概要
時間や空間の制約を受けず、宇宙の本質的な無秩序や法則そのものを体現する。精神を持たないものや、時空の境界そのものとして描かれる。
原典での描写
「異形の神々の峰」(1921年8月14日執筆)
本作(異形の神々の峰)は、地球の神々(earth’s gods)が人間を逃れて未知なるカダスへ退いていく経緯を描く短編である。賢者バルザイは神々についての該博な知識を頼みに、月食の夜、ハセグ=クラの頂へ登って彼らの姿を見ようとする。霧の向こうから響いていたバルザイの声は、やがて誰も見たことのない恐怖の絶叫に変わった。「他の神々だ! ……地球の弱き神々を守る、外なる地獄の神々だ!」[2]。原文でのこの一節は小文字の”the other gods”であり、後の「未知なるカダスを夢に求めて」で固有名として大文字化される”Other Gods”とは綴りが異なる。バルザイは二度と姿を見せず、村人たちが頂上で見つけたのは奇怪な記号が刻まれた岩肌だけだった。
「未知なるカダスを夢に求めて」(1926年秋?~1927年1月22日執筆)
本作(未知なるカダスを夢に求めて)において、”Other Gods”は初めて大文字の固有名として用いられる。ランドルフ・カーターが未知なるカダスを目指す途上、賢者アタルは地球の神々(Great Ones)についてこう語る。「彼らはアウトサイドから来た他なる神々に守られており、それについては論じないほうがよい」[3]。かつてハセグ=クラでバルザイが遭遇した禍いも、この存在たちの仕業だったと語られる。
彼らには個としての姿がない。虚空を漂う名もなき幼生も彼らの一部とされ、「これらは他なる神々の名もなき幼生であり、彼らと同じく盲目で精神を持たず、異様な飢えと渇きに取り憑かれている」[4]。アザトースの太鼓と笛の音に合わせて踊る盲目の群れとしての姿や、その魂であり使者たるニャルラトホテプについては、本記事冒頭の引用[1]で既に示した通りである。
物語の終盤、カーターがカダスの黒曜石の城に至ると、地球の神々は不在で、代わりにニャルラトホテプが彼らの名において語りかけてくる。カーターを見逃す条件として使命を課したのち、ニャルラトホテプは去り際にこう警告した。「他なる神々を忘れるな。彼らは偉大で、精神を持たず、恐ろしいものであり、外なる虚空に潜んでいる。関わらぬに越したことはない神々だ」[5]。
「闇に囁くもの」(1930年2月24日~9月26日執筆)
本作(闇に囁くもの)の”Outer Ones”(アウター・ワンズ)は、ヴァーモントの山中に秘密の採掘拠点を築く菌類状の地球外生命体を指す。冥王星の彼方にあるユゴス星を本拠とし、地球はその足がかりにすぎないと語られる。書簡で人間に接触したアクリーは、彼らの意図について「アウター・ワンズが人間に望むのはすべて、平和と不干渉、そして知的交流の深化である」と伝える[6]。
語り手ウィルマースは、アクリーの家の前の道に残された彼らの鉤爪の跡を目にして恐怖に襲われる。作中でアクリーと語り手は、この存在たちをヒマラヤの怪物伝説と結びつけ、「われわれはほぼ、これらヴァーモントの怪異とヒマラヤの忌まわしきミ=ゴとが、同じ種類の肉体を持つ悪夢であると結論づけた」[7]。
“Outer Gods”という分類名そのものは、ラヴクラフトの原文には見当たらない。原文にあるのは「異形の神々の峰」と「未知なるカダスを夢に求めて」の”Other Gods”(他なる神々)、そして「闇に囁くもの」の”Outer Ones”(ミ=ゴを指す)であり、綴りも指す対象も異なる。この分類は後年のTRPGなどによる整理である。
基本プロフィール
- 分類: 概念
- 欧文表記: OUTER GODS
- 初出・出典: 未知なるカダスを夢に求めて(1926–1927年執筆/1943年発表)
由来と歴史 / 詳細設定
ラヴクラフト自身は彼らを「他なる神々(Other Gods)」と呼んでいた[1]。後世のクトゥルフ神話TRPGなどのルールブックにおいて、地球寄りの「旧支配者」と区別して、宇宙規模の法則や高次元の力を担う「外なる神」というカテゴリが確立された。
性質と影響
個々のキャラクターとしての怪物ではなく、宇宙というシステムそのものの冷酷さや、人間の認識能力の絶対的な限界を示すために用いられる[1]。ニャルラトホテプは彼らの「魂であり使者(soul and messenger)」と原典で位置づけられている[1]。
