概要
ノフ=ケーは、H・P・ラヴクラフト「北極星」(Polaris、1918年執筆/1920年発表)に「毛深く長腕の食人種グノフケー」という種族名として一度、代作「博物館の恐怖」(The Horror in the Museum、1932年執筆/1933年発表)に角を持つ怪物「Gnoph-keh」として一度、それぞれ一文のみで言及される存在である[1][2]。
原典2作の描写は、時期も内容も一致しない。「北極星」では複数形Gnophkehsの食人種族、「博物館の恐怖」では単数形Gnoph-kehの角を持つ一怪物であり、原典自体がどちらか一方の姿に統一しているわけではない。今日「旧支配者」として扱われることが多いのも、原典の記述ではなく、後世にフランシス・T・レイニーとオーガスト・ダーレスが加えた解釈に由来する。
分類・種族/単体の別ともに、原典2作の時点では確定していない。本記事はこの不確定さを解消せず、両論として記録する。
初出作品
ノフ=ケーの初出は「北極星」(Polaris、1918年執筆/1920年発表)である[1]。舞台は極北の王国ロマールで、大氷床の南下とともにゾブナから現れ、ロマール人の祖先の行く手に立ちはだかった「毛深く長腕の食人種グノフケー(Gnophkehs)」として、複数形・ハイフンなしの表記で一度だけ言及される[1]。
二度目の言及は「博物館の恐怖」(The Horror in the Museum、1932年10月執筆/1933年7月《ウィアード・テイルズ》誌発表、ヘイゼル・ヒールド名義のラヴクラフト代作)で、こちらは単数形・ハイフン付きのGnoph-kehとして現れる[2]。
原典での描写
「北極星」では、大氷床の前進とともに南下してきた「毛深く長腕の食人種グノフケー」が、ロマール人の祖先の行く手に立ちはだかったが、勇敢に、勝利のうちに掃討されたと語られる[1]。
“…valiantly and victoriously swept aside the hairy, long-armed, cannibal Gnophkehs that stood in their way.”(訳: 「行く手に立ちはだかる毛深く長腕の食人種グノフケーを勇敢に、勝利のうちに掃討した」)[1]
ここでのノフ=ケーは、ロマールを滅ぼした側ではなく、ロマール建国以前の時代に、ロマール人の祖先によって打ち破られた側として描かれている点に注意が必要である。
「博物館の恐怖」では、蝋人形館の「大人向け」アルコーヴに展示された絵の背景に、鋭い角を持ち、時に二本足、時に四本足、時に六本足で歩いたとされる怪異として、キャンバスの小さな膨らみのかたちで言及される[2]。
“A small bulge in the canvas far to the right suggested the sharp horn of Gnoph-keh, the hairy myth-thing of the Greenland ice, that walked sometimes on two legs, sometimes on four, and sometimes on six.”(訳: 「はるか右手のキャンバスの小さな膨らみは、グリーンランドの氷に棲む毛深い怪異ノフ=ケーの鋭い角を思わせた。それは時に二本足で、時に四本足で、時に六本足で歩いた」)[2]
作中で実際に行動する実体としてではなく、展示画に描かれた一場面としての言及にとどまる点も、あわせて押さえておく必要がある。
ダーレス以降の変化
原典2作のいずれも、ノフ=ケーを明確な神格として位置づけていない。後世、フランシス・T・レイニーが『クトゥルー神話小辞典』でノフ=ケーを旧支配者ラーン=テゴスの化身体(顕現)と位置づけ、オーガスト・ダーレスも『暗黒の儀式』でこの解釈を踏襲したとされる。
この情報は原著該当箇所を未確認のまま扱っている。レイニー・ダーレスの原文そのものは今回照合できておらず、二次資料による整理にとどまる。
後続作家による拡張としては、リン・カーター(とされる)『The Scroll of Morloc』、ジョン・グラスビー『The Nameless Tower』なども挙げられるが、これらも同じく原文未確認の情報として扱う。
TRPGでの扱い
TRPG関連の整理では、人型の種族(ノフケー族)、角を持つ多足の単体の怪物、旧支配者(化身体)という3系統の解釈が並立して扱われているとされる。
この整理も二次資料に基づくものであり、確定した公式設定として断定はできない。個別のTRPGサプリメントでの具体的な扱い(ステータス・シナリオでの登場例など)は、今回の収集資料では確認できていない。
登場作品一覧
| 作品 | 年 | 作者 | この作品が足したもの |
|---|---|---|---|
| 北極星 | 1918年執筆/1920年発表 | H・P・ラヴクラフト | 初出。複数形Gnophkehsの食人種族として[1] |
| 博物館の恐怖 | 1932年執筆/1933年発表 | H・P・ラヴクラフト/ヘイゼル・ヒールド名義 | 単数形Gnoph-kehの角を持つ怪物として[2] |
