短編小説 — THE HORROR IN THE MUSEUM

博物館の恐怖

ロンドン、サザーク街の地下にある蝋人形館。元マダム・タッソー館の彫刻家ジョージ・ロジャーズは、「大人向け」の仕切りの奥にクトゥルー、ツァトゥグァ、チャウグナー・フォーンの像を並べ、常連の美術愛好家スティーヴン・ジョーンズに、自分の像はすべてが蝋ではないと言い張る。9月のある午後、工房から犬の悲鳴が聞こえ、南京錠の扉の内側に灯りが見える。ロジャーズは血を吸い尽くされ穴だらけになった犬の死骸と、アラスカの遺跡で「象牙の玉座」から運び出したという「それ」の写真を見せ、館で一夜を明かせるかとジョーンズに賭けを持ちかける。ヘイゼル・ヒールドのための代作。1932年10月執筆、1933年7月『ウィアード・テイルズ』発表。約11,200語。

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博物館の恐怖

「捧げるとは、差し出すことに過ぎない。私は犬をそれに与えた」

— H・P・ラヴクラフト(ヘイゼル・ヒールド名義)「博物館の恐怖」(1933年発表)第1章、ロジャーズがジョーンズに犬の死骸を見せる場面
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概要

公式アーカイブの本文には「H・P・ラヴクラフト、ヘイゼル・ヒールドのために」と署名があります。雑誌ではヒールドの名で発表された、いわゆる代作の一本です[1][3]。全2章、約11,200語。

舞台はロンドン、テムズ川の南、サザーク街の地下にあるロジャーズ蝋人形館です。館主のジョージ・ロジャーズはマダム・タッソー館にいた彫刻家で、「正気を疑う声と、狂った秘密の崇拝の噂」のもとに解雇され、自分の地下館を開きました。ランドルーやクリッペン博士といった定番の犯罪者像のほかに、「大人向け」の仕切りの奥には、ツァトゥグァ、クトゥルー、チャウグナー・フォーンなど「禁断の書物に噂される冒涜」の像と、「どんな古代の物語も示唆したことのない」ロジャーズ独自の形が並んでいます[1]。

常連となった美術愛好家スティーヴン・ジョーンズに、ロジャーズは酒の力を借りて語り始めます。自分は禁断の書物を誰よりも深く読み、そこに示された遠い場所で「人類より前の時代の生き残り」を見つけ、持ち帰った。この館の像は、すべてが蝋ではない、と。ジョーンズが笑ったことで二人の仲は険悪になり、9月のある午後、工房から犬の悲鳴が聞こえた日に、話は動きます[1]。

初出は1933年7月の『ウィアード・テイルズ』第22巻第1号[3]。公式アーカイブの年譜は「ヘイゼル・ヒールドと、1932年10月」と記しています[2]。本作で初めて名が出る神格ラーン=テゴスは、当サイトでは神格の項を別に立てています。

作品情報

  • 原題: The Horror in the Museum
  • 署名: 公式アーカイブ本文は「By H. P. Lovecraft for Hazel Heald」[1]
  • 執筆: 1932年10月[2]
  • 初出: 『ウィアード・テイルズ』第22巻第1号、1933年7月、49–68ページ[3]
  • 分量: 約11,200語(公式アーカイブ本文を機械集計)。全2章
  • 語り: 三人称。ジョーンズの視点に寄り添う
  • 時: ある年の4月から10月ごろ。一夜の出来事は「先月の28日」と終盤で呼ばれる
  • 舞台: ロンドン。サザーク街の地下博物館とその工房、裏の中庭。ロジャーズの家はウォルワース・ロード

