宙的存在へと変容していく。

基本プロフィール

  • 分類: 人物
  • 欧文表記: RANDOLPH CARTER
  • 初出: 「ランドルフ・カーターの陳述」(1919年12月執筆/1920年5月『ザ・ヴァグラント』誌発表)
  • 登場作品: 「ランドルフ・カーターの陳述」「未知なるカダスを夢に求めて」(1926年執筆/1943年刊行)「銀の鍵」(1926年執筆/1929年発表)「銀の鍵の門を越えて」(E・ホフマン・プライスとの共作、1932-33年執筆/1934年発表)の4作に登場する連作の主人公

別名・呼称

作中で別名は与えられていないが、「銀の鍵の門を越えて」以降は個人としての「ランドルフ・カーター」という人格が、時空を超えた多数の分身の一断面にすぎないことが明かされる(後述)。

人物像・性格

ボストン出身の紳士にして小説家・骨董趣味の人物として設定され、現実世界の因習や理性に飽き足らず、幼少期から夢と幻視の世界に強く惹かれる性格として一貫して描かれる。友人ハーリー・ウォレンとともに禁断の書物を蒐集する好古家であり、「ランドルフ・カーターの陳述」ではウォレンに「君は幼子のように臆病だ」とたしなめられる場面があるなど、危険を顧みない年長の友人に対してやや及び腰な側面も見せる。後の「銀の鍵」では、30歳を境に幻視の力を失い理性と実利の世界に埋没していく中年男性として描かれ、失われた夢への渇望がその後の全ての行動の起点となる[2]

生涯・経歴

「ランドルフ・カーターの陳述」では、禁断の書物を蒐集する友人ハーリー・ウォレンとともに、フロリダの古い墓地で謎めいた地下納骨堂を暴く一夜を体験する[3]。ウォレンは相棒を地上に残し、携帯した電話線を頼りに単身で地下へ降りていく[4]。しばらくは順調な報告が続くが、やがて要領を得ない恐怖の叫びとともに応答が途絶え、電話の向こうから応答したのはウォレンの声ではない何かだった——「この愚か者め、ウォレンは死んだ!」[5]。カーターはこれを聞いた直後に意識を失い、正気を失いかけながら生還する。ウォレンの身に何が起きたのか、彼自身にも判然としないまま「陳述」は幕を閉じる。

その後「銀の鍵」では、30歳を境に幻視の力を失った中年のカーターが描かれる。「もはやオウクラノス川を遡り、スランの金色の尖塔群の傍らを進む彼のガレー船はなかった」[6]と評されるように、夢の国への回帰の道を完全に見失っていた。祖先の遺品の中から、奇怪なアラベスク模様の刻まれた変色した銀の鍵を発見し[7]、これを清め、香り高い樫の小箱に収めて夜ごと傍らに置くようになる[8]。ある夜、カーターは自らの意志とは無関係に、確信めいた足取りで祖先の屋敷跡へ向かい、本能的に銀の鍵を取り出して姿を消す。彼の自動車は、祖先の屋敷跡へ向かうエルム山の中腹に、几帳面に道端へ寄せて停められた状態で発見された[9]

続く「銀の鍵の門を越えて」(E・ホフマン・プライスとの共作)では、鍵の力で「門」を越えた先でカーターに何が起きたかが語られる。彼は消え去ったのではなく、自身が単一の人格ではなく無数の人格の集合体であったことを、身の毛のよだつ恐怖とともに悟る[10]。1883年の少年として、1928年の壮年としてなど、複数の時代に同時に存在していることに気づき[11]、「我々が実体・現実と呼ぶものは影であり幻影であり、影・幻影と呼ぶものこそが実体・現実である」[12]、「時間、その波もまた、静止しており、始まりも終わりもない」[13]という真理を垣間見る。あらゆる時代・あらゆる姿の”カーター”は、時空の外にある単一の究極的・永劫的な”カーター”の様々な位相にすぎなかった[14]。この体験の中でカーターは、地上のある秘教が「ヨグ=ソトース」と呼びならわしてきた、限りない存在の「全にして一、一にして全」なる何かと遭遇する[15]