関連する用語
他なる神々、アザトース、ヨグ=ソトース、ニャルラトホテプ、シュブ=ニグラス
当サイトが「外なる神」として記録している神格
当サイトの神格記事のうち、外なる神に分類しているものを一覧にする。内訳は原典11/ダーレス以降6/TRPG2である。
この一覧には19柱を収めている。なおヒュドラ(カットナー版)は、資料によって外なる神ともローカルな旧支配者とも扱われる。当サイトはどちらの一覧にも載せているため、この1柱は旧支配者・外なる神の両方に数えている。
この分類そのものが原典に無いことを、先に断っておきたい。ラヴクラフトは存在同士の上下関係も敵対関係も定めなかった。分類を整えたのはオーガスト・ダーレス以降の世代である。各行の「生まれた層」は、その神格の名前が最初に現れた時期を指す。
| 名称 | 生まれた層 | 概要 |
|---|---|---|
| アザトース | 原典 | 宇宙の中心で太鼓とフルートの音に合わせて蠢く、盲目にして白痴の魔王。名を口にすることすら… |
| イェブ | 原典 | ヌグと対をなす双子の一柱。ラヴクラフト自身の原文には姿も性別も描かれず、書簡上の系譜設定… |
| イドラー | ダーレス以降 | 1970年代にウォルター・C・デビル・ジュニアが創造した「夢見る魔女」。捕食した生物の特… |
| イブ=ツトル | ダーレス以降 | 「忍耐強きもの」「暗黒のもの」と呼ばれる、蝙蝠に似た黒い翼と無数の触手を持つ外なる神。バ… |
| ウボ=サスラ | 原典 | 地球上のすべての生命の原型とされる「自存の源泉」。地底に横たわる原形質の海。 |
| グロス | ダーレス以降 | ラムジー・キャンベルが「The Tugging」で創造した、球体状の姿で宇宙を漂う破滅の… |
| シュブ=ニグラス | 原典 | 「千匹の仔を孕みし森の黒山羊」と呼ばれる豊穣の女神格。姿を見せず、呪文の中の呼びかけとし… |
| ゼクサノス | 原典 | クラーク・アシュトン・スミス「アフォーゴモンの鎖」に登場する「潜みし混沌」。時の神アフォ… |
| タルザーシャ | TRPG | TRPG『クトゥルフの呼び声』の設定資料集が、ラヴクラフト「祭事」に登場する名もなき緑の… |
| ダオロス | ダーレス以降 | 幾何学的な形状と金属質の部品が絶えず組み替わる姿を持つ外なる神。その真の姿を目にした者は… |
| トゥルネンブラ | TRPG | TRPG『クトゥルフの呼び声』の設定資料集が、ラヴクラフト「エーリッヒ・ツァンの音楽」で… |
| ニャルラトホテプ | 原典 | 無数の姿で自ら人類の前に現れる「這い寄る混沌」。アザトースの代行者にして、唯一意志を持つ… |
| ヌグ | 原典 | イェブと対をなす双子の外なる神。ラヴクラフトの書簡ではヨグ=ソトースとシュブ=ニグラスの… |
| ノス=イディクとクトゥン | 原典 | 「博物館の恐怖」で狂気の蝋人形師ロジャーズが呪詛の中で呼ぶ、アザトースに連なる一対の存在… |
| ヒュドラ(カットナー版) | ダーレス以降 | ヘンリー・カットナーが短編「ヒュドラ」で創造した、無数の生首が浮かぶ灰色の海。「インスマ… |
| ムランドスとムリル・ソリオン | ダーレス以降 | ウォルター・C・デビル・ジュニアが創造した「ムランドス・サイクル」の二柱の至高神。互いを… |
| ヨグ=ソトース | 原典 | あらゆる時間と空間に同時に遍在する「門にして鍵」。禁断の知識と境界侵犯を象徴する、外なる… |
| 名なき霧 | 原典 | アザトースの直下に置かれた始原の存在。ラヴクラフトが自らの「血統」を茶化した1933年の… |
| 闇 | 原典 | アザトースの3子の一柱として、ラヴクラフトの私信にのみ名を残す始原存在。シュブ=ニグラス… |
神格をまとめて引きたい場合はクトゥルフ神話 神一覧へ。分類用語の整理は旧支配者・外なる神・旧神——神格の分類用語を整理する、層の考え方は三層で読み解くクトゥルフ神話にある。
出典