登場神格・用語

  • ラーン=テゴス: ロジャーズが「それ(It)」と呼ぶ存在。アラスカ、ノアタク川の上流にある300万年前の遺跡の地下三層目、象牙の玉座に座っていたと彼は言います。写真では球形の胴、蟹の鋏で終わる六本の肢、三つの魚の目と1フィートの鼻面、鰓、体を覆う「蝮の頭のような口を先端に持つ」吸盤の触糸。「鉛色のユゴスから来た」「両生類」で「水槽」に住むとも語られます。ロジャーズは自分を「その後代の位階の最初の神官」と称します
  • シュブ=ニグラス: ロジャーズの叫び「イア! シュブ=ニグラス!千の仔を孕む山羊!」に二度出ます
  • ノス=イディク、クトゥン、アザトース: 縛られたロジャーズが浴びせる罵倒の中の名。「ノス=イディクの落とし子、クトゥンの放出物! アザトースの大渦で吠える犬どもの息子!」
  • 次元の徘徊者(dimensional shambler): ロジャーズが夜の館でジョーンズを襲うときに着ていた「皮」の持ち主。「猿とも昆虫ともつかない黒いもの」の姿で、あとでロジャーズは「生きたそれを見れば、恐怖で即死する」と言います
  • 仕切りの奥の像: ツァトゥグァ、クトゥルー、チャウグナー・フォーン、ヨグ=ソトース(「虹色の球の集まり」)、グノフ=ケー(「グリーンランドの氷の、毛深い神話の生き物」、二足・四足・六足で歩く)、夜鬼
  • 書物: 『ネクロノミコン』(ジョーンズも一度読んだことがあり、扉の上の記号を見て身震いする)、『エイボンの書』、フォン・ユンツトの『無名祭祀書』、プナコトス断章(「第八断章の長い儀式」)、レンの「ドール詠唱」
  • 登場人物: スティーヴン・ジョーンズ(「芸術における奇怪なものの、のんびりした目利き」。ポートランド・プレイスに住む)、ジョージ・ロジャーズ(館主。背が高く痩せて、黒い大きな目、無精髭)、オラボナ(浅黒い外国人風の助手。修理と補助設計を担当し、ロジャーズに「皮肉な笑み」を向ける。ピストルを携行し、「それ」を殺して蝋像にしろと主張していた)

あらすじ

第1章 地下の蝋人形館

ジョーンズがロジャーズ館を初めて訪れたのは4月、「気だるい好奇心」からでした。マダム・タッソー館の最悪の像より恐ろしいものが見られるという地下の店へ、どれほど失望するか確かめに行き、失望しません。定番の殺人者と革命の犠牲者のほかに、「病んだ天才」の仕事があったからです。とりわけ、大人向けに仕切られた奥の区画。「幻想だけが産みうる塊のような雑種」、神話の怪物、そして「もっと暗い、ひそひそと囁かれる地下の伝説の系列」から取られたツァトゥグァ、クトゥルー、チャウグナー・フォーン。最悪なのはロジャーズの独創で、「地球上の有機的生命の形の醜悪な戯画」や「他の惑星と銀河の熱っぽい夢」から取られたような形でした[1]。

ジョーンズは工房のロジャーズを訪ねるようになります。蝋の腕と脚と胴、鬘と歯と硝子の目、中央の溶解炉。「錯乱の亡霊であるような、問題含みの実体の孤立した部分」。部屋の端には「異常に大きな南京錠」で閉ざされた厚板の扉があり、その上に「きわめて奇妙な記号」が描かれていました。『ネクロノミコン』に触れたことのあるジョーンズは、それを見て身震いします[1]。

訪問が習慣になるにつれ、ロジャーズの話は「奇妙な信仰と実践のほのめかし」から「ほとんど滑稽なほど突飛な」話へ広がります。チベット、アフリカ内陸、アラビア砂漠、アマゾン、アラスカ、南太平洋の島々への旅。プナコトス断章とレンのドール詠唱を読んだという主張。6月のある夜、ジョーンズが持ち込んだウイスキーで「本当に狂った話」が始まります。自分は書物に導かれて、人類より前の時代の「生き残り」の隠れ場所へ行き、「手に取れる証拠」を持ち帰った。仕切りの奥の像は、すべてが人工物ではない、と。ジョーンズが「率直な懐疑と面白がる態度」を見せたことで、親しみは壊れ、ロジャーズは「都会的で自己満足した不信の壁を崩そうとする執念」だけでジョーンズを受け入れ続けました[1]。

