神官(夢の国) — THE HIGH-PRIEST NOT TO BE DESCRIBED

言い表せない大司祭

原典

幻夢境のレン高原、窓のない先史時代の石の修道院にただ独り住む存在。黄色い絹の仮面と赤い模様の入った黄色い絹の衣に全身を覆われ、声を使わず象牙の笛と手話で応じる。カーターは絹がずれた瞬間に正体を知るが、原典はその中身を書かない。

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言い表せない大司祭

「奥の端には5段で上がる高い石の壇があり、そこの黄金の玉座に、赤い模様の入った黄色い絹をまとい、顔に黄色い絹の仮面を掛けた、ずんぐりした像が座っていた。」

— H・P・ラヴクラフト「未知なるカダスを夢に求めて」(1926-1927年執筆)、レンの修道院の円蓋の広間でカーターが玉座を見上げる場面
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概要

言い表せない大司祭は、幻夢境のレン高原にある窓のない先史時代の石の修道院に、ただ独りで住む存在である。H・P・ラヴクラフトの「セレファイス」(1920年11月初頭執筆[5]/1922年5月『The Rainbow』誌第2号発表[4])で名が現れ、長編「未知なるカダスを夢に求めて」(1926年秋頃-1927年1月22日執筆[1]/1943年発表[2])で唯一の対面場面が書かれる。

この存在を扱うときに最初に断っておくべきことがある。原典はその正体を書いていない。書かれているのは、赤い模様の入った黄色い絹をまとい、顔に黄色い絹の仮面を掛けた「ずんぐりした像(lumpish figure)」が黄金の玉座に座っていたこと[12]、そして模様のある絹が灰白色の前肢の一本から少しずれた瞬間に、ランドルフ・カーターが正体を知った[16]、ということだけである。カーターが何を見たかは一行も書かれない。

英語の呼称 the high-priest not to be described は、そのまま「描写されるべきでない大司祭」という意味の肩書きである。名前ではなく、記述の拒否そのものが名前の位置に置かれている。当サイトはこの存在を、姿を持つ神格としてではなく、原典が意図して空白にした一点として扱う。

項目内容
分類原典に神格・種族としての分類の記述はない(旧支配者・外なる神・旧神の分類)
欧文表記the high-priest not to be described。固有名は与えられていない
初出「セレファイス」(1920年執筆[5]/1922年発表[4])[3]
住処レン高原の窓のない先史時代の石の修道院。周囲を粗い一枚岩の環が囲む[8]
姿黄色い絹の仮面と赤い模様の入った黄色い絹の衣。覆いの下は原典に記述がない[12]
見えた部分灰白色の前肢(greyish-white paws)。それ以外は一切ない[16]
声使わない。象牙の笛と手話で意思を通す[13][18]
祈る相手外なる神々と、その這い寄る混沌ニャルラトホテプ[9]
配下「使いは数多いに違いない」とされる。人数も種別も書かれない[22]

初出作品

初出は「セレファイス」である。夢の中でセレファイスを探し歩くクラネスが「多くの驚異を見、そして一度は言い表せない大司祭からかろうじて逃れた」と語られる一節に現れる[3]。

この一文には、後の長編で使われる要素がすでにほぼすべて入っている。称号、顔を覆う黄色い絹の仮面、先史時代の石の修道院、レンの冷たい砂漠の高原、そして単独で住んでいること。1920年の時点でこの存在の設定は完成しており、6年後に書き加えられたのは場面だけだった。

一方で「セレファイス」は、遭遇そのものを書かない。クラネスがどこで出会い、何を見て、どう逃れたのかは一語も説明されない。称号が「描写されるべきでない」であるのに合わせるように、本文もそこを素通りする。

姿と場面が与えられるのは「未知なるカダスを夢に求めて」である。この長編でラヴクラフトは、大司祭をまず二度の伝聞として置き、最後に対面させるという順序を取った。ディラス=リーンの酒場での噂[6]、インガノクでのほぼ同文の噂の反復[7]、そしてレン高原の修道院での謁見[12]。伝聞の段階で読者に与えられる情報は、二度とも「黄色い絹の仮面をかぶり、先史時代の石の修道院に独り住む」だけで、一語も増えない。