「未知なるカダスを夢に求めて」は物語内の時系列としては「銀の鍵」以前、まだ夢の国を自在に旅せていた時代のカーターを描く。彼は三度同じ壮麗な都市の夢を見て、三度ともその都市を見下ろす高い露台に佇んだところで引き戻された[16]。「あの輝く夕映えの街路と、古びた瓦屋根の間を縫う謎めいた丘の小路」への渇望に病み、寝ても覚めてもそれを頭から追い払えなくなったカーターは、誰も試みたことのない大胆な嘆願に打って出ることを決意する[17]。彼は「雲に覆われ、名状しがたき星々を戴く、知られざるカダス」——大いなるものたちの隠された玉座がある場所——を目指し[18]、そこで神々に直談判して「夢に見た記憶と、あの壮麗な夕映えの都市の姿を、もう一度この目に」取り戻すことを目的とする[19]

他の人物・存在との関係

ハーリー・ウォレンとは、禁断の書物を分かち合う知的な盟友関係にあり、「陳述」における彼の失踪はカーターの人生に消えない影を落とす。夢の国の旅においては、地球の大いなるものたちや、その使者であるニャルラトホテプ的存在とも交渉を持つ(「未知なるカダスを夢に求めて」)。そして「銀の鍵の門を越えて」で明かされる最大の関係性は、カーターという人格そのものが、時空を超えた存在ヨグ=ソトースと呼びならわされてきた「全にして一、一にして全」なる何かの一断面である、という啓示的なつながりである。

主要登場作と読みどころ

  • 「ランドルフ・カーターの陳述」(1919年執筆/1920年発表): シリーズの起点。友人ウォレンを地下納骨堂の奥に失う一夜を描く、電話越しの恐怖という語りの仕掛けが読みどころ
  • 「銀の鍵」(1926年執筆/1929年発表): 幻視の力を失った中年カーターが、祖先の銀の鍵によって再び夢への扉を開く様を描く、ラヴクラフト自身の郷愁が色濃く反映された一作
  • 「銀の鍵の門を越えて」(E・ホフマン・プライスとの共作、1932-33年執筆/1934年発表): カーターという個人の人格が、時空を超えた宇宙的存在の一断面にすぎなかったと明かされる、シリーズの宇宙論的到達点
  • 「未知なるカダスを夢に求めて」(1926年執筆/1943年刊行): 時系列上は最も早い時代のカーターを描く長編。三度見た夕映えの都市の夢を追い、夢の国の奥地カダスを目指す壮大な冒険譚

よくある誤解

Q. ランドルフ・カーターはラヴクラフト自身がモデルなのですか?

A. 直接的な自伝ではないが、骨董趣味・夢への強い憧憬・現実世界への違和感といった要素に、ラヴクラフト自身の色濃い自己投影があると広く評されている。ただし作中の出来事(ウォレンの失踪、宇宙的変容等)は虚構である。

Q. カーターが登場する4作品は、最初から連作として構想されていたのですか?

A. いいえ。「陳述」(1919年)と「未知なるカダスを夢に求めて」(1926年)は執筆時期も作風も異なり、当初から一つのシリーズとして計画されていたわけではない。「銀の鍵の門を越えて」でカーターの過去作の要素(ウォレンの一件を含む)が回顧される形で、後から連続性が与えられている。

