人物(夢の国) — THE SLANT-EYED MERCHANT

切れ長の目の商人

「未知なるカダスを夢に求めて」に登場する、ずんぐりした老商人。ディラス=リーンとインガノクの酒場に姿を見せ、レンの石の村々や「言い表せない大司祭」と取引しているという噂を負う。物語終盤、カーターを冷たい荒野で捕らえてレンの修道院へ連行するが、地の文は彼の正体をムーンビーストの一員だとは書いていない。カーターに突き飛ばされ、坑へ落ちたところで原典から姿を消す。

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誤りの指摘・訂正依頼と編集方針は運営者情報へ。

切れ長の目の商人

「ずんぐりした、邪悪な伝説のあの切れ長の目の商人が、痩せたヤクにまたがってにやにや笑いながら小走りに付き従っていた。その翼にはまだ地の底の穴蔵の霜と硝石がこびりついたシャンタクの一団を率いて。」

— H・P・ラヴクラフト「未知なるカダスを夢に求めて」(1926-1927年執筆)、レン高原北の冷たい荒野で道に迷ったカーターが、ついに背後を振り返る場面
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概要(2〜3行)

切れ長の目の商人は、H・P・ラヴクラフトの長編「未知なるカダスを夢に求めて」に登場する人物である。ディラス=リーンとインガノク、二つの港町の酒場にずんぐりした姿で現れ、健康な者が近づかないレン高原の石の村々や、黄色い絹の仮面をかぶる「言い表せない大司祭」とさえ取引しているという噂を負う[1]。物語の終盤、彼はレン高原の北の冷たい荒野でランドルフ・カーターを待ち伏せて捕らえ、シャンタクの群れに乗せて大司祭の修道院へ連行する[6][7]。だがカーターは坑のそばで彼を突き飛ばし、その姿は地の文から消える[20]。原典は彼の出自も正体も一度も明かさない。読者が抱きやすい「ムーンビーストの手先」という読みは、この記事の後段で扱うとおり、原典の記述そのものではなく、原典が残した空白を埋める側の解釈である。

基本プロフィール

  • 分類: 人物(夢の国の住人、あるいはその協力者。原典に種族としての分類の記述はない)
  • 欧文表記: THE SLANT-EYED MERCHANT。固有名は与えられない
  • 初出・出典: 「未知なるカダスを夢に求めて」(1926年秋?-1927年1月22日執筆[21]/1943年、アーカム・ハウス刊『Beyond the Wall of Sleep』で死後出版[22])
  • 原典での呼称: the slant-eyed merchant、the old slant-eyed merchant、the slant-eyed man、the slant-eyed trader、the evil merchant、the sinister merchant など。呼び方は場面ごとに揺れ、固有名は一度も与えられない
  • 初登場: ディラス=リーンの酒場。噂話の対象として現れる[1]
  • 再登場: インガノクの酒場。「はるか以前に見た」姿として再び現れる[4]
  • 交易品: シャンタク鳥の巨大な卵を、イラーネクの翡翠の杯と交換していたと船乗りが証言する[5]。レンの石の村々との取引内容そのものは書かれない
  • 結末(作中): レンの修道院で、大司祭の前へ話を通していた最中にカーターに突き飛ばされ、ジンの地下大空洞に通じるとされる坑へ落ちる[20]。死んだと明記されるわけではない

原典での描写

ディラス=リーンでの初登場

カーターがこの人物を最初に見るのは、ディラス=リーンの酒場である。彼はンガラネク山への船を待ちながら、冷たい荒野と未知なるカダスについての手がかりを求めて旅人たちの噂話を聞き集めていたが、収穫はなかった。ただ一人だけ、印象に残る男がいた。

“though he once thought that a certain old slant-eyed merchant looked queerly intelligent when the cold waste was spoken of. This man was reputed to trade with the horrible stone villages on the icy desert plateau of Leng, which no healthy folk visit and whose evil fires are seen at night from afar. He was even rumoured to have dealt with that high-priest not to be described, which wears a yellow silken mask over its face and dwells all alone in a prehistoric stone monastery.”(訳: もっとも彼は一度、冷たい荒野の話が出たとき、ある年老いた切れ長の目の商人が妙に賢げな顔つきをしたように思ったことがあった。この男は、レンの氷の砂漠の高原にある恐ろしい石の村々と取引していると評判だった。健康な者は誰も訪れず、その邪悪な火が夜に遠くから見える場所である。彼はさらに、顔に黄色い絹の仮面をかぶり、先史時代の石の修道院にたった独りで住む、あの言い表せない大司祭とも通じているとまで噂されていた。)[1]

原典が最初にこの人物へ与える情報は、この一段落がすべてである。名前も年齢も出身地もなく、あるのは「妙に賢げな顔つき」という一瞬の印象と、二重に「噂」「評判」と留保された取引相手の情報だけだ。地の文はこの噂を裏づけも否定もしない。

カーターはこの男に近づこうとするが、結果は素っ気なく片づけられる。

“That such a person might well have had nibbling traffick with such beings as may conceivably dwell in the cold waste was not to be doubted, but Carter soon found that it was no use questioning him.”(訳: そのような人物が、冷たい荒野にひょっとして棲むかもしれない存在と、多少なりとも取引を持ったとしても不思議はなかった。だがカーターはほどなく、この男に尋ねても無駄だと悟った。)[2]

この場面で二人が言葉を交わした形跡はない。商人はただ「賢げに見えた」男として記憶に残り、以後しばらく本文から姿を消す。

食屍鬼への道案内としての記憶

商人自身が再登場するより先に、彼は一度、カーターの記憶のなかだけで働く。月の生物の岩礁から逃れ、地底の世界を食屍鬼たちと進んでいたカーターは、廃都サルコマンドへ抜ける道を思案する場面で、この商人を思い出す。