犬の悲鳴

9月のある午後、館内にいたジョーンズは工房の方から音を聞きます。「極度の恐怖と苦痛が重なったときにしか出せない」犬の悲鳴。三人の係員が目を見交わし、浅黒い外国人風の助手オラボナだけが「同僚を戸惑わせる笑み」を浮かべました。館内に犬は入れないはずです。オラボナは、ロジャーズは外出中で工房には誰も入れない決まりだ、悲鳴は裏の中庭の野良犬だろう、と言います[1]。

ジョーンズは通りへ出て、テューダー朝風の傾いた建物の並ぶ界隈を歩き、路地から中庭へ入ります。犬はいません。工房の三つの小さな横長の窓を「死んだ魚の目のように」見て、身をかがめて覗くと、一番右の窓から、部屋の奥に「大きな縦長の長方形」の光が見えました。ガス灯も電灯もないはずの場所。あの南京錠の扉です。「いま開いていて、中に灯りがある」[1]。

6時前、ジョーンズはロジャーズを訪ねます。館主は「気の進まなさと、実際の得意げな様子の奇妙な混合」で迎え、生き残った旧き神々、名もない生贄、仕切りの奥の像の非人工性を、「妙に自信を増した調子」で語り続けます。ときどき南京錠の扉と、床の粗い麻布の下の小さな何かへ、盗み見るような視線を送りながら[1]。

アラスカの遺跡

「インドシナの廃墟でチョ=チョ人が住んでいた話を覚えているか」とロジャーズは叫ぶ。「今度のはもっと大きい」。プナコトス第八断章の長い儀式を解読すると、意味は一つしかなかった。「ロマールの地より前、人類が存在する前に、北には物があり、これはその一つだった」。アラスカ、フォート・モートンからノアタク川を遡ると、遺跡はあった。「巨石の廃墟、何エーカーも」。エスキモーは一人も同行せず、ノームまで戻ってアメリカ人を雇った。オラボナはあの気候で「不機嫌で憎々しく」なった。中央の遺構の門柱から氷を爆破すると、断章どおりの階段があり、「気候が温暖だった何百万年も前」に来た者たちの骨があった。「想像もできないもの」の骨も。三層下に、断章がさかんに書いていた象牙の玉座があった。「言っておくが、空ではなかった」[1]。

玉座の上のものは動かなかった。「それには生贄の滋養が必要だと、われわれはそのとき知った」。起こさずにロンドンへ運ぶことにし、大きな箱に詰めたが、人間のために作られていない三層分の階段を上げられず、アメリカ人を呼んで「象牙の彫刻、考古学の資料」と偽って運ばせた。ロジャーズは写真の束を見せる。氷の丘、犬橇、毛皮の男たち、雪を背にした巨大な廃墟。閃光撮影の一枚には、人間の体格に合わない玉座のある「信じがたい内部の部屋」。玉座の上には、工房の扉の上に描かれたのと同じ記号[1]。

「それは神だった。生贄の滋養が必要だった」。昔のような生贄は今はないが、代わりになるものはある。「血は命だ、知ってのとおり」。去年から儀式と生贄を試し、オラボナは「それ」を起こすことに反対し続け、殺して蝋像を作れと言い、ピストルを持ち歩いている。「もし奴がピストルを抜くのを見たら絞め殺す」。そして先週、「移行が来た。生贄は──受け取られ、味わわれた!」。ロジャーズは唇を舐めます[1]。

