編集部注(層の区分と裏づけの範囲): 当サイトは神話を三層に分けて記録しており、区分の基準はラヴクラフトの死(1937年)より前の発表か後かに置いている。リム・シャイコースの初出「白蛆の襲来」は1941年4月の発表で、この線より後にあたるため、本記事は拡張神話(ダーレス以降)として扱う[1]。作者クラーク・アシュトン・スミスはラヴクラフトの生前からの文通仲間だが、区分は作者ではなく発表時期で決まる。
裏づけの範囲も先に書いておく。初出誌の本文を当サイトは照合していない。この号のスキャンは、当サイトが調べた範囲では公開されていなかった。したがって作者・作品名・掲載誌・巻号・掲載開始ページ・編集者・版元といった書誌事実は書誌データベースの記録で確認して断定的に記す一方[1][2]、氷山の描写や魔道士たちの顛末といった作中の内容は「伝えられるところでは」と断って区別する。原文からの引用は行わない。
概要
リム・シャイコースは、クラーク・アシュトン・スミスの短編「白蛆の襲来」に登場する旧支配者である。北の海に浮かぶ氷山ユイキルスに宿り、これを意のままに操って南方の陸地・港市を次々と凍らせながら進むとされる。
この神格の要は、約束が最初から空手形だという点にある。選ばれた魔道士たちに地上を超えた叡智と支配権を約束して従僕に招き、実際には夜ごと一人ずつ喰らっていく——という構図が語られる。ただし当サイトはこの筋書きを初出誌の本文で確認していない。
| 項目 | 内容 |
|---|---|
| 分類 | 旧支配者 |
| 欧文表記 | RLIM SHAIKORTH |
| 初出 | 「白蛆の襲来」(クラーク・アシュトン・スミス、『Stirring Science Stories』第1巻第2号、1941年4月、105ページから)[1][2] |
| 三層区分 | 拡張神話(ダーレス以降)。基準は1937年より後の発表であること |
| 作中の体裁 | 収録版によっては「『エイボンの書』第九章」という副題が付く[1] |
| 象徴するテーマ | 偽りの神格化、魂の収奪、氷と死、欺瞞的な信仰契約 |
初出作品
初出は『Stirring Science Stories』第1巻第2号(1941年4月号)。編集はドナルド・A・ウォルハイム、発行はアルビング・パブリケーションズで、132ページのパルプ判、定価15セント。表紙はハンネス・ボクが描いている。「白蛆の襲来」は105ページから始まり、挿絵もボクの手によるものとされる(誌面上では作者名が明記されていない)[2]。同誌の目録上、この作品はスミスのハイパーボレア連作に位置づけられている[1]。
発表の前に別の稿がある。書誌データベースの記録では、1933年に書かれた「first version(初稿)」が別作品として登録されており、こちらは長く未収録のまま、1989年5月にグリーンウッド・プレスの『Strange Shadows: The Uncollected Fiction and Essays of Clark Ashton Smith』へ収められた[3]。1941年に世に出た版は、着想から8年ほどを経たものということになる。
初出後の広がりも追える。同じ1941年の11月、カナダのアダム・パブリッシング社が出す『Uncanny Tales』に再録され、1944年10月にはオーガスト・ダーレスのアーカム・ハウスが編んだ短編集『Lost Worlds』へ収録された[1]。1971年にはバランタイン・ブックスの叢書「バランタイン・アダルト・ファンタジー」第29巻『Hyperborea』に入り、2010年以降はナイトシェイド・ブックスの全集『The Collected Fantasies of Clark Ashton Smith』第5巻『The Last Hieroglyph』で読める[1]。翻訳も多く、スペイン語(1978年)、オランダ語(1983年)、ドイツ語(1985年)、フランス語(1986年)、イタリア語(1989年)、ハンガリー語(2017年)、ポルトガル語(2020年)などの版が記録されている[1]。
ラヴクラフト公式サイトhplovecraft.comが公開する作品一覧に「白蛆の襲来」は含まれず、リム・シャイコースの名も見当たらない。ラヴクラフト本人の作品ではないことは、ここでも確認できる[4]。
原典での描写
以下は二次的な要約に基づく内容であり、初出誌の本文を当サイトでは照合していない[5]。
伝えられるところでは、リム・シャイコースは氷山ユイキルスを自在に操り、風や潮流に逆らってでも南へ進ませる力を持つという。この氷山が通過する先では、陸地は極地の冬に覆われ、船は乗員もろとも凍りつき、都市の通りは死の静寂に包まれるとされる。花咲く都市ケルンゴスや賑わう港市レックワンが、この蒼白い光の通過によって次々と凍結させられていく様が描かれているという。
リム・シャイコースは選ばれた魔道士たちに地上を超えた叡智と支配権を約束し、彼らを従僕として招き寄せるとされる。しかし実際には、眠っている魔道士たちの家を夜ごと訪れ、一人また一人と肉体ごと喰らっていくという。喰われた魂は消滅するのではなく、リム・シャイコースの体内に閉じ込められたまま意識を保ち続けるが、それは彼が目覚めている間のみ彼自身の一部として溶け込み、新月ごとに訪れる眠りの間だけ、束の間の別個の意識として目覚めるとされる。
姿については、太った白い蟲を思わせ、体躯は海象をも凌ぐ巨大さだと伝えられる。半ば渦を巻いた尾は胴の中央部と同じ太さを持ち、前部は円盤状に立ち上がり、獣とも海洋生物ともつかぬ顔の輪郭をぼんやりと象っているという。その顔の中央には唇のない口が絶え間なく開閉し、両の眼窩は虚ろでありながら、時折そこに血の色をした涙のような球体が浮かんでは滴り落ち、台座の下に紫がかった鍾乳石状の凍結物を築き上げていくと伝えられる。当サイトはこれらの細部を一次資料で確認していない。
弱点も一つ伝えられている。彼が眠っている間に限り、剣で刺し貫くことで殺せるという。ただし、殺す者もまたその行為と同時に命を落とす運命にあるとされる。
物語の主人公である魔道士エヴァーは、ムー・スーランの地でリム・シャイコースの使者に見出され、他の魔道士