“Carter recalled that it lies in the valley below Leng, and recalled likewise that he had seen in Dylath-Leen a sinister, slant-eyed old merchant reputed to trade on Leng. Therefore he advised the ghouls to seek out Dylath-Leen, crossing the fields to Nir and the Skai and following the river to its mouth.”(訳: カーターは、それがレンの下方の谷にあることを思い出し、同時に、レンと取引していると評判の、あの不吉な切れ長の目の老商人をディラス=リーンで見かけたことも思い出した。そこで彼は食屍鬼たちに、野を越えてニルとスカイ川へ出て、その川を河口までたどり、ディラス=リーンを目指すよう助言した。)[3]

商人本人はこの場面に姿を見せない。だがカーターは、彼が「レンと取引している」という一度きりの噂を、進路を決める判断材料として扱っている。カーターにとってこの商人は、疑わしい相手でありながら、レンへの地理的な手がかりを持つほとんど唯一の存在でもある。

インガノクでの再会

物語の後半、インガノクへ入国したカーターは、船長に案内されて都を歩いたあと、酒場でこの男と再会する。

“Far in the shadows of that tavern Carter saw a squat form he did not like, for it was unmistakably that of the old slant-eyed merchant he had seen so long before in the taverns of Dylath-Leen, who was reputed to trade with the horrible stone villages of Leng which no healthy folk visit and whose evil fires are seen at night from afar, and even to have dealt with that high-priest not to be described, which wears a yellow silken mask over its face and dwells all alone in a prehistoric stone monastery. This man had seemed to shew a queer gleam of knowing when Carter asked the traders of Dylath-Leen about the cold waste and Kadath; and somehow his presence in dark and haunted Inganok, so close to the wonders of the north, was not a reassuring thing.”(訳: その酒場の奥の暗がりに、カーターは気に入らないずんぐりした姿を見た。それはまぎれもなく、はるか以前にディラス=リーンの酒場で見たあの切れ長の目の老商人だった。健康な者は誰も訪れず、その邪悪な火が夜に遠くから見えるレンの恐ろしい石の村々と取引し、さらには、顔に黄色い絹の仮面をかぶり先史時代の石の修道院にたった独りで住む、あの言い表せない大司祭とも通じていると噂された男である。カーターがディラス=リーンの商人たちに冷たい荒野とカダスについて尋ねたとき、この男は妙に知っていそうな光をちらつかせたように見えた。そして北の驚異にこれほど近い、暗く呪われたインガノクにこの男がいるということが、どこか心を落ち着かせなかった。)[4]

ディラス=リーンでの紹介文とほぼ同じ文言が、ここでそのまま繰り返される。原典が新しい情報を足すのではなく同じ噂を反復させている点は、言い表せない大司祭の記事でも指摘されているとおりである。カーターが声をかける前に、男はまた姿を消す。船乗りたちが後から伝えた話だけが残った。

“sailors later said that he had come with a yak caravan from some point not well determined, bearing the colossal and rich-flavoured eggs of the rumoured shantak-bird to trade for the dexterous jade goblets that merchants brought from Ilarnek.”(訳: 船乗りたちは後に、あの男はどことも定かでない場所からヤクの隊商とともに来て、噂のシャンタク鳥の巨大で風味豊かな卵を、商人たちがイラーネクからもたらす精巧な翡翠の杯と交換しに来たのだと語った。)[5]

出身地は「どことも定かでない場所」とされ、ここでも確定しない。分かるのは、彼がヤクの隊商とともに動き、シャンタク鳥の卵を扱うという一点だけである。

冷たい荒野での捕縛

インガノクを出て北の採石場道をたどったカーターは、人の住む地帯の果てで彫られた山々の半円に出会い、そこからシャンタクの大群に追われて道を失う。ついに立ち止まったとき、彼は初めて背後を振り返る。

“And as he stopped in final resignation he dared at last to look behind him; where indeed was trotting the squat slant-eyed trader of evil legend, grinning astride a lean yak and leading on a noxious horde of leering shantaks to whose wings still clung the rime and nitre of the nether pits.”(訳: そしてついに万策尽きて立ち止まったとき、彼はようやく背後を振り返る勇気を出した。そこには確かに、邪悪な伝説のあのずんぐりした切れ長の目の商人が、痩せたヤクにまたがってにやにや笑いながら小走りに付き従い、翼にまだ地の底の穴蔵の霜と硝石がこびりついた、ぞっとする一団のシャンタクを率いていた。)[6]

シャンタクの大群に包囲されたカーターの前に、商人はヤクから飛び降りて立つ。

“Trapped though he was by fabulous and hippocephalic winged nightmares that pressed around in great unholy circles, Randolph Carter did not lose consciousness. Lofty and horrible those titan gargoyles towered above him, while the slant-eyed merchant leaped down from his yak and stood grinning before the captive. Then the man motioned Carter to mount one of the repugnant shantaks, helping him up as his judgment struggled with his loathing.”(訳: 馬の頭を持つ有翼の悪夢どもに大きな邪悪な輪となって取り囲まれ、罠にかけられながらも、ランドルフ・カーターは意識を失わなかった。あの巨大な怪物めいた鳥たちが頭上に高く恐ろしく聳えるあいだ、切れ長の目の商人はヤクから飛び降り、囚われの身となった彼の前ににやにや笑いながら立った。それから男はカーターに、あの忌まわしいシャンタクの一羽へまたがるよう身振りで促し、嫌悪と分別がせめぎ合う彼を助け上げた。)[7]

抵抗の描写はない。カーターは身振りだけで従い、商人は背後に飛び乗る。

“Once he was seated, the slant-eyed man hopped up behind him, leaving the lean yak to be led away northward toward the ring of carven mountains by one of the incredible bird colossi.”(訳: 彼が座ると、切れ長の目の男は背後に飛び乗り、痩せたヤクは、あの途方もない鳥の巨人の一羽に導かれて、彫られた山々の環に向かって北へ引かれていくにまかされた。)[8]

レン高原への飛行

シャンタクは雲の上を飛び、越えられない峰々へ近づく。ここで商人と鳥のどちらもが見せる反応が、地の文に短く記される。

“he did not question his captor about these things when he noticed that both the man and the horse-headed shantak appeared oddly fearful of them, hurrying past nervously and shewing great tension until they were left far in the rear.”(訳: 彼は、この男も馬の頭を持つシャンタクも、それらの峰々を妙に恐れている様子を見せ、はるか後方に置き去りにするまで神経質に急ぎ緊張を露わにしているのに気づき、捕らえた男にそのことを尋ねはしなかった。)[9]