麻布の下

ロジャーズは麻布の隅を持ち上げます。下にあったのは「潰され、ほとんど形をなさない塊」。血を吸い尽くされ、千の穴を開けられ、骨を折られて捩じられた、大型らしい白っぽい犬の残骸。毛の大半は「刺激性の酸で焼かれたように」なくなり、血の気のない皮膚は「無数の円い傷」に覆われていました。ジョーンズは叫びます。「この呪われたサディストめ──狂人め──こんなことをしておいてまともな人間に口をきくとは!」。ロジャーズは「不自然なほど静かに」答えます。「なぜ、愚か者、私がやったと思うのだ? われわれの限られた人間の立場からは、結果が美しくないと認めよう。それがどうした? それは人間ではないし、人間のふりもしていない。捧げるとは、差し出すことに過ぎない。私は犬をそれに与えた。起きたことはそれの仕業で、私の仕業ではない」[1]。

そして伏せてあった最後の一枚を渡します。写真の中のものは、もう一枚の玉座の複製らしいものの上に蹲っていました。「正気の人類の想像の中に、大まかにでも対応するものが入ってきたことはない」。球形の胴、蟹の鋏で終わる六本の長い肢、泡のように突き出た「頭」に三角に並ぶ三つの魚の目、1フィートの鼻面、鰓。毛のように見えたものは、蝮の頭のような口を先に持つ黒く細い触手の密生。頭部ではそれが長く太く、渦巻きの縞で「メドゥーサの蛇の髪」を思わせます。横に立つオラボナの倍近い高さ。「憎悪と貪欲と純然たる残酷さの混合、この世界にも太陽系にもないほかの感情と混ざっているために人間には理解できないもの」。ジョーンズは、ロジャーズが「悪意ある狂気と不気味な彫刻の天才をいちどきに注ぎ込んだ」蝋の傑作だと思い、その像を壊せ、写真も破らせろ、と言います[1]。

「イア! シュブ=ニグラス! 千の仔を孕む山羊!」。ロジャーズは写真を奪い返し、「今は生贄のあとで休んでいる」が、あとで証拠を見せる、と言います。ジョーンズが帽子を取ると、彼は嘲ります。「怖いのだろう、大口を叩いても! 私の館に一晩いられるかという賭けに乗る連中と同じだ──一時間で悲鳴を上げて出してくれと扉を叩く」。ジョーンズは逆に提案します。自分が朝までここに残れば、「像はただの像だ」と認めて三か月の休暇を取り、新しい像はオラボナに壊させる。それでどうか。ロジャーズの顔には「悪意ある勝利」が浮かびます。「いいだろう。展示室に鍵をかけて帰る。朝、オラボナより先に来て様子を見る。同じ建物にいることになる──同じ部屋ではないが、それと」[1]。

二人は裏口から中庭へ出ます。ロジャーズは麻布の包みを持ち、中庭のマンホールの蓋を「身震いするほど慣れた様子で」開けて、包みを下水へ落としました。別々に食事をし、11時に館の前で落ち合います。ロジャーズは工房のスイッチで灯りを消し、工房の扉に鍵をかけ、握手もせずに通りの扉を外から施錠して去りました[1]。

第2章 暗闇の中で

ジョーンズは「ここへ自分を連れてきた子どもじみた単純さ」を呪います。最初の半時間は懐中電灯を時々つけましたが、光が当たるのはギロチン、雑種の怪物、喉を切られた体。やがて見ないほうがましになります。なぜ狂人に付き合ったのか。「たぶん、芸術家同士の同情だった」。ロジャーズには「シームやドレの空想と、ブラシュカの科学的な精巧さ」があった、と彼は考えます[1]。