なお本作は1943年の死後出版であり[2]、ラヴクラフトは生前この長編を発表していない。

原典での描写

称号のつくり

原典が使う言い方は、一貫して that high-priest not to be described, which wears a yellow silken mask over its face... という形である[6][7]。ここで関係代名詞が who ではなく which であり、所有格も his ではなく its であることに注意しておきたい。原典はこの存在を、最後まで人を指す代名詞で受けない。

呼びかけ方も一定しない。the creature on the dais(壇上の生き物)[15]、the lurker in the dark(暗がりに潜むもの)[13]、that wriggling, silk-robed monstrosity(のたくる、絹をまとった怪物)[17]、what squatted on that golden throne(あの黄金の玉座の上にうずくまっていたもの)[17]。どれも種類を名指さず、そのつど見え方だけを言い換えている。

修道院

修道院は、シャンタク鳥(シャンタク鳥)に乗せられて運ばれた先の、風の吹き抜ける卓状の高地にある。静けさと薄暮と寒気のなかに、窓のない平たい石造りの建物が一つ建ち、その周りを粗い一枚岩の環が囲む。この配置には人間的なものが何ひとつなかった、と原典は書く[8]。

内部に明かりはない[10]。連行した切れ長の目の老商人が、病んだ浅浮彫の入った小さな粘土のランプを灯し、狭く曲がりくねった回廊の迷路を進ませる。壁には歴史より古い光景が、地球の考古学者の知らない様式で描かれている[10]。この壁画がレンの民の年代記であり、レンの男の記事で扱う種族史の出所でもある。

謁見の場は円蓋の広間である。衝撃的な浅浮彫に覆われた壁、中央に口を開けた円形の坑、それを輪になって囲む6基の悪意に染まった石の祭壇[11]。坑は、噂ではグーグ族がガストを狩るジンの穴蔵まで達するとされる[19]。

玉座の姿

奥の端に5段で上がる高い石の壇があり、その上の黄金の玉座に、大司祭は座っている。

“At the farther end was a high stone dais reached by five steps; and there on a golden throne sat a lumpish figure robed in yellow silk figured with red and having a yellow silken mask over its face.”(訳: 奥の端には5段で上がる高い石の壇があり、そこの黄金の玉座に、赤い模様の入った黄色い絹をまとい、顔に黄色い絹の仮面を掛けた、ずんぐりした像が座っていた。)[12]

原典が与える姿の直接描写は、これで全部である。lumpish(ずんぐりした、塊のような)という一語が輪郭を暗示するだけで、身の丈も、手足の数も、頭部の形も書かれない。衣と仮面に覆われた外形だけが読者に渡される。

やりとりも異様に静かである。老商人が手で合図を送ると、大司祭は絹に覆われた前肢で不快に彫られた象牙の笛を上げ、垂れた黄色い仮面の下から音を出して応える[13]。声は一度も使わない。このあと老商人が話しかけるときも、やはり手である[18]。

カーターにとって、笛の音とその場の悪臭には覚えがあった。赤い光に照らされた月の都市と、そこを進んだあの行列、そしてその先の月面の登坂を思い出させる[14]。彼は玉座のものが言い表せない大司祭に違いないと確信するが、「伝説が凶悪で異常な可能性を囁く」その正体が何でありうるかを、考えることを恐れた[15]。

明かされない一行

そして原典で最も有名な一行が来る。

“Then the figured silk slipped a trifle from one of the greyish-white paws, and Carter knew what the noisome high-priest was.”(訳: そのとき模様のある絹が灰白色の前肢の一本から少しずれ、カーターはあの悪臭を放つ大司祭が何者であるかを知った。)[16]

読者に渡される情報は greyish-white paws(灰白色の前肢)の五文字だけで、そこで止まる。カーターは知ったが、書き手は書かない。恐怖の中身を提示せず、登場人物が理解した瞬間だけを提示するという書き方であり、称号そのものがこの処理を最初から予告していた。

次の瞬間、カーターは祭壇石に置かれたランプをつかみ、大司祭と手で話すために前へ出ていた老商人を坑へ突き落として逃げる[19]。壁画の回廊を走るあいだ、彼が考えまいとしたのは、背後の石の上を進む形の定まらない前肢の忍びやかな足音と、暗い回廊で続いているはずの音のないのたくりと這いだった[20]。追ってくるものの姿は、ここでも書かれない。