暗黒の勢力に仕えているはずの商人が、この峰だけには怯える。原典はその理由を説明しない。

やがてシャンタクは高度を下げ、レン高原の石の村々が見えてくる。弱い火のまわりで踊る住民の姿を、カーターはしだいに見て取り、ついにその正体を悟る。

“For the cryptic folk of Leng were of one race with the uncomfortable merchants of the black galleys that traded rubies at Dylath-Leen; those not quite human merchants who are the slaves of the monstrous moon-things!”(訳: レンの謎めいた民は、ディラス=リーンでルビーを商う黒いガレー船の、あの居心地の悪い商人たちと同じ種族だったのだ。あの、月の怪物どもの奴隷である、人間とは言い切れない商人たちと!)[10]

ここで種族の正体が明かされるのは、レン高原で踊る住民と、黒いガレー船でルビーを商うムーンビーストの奴隷たちの二者である。この一文のどこにも、切れ長の目の商人その人の名は出てこない。両者と彼との関係については、この記事の「正体をめぐって」の節であらためて扱う。

飛行が続くあいだ、商人は自分の乗騎とだけ言葉を交わす。

“At times the slant-eyed man talked with his steed in a hateful and guttural language, and the shantak would answer with tittering tones that rasped like the scratching of ground glass.”(訳: ときおり切れ長の目の男は、自分の乗騎と忌まわしい喉音の言葉で話し、シャンタクはすりガラスを引っかくような耳障りな忍び笑いの調子で応じた。)[11]

修道院、そして退場

風の吹き抜ける卓状の高地に、シャンタクはついに降り立つ。

“There, all alone in the hush and the dusk and the cold, rose the uncouth stones of a squat windowless building, around which a circle of crude monoliths stood. In all this arrangement there was nothing human, and Carter surmised from old tales that he was indeed come to that most dreadful and legendary of all places, the remote and prehistoric monastery wherein dwells uncompanioned the high-priest not to be described, which wears a yellow silken mask over its face and prays to the Other Gods and their crawling chaos Nyarlathotep.”(訳: そこには、静けさと薄暮と寒気のなかにただ一つ、平たく窓のない建物の粗削りな石が立ち上がり、その周りを粗い一枚岩の環が囲んでいた。この配置には、人間的なものが何ひとつなかった。カーターは古い伝承から、自分がまさしく、あらゆる場所のうちで最も恐ろしく最も伝説的な場所へ来たのだと察した。顔に黄色い絹の仮面をかぶり、外なる神々とその這い寄る混沌ニャルラトホテプに祈る、あの言い表せない大司祭が、連れもなくただ独りで住む、遠く先史の修道院である。)[12]

“The loathsome bird now settled to the ground, and the slant-eyed man hopped down and helped his captive alight.”(訳: 忌まわしい鳥はいまや地上に降り立ち、切れ長の目の男は飛び降りて、捕らえた男が下りるのを助けた。)[13]

この場面でカーターは、自分がなぜ捕らえられたのかを確信する。

“Of the purpose of his seizure Carter now felt very sure; for clearly the slant-eyed merchant was an agent of the darker powers, eager to drag before his masters a mortal whose presumption had aimed at the finding of unknown Kadath and the saying of a prayer before the faces of the Great Ones in their onyx castle. It seemed likely that this merchant had caused his former capture by the slaves of the moon-things in Dylath-Leen, and that he now meant to do what the rescuing cats had baffled; taking the victim to some dread rendezvous with monstrous Nyarlathotep and telling with what boldness the seeking of unknown Kadath had been tried.”(訳: 自分が捕らえられた目的について、カーターはいまや確信していた。切れ長の目の商人が、暗黒の勢力の手先であることは明らかだったからだ――未知なるカダスを探し当て、縞瑪瑙の城で大いなるものたちの顔の前に祈りを捧げようという、思い上がった一人の人間を、主人たちの前へ引きずり出そうとしているのだ。この商人が、以前ディラス=リーンで月の怪物どもの奴隷によって彼が捕らえられた一件を仕組んだ張本人らしいこと、そして今度は、猫たちの救出によって阻まれたことを成し遂げるつもりであること――すなわち、犠牲者を怪物ニャルラトホテプとの恐ろしい会合へ連れて行き、未知なるカダスを探そうとした大胆さを告げ口するつもりであることも、ありそうに思われた。)[14]

「確信していた」「ありそうに思われた」――カーター自身の思考であることが、この段落では文法上はっきり示されている。地の文がこの推測を裏づける記述は、この先どこにも現れない。

“The slant-eyed man was small, but the great hippocephalic bird was there to see he was obeyed; so Carter followed where he led, and passed within the circle of standing rocks and into the low arched doorway of that windowless stone monastery.”(訳: 切れ長の目の男は小柄だったが、あの馬の頭を持つ巨大な鳥が服従を見張っていた。だからカーターは導かれるままについていき、立ち並ぶ岩の環をくぐって、あの窓のない石造修道院の低いアーチ形の戸口へ入った。)[15]

“There were no lights inside, but the evil merchant lit a small clay lamp bearing morbid bas-reliefs and prodded his prisoner on through mazes of narrow winding corridors.”(訳: 内部に明かりはなかったが、邪悪な商人は病んだ浅浮彫の入った小さな粘土のランプを灯し、囚人を狭く曲がりくねった回廊の迷路へ突き進ませた。)[16]

“The slant-eyed merchant had now prodded Carter into a great domed space whose walls were carved in shocking bas-reliefs, and whose centre held a gaping circular pit surrounded by six malignly stained stone altars in a ring. There was no light in this vast and evil-smelling crypt, and the small lamp of the sinister merchant shone so feebly that one could grasp details only little by little.”(訳: 切れ長の目の商人は、いまやカーターを大きな円蓋の空間へ突き入れていた。壁は衝撃的な浅浮彫に彫られ、中央には口を開けた円形の坑があり、それを6基の悪意に染まった石の祭壇が輪になって囲んでいた。この広大で悪臭に満ちた地下納骨所には明かりが一切なく、あの不吉な商人の小さなランプはひどく弱々しく光るばかりで、細部は少しずつしか捉えられなかった。)[17]