真夜中の鐘。館は「墓のよう」で、鼠一匹いません。ロジャーズは「ある理由で」鼠も虫も近寄らないと自慢していました。時間は異常に遅く、感覚は異常に鋭い。かすかなざわめき、「意志と目的を持つような」光の斑点、空気の圧力のわずかな変化、異常な冷え。空気は「暗い地下の水の塩気」を含み、蝋人形のものではない「博物館の標本のような」黴臭さがある。「想像力の行き過ぎに用心せねば──それが哀れなロジャーズを狂わせたのではなかったか」。暗闇の中で、ランドルーの髭面が歪み、マダム・ドメールの切られた喉から泡立つ音がし、トランク殺人の胴体が這い寄ります。それらを追い払おうとして、彼は逆に、それらを保とうとし始めます。「さらに醜悪なもの」に場所を譲り始めたからです。ツァトゥグァが蛙のような姿から「何百もの未発達の足を持つ長い曲線」へ変わり、夜鬼が翼を広げる[1]。

1時の鐘。「まだ1時か」。ロジャーズは8時ごろに来る。耳が幻覚を担い始めます。工房のほうから「忍び足の、重い足音」。鍵の回る音。扉の軋み。何かが「引きずるような、足を擦るような」音で近づいてきます。「誰だ? 何者だ? 何の用だ?」。答えはなく、音は続く。彼は懐中電灯をつけ、見て、電灯を落とし、「一度ではなく何度も」叫びます。「猿とも昆虫ともつかない黒いものの、巨大で冒涜的な姿」。皮は骨組みに緩く垂れ、皺だらけの死んだ目の頭が酔ったように揺れ、前肢は鉤爪を広げている。それは跳びかかり、ジョーンズは気を失いました[1]。

「ラーン=テゴス、私は滋養を持って参ります」

気絶は一瞬で、引きずられながらジョーンズは目を覚まします。彼を完全に覚醒させたのは、そのものが立てる音──人間の、聞き覚えのある声でした。「イア! イア! 参ります、おおラーン=テゴス、滋養を持って参ります。長くお待ちになり、乏しい糧しかなかったが、いま約束のものを差し上げます。それ以上を。オラボナの代わりに、あなたを疑った高い身分の者を。潰し、吸い尽くし、その疑いごと、強くおなりください。そしてその後、人々のあいだで彼はあなたの栄光の記念碑として示されるでしょう」[1]。

「その瞬間、夜の恐怖はすべて、脱ぎ捨てた外套のようにジョーンズから落ちた」。相手は伝説の怪物ではなく危険な狂人で、「自分で作った蝋の悪魔神に恐ろしい生贄を捧げようとしている」ロジャーズだと分かったからです。工房の敷居を越えたところで、ジョーンズは跳ね起き、狂人の「奇妙に覆われた喉」を掴みます。「公正さも品位も自己保存の抑制もすべて解かれた」相手は「狼か豹のような破壊の機関」で、ジョーンズを救ったのは運動で鍛えた体でした。血が飛び、服が裂け、ロジャーズは蹴り、抉り、噛み、吐きかけ、「それ」と「ラーン=テゴス」への言及に満ちた「儀式的な隠語」を吐きます。最後にジョーンズの膝がロジャーズの胸に入り、勝負がつきました[1]。

灯りをつけ、紐と革帯でロジャーズを縛ります。彼の着ていた変装の残りは「奇妙な種類の革」で、触ると肌が粟立ち、「異質な、錆のような臭い」がしました。ジョーンズは血を洗い、衣装掛けから一番普通の服を選び、鍵束を取ります。医者(精神科医)を呼びに行こうと扉に手をかけたとき、「左の頬に長く深い引っ掻き傷」のあるロジャーズが目を覚まし、罵倒を浴びせます[1]。