出典

  • [1] (シリーズ構成についての要約。原典本文からの直接引用ではなく編集部による整理)
  • [2] “No more could his galleys sail up the river Oukranos past the gilded spires of Thran.”(訳: 「もはやオウクラノス川を遡り、スランの金色の尖塔群の傍らを進む彼のガレー船はなかった」) — H. P. Lovecraft, “The Silver Key”(1926年執筆/1929年発表), 公式アーカイブ
  • [3] “The place was an ancient cemetery; so ancient that I trembled at the manifold signs of immemorial years.”(訳: 「そこは古い墓地だった——あまりに古く、幾星霜を経た無数の徴に私は身震いした」) — H. P. Lovecraft, “The Statement of Randolph Carter”(1919年執筆/1920年発表), 公式アーカイブ
  • [4] “Then he shook my hand, shouldered the coil of wire, and disappeared within that indescribable ossuary.”(訳: 「それから彼は私と握手を交わし、電話線の束を担いで、あの名状しがたき納骨堂の中へと姿を消した」) — 同上
  • [5] “YOU FOOL, WARREN IS DEAD!”(訳: 「この愚か者め、ウォレンは死んだ!」) — 同上
  • [6] “No more could his galleys sail up the river Oukranos past the gilded spires of Thran.”(訳: 前掲[2]と同一の引用) — H. P. Lovecraft, “The Silver Key”, 公式アーカイブ
  • [7] “Inside, wrapped in a discoloured parchment, was a huge key of tarnished silver covered with cryptical arabesques.”(訳: 「中には、変色した羊皮紙に包まれた、奇怪なアラベスク模様の刻まれた変色した銀の大鍵があった」) — 同上
  • [8] “But he cleaned the key, and kept it by him nightly in its aromatic box of ancient oak.”(訳: 「だが彼はその鍵を清め、古い樫の香り高い小箱に収めて、夜ごと傍らに置いた」) — 同上
  • [9] “Half way up Elm Mountain, on the way to the ruins of the old Carter place, they found his motor set carefully by the roadside.”(訳: 「カーター家の屋敷跡へ向かうエルム山の中腹で、彼らは几帳面に道端へ寄せられた彼の自動車を発見した」) — 同上
  • [10] “he realised in a moment of consuming fright that he was not one person, but many persons.”(訳: 「彼は身の毛もよだつ恐怖の瞬間、自分が単一の人格ではなく、多数の人格であることを悟った」) — H. P. Lovecraft & E. Hoffmann Price, “Through the Gates of the Silver Key”(1932-33年執筆/1934年発表), 公式アーカイブ
  • [11] “he was in many places at the same time”(訳: 「彼は同時に多くの場所に存在していた」、1883年の少年・1928年の壮年など複数の時代に同時存在していることを指す) — 同上
  • [12] “That which we call substance and reality is shadow and illusion, and that which we call shadow and illusion is substance and reality.”(訳: 「我々が実体・現実と呼ぶものは影であり幻影であり、影・幻影と呼ぶものこそが実体・現実である」) — 同上
  • [13] “Time, the waves went on, is motionless, and without beginning or end.”(訳: 「時間、その波もまた、静止しており、始まりも終わりもない」) — 同上
  • [14] “all these were only phases of one ultimate, eternal ‘Carter’ outside space and time.”(訳: 「これら全ては、時空の外にある単一の究極的・永劫的な”カーター”の様々な位相にすぎなかった」) — 同上
  • [15] “It was perhaps that which certain secret cults of earth have whispered of as YOG-SOTHOTH”(訳: 「それはおそらく、地上のある秘密教団たちが”ヨグ=ソトース”と囁きならわしてきた何かだった」、”All-in-One and One-in-All of limitless being”「限りなき存在の全にして一、一にして全」と評される) — 同上
  • [16] “Three times Randolph Carter dreamed of the marvellous city, and three times was he snatched away while still he paused on the high terrace above it.”(訳: 「ランドルフ・カーターは三度、あの驚異の都市の夢を見た。そして三度とも、それを見下ろす高い露台に佇んだところで引き戻された」) — H. P. Lovecraft, “The Dream-Quest of Unknown Kadath”(1926年執筆/1943年刊行), 公式アーカイブ
  • [17] “sick with longing for those glittering sunset streets and cryptical hill lanes among ancient tiled roofs, nor able sleeping or waking to drive them from his mind, Carter resolved to go with bold entreaty whither no man had gone before.”(訳: 「あの輝く夕映えの街路と、古びた瓦屋根の間を縫う謎めいた丘の小路への渇望に病み、寝ても覚めてもそれを頭から追い払えなくなったカーターは、誰も試みたことのない大胆な嘆願に打って出ることを決意した」) — 同上
  • [18] “unknown Kadath, veiled in cloud and crowned with unimagined stars, holds secret and nocturnal the onyx castle of the Great Ones”(訳: 「雲に覆われ、名状しがたき星々を戴く、知られざるカダスは、大いなるものたちのオニキスの城を秘め持つ」) — 同上
  • [19] “find the gods on unknown Kadath in the cold waste…and to win from them the sight and remembrance and shelter of the marvellous sunset city.”(訳: 「冷たき荒野の彼方、知られざるカダスに神々を見出し……あの驚異の夕映えの都市の姿と記憶、そして庇護をこの手に取り戻すこと」) — 同上
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