奥の壇上に座る大司祭へ、商人は手で合図を送る。

“To this being the slant-eyed man made certain signs with his hands, and the lurker in the dark replied by raising a disgustingly carven flute of ivory in silk-covered paws and blowing certain loathsome sounds from beneath its flowing yellow mask.”(訳: この存在に向かって切れ長の目の男が手でいくつかの合図を送ると、暗がりに潜むものは、絹に覆われた前肢で不快に彫られた象牙の笛を上げ、垂れた黄色い仮面の下からいくつかの忌まわしい音を吹いて応えた。)[18]

このやりとりが続くあいだ、カーターの記憶は月の都市の行列と結びつく。だがそれは大司祭についての手がかりであって、商人自身についての記述ではない。商人はランプを祭壇に置き、再び言葉ではなく手で語りかける。

“The slant-eyed man had set his curious lamp upon one of the high and wickedly stained altar-stones by the pit, and had moved forward somewhat to talk to the high-priest with his hands.”(訳: 切れ長の目の男は、坑のそばの高く邪悪に染まった祭壇石の一つに奇妙なランプを置き、手で大司祭と話すためにいくらか前へ進み出ていた。)[19]

これが、彼が言葉であれ身振りであれ何かをしている、原典最後の描写である。次の瞬間、それまで完全に受け身だったカーターが動く。

“Carter, hitherto wholly passive, now gave that man a terrific push with all the wild strength of fear, so that the victim toppled at once into that gaping well which rumour holds to reach down to the hellish Vaults of Zin where gugs hunt ghasts in the dark.”(訳: それまで完全に受け身だったカーターは、恐怖の荒々しい力のかぎりでその男をすさまじく突き飛ばした。犠牲者はたちまち、噂ではグーグが暗がりでガストを狩る地獄めいたジンの地下大空洞まで達するという、あの口を開けた井戸へ落ちていった。)[20]

商人が原典に現れるのはここまでである。彼が坑の底で死んだのか、地下大空洞の何かに拾われたのか、原典は書かない。カーターはランプをつかんで逃げ出し、以後この人物への言及は一度も無い。

別名・呼称

固有名は最後まで与えられない。地の文が彼を呼ぶ言い方は場面ごとに変わる。素性が噂される段階では「ある年老いた切れ長の目の商人(a certain old slant-eyed merchant)」[1]、追跡者として現れる場面では「邪悪な伝説のあのずんぐりした切れ長の目の商人(the squat slant-eyed trader of evil legend)」[6]、監督者として動く場面では「切れ長の目の男(the slant-eyed man)」[8][11][15]、モノクロームな評価語としては「邪悪な商人(the evil merchant)」[16]、「不吉な商人(the sinister merchant)」[17]。呼び方の揺れそのものが、この人物に固定した名も肩書きも無いことを示している。

人物像・性格

原典が明言する人柄は少ない。「ずんぐりした(squat)」体つき[4]、「小柄(small)」であること[15]、「にやにや笑う(grinning)」表情[6][7]――描かれる特徴はこの程度で、顔立ちの詳細や服装には触れられない。「切れ長の目(slant-eyed)」だけが繰り返し強調される身体的特徴であり、それ以外の外見は書かれない。

行動の型は一貫している。ディラス=リーンでもインガノクでも、彼は酒場の奥の暗がりに座り、話しかけられる前に姿を消す[1][4]。正面から接触する場面は、レン高原の荒野で不意にカーターの前へ現れる場面まで存在しない。噂の対象であり続け、実際に言葉を交わす相手としては一度も描かれない――この空白は、彼を扱う原典の一貫した姿勢である。

行動を導くときも、彼は声を使わない。カーターをシャンタクに乗せるときは「身振りで促し(motioned)」[7]、大司祭に話しかけるときも「手でいくつかの合図(certain signs with his hands)」[18][19]。彼が発する言葉として原典に記されるのは、シャンタクに対する「忌まわしい喉音の言葉」[11]だけであり、カーターに向けて何かを話したという記述は一度も無い。

生涯・経歴

彼の足取りは、カーターの旅程に沿って四つの場面に分かれる。

最初はディラス=リーンでの目撃である。カーターは彼を「妙に賢げな顔つき」の人物として記憶に留めるが、話しかけても無駄だと分かる[1][2]。この段階で二人のあいだに接触は無い。

次に、彼の名は本人の登場を伴わずに一度だけ使われる。地底からサルコマンドを目指すカーターが、食屍鬼たちにディラス=リーンへ向かうよう助言する根拠として、この商人がレンと取引していたという記憶を挙げるのである[3]。商人自身はこの場面に姿を見せないが、カーターの判断に間接的に関わっている。

三度目はインガノクの酒場での再会である。ここでも接触は成立せず、船乗りたちの伝聞だけが残る――どこからともなくヤクの隊商とともに現れ、シャンタク鳥の卵を翡翠の杯と交換していたという[4][5]。

四度目、そして最後が、レン高原北の冷たい荒野である。道に迷ったカーターの前に彼は初めて正面から姿を現し、シャンタクの群れとともに待ち伏せていたかのように振る舞う[6]。ここから先、彼は初めて能動的にカーターへ関わる――シャンタクへ乗せ[7]、ともに飛び[8][11]、大司祭の修道院へ導き[12][13][15]、ランプを灯して回廊を進ませ[16]、大司祭に取り次ごうとする[18][19]。そして取り次ぎの最中、カーターに突き飛ばされて坑へ落ち、姿を消す[20]。

四つの場面を通して、彼が自ら望んで言葉を発する場面は無い。噂の中の人物として始まり、無言の監督者として終わる。

他の人物・存在との関係

ランドルフ・カーター――物語を通じて商人が関わる唯一の人間である。最初は情報源として観察され[1]、次に地理的な手がかりとして記憶され[3]、最後には捕獲者として直接対峙する[6][7]。二人のあいだに言葉のやり取りが成立した場面は原典に無く、身振りと押し合いだけが二人を結ぶ[7][20]。