修道院の外にあるもの

大司祭は修道院から一歩も動かないが、勢力としては動いている。

第一に、使いがいる。サルコマンドへ落ちたカーターは崖の入口を瓦礫で塞ぎ、レンの修道院からの追手を警戒した[21]。陸路でレン高原を単独で越えることを避けた理由も、「大司祭の使いは数多いに違いない」だった[22]。誰が使いなのか、何体いるのかは書かれない。ディラス=リーンとインガノクに現れる切れ長の目の老商人は、その一人と読める位置にいる[6][7]。

第二に、捕虜が送られてくる。食屍鬼3体を拉致した黒いガレー船は、月ではなくサルコマンドへ向かっていた。その目的は、捕虜を言い表せない大司祭の前へ連れて行くことだったとされる[24]。ムーンビーストが食屍鬼をレン高原と大司祭に近づけたくなかったのだろう、というのはカーターの推測である[23]。大司祭のもとへ運ばれた捕虜がどう扱われるのかは、原典に書かれていない。

第三に、構造が反復される。ムーンビーストの岩礁の奥にも底なしの坑があり、原典はそれを「レンの忌まわしい修道院で大司祭がただ独りうずくまっているのと同じ」と書く[25]。両者の場所が同じ様式で作られていることは、こうして地の文で示される。

第四に、修道院は知識の置き場でもある。カーターが夜鬼について学んだのは、この窓のない修道院の壁画からだった。大いなるものたちさえ夜鬼を恐れること、そして夜鬼の主はニャルラトホテプではなくノーデンスであること[26]。のちに食屍鬼と夜鬼の軍勢を動かす作戦の前提は、大司祭の修道院から持ち出された情報である。

正体をめぐって、原典が許す範囲

本文の中に、同定を促す語はいくつかある。

まず greyish-white(灰白色)。この語は本作で3回しか使われず、あとの2回はどちらもムーンビーストを指している。月の埠頭の描写では「灰白色のぬめる、意のままに膨張収縮する巨大なもの」[27]、修道院の壁画の説明ではレンの民が神として崇めた「灰白色のぬめる冒涜的存在」[28]。3回目が大司祭の前肢[16]である。

次に笛。大司祭が持つのは a disgustingly carven flute of ivory[13]、月の行列でムーンビーストが取り出したのは disgustingly carven flutes of ivory[29]。語順まで同じ言い回しである。

さらにカーター自身の反応がある。笛の音と悪臭が月の都市と行列を思い出させた[14]、という一文は、その直後の「正体を知った」[16]へ地続きで置かれている。

それでも原典は、大司祭をムーンビーストだと書いていない。書いているのは、同じ形容詞と同じ小道具を使ったこと、そしてカーターが理解したことまでである。この記事は同定しない。「灰白色」と笛の一致からムーンビーストと読む解釈は成り立つが、それは読者の側の推論であって原典の記述ではない、という線を引く。当サイトのレンの男の記事も同じ扱いをしている。

言い添えておくと、大司祭は外なる神々とニャルラトホテプに祈る立場に置かれている[9]。一方でレンの民が神として崇めるのはムーンビーストである[28]。両者の位置づけは矛盾しないが、原典はこの二つを明示的につないでもいない。

ダーレス以降の変化

オーガスト・ダーレス以降の作家がこの存在をどう扱ったかについては、本記事の調査で確認できる一次資料が無かった。呼称の日本語訳「言い表せない大司祭」が、どの訳者・どの版で定着したのかも確認できていない(未確認)。当サイトでは、2026年9月公開のレンの男の記事がこの表記を先に使っている。

TRPGでの扱い

『クトゥルフ神話TRPG』でのこの存在の扱いは、本記事の調査では確認できなかった(未確認)。能力値や遭遇時の処理、既存記事「クトゥルフ神話TRPG ラヴクラフトの幻夢境」がこの存在に触れているかどうかも、今回は照合していない。原典と後年の設定を分けて読む考え方は「三層で読み解くクトゥルフ神話」を参照のこと。