縛られた館主の告白

「愚か者! ノス=イディクの落とし子、クトゥンの放出物! アザトースの大渦で吠える犬どもの息子! お前は神聖で不死になれたのに、それとその神官を裏切っている!」。彼はジョーンズに何を用意していたかを語ります。炉には火の支度があり、釜には蝋がある。「それが満腹し、お前があの犬のようになったら、私はお前の潰され穴だらけになった断片を不死にしただろう。蝋がそれをする。毛穴のすべてに蝋を──体の一平方インチごとに蝋を! そして世界はお前のずたずたの死骸を見て、私がどうやってこんなものを想像し作ったのかと不思議がっただろう!次はオラボナ、その次も──こうして私の蝋の家族は増えていくはずだった!」。「私が像を全部作ったとまだ思っているのか? なぜ『保存した』と言わない?」。お前を脅かすのに着た「次元の徘徊者」の皮──生きたそれを見れば、思うだけでも、恐怖で即死する、と[1]。

ロジャーズは取引を持ちかけます。放してくれれば、二度と煩わせない。「それはあの扉の向こうで飢えている。それが死ねば、旧き者どもは二度と戻れない」。ジョーンズが首を振ると、ロジャーズは壁に頭を打ちつけ、「人間の喉から出るとは思えない」音量の遠吠えを上げ、床を這って南京錠の扉に頭を打ちつけ始めます。「ウザ=イエイ! ウザ=イエイ! イカア・ハア・ボー=イイ、ラーン=テゴス──クトゥルー・フタグン──エイ! エイ! ラーン=テゴス、ラーン=テゴス、ラーン=テゴス!」[1]

そして、突然、彼は叫ぶのをやめ、頭を傾げて聞き耳を立て、「悪魔的な勝利の笑み」を浮かべて、今度は囁きます。「聞け、愚か者! それが私の声を聞いて、来る。走路の端の水槽から、水を跳ねて出てくるのが聞こえないか? 深く掘った。それにはどんなによいものも過ぎることはないから。両生類なのだ──写真の鰓を見ただろう。鉛色のユゴスから来た、都市が温かい深海の下にある星から。あそこでは立てない──背が高すぎる──座るか蹲るしかない。鍵を取ってくれ。出して、ひざまずこう。それから犬か猫を──あるいは酔っ払いを──探しに行こう」[1]。

扉の向こう

ジョーンズを打ちのめしたのは、言葉の内容ではなく、その「まったく正気を失った自信と誠実さ」でした。扉には数本の亀裂があります。彼は、こちら側に暴力の跡がないことに気づきます。そして「恐ろしい一瞬のうちに」呼吸ができなくなります。「狂人は扉の向こうの水槽で神話の怪物が水を跳ねる音を聞けと言い──いま、神よ、彼にはそれが聞こえた!」。ロジャーズが笑います。「ついに、愚か者、お前は信じた! 鍵を取れ──礼拝し、仕えねば!」[1]

水音。「固い床の上の、大きな濡れた足」のような足音。扉の亀裂から、リージェンツ・パークの動物園の哺乳類の檻に「似て、しかし似ていない」獣臭。鼻を鳴らす音。扉の掛け金を「探り、叩き、押す」音。厚い木材への打撃が大きくなり、「破城槌のような」執拗な打ちつけになります。「不吉なひび割れ──裂ける音──溢れる悪臭──落ちる板──蟹の鋏で終わる黒い足……」。「助けて! 神よ助けて!……アアアアア!……」[1]

ジョーンズが思い出せるのは、恐怖の麻痺が「狂乱した自動的な逃走」に変わったことまでです。工房を一跳びで横切り、外の扉を開け(扉は背後で自動的に施錠され)、石段を三段飛ばしに駆け上がり、サザークの街路を走った。どうやって家に着いたかは分からず、辻馬車を使った形跡もありません。博物館の衣装の寄せ集めを着たまま医者を呼び、一週間後、神経の専門医は外出を許しました。彼は専門医に多くを語らず、新聞を調べても博物館の記事はありません。「どこまでが現実で、どこからが病んだ夢だったのか」[1]。