言い表せない大司祭――商人が「通じている」と二度噂される相手であり[1][4]、レン高原の修道院で実際に取り次ぎを行う相手でもある[18][19]。大司祭は外なる神々とニャルラトホテプに祈る立場に置かれているが[12]、商人自身がこの祈りの対象とどう関わるのかは原典に書かれていない。原典は、この二者の関係の中身――主従なのか、共犯なのか、単なる案内役なのか――を一度も説明しない。手で合図を送り、手で応えられるだけの場面が、二者の関係の全記述である[18]。

シャンタク鳥――商人の乗騎であり、荒野での捕縛から修道院への到着まで彼と行動を共にする[6][7][8][11][13]。商人はこの鳥と「忌まわしい喉音の言葉」で意思を通じ合わせており[11]、越えられない峰を前にしたときは鳥と同じように怯える[9]。カーターを捕らえたのが商人単独の意志なのか、鳥の側の意志も働いているのかは書かれていない。

黒いガレー船の商人たち(別人)――ディラス=リーンには、切れ長の目の商人とは別に、もう一組の「商人」が登場する。

“The mouths of the men who came from it to trade were too wide, and the way their turbans were humped up in two points above their foreheads was in especially bad taste.”(訳: そこから降りて商いをする者たちの口は広すぎたし、ターバンが額の上で二つの角のように盛り上がっているさまは、とりわけ趣味が悪かった。)[23]

この一団は黒いガレー船に乗って現れ、ターバンの下に角を隠していることが後に明かされ、ムーンビーストの奴隷であると原典が明言する[10]。切れ長の目の商人とは、初登場の場面からして別の一団として書き分けられており、原典が両者を同一視した箇所は無い。この区別については次節でさらに扱う。

正体をめぐって、原典が許す範囲

この人物を扱ううえで、最初に断っておくべきことがある。原典は彼の正体を一度も明かしていない。書かれているのは、噂の対象として二度紹介され[1][4]、荒野でカーターを捕らえ[6][7]、大司祭のもとへ導き[12][13][15][16]、坑へ落とされる[20]、という行動の連なりだけである。

読者が抱きやすい読み方は、彼をレンの住人、あるいはムーンビーストの手先だと見なすものだろう。この読みには相応の根拠がある。彼はレンと取引していると二度噂され[1][4]、レン高原の修道院へカーターを迷わず連れて行き[12]、大司祭とのあいだで言葉ではなく身振りだけのやり取りを交わす[18][19]。越えられない峰を前にして怯える様子も、乗騎のシャンタクと同じ反応を見せる点で、彼がこの土地の秩序に組み込まれた存在であることをうかがわせる[9]。

それでも原典が実際に書いていることには、いくつかの留保が残る。

第一に、彼とレンの取引・大司祭との関係は、地の文が確認した事実としてではなく、常に「評判」「噂」として提示される[1][4]。同じ噂が二度、ほぼ同じ文言で繰り返されるという構成そのものが、原典がこの点を確定情報として扱っていないことを示している。

第二に、レン高原の住民――蹄と角を持ち、ムーンビーストの奴隷である「ほぼ人間」たち――が明かされる場面で、原典は彼らを「レンの謎めいた民」「黒いガレー船の商人たち」と呼ぶが[10]、この一文のどこにも切れ長の目の商人自身は登場しない。同一場面で彼の身体的特徴が語られることも無く、蹄・角・広い口といった、レンの民とムーンビーストの奴隷に共通する識別標識は、この商人には一度も付与されない。彼について繰り返されるのは「ずんぐり」「小柄」「切れ長の目」という別種の特徴だけである[4][6][15]。

第三に、原典が彼を指す代名詞は一貫して人を指すものである。「その男(the man)」「彼(he)」――大司祭が which と its で受けられ、人を指す代名詞を最後まで拒まれているのとは対照的である(言い表せない大司祭の記事を参照)。文法上の扱いだけを見れば、原典はこの商人を人間の側に置いている。

第四に、カーターが彼をディラス=リーンでの以前の拉致事件の黒幕と推測する場面も、「確信していた」「ありそうに思われた」という、カーター自身の思考であることを明示する語で書かれている[14]。地の文がこの推測を裏づける記述は、その後どこにも現れない。

さらに、「切れ長の目」という語そのものが、この人物だけの標識ではないことも押さえておく必要がある。インガノクの波止場で働く奴隷たちも、同じ形容で紹介される。

“The sailors and merchants were of the strange-faced race of the gods, but the slaves were squat, slant-eyed folk said by rumour to have drifted somehow across or around the impassable peaks from valleys beyond Leng.”(訳: 船乗りと商人は神々に似た異形の顔立ちを持つ種族だったが、奴隷たちはずんぐりした切れ長の目の者たちで、噂ではレンの彼方の谷から峰々を越えるか回り込むかして、どうにか流れ着いた者たちだとされていた。)[24]

この奴隷たちは、ヤクの隊商とともに一時的に現れては消える切れ長の目の商人とは、生活の様式そのものが異なる。「切れ長の目」は、レンに近縁するとされる人々一般を指す原典の言い回しであって、特定の一種族だけを名指す固有の識別語ではない。

以上を踏まえると、切れ長の目の商人をムーンビーストの手先、あるいはレンの民の一人と読む解釈は、状況証拠のうえでは十分に成り立つ。だが原典の本文は、そう明言してはいない。当サイトはこの人物を、正体不明のまま行動だけが記された人物として扱う。

主要登場作と読みどころ(3〜5作)