登場作品一覧

作品年作者この作品が足したもの
セレファイス1920執筆[5]/1922発表[4]H・P・ラヴクラフト称号・黄色い絹の仮面・先史時代の石の修道院・レン高原・単独居住[3]。遭遇の中身は無し
未知なるカダスを夢に求めて1926-1927執筆/1943発表[1][2]H・P・ラヴクラフト修道院の内外[8][10][11]、玉座の姿[12]、笛と手話[13]、明かされない正体[16]、使いの存在[22]、食屍鬼の連行先[24]

本記事の調査では、hplovecraft.com が本文を公開しているラヴクラフト作品105件を取得して機械検索した。称号 not to be described と yellow silken mask を含むのは、この2作だけである。high-priest を含む作品は9件あるが、残りはセレファイスの松石色の神殿の大司祭、インガノクの古き神々の神殿の老大司祭、サルナスのタラン=イシュとグナイ=カー、「永劫より」のイマシュ=モーとティヨグなど、いずれも別の存在である。

関連神格・地域・書物

神格・存在

  • ムーンビースト — 「灰白色」と象牙の笛が一致する存在[27][28][29]。原典は大司祭と同一だと書いていない
  • レンの男 — 修道院がある高原の住民。壁画に描かれる服従の歴史はこの回廊で語られる[10]
  • ニャルラトホテプ — 大司祭が外なる神々とともに祈る相手[9]
  • ノーデンス — 修道院の壁画が伝える夜鬼の主[26]
  • 夜鬼 — 壁画から知識が得られた対象[26]
  • 食屍鬼 — 黒いガレー船で大司祭の前へ連れて行かれかけた捕虜[24]
  • シャンタク鳥 — カーターをレンの修道院へ運んだ騎獣
  • グーグ族 / ガスト — 修道院の坑が達するとされるジンの穴蔵の住人[19]

地域

用語

  • 幻夢境 — レン高原を含む夢の世界

記事の無い固有名詞(本文中で言及したが当サイトに個別記事はない)

  • サルコマンド — 修道院の坑から落ちた先の廃都[21]
  • インガノク — 噂が反復される黄昏の国[7]
  • 切れ長の目の老商人 — 大司祭と通じているとされ、カーターを修道院へ連行した人物。原典で名前は与えられない[6][18]
  • ジンの穴蔵(the Vaults of Zin) — 修道院の坑が達するとされる場所[19]