二週間後

二週間後、ジョーンズは午前中の「正気で健全な活動」のある時刻を選んでサザーク街へ行きます。館は開いていて、門番が会釈し、地下では係員が帽子に手をやります。すべて夢だったのか。そこへオラボナが来ます。「ロジャーズ氏は留守です。アメリカで仕事の話があり、急に。今は私が責任者です──ここも、家も」。「先月の28日」の朝のことをオラボナは語ります。ロジャーズ氏が来る前に工房を見ると「かなり散らかって」いて、片づけが大変だった。「夜業があったのです。重要な新しい標本に、二次の焼成処理を施す」。ロジャーズ氏は来て「標本の完成を大いに助けて」くれたが、係員に挨拶もせず、急に去った。「重要な化学反応が関わっていて、大きな音がしました──中庭の馬車引きたちは、ピストルの音を何発か聞いたと言い張っています。愉快な考えです!」[1]

新しい標本は一週間前に大人向けの区画に展示したが、二、三人が失神し、一人は癲癇の発作を起こし、翌日スコットランド・ヤードの二人が「病的すぎる」として撤去を命じた。「あなたは目利きだ、ジョーンズさん。個人的にお見せしても法には触れないでしょう」。仕切りの奥の、カーテンで覆われた壁龕。「この標本の題は『ラーン=テゴスへの生贄』です」。ジョーンズは激しく震え、真鍮の手すりにつかまります。オラボナは「勝ち誇るように」微笑みます。「ご覧を!」[1]

十フィートの高さ、蹲っていてなお「無限の宇宙的悪意を表す」姿が、彫刻に覆われた巨大な象牙の玉座から前へ乗り出しています。六本の肢の中央の一対に、「潰され、平たくされ、歪められ、血の気を失い、百万の穴を開けられ、酸で焼かれたように」なった何かを抱えている。逆さに垂れた「ずたずたの頭」だけが、それがかつて人間だったものを表していると分かります。写真は「あまりに忠実」で、しかし「巨大な実物」の恐怖の全部は伝えていなかった。「──神よ、蟹の鋏で終わるあの黒い足の、見覚え!……」[1]

ジョーンズを引き留めたのは、犠牲者の垂れた頭でした。顔が残っていて、その顔は「哀れなロジャーズの狂った顔に似て」いる。狂った自己中心家が自分の顔を傑作に彫るのは自然ではないか。穴は「あの哀れな犬に加えられた無数の傷を、なんと完璧に再現していることか」。だがまだ何かある。左の頬に、「彫刻家が最初の造形の欠陥を隠そうとしたような」不規則な跡。「あの醜悪な夜──取っ組み合い──縛られた狂人──そして、生きている本物のロジャーズの左頬の、長く深い引っ掻き傷……」。ジョーンズは手すりを離し、完全な失神に沈みます。「オラボナは微笑み続けた」。本文はここで終わります[1]。

読みどころと注目テーマ

「作った」か「保存した」か

本作の中心の問いは、ロジャーズが縛られたまま投げつける一言に集約されています。「私が像を全部作ったとまだ思っているのか? なぜ『保存した』と言わない?」。蝋人形館という舞台は、この問いのためにあります。像が本物に見えるのは職人の技か、本物だからか。ジョーンズは最初から最後まで「蝋の傑作」という説明に戻ろうとし、本文は最後の場面で、その説明を一つの細部──左頬の引っ掻き傷──で崩します。最後の像がロジャーズ自身であることを、本文は明言しません。読者が「先月の28日」「ピストルの音」「二次の焼成処理」「化学反応」というオラボナの言葉と、傷とを重ねて、自分で結論に至る組み立てです。

二度の変装

第2章で暗闇のジョーンズを襲うのは、「猿とも昆虫ともつかない黒いもの」です。それがロジャーズの変装だと分かった瞬間、「夜の恐怖はすべて、脱ぎ捨てた外套のように落ちた」と本文は書きます。相手が人間なら戦える。ところが変装の「皮」は、ロジャーズによれば「次元の徘徊者」の本物の皮であり、扉の向こうから来るものは変装ではない。一度目の暴露で安心させ、二度目で足元を抜く。読者がジョーンズと一緒に「人間の狂気」という説明に飛びついたところを、本文は狙っています。