  • 「未知なるカダスを夢に求めて」(1926年秋?-1927年1月執筆/1943年発表): 切れ長の目の商人の唯一の登場作。ディラス=リーンでの一瞥、インガノクでの再会、そして冷たい荒野での捕縛という三度の場面に分かれて描かれ、正体は最後まで明かされない。噂として紹介される二つの場面がほぼ同じ文言で反復される構成と、行動の場面で一度も言葉を発しない徹底ぶりが読みどころ。
  • あわせて読む「言い表せない大司祭」: 商人が取り次ぎを行う相手を扱う記事。原典がその正体をどこまで明かし、どこで止めているかを、商人自身の場合と比較しながら読める。
  • あわせて読む「レンの男」: 商人が連想させるレン高原の住民と、その主人であるムーンビーストの関係を扱う記事。商人本人がこの種族に含まれるかどうかを確かめる材料になる。
  • あわせて読む「インガノク」: 商人が再登場する薄暮の都を扱う記事。彼が姿を見せた酒場と、彼とは別の「切れ長の目」の奴隷たちの双方に触れている。
  • あわせて読む「ランドルフ・カーター」: 商人に捕らえられ、最後には彼を突き飛ばして逃げる側の人物を扱う記事。

よくある誤解(Q&A)

Q. 切れ長の目の商人は、レンの住人(いわゆる「レンの男」)なのですか? A. 原典はそう書いていない。レンの住民がムーンビーストの奴隷であると明かされる場面[10]に、商人自身は登場しない。彼に付与される身体的特徴は「ずんぐり」「小柄」「切れ長の目」であり[4][6][15]、レンの民に共通する蹄・角・広い口といった標識は一度も与えられない。取引相手としてレンと結びつけられてはいるが[1][4]、それは噂の形で提示されているだけである。

Q. ではムーンビーストの手先なのですか? A. その読みは状況証拠として成り立つが、原典に明言は無い。彼が以前カーターを拉致した一件の黒幕らしいというのも[14]、カーター自身の推測として書かれており、地の文がそれを事実として確認する記述は無い。越えられない峰を前にして乗騎のシャンタクと同じように怯える場面[9]も、彼の正体そのものを説明するものではない。

Q. なぜ言葉を話さないのですか? A. 原典が彼の発話として記すのは、シャンタクへ向けた「忌まわしい喉音の言葉」だけである[11]。カーターへの指示は身振りで[7]、大司祭への取り次ぎも手の合図で行われる[18][19]。言葉を交わさないという描写が一貫して選ばれているのであって、話せないと明言されているわけではない。

Q. 彼は最終的にどうなったのですか? A. 原典は書いていない。カーターに突き飛ばされ、噂ではグーグがガストを狩るジンの地下大空洞まで達するという坑へ落ちたところで、記述は途切れる[20]。死んだとも、生き延びたとも書かれない。

Q. ディラス=リーンの黒いガレー船に乗っていた「商人たち」と同一人物ですか? A. 別の一団として描かれる。黒いガレー船の商人たちはターバンの下に角を隠した複数の集団で、ムーンビーストの奴隷だと原典が明言している[10][23]。切れ長の目の商人は単独で行動し、ヤクの隊商とともに現れる人物として一貫して書き分けられており[5][6]、両者が同一視される場面は原典に無い。