参考文献

  • [1] “The Dream-Quest of Unknown Kadath (Autumn? 1926–22 January 1927)”(訳: 「未知なるカダスを夢に求めて(1926年秋?-1927年1月22日)」) — Lovecraft’s Fiction – Chronological Order, The H. P. Lovecraft Archive
  • [2] “The Dream-Quest of Unknown Kadath Written c. autumn 1926–January 22, 1927, first published in Beyond the Wall of Sleep , Arkham House, 1943.”(訳: 「未知なるカダスを夢に求めて 1926年秋頃-1927年1月22日執筆、初出はアーカム・ハウス刊『Beyond the Wall of Sleep』1943年」) — Howard Phillips Lovecraft – Wikisource
  • [3] “meanwhile seeing many wonders and once barely escaping from the high-priest not to be described, which wears a yellow silken mask over its face and dwells all alone in a prehistoric stone monastery on the cold desert plateau of Leng.”(訳: そのあいだに多くの驚異を見、そして一度は、顔に黄色い絹の仮面をかぶり、レンの冷たい砂漠の高原にある先史時代の石の修道院にたった独りで住む、あの言い表せない大司祭から、かろうじて逃れた。) — H. P. Lovecraft, “Celephaïs”, The H. P. Lovecraft Archive
  • [4] “Celephaïs Written early November 1920, published May 1922 in The Rainbow , No. 2, 10–12″(訳: 「セレファイス 1920年11月初頭執筆、1922年5月『The Rainbow』誌第2号10-12ページに発表」) — Howard Phillips Lovecraft – Wikisource
  • [5] “Celephaïs (early November 1920)”(訳: 「セレファイス(1920年11月初頭)」) — Lovecraft’s Fiction – Chronological Order, The H. P. Lovecraft Archive
  • [6] “This man was reputed to trade with the horrible stone villages on the icy desert plateau of Leng, which no healthy folk visit and whose evil fires are seen at night from afar. He was even rumoured to have dealt with that high-priest not to be described, which wears a yellow silken mask over its face and dwells all alone in a prehistoric stone monastery.”(訳: この男は、レンの氷の砂漠の高原にある恐ろしい石の村々と取引していると評判だった。健康な者は誰も訪れず、その邪悪な火が夜に遠くから見える場所である。彼はさらに、顔に黄色い絹の仮面をかぶり、先史時代の石の修道院にたった独りで住む、あの言い表せない大司祭とも通じているとまで噂されていた。) — 「未知なるカダスを夢に求めて」, The H. P. Lovecraft Archive
  • [7] “Far in the shadows of that tavern Carter saw a squat form he did not like, for it was unmistakably that of the old slant-eyed merchant he had seen so long before in the taverns of Dylath-Leen, who was reputed to trade with the horrible stone villages of Leng which no healthy folk visit and whose evil fires are seen at night from afar, and even to have dealt with that high-priest not to be described, which wears a yellow silken mask over its face and dwells all alone in a prehistoric stone monastery.”(訳: その酒場の奥の暗がりに、カーターは気に入らないずんぐりした姿を見た。それは紛れもなく、ずっと以前にディラス=リーンの酒場で見たあの切れ長の目の老商人だった。健康な者は誰も訪れず、その邪悪な火が夜に遠くから見えるレンの恐ろしい石の村々と取引し、さらには、顔に黄色い絹の仮面をかぶり先史時代の石の修道院にたった独りで住む、あの言い表せない大司祭とも通じていると噂された男である。) — 同上, The H. P. Lovecraft Archive
  • [8] “There, all alone in the hush and the dusk and the cold, rose the uncouth stones of a squat windowless building, around which a circle of crude monoliths stood. In all this arrangement there was nothing human,”(訳: そこには、静けさと薄暮と寒気のなかにただ一つ、平たく窓のない建物の粗削りな石が立ち上がり、その周りを粗い一枚岩の環が囲んでいた。この配置には、人間的なものが何ひとつなかった) — 同上, The H. P. Lovecraft Archive
  • [9] “he was indeed come to that most dreadful and legendary of all places, the remote and prehistoric monastery wherein dwells uncompanioned the high-priest not to be described, which wears a yellow silken mask over its face and prays to the Other Gods and their crawling chaos Nyarlathotep.”(訳: 彼はまさしく、あらゆる場所のうちで最も恐ろしく最も伝説的な場所へ来ていた。顔に黄色い絹の仮面をかぶり、外なる神々とその這い寄る混沌ニャルラトホテプに祈る、あの言い表せない大司祭が、連れもなくただ独りで住む、遠く先史の修道院である。) — 同上, The H. P. Lovecraft Archive
  • [10] “There were no lights inside, but the evil merchant lit a small clay lamp bearing morbid bas-reliefs and prodded his prisoner on through mazes of narrow winding corridors. On the walls of the corridors were painted frightful scenes older than history, and in a style unknown to the archaeologists of earth.”(訳: 内部に明かりはなかったが、邪悪な商人は病んだ浅浮彫の入った小さな粘土のランプを灯し、囚人を狭く曲がりくねった回廊の迷路へ突き進ませた。回廊の壁には、歴史より古い恐ろしい光景が、地球の考古学者の知らない様式で描かれていた。) — 同上, The H. P. Lovecraft Archive
