概要
「博物館の恐怖」(The Horror in the Museum、H・P・ラヴクラフト、ヘイゼル・ヒールド名義、1932年10月執筆/Weird Tales誌1933年7月号発表)の終盤、正体を暴かれた蝋人形師ロジャーズが主人公ジョーンズを罵る呪詛の台詞の中に、原文でそのまま名前だけが登場する一対の存在——それがノス=イディクとクトゥンである。
ラヴクラフト自身の言及はこの一節のみで、詳細な設定は語られていない。原典には姿の描写も、権能の説明も、他の神格との明確な上下関係も存在しない。呪詛の文言からアザトースと何らかの関係にある存在として位置づけられていることが読み取れるにとどまる。
後年、リン・カーターが短編「時間からの狂気」(The Madness Out of Time)で、両者をハウンド・オブ・ティンダロスの創造主・支配者、アザトースに仕える者たちとして再解釈した。ただし本サイトの旧稿はこの眷属を「夜鬼(ハウンド・オブ・ティンダロス)」と併記しており、夜鬼とハウンド・オブ・ティンダロスは本来まったく別の存在である。どちらを指すのかを裏づける一次資料を当サイトはまだ確認できていないため、ここでは時間を主題とする設定と整合する後者を採ったうえで、未照合であることを明記しておく。現在流通しているノス=イディクとクトゥン像の大半は、この拡張によるものである。
| 項目 | 内容 |
|---|---|
| 分類 | 外なる神(原典ではアザトースとの関連が示唆されるのみで、明確な分類は無い) |
| 欧文表記 | NOTH-YIDIK, K’THUN |
| 初出 | 「博物館の恐怖」(H・P・ラヴクラフト、ヘイゼル・ヒールド名義、1932年10月執筆/Weird Tales誌1933年7月号) |
| 後世の拡張 | リン・カーター「時間からの狂気」(The Madness Out of Time)による再解釈 |
| 別名・異名 | 原典・後世の設定ともに記述は見当たらない |
初出作品
ノス=イディクとクトゥンの名が最初に(そして原典において唯一)現れるのは、H・P・ラヴクラフトがヘイゼル・ヒールド名義で発表した「博物館の恐怖」である。1932年10月に執筆され、Weird Tales誌1933年7月号に掲載された。
この作品はラヴクラフトが依頼者ヒールドの原案に大幅な加筆を行った、いわゆる代作の一つで、蝋人形館を舞台にした怪奇小説である。ノス=イディクとクトゥンは、物語の終盤で正体を暴かれた蝋人形師ロジャーズが主人公ジョーンズに浴びせる呪詛の台詞の中に、名前だけが登場する。
原典での描写
原典における言及は、次の一節のみである。
正体を暴かれたロジャーズは、ジョーンズへこう呪詛を吐きかける——「愚か者め! ノス=イディクの落とし子、クトゥンの臭気よ! アザトースの渦巻きで吠える犬どもの息子め!」[1]
これだけである。ノス=イディクとクトゥンが何者なのか、人物なのか、力そのものなのかすら判然としない。姿の描写も、権能の説明も、封印場所も、他の神格との明確な関係も原文には書かれていない。
この一節から読み取れるのは、両者がアザトースと何らかの関係にある存在として位置づけられているらしいということだけである。それ以上の分類上の説明は原文中に一切ない。
なお、ロジャーズ自身は同作の中でラーン=テゴスに仕える設定を持つが、これはロジャーズと別神格との関係であり、ノス=イディクとクトゥンとの直接の関係を示すものではない。
ダーレス以降の変化
ノス=イディクとクトゥンを独自の神格として拡張したのは、リン・カーターである。
短編「時間からの狂気」(The Madness Out of Time)で、カーターは次のような設定を加えた。
- ハウンド・オブ・ティンダロスの創造主・支配者。原典ではラヴクラフトの呪詛の一文にすぎなかった両者に、独自の眷属関係が与えられた[2]
- アザトースに仕える者たちという位置づけ。原典が示唆するにとどめていたアザトースとの関係を、明確な主従関係として再定義した[2]
この拡張により、原典ではわずか一文の呪詛にすぎなかった両者が、独自の神格として後世のクトゥルフ神話体系に組み込まれていった。オーガスト・ダーレス自身がノス=イディクとクトゥンに直接手を加えた記述は、現行の資料からは確認できていない。
TRPGでの扱い
TRPG側の設定は確認できていない。現行の資料には、ケイオシアム社のクトゥルフ神話TRPGにおけるノス=イディクとクトゥンの扱い(化身・崇拝組織・ゲームデータなど)についての記述が無い。
登場作品一覧
- 「博物館の恐怖」(The Horror in the Museum、H・P・ラヴクラフト、ヘイゼル・ヒールド名義、1932年10月執筆/Weird Tales誌1933年7月号) — 呪詛の一節にノス=イディクとクトゥンの名がそのまま登場する唯一の原典[1]
- 「時間からの狂気」(The Madness Out of Time、リン・カーター) — 両者をハウンド・オブ・ティンダロスの創造主・支配者、アザトースに仕える者として再解釈した後年の拡張作品[2]
関連神格・地域・書物
神格
- アザトース — 原典の呪詛から関係が示唆される。後世の設定では、ノス=イディクとクトゥンが仕える主とされる
- ハウンド・オブ・ティンダロス — リン・カーターの拡張設定で、ノス=イディクとクトゥンが創造主・支配者とされる眷属。原典にこの関係の記述は無い
- ラーン=テゴス — 「博物館の恐怖」で蝋人形師ロジャーズが仕える神格。ロジャーズとの関係であり、ノス=イディクとクトゥンとの直接の関係ではない
書物・作品
- 博物館の恐怖 — ノス=イディクとクトゥンの名が登場する唯一の原典
参考文献
- [1] “Fool! Spawn of Noth-Yidik and effluvium of K’thun! Son of the dogs that howl in the maelstrom of Azathoth!”(訳: 「愚か者め! ノス=イディクの落とし子、クトゥンの臭気よ! アザトースの渦巻きで吠える犬どもの息子め!」) — H. P. Lovecraft(ヘイゼル・ヒールド名義)、”The Horror in the Museum”、Weird Tales誌1933年7月号、公式アーカイブ
- [2] リン・カーター「時間からの狂気」(The Madness Out of Time)による再解釈(ハウンド・オブ・ティンダロスの創造主・支配者、アザトースに仕える者という設定) — 書誌情報・原文は未照合(要再検証)
FAQ
Q. ノス=イディクとクトゥンは、ラヴクラフト自身が詳しく設定を書いた神格ですか。A. いいえ。原典「博物館の恐怖」における言及は、蝋人形師ロジャーズの呪詛の中の一文のみで[1]、名前が登場する以外の詳細な設定は語られていません。
Q. ハウンド・オブ・ティンダロスの創造主という設定は、ラヴクラフト自身の原典によるものですか。A. いいえ。これはリン・カーターが短編「時間からの狂気」で加えた後世の拡張設定で、原典にこの関係の記述はありません[2]。
Q. ノス=イディクとクトゥンは、外なる神と旧支配者のどちらに分類されますか。A. 原典では明確な分類が示されていません。呪詛の文言からアザトースと何らかの関係にある存在と読み取れるのみで、外なる神・旧支配者いずれの分類語も原文中には登場しません。TRPG側の設定も現行の資料からは確認できていません。