オラボナ

助手オラボナは、犬の悲鳴の場面で「同僚を戸惑わせる笑み」を浮かべ、以後、何度も「皮肉な笑み」で描かれます。ロジャーズによれば、彼は「それ」を起こすことに反対し、殺して蝋像にしろと主張し、ピストルを持ち歩き、「次の生贄」の候補でもありました。結末で館と家の責任者になっているのは彼で、本文の最後の一文も彼の笑みです。「ロジャーズが自分の像になった」という読みの裏に、「誰がそうしたか」という問いがもう一つ残ります。「ピストルの音を何発か」という馬車引きたちの証言が、その問いへの本文からの唯一の手がかりです。

神話の名前の使い方

仕切りの奥の像として、本作はクトゥルー、ツァトゥグァ、チャウグナー・フォーン、ヨグ=ソトース、グノフ=ケーの名を並べ、書物として『ネクロノミコン』『エイボンの書』『無名祭祀書』、プナコトス断章を挙げます。これらはいずれも「像」「書名」として名だけが出るもので、物語を動かすのは本作で初めて名が出るラーン=テゴスと、名のない「次元の徘徊者」です。既存の名を背景の棚に並べ、新しい名を一つ前面に出す配置は、本作の場合、蝋人形館の展示そのものと重なっています。

執筆背景と影響

公式アーカイブの年譜は本作を「ヘイゼル・ヒールドと、1932年10月」と記し[2]、本文の署名は「H・P・ラヴクラフト、ヘイゼル・ヒールドのために」です[1]。初出は1933年7月の『ウィアード・テイルズ』第22巻第1号、49ページから68ページでした[3]。ヒールドとの分担や執筆の経緯について、公式アーカイブの本文と作品情報ページに記載はなく、当サイトでは確認していません。名義人についてはヘイゼル・ヒールドの項を参照してください。

芸術家が「本物」を素材にしていたという骨格は、ピックマンのモデル(1926年)にもあります。あちらは画家と写真、こちらは彫刻家と蝋。どちらも、語り手(視点人物)が「それは技術だ」と信じようとし、最後に一つの物証で覆されます。

出典

[1] H. P. Lovecraft [for Hazel Heald], “The Horror in the Museum” (本文). The H. P. Lovecraft Archive.https://www.hplovecraft.com/writings/texts/fiction/hm.aspx本記事の引用・要約はすべてこの本文に基づきます。訳文は当サイトによる試訳です。

[2] “Lovecraft’s Fiction” (作品年譜). The H. P. Lovecraft Archive.https://www.hplovecraft.com/writings/fiction/執筆時期(ヒールドと、1932年10月)、および「ピックマンのモデル」1926年の出典。

[3] “Data Page for ‘The Horror in the Museum'” (作品情報・出版履歴). The H. P. Lovecraft Archive.https://www.hplovecraft.com/writings/fiction/hm.aspx初出『ウィアード・テイルズ』第22巻第1号(1933年7月)49–68ページの出典。

関連作品ガイド ── どれから楽しむか

  • ピックマンのモデル — 「本物を素材にした芸術家」の先例。本作の蝋人形館は、あちらの画家のアトリエを地下博物館に置き換えたものとして読めます。
  • ラーン=テゴス — 本作で初めて名の出る神格の項。写真の描写、アラスカの遺跡、「ユゴスから来た両生類」という設定を神格の側から整理しています。
  • ヘイゼル・ヒールド — 本作の名義人の項。
  • グノフ=ケー — 本作では「大人向け」の仕切りの奥の像として名だけ出る、グリーンランドの氷の生き物。その項で本作以外の登場作を確かめられます。
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