  • [11] “The slant-eyed merchant had now prodded Carter into a great domed space whose walls were carved in shocking bas-reliefs, and whose centre held a gaping circular pit surrounded by six malignly stained stone altars in a ring.”(訳: 切れ長の目の商人は、いまやカーターを大きな円蓋の空間へ突き入れていた。壁は衝撃的な浅浮彫に彫られ、中央には口を開けた円形の坑があり、それを6基の悪意に染まった石の祭壇が輪になって囲んでいた。) — 同上, The H. P. Lovecraft Archive
  • [12] “At the farther end was a high stone dais reached by five steps; and there on a golden throne sat a lumpish figure robed in yellow silk figured with red and having a yellow silken mask over its face.”(訳: 奥の端には5段で上がる高い石の壇があり、そこの黄金の玉座に、赤い模様の入った黄色い絹をまとい、顔に黄色い絹の仮面を掛けた、ずんぐりした像が座っていた。) — 同上, The H. P. Lovecraft Archive
  • [13] “To this being the slant-eyed man made certain signs with his hands, and the lurker in the dark replied by raising a disgustingly carven flute of ivory in silk-covered paws and blowing certain loathsome sounds from beneath its flowing yellow mask.”(訳: この存在に向かって切れ長の目の男が手でいくつかの合図を送ると、暗がりに潜むものは、絹に覆われた前肢で不快に彫られた象牙の笛を上げ、垂れた黄色い仮面の下からいくつかの忌まわしい音を吹いて応えた。) — 同上, The H. P. Lovecraft Archive
  • [14] “This colloquy went on for some time, and to Carter there was something sickeningly familiar in the sound of that flute and the stench of the malodorous place. It made him think of a frightful red-litten city and of the revolting procession that once filed through it; of that, and of an awful climb through lunar countryside beyond, before the rescuing rush of earth’s friendly cats.”(訳: このやりとりはしばらく続き、カーターにとって、その笛の音と悪臭を放つ場所の臭いには、吐き気を催すほどの覚えがあった。それは赤い光に照らされた恐ろしい都市と、かつてそこを進んだ胸の悪くなる行列を思い出させた。そしてその先の、地球の親しい猫たちが助けに駆けつける前の、月面の恐ろしい登坂も。) — 同上, The H. P. Lovecraft Archive
  • [15] “He knew that the creature on the dais was without doubt the high-priest not to be described, of which legend whispers such fiendish and abnormal possibilities, but he feared to think just what that abhorred high-priest might be.”(訳: 彼は壇上の生き物が疑いなく、伝説があれほど凶悪で異常な可能性を囁くあの言い表せない大司祭だと分かっていた。だが、その忌み嫌われる大司祭がいったい何でありうるのかを考えることを恐れた。) — 同上, The H. P. Lovecraft Archive
  • [16] “Then the figured silk slipped a trifle from one of the greyish-white paws, and Carter knew what the noisome high-priest was.”(訳: そのとき模様のある絹が灰白色の前肢の一本から少しずれ、カーターはあの悪臭を放つ大司祭が何者であるかを知った。) — 同上, The H. P. Lovecraft Archive
  • [17] “in all his shaken consciousness there was room only for one frantic will to escape from what squatted on that golden throne. He knew that hopeless labyrinths of stone lay betwixt him and the cold table-land outside, and that even on that table-land the noxious shantak still waited; yet in spite of all this there was in his mind only the instant need to get away from that wriggling, silk-robed monstrosity.”(訳: 揺さぶられた意識のすべてに、あの黄金の玉座の上にうずくまっていたものから逃れたいという、たった一つの必死の意志しか入る余地がなかった。彼と外の冷たい卓状の高地とのあいだには絶望的な石の迷宮が横たわり、その高地にさえ有害なシャンタクがまだ待っていると分かっていた。それでも彼の心にあったのは、あののたくる、絹をまとった怪物から今すぐ離れなければという思いだけだった。) — 同上, The H. P. Lovecraft Archive
  • [18] “The slant-eyed man had set his curious lamp upon one of the high and wickedly stained altar-stones by the pit, and had moved forward somewhat to talk to the high-priest with his hands.”(訳: 切れ長の目の男は、坑のそばの高く邪悪に染まった祭壇石の一つに奇妙なランプを置き、手で大司祭と話すためにいくらか前へ進み出ていた。) — 同上, The H. P. Lovecraft Archive
  • [19] “Carter, hitherto wholly passive, now gave that man a terrific push with all the wild strength of fear, so that the victim toppled at once into that gaping well which rumour holds to reach down to the hellish Vaults of Zin where gugs hunt ghasts in the dark.”(訳: それまで完全に受け身だったカーターは、恐怖の荒々しい力のかぎりでその男をすさまじく突き飛ばした。犠牲者はたちまち、噂ではグーグが暗がりでガストを狩る地獄めいたジンの穴蔵まで達するという、あの口を開けた井戸へ落ちていった。) — 同上, The H. P. Lovecraft Archive