出典

  • [1] “though he once thought that a certain old slant-eyed merchant looked queerly intelligent when the cold waste was spoken of. This man was reputed to trade with the horrible stone villages on the icy desert plateau of Leng, which no healthy folk visit and whose evil fires are seen at night from afar. He was even rumoured to have dealt with that high-priest not to be described, which wears a yellow silken mask over its face and dwells all alone in a prehistoric stone monastery.”(訳: もっとも彼は一度、冷たい荒野の話が出たとき、ある年老いた切れ長の目の商人が妙に賢げな顔つきをしたように思ったことがあった。この男は、レンの氷の砂漠の高原にある恐ろしい石の村々と取引していると評判だった。健康な者は誰も訪れず、その邪悪な火が夜に遠くから見える場所である。彼はさらに、顔に黄色い絹の仮面をかぶり、先史時代の石の修道院にたった独りで住む、あの言い表せない大司祭とも通じているとまで噂されていた。) — 「未知なるカダスを夢に求めて」(1943年), The H. P. Lovecraft Archive ↩
  • [2] “That such a person might well have had nibbling traffick with such beings as may conceivably dwell in the cold waste was not to be doubted, but Carter soon found that it was no use questioning him.”(訳: そのような人物が、冷たい荒野にひょっとして棲むかもしれない存在と、多少なりとも取引を持ったとしても不思議はなかった。だがカーターはほどなく、この男に尋ねても無駄だと悟った。) — 同上, The H. P. Lovecraft Archive ↩
  • [3] “Carter recalled that it lies in the valley below Leng, and recalled likewise that he had seen in Dylath-Leen a sinister, slant-eyed old merchant reputed to trade on Leng. Therefore he advised the ghouls to seek out Dylath-Leen, crossing the fields to Nir and the Skai and following the river to its mouth.”(訳: カーターは、それがレンの下方の谷にあることを思い出し、同時に、レンと取引していると評判の、あの不吉な切れ長の目の老商人をディラス=リーンで見かけたことも思い出した。そこで彼は食屍鬼たちに、野を越えてニルとスカイ川へ出て、その川を河口までたどり、ディラス=リーンを目指すよう助言した。) — 同上, The H. P. Lovecraft Archive ↩
  • [4] “Far in the shadows of that tavern Carter saw a squat form he did not like, for it was unmistakably that of the old slant-eyed merchant he had seen so long before in the taverns of Dylath-Leen, who was reputed to trade with the horrible stone villages of Leng which no healthy folk visit and whose evil fires are seen at night from afar, and even to have dealt with that high-priest not to be described, which wears a yellow silken mask over its face and dwells all alone in a prehistoric stone monastery. This man had seemed to shew a queer gleam of knowing when Carter asked the traders of Dylath-Leen about the cold waste and Kadath; and somehow his presence in dark and haunted Inganok, so close to the wonders of the north, was not a reassuring thing.”(訳: その酒場の奥の暗がりに、カーターは気に入らないずんぐりした姿を見た。それはまぎれもなく、はるか以前にディラス=リーンの酒場で見たあの切れ長の目の老商人だった。健康な者は誰も訪れず、その邪悪な火が夜に遠くから見えるレンの恐ろしい石の村々と取引し、さらには、顔に黄色い絹の仮面をかぶり先史時代の石の修道院にたった独りで住む、あの言い表せない大司祭とも通じていると噂された男である。カーターがディラス=リーンの商人たちに冷たい荒野とカダスについて尋ねたとき、この男は妙に知っていそうな光をちらつかせたように見えた。そして北の驚異にこれほど近い、暗く呪われたインガノクにこの男がいるということが、どこか心を落ち着かせなかった。) — 同上, The H. P. Lovecraft Archive ↩
  • [5] “sailors later said that he had come with a yak caravan from some point not well determined, bearing the colossal and rich-flavoured eggs of the rumoured shantak-bird to trade for the dexterous jade goblets that merchants brought from Ilarnek.”(訳: 船乗りたちは後に、あの男はどことも定かでない場所からヤクの隊商とともに来て、噂のシャンタク鳥の巨大で風味豊かな卵を、商人たちがイラーネクからもたらす精巧な翡翠の杯と交換しに来たのだと語った。) — 同上, The H. P. Lovecraft Archive ↩
  • [6] “And as he stopped in final resignation he dared at last to look behind him; where indeed was trotting the squat slant-eyed trader of evil legend, grinning astride a lean yak and leading on a noxious horde of leering shantaks to whose wings still clung the rime and nitre of the nether pits.”(訳: そしてついに万策尽きて立ち止まったとき、彼はようやく背後を振り返る勇気を出した。そこには確かに、邪悪な伝説のあのずんぐりした切れ長の目の商人が、痩せたヤクにまたがってにやにや笑いながら小走りに付き従い、翼にまだ地の底の穴蔵の霜と硝石がこびりついた、ぞっとする一団のシャンタクを率いていた。) — 同上, The H. P. Lovecraft Archive ↩
  • [7] “Trapped though he was by fabulous and hippocephalic winged nightmares that pressed around in great unholy circles, Randolph Carter did not lose consciousness. Lofty and horrible those titan gargoyles towered above him, while the slant-eyed merchant leaped down from his yak and stood grinning before the captive. Then the man motioned Carter to mount one of the repugnant shantaks, helping him up as his judgment struggled with his loathing.”(訳: 馬の頭を持つ有翼の悪夢どもに大きな邪悪な輪となって取り囲まれ、罠にかけられながらも、ランドルフ・カーターは意識を失わなかった。あの巨大な怪物めいた鳥たちが頭上に高く恐ろしく聳えるあいだ、切れ長の目の商人はヤクから飛び降り、囚われの身となった彼の前ににやにや笑いながら立った。それから男はカーターに、あの忌まわしいシャンタクの一羽へまたがるよう身振りで促し、嫌悪と分別がせめぎ合う彼を助け上げた。) — 同上, The H. P. Lovecraft Archive ↩
  • [8] “Once he was seated, the slant-eyed man hopped up behind him, leaving the lean yak to be led away northward toward the ring of carven mountains by one of the incredible bird colossi.”(訳: 彼が座ると、切れ長の目の男は背後に飛び乗り、痩せたヤクは、あの途方もない鳥の巨人の一羽に導かれて、彫られた山々の環に向かって北へ引かれていくにまかされた。) — 同上, The H. P. Lovecraft Archive ↩
  • [9] “he did not question his captor about these things when he noticed that both the man and the horse-headed shantak appeared oddly fearful of them, hurrying past nervously and shewing great tension until they were left far in the rear.”(訳: 彼は、この男も馬の頭を持つシャンタクも、それらの峰々を妙に恐れている様子を見せ、はるか後方に置き去りにするまで神経質に急ぎ緊張を露わにしているのに気づき、捕らえた男にそのことを尋ねはしなかった。) — 同上, The H. P. Lovecraft Archive ↩
  • [10] “For the cryptic folk of Leng were of one race with the uncomfortable merchants of the black galleys that traded rubies at Dylath-Leen; those not quite human merchants who are the slaves of the monstrous moon-things!”(訳: レンの謎めいた民は、ディラス=リーンでルビーを商う黒いガレー船の、あの居心地の悪い商人たちと同じ種族だったのだ。あの、月の怪物どもの奴隷である、人間とは言い切れない商人たちと!) — 同上, The H. P. Lovecraft Archive ↩
  • [11] “At times the slant-eyed man talked with his steed in a hateful and guttural language, and the shantak would answer with tittering tones that rasped like the scratching of ground glass.”(訳: ときおり切れ長の目の男は、自分の乗騎と忌まわしい喉音の言葉で話し、シャンタクはすりガラスを引っかくような耳障りな忍び笑いの調子で応じた。) — 同上, The H. P. Lovecraft Archive ↩