| クトゥルー神話小辞典 | 未確認 | フランシス・T・レイニー | 旧支配者ラーン=テゴスの化身体という解釈(原文未照合) |
| 暗黒の儀式 | 未確認 | オーガスト・ダーレス | レイニーの化身体解釈の踏襲(原文未照合) |
| The Scroll of Morloc | 未確認 | リン・カーター(とされる) | 後続作家による言及(原文未照合) |
| The Nameless Tower | 未確認 | ジョン・グラスビー | 後続作家による言及(原文未照合) |
年・作者以外の欄で「未確認」とした項目は、原文照合ができていないことを示す。
関連神格・地域・書物
神格
- ラーン=テゴス — 「博物館の恐怖」では、蝋人形館の同じアルコーヴにクトゥルフ・ヨグ=ソトースと並んで背景に描かれる一存在として言及されるのみで、原典に両者を直接結びつける記述はない[2]。後世の解釈(レイニー/ダーレス)によって化身体という関係が付与された
- イタカ — 同じ極北を舞台とするオーガスト・ダーレス創造の神格。両者を直接結びつける記述は、今回収集した資料の範囲では確認できていない。舞台の共通性から相互参照の対象としているにとどまる
地域
- ロマール — 「北極星」の舞台となる極北の王国。ノフ=ケーは、ロマール建国期にロマール人の祖先によって掃討された敵対的存在として描かれる[1]。ロマールを滅ぼした側ではなく、建国以前の時代に打ち破られた側である点は、本サイト既存記事「ロマール」の記述と一致する
通俗的な紹介との食い違い
ノフ=ケーをロマール滅亡の襲撃者として紹介する例があるが、これは「北極星」の原文([1]、ロマール建国以前に掃討された側とする記述)と一致しない。既存記事「ロマール」もこの食い違いを原文と対照した上で指摘している。本記事は原文の記述([1])を優先し、これと矛盾しない書き方を取っている。
参考文献
- [1] “…valiantly and victoriously swept aside the hairy, long-armed, cannibal Gnophkehs that stood in their way.”(訳: 「行く手に立ちはだかる毛深く長腕の食人種グノフケーを勇敢に、勝利のうちに掃討した」) — H. P. Lovecraft, “Polaris”(1918年執筆/1920年発表), 公式アーカイブ
- [2] “A small bulge in the canvas far to the right suggested the sharp horn of Gnoph-keh, the hairy myth-thing of the Greenland ice, that walked sometimes on two legs, sometimes on four, and sometimes on six.”(訳: 「はるか右手のキャンバスの小さな膨らみは、グリーンランドの氷に棲む毛深い怪異ノフ=ケーの鋭い角を思わせた。それは時に二本足で、時に四本足で、時に六本足で歩いた」) — H. P. Lovecraft/Hazel Heald, “The Horror in the Museum”(1932年10月執筆/1933年7月発表), 公式アーカイブ
FAQ
Q. ノフ=ケーは種族なのか、それとも単体の神なのか。A. 原典2作の時点で既に一致していません。「北極星」(1918年執筆/1920年発表)では複数形Gnophkehsとして描かれる食人種族、「博物館の恐怖」(1932年執筆/1933年発表)では角を持つ単数形Gnoph-kehとして描かれる一怪物であり、原典自体がどちらか一方に統一しているわけではありません[1][2]。後世、フランシス・T・レイニーやオーガスト・ダーレスによって旧支配者ラーン=テゴスの化身体という第三の解釈が加えられ、TRPG関連の整理ではこの3系統(種族/単体の怪物/旧支配者の化身体)が並立して扱われているとされますが、これは単一の二次資料に基づく整理であり、確定した公式設定として断定はできません。
Q. ラーン=テゴスと同一の存在なのですか。A. 原典「博物館の恐怖」では両者は別々に言及されており、同一視する記述はありません[2]。「ノフ=ケーはラーン=テゴスの化身体である」という解釈は、フランシス・T・レイニーの『クトゥルー神話小辞典』に由来するとされる後世の設定であり、原典に直接の根拠はありません。
Q. 「博物館の恐怖」に登場するノフ=ケーは、実際に姿を現す怪物なのですか。A. いいえ。該当箇所は蝋人形館に展示された絵(キャンバス)の背景に描かれた一場面としての言及であり、作中で実際に行動する実体として登場する場面はありません[2]。
Q. ノフ=ケーはロマールを滅ぼした存在ですか。A. 「北極星」の原文([1])は逆で、ロマール建国以前にロマール人の祖先によって掃討された側として描いています。ノフ=ケーをロマール滅亡の襲撃者とする紹介は原文と食い違っており、本記事は原文の記述を優先しています。