  • [20] “In almost the same second he seized the lamp from the altar and darted out into the frescoed labyrinths, racing this way and that as chance determined and trying not to think of the stealthy padding of shapeless paws on the stones behind him, or of the silent wrigglings and crawlings which must be going on back there in lightless corridors.”(訳: ほとんど同じ瞬間に彼は祭壇からランプをつかみ、壁画の迷宮へ飛び出した。行き当たりばったりにあちらこちらへ走りながら、背後の石の上を進む形の定まらない前肢の忍びやかな足音や、明かりのない回廊でいま続いているはずの音のないのたくりと這いを、考えまいとしていた。) — 同上, The H. P. Lovecraft Archive
  • [21] “Carter’s first act was to close and barricade the archway in the cliff with fallen blocks and odd debris that lay around. He wished no follower from Leng’s hateful monastery,”(訳: カーターが最初にしたのは、あたりに転がる落ちた石塊や雑多な瓦礫で、崖のアーチ状の入口を閉ざして塞ぐことだった。レンの憎むべき修道院からの追手を、彼は望まなかった) — 同上, The H. P. Lovecraft Archive
  • [22] “Over Leng’s plateau past the lone monastery he dared not go unaided; for the high-priest’s emissaries must be many, while at the journey’s end there would no doubt be the shantaks and perhaps other things to deal with.”(訳: 孤立した修道院を過ぎてレンの高原を越えることを、彼は助けなしにやろうとは思わなかった。大司祭の使いは数多いに違いなく、しかも旅の終わりにはシャンタクが、おそらくほかのものも、相手として待っているに決まっていたからである。) — 同上, The H. P. Lovecraft Archive
  • [23] “fancied that the grey toad-like blasphemies had heard them inquire in Dylath-Leen concerning the way to Sarkomand and had not wished them to approach so closely the hateful plateau of Leng and the high-priest not to be described.”(訳: 灰色の蛙に似た冒涜的存在たちが、ディラス=リーンで彼らがサルコマンドへの道を尋ねるのを聞きつけ、憎むべきレンの高原と言い表せない大司祭にそれほど近づかれることを望まなかったのだろう、と思った。) — 同上, The H. P. Lovecraft Archive
  • [24] “This time, however, the unseen rowers steered not for the moon but for antique Sarkomand; bent evidently on taking their captives before the high-priest not to be described.”(訳: しかし今度は、姿の見えない漕ぎ手たちは月ではなく古のサルコマンドへ舵を取った。捕虜たちを言い表せない大司祭の前へ連れて行くつもりであることは明らかだった。) — 同上, The H. P. Lovecraft Archive
  • [25] “till he came to a lightless domed hall of vast proportions, whose vaultings were covered with daemoniac carvings and in whose centre yawned a foul and bottomless well like that in the hideous monastery of Leng where broods alone the high-priest not to be described.”(訳: やがて彼は、広大な、明かりのない円蓋の広間へ出た。その丸天井は悪魔的な彫刻に覆われ、中央には、言い表せない大司祭がただ独りうずくまるレンの忌まわしい修道院にあるのと同じ、汚らわしく底のない井戸が口を開けていた。) — 同上, The H. P. Lovecraft Archive
  • [26] “He spoke, too, of the things he had learnt concerning night-gaunts from the frescoes in the windowless monastery of the high-priest not to be described; how even the Great Ones fear them, and how their ruler is not the crawling chaos Nyarlathotep at all, but hoary and immemorial Nodens, Lord of the Great Abyss.”(訳: 彼はまた、言い表せない大司祭の窓のない修道院の壁画から夜鬼について学んだことも語った。大いなるものたちさえ夜鬼を恐れること、そして夜鬼の支配者は這い寄る混沌ニャルラトホテプなどではまったくなく、白髪の、太古から変わらぬ大深淵の主ノーデンスであること。) — 同上, The H. P. Lovecraft Archive
  • [27] “For they were not men at all, or even approximately men, but great greyish-white slippery things which could expand and contract at will, and whose principal shape—though it often changed—was that of a sort of toad without any eyes, but with a curiously vibrating mass of short pink tentacles on the end of its blunt, vague snout.”(訳: というのも彼らは人間ではまったくなく、人間に近いものですらなく、意のままに膨張し収縮できる巨大な灰白色のぬめるもので、その主たる形は――しばしば変わりはしたが――目のない一種の蛙のようなものだった。ただしその鈍く曖昧な鼻先には、短い桃色の触手が奇妙に震える塊となって付いていた。) — 同上, The H. P. Lovecraft Archive
  • [28] “Those slippery greyish-white blasphemies they worshipped as gods, nor ever complained when scores of their best and fatted males were taken away in the black galleys.”(訳: 彼らはその滑る灰白色の冒涜的存在を神として崇め、最良の肥えた雄が何十体も黒いガレー船で連れ去られても、一度として不平を言わなかった。) — 同上, The H. P. Lovecraft Archive
  • [29] “Certain of the toad-things produced disgustingly carven flutes of ivory and made loathsome sounds.”(訳: 蛙状のもののうち幾体かが、不快に彫られた象牙の笛を取り出し、忌まわしい音を立てた。) — 同上, The H. P. Lovecraft Archive
  • [30] “After that had come the landing at ruined Sarkomand and the beginning of the tortures, whose continuance the present rescue had prevented.”(訳: そのあとに来たのが、廃墟となったサルコマンドへの上陸と、拷問の始まりだった。その続きは、今回の救出によって阻まれた。) — 同上, The H. P. Lovecraft Archive