  • [12] “There, all alone in the hush and the dusk and the cold, rose the uncouth stones of a squat windowless building, around which a circle of crude monoliths stood. In all this arrangement there was nothing human, and Carter surmised from old tales that he was indeed come to that most dreadful and legendary of all places, the remote and prehistoric monastery wherein dwells uncompanioned the high-priest not to be described, which wears a yellow silken mask over its face and prays to the Other Gods and their crawling chaos Nyarlathotep.”(訳: そこには、静けさと薄暮と寒気のなかにただ一つ、平たく窓のない建物の粗削りな石が立ち上がり、その周りを粗い一枚岩の環が囲んでいた。この配置には、人間的なものが何ひとつなかった。カーターは古い伝承から、自分がまさしく、あらゆる場所のうちで最も恐ろしく最も伝説的な場所へ来たのだと察した。顔に黄色い絹の仮面をかぶり、外なる神々とその這い寄る混沌ニャルラトホテプに祈る、あの言い表せない大司祭が、連れもなくただ独りで住む、遠く先史の修道院である。) — 同上, The H. P. Lovecraft Archive ↩
  • [13] “The loathsome bird now settled to the ground, and the slant-eyed man hopped down and helped his captive alight.”(訳: 忌まわしい鳥はいまや地上に降り立ち、切れ長の目の男は飛び降りて、捕らえた男が下りるのを助けた。) — 同上, The H. P. Lovecraft Archive ↩
  • [14] “Of the purpose of his seizure Carter now felt very sure; for clearly the slant-eyed merchant was an agent of the darker powers, eager to drag before his masters a mortal whose presumption had aimed at the finding of unknown Kadath and the saying of a prayer before the faces of the Great Ones in their onyx castle. It seemed likely that this merchant had caused his former capture by the slaves of the moon-things in Dylath-Leen, and that he now meant to do what the rescuing cats had baffled; taking the victim to some dread rendezvous with monstrous Nyarlathotep and telling with what boldness the seeking of unknown Kadath had been tried.”(訳: 自分が捕らえられた目的について、カーターはいまや確信していた。切れ長の目の商人が、暗黒の勢力の手先であることは明らかだったからだ――未知なるカダスを探し当て、縞瑪瑙の城で大いなるものたちの顔の前に祈りを捧げようという、思い上がった一人の人間を、主人たちの前へ引きずり出そうとしているのだ。この商人が、以前ディラス=リーンで月の怪物どもの奴隷によって彼が捕らえられた一件を仕組んだ張本人らしいこと、そして今度は、猫たちの救出によって阻まれたことを成し遂げるつもりであること――すなわち、犠牲者を怪物ニャルラトホテプとの恐ろしい会合へ連れて行き、未知なるカダスを探そうとした大胆さを告げ口するつもりであることも、ありそうに思われた。) — 同上, The H. P. Lovecraft Archive ↩
  • [15] “The slant-eyed man was small, but the great hippocephalic bird was there to see he was obeyed; so Carter followed where he led, and passed within the circle of standing rocks and into the low arched doorway of that windowless stone monastery.”(訳: 切れ長の目の男は小柄だったが、あの馬の頭を持つ巨大な鳥が服従を見張っていた。だからカーターは導かれるままについていき、立ち並ぶ岩の環をくぐって、あの窓のない石造修道院の低いアーチ形の戸口へ入った。) — 同上, The H. P. Lovecraft Archive ↩
  • [16] “There were no lights inside, but the evil merchant lit a small clay lamp bearing morbid bas-reliefs and prodded his prisoner on through mazes of narrow winding corridors.”(訳: 内部に明かりはなかったが、邪悪な商人は病んだ浅浮彫の入った小さな粘土のランプを灯し、囚人を狭く曲がりくねった回廊の迷路へ突き進ませた。) — 同上, The H. P. Lovecraft Archive ↩
  • [17] “The slant-eyed merchant had now prodded Carter into a great domed space whose walls were carved in shocking bas-reliefs, and whose centre held a gaping circular pit surrounded by six malignly stained stone altars in a ring. There was no light in this vast and evil-smelling crypt, and the small lamp of the sinister merchant shone so feebly that one could grasp details only little by little.”(訳: 切れ長の目の商人は、いまやカーターを大きな円蓋の空間へ突き入れていた。壁は衝撃的な浅浮彫に彫られ、中央には口を開けた円形の坑があり、それを6基の悪意に染まった石の祭壇が輪になって囲んでいた。この広大で悪臭に満ちた地下納骨所には明かりが一切なく、あの不吉な商人の小さなランプはひどく弱々しく光るばかりで、細部は少しずつしか捉えられなかった。) — 同上, The H. P. Lovecraft Archive ↩
  • [18] “To this being the slant-eyed man made certain signs with his hands, and the lurker in the dark replied by raising a disgustingly carven flute of ivory in silk-covered paws and blowing certain loathsome sounds from beneath its flowing yellow mask.”(訳: この存在に向かって切れ長の目の男が手でいくつかの合図を送ると、暗がりに潜むものは、絹に覆われた前肢で不快に彫られた象牙の笛を上げ、垂れた黄色い仮面の下からいくつかの忌まわしい音を吹いて応えた。) — 同上, The H. P. Lovecraft Archive ↩
  • [19] “The slant-eyed man had set his curious lamp upon one of the high and wickedly stained altar-stones by the pit, and had moved forward somewhat to talk to the high-priest with his hands.”(訳: 切れ長の目の男は、坑のそばの高く邪悪に染まった祭壇石の一つに奇妙なランプを置き、手で大司祭と話すためにいくらか前へ進み出ていた。) — 同上, The H. P. Lovecraft Archive ↩
  • [20] “Carter, hitherto wholly passive, now gave that man a terrific push with all the wild strength of fear, so that the victim toppled at once into that gaping well which rumour holds to reach down to the hellish Vaults of Zin where gugs hunt ghasts in the dark.”(訳: それまで完全に受け身だったカーターは、恐怖の荒々しい力のかぎりでその男をすさまじく突き飛ばした。犠牲者はたちまち、噂ではグーグが暗がりでガストを狩る地獄めいたジンの地下大空洞まで達するという、あの口を開けた井戸へ落ちていった。) — 同上, The H. P. Lovecraft Archive ↩
  • [21] “The Dream-Quest of Unknown Kadath (Autumn? 1926–22 January 1927)”(訳: 「未知なるカダスを夢に求めて(1926年秋?-1927年1月22日)」) — Lovecraft’s Fiction – Chronological Order, The H. P. Lovecraft Archive ↩
  • [22] “1943: The Dream-Quest of Unknown Kadath (Beyond the Wall of Sleep, Arkham House)”(訳: 「1943年:『未知なるカダスを夢に求めて』(作品集『Beyond the Wall of Sleep』、アーカム・ハウス)」) — H. P. Lovecraft’s Fiction, Publication Order, The H. P. Lovecraft Archive ↩
  • [23] “The mouths of the men who came from it to trade were too wide, and the way their turbans were humped up in two points above their foreheads was in especially bad taste.”(訳: そこから降りて商いをする者たちの口は広すぎたし、ターバンが額の上で二つの角のように盛り上がっているさまは、とりわけ趣味が悪かった。) — 同上, The H. P. Lovecraft Archive ↩
  • [24] “The sailors and merchants were of the strange-faced race of the gods, but the slaves were squat, slant-eyed folk said by rumour to have drifted somehow across or around the impassable peaks from valleys beyond Leng.”(訳: 船乗りと商人は神々に似た異形の顔立ちを持つ種族だったが、奴隷たちはずんぐりした切れ長の目の者たちで、噂ではレンの彼方の谷から峰々を越えるか回り込むかして、どうにか流れ着いた者たちだとされていた。) — 同上, The H. P. Lovecraft Archive ↩
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