概要
ボストンのケイボット考古学博物館の館長ジョンソン博士が、自らの死後に公開されることを条件に遺した手記という体裁を取る一篇。同館が所蔵する太古のミイラを巡る一連の怪事件と、その根底にあるムー大陸の禁忌の神の伝承が語られる。
作品情報
- 執筆・発表年: 1935年4月号「ウィアード・テイルズ」誌発表
- 主題タグ: ムー大陸、石化の神、禁忌への挑戦、博物館を舞台にした怪異、狂信的秘密結社
登場神格・用語
あらすじ
ケイボット博物館が1879年に太平洋の孤島から回収した奇怪なミイラは、長らく静かな名物として扱われていたが、1931年の扇情的な新聞報道をきっかけに世間の注目を集めるようになる。ミイラと共に発見された金属製の筒とその中の羊皮紙状の巻物は、フォン・ユンツトの禁書『ネクロノミコン』ならびに『無名祭祀書』に記された太古の大陸ムーの伝承と酷似していた。伝承によれば、太古のムーの地ク・ナアには、ユゴスから飛来した古き者たちの唯一の生き残りである邪神ガタノソアが山中に眠っており、その姿を見た者は生きたまま石と化す呪いを負うとされていた。シュブ=ニグラスに仕える高位祭司ト・ヨグは、この暴虐な神への挑戦を試みるが、対抗の護符とすり替えられた偽の巻物を持たされ、山に登ったまま二度と戻らなかった。ムーはやがて海に没し、伝承は秘密結社によって現代まで密かに受け継がれる。1932年、ミイラを狙う怪しい異国の信者たちの侵入事件が相次ぎ、ミイラ自身にも徐々に変化の兆候が現れ始める。そして12月1日の夜、二人の侵入者が館内で絶命し、そのうち一人はミイラと寸分違わぬ石化した姿と化していた。ジョンソン博士がミイラの瞳に残された太古の光景を覗き込んだ瞬間、手記はその戦慄の内容を語らぬまま途切れる。
読みどころと注目テーマ
博物館という現代的な舞台に、太古の神話的恐怖を接続する構成が巧み。石化した犠牲者の脳が意識を保ち続けるという設定は、ラヴクラフト的宇宙的恐怖の身体的表現として際立つ。祭司ト・ヨグの悲劇は、人智を超えた存在への挑戦がいかに空しいかを示す寓話としても読める。
執筆背景と影響
ヘイゼル・ヒールドの依頼でラヴクラフトが実質的に代筆した作品群の一つで、その中でも特にムー大陸・ガタノソア・シュブ=ニグラスといった神話体系を色濃く盛り込んだ野心的な一篇。ガタノソアはこの作品で初めて世に出た神格であり、後年クトゥルフ神話作品群で言及される存在となった。