FAQ

Q. 言い表せない大司祭の正体は何ですか。 A. 原典は書いていません。カーターは絹が灰白色の前肢からずれた瞬間に正体を知りますが、その中身は一行も書かれません[16]。同定を促す材料はあります。「灰白色(greyish-white)」は本作で3回しか使われず、残る2回はどちらもムーンビーストを指しています[27][28]。大司祭が持つ「不快に彫られた象牙の笛」[13]も、月の行列でムーンビーストが使った笛と同じ言い回しです[29]。それでも原典がムーンビーストだと名指した箇所はなく、本記事はこの点を断定しません。

Q. 姿の描写はどこまであるのですか。 A. 覆いの外側だけです。5段で上がる石の壇の黄金の玉座に、赤い模様の入った黄色い絹をまとい、顔に黄色い絹の仮面を掛けた「ずんぐりした像」が座っている[12]。この一文が原典の与える姿の全部で、身の丈も手足の数も頭部の形も書かれません。仮面の下から覗いたのは灰白色の前肢一本だけです[16]。ほかに輪郭を示す語としては「のたくる、絹をまとった怪物」[17]、脱出中に聞こえた「形の定まらない前肢」の足音[20]があります。

Q. 男性ですか、女性ですか。 A. 原典は性別を書きません。それどころか、人を指す代名詞で受けていません。称号に続く関係詞は who ではなく which で、所有格も its です[6][9]。「大司祭」という肩書きは訳語に引きずられて人格を想像させますが、原文はその想像を最初から外しています。

Q. どの作品に出てきますか。 A. 「セレファイス」と「未知なるカダスを夢に求めて」の2作です。hplovecraft.com が本文を公開しているラヴクラフト作品105件を取得して検索したところ、not to be described と yellow silken mask を含むのはこの2作だけでした。前者は1920年執筆[5]、後者は1926-27年執筆[1]で、称号と設定は最初の1920年の一文ですでに完成しています[3]。

Q. レンの男の司祭なのですか。 A. 原典はそう書いていません。大司祭は修道院に「連れもなく(uncompanioned)」独りで住むとされ[9]、レンの石の村々との関係は、切れ長の目の老商人が双方と取引しているという噂を通してしか語られません[6][7]。祈る相手として書かれているのは外なる神々とニャルラトホテプです[9]。

Q. 黄衣の王と関係がありますか。 A. 原典の本文は両者を結び付けていません。黄色い仮面という共通点はありますが、ラヴクラフトの2作にロバート・W・チェンバースへの言及はなく、成立の順序についても本記事では一次資料を確認していません(未確認)。ハスターとの関係も同様に、原典本文には根拠がありません。

Q. 大司祭の前へ連れて行かれた捕虜はどうなるのですか。 A. 原典に記述がありません。黒いガレー船が食屍鬼をサルコマンドへ運んだ目的が「言い表せない大司祭の前へ連れて行くこと」だったとは書かれます[24]が、その先は書かれません。この3体は廃墟サルコマンドに上陸した時点で拷問が始まっており、救出によってその継続が阻まれたと書かれるだけで、修道院には到達していません[30]。

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