- [1] “the gigantic ultimate gods, the blind, voiceless, tenebrous, mindless Other Gods whose soul and messenger is the crawling chaos Nyarlathotep.”(訳: 「その巨大にして究極なる神々、盲目で声もなく、闇に閉ざされ、精神を持たぬ他なる神々——その魂であり使者であるのが、這い寄る混沌ニャルラトホテプである」) — H. P. Lovecraft, “The Dream-Quest of Unknown Kadath”(1926–1927年執筆/1943年発表), hplovecraft.com ↩
- [2] “The other gods! . . . The gods of the outer hells that guard the feeble gods of earth!”(訳: 「他の神々だ! ……地球の弱き神々を守る、外なる地獄の神々だ!」) — H. P. Lovecraft, “The Other Gods”(1921年8月14日執筆), hplovecraft.com ↩
- [3] “…they are protected by the Other Gods from Outside, whom it is better not to discuss.”(訳: 「……彼らはアウトサイドから来た他なる神々に守られており、それについては論じないほうがよい」) — H. P. Lovecraft, “The Dream-Quest of Unknown Kadath”(1926–1927年執筆/1943年発表), hplovecraft.com ↩
- [4] “These are the nameless larvae of the Other Gods, and like them are blind and without mind, and possessed of singular hungers and thirsts.”(訳: 「これらは他なる神々の名もなき幼生であり、彼らと同じく盲目で精神を持たず、異様な飢えと渇きに取り憑かれている」) — H. P. Lovecraft, “The Dream-Quest of Unknown Kadath”(1926–1927年執筆/1943年発表), hplovecraft.com ↩
- [5] “Remember the Other Gods; they are great and mindless and terrible, and lurk in the outer voids. They are good gods to shun.”(訳: 「他なる神々を忘れるな。彼らは偉大で、精神を持たず、恐ろしいものであり、外なる虚空に潜んでいる。関わらぬに越したことはない神々だ」) — H. P. Lovecraft, “The Dream-Quest of Unknown Kadath”(1926–1927年執筆/1943年発表), hplovecraft.com ↩
- [6] “All that the Outer Ones wish of man is peace and non-molestation and an increasing intellectual rapport.”(訳: 「アウター・ワンズが人間に望むのはすべて、平和と不干渉、そして知的交流の深化である」) — H. P. Lovecraft, “The Whisperer in Darkness”(1930年2月24日~9月26日執筆), hplovecraft.com ↩
- [7] “We virtually decided that these morbidities and the hellish Himalayan Mi-Go were one and the same order of incarnated nightmare.”(訳: 「われわれはほぼ、これらヴァーモントの怪異とヒマラヤの忌まわしきミ=ゴとが、同じ種類の肉体を持つ悪夢であると結論づけた」) — H. P. Lovecraft, “The Whisperer in Darkness”(1930年2月24日~9月26日執筆), hplovecraft.com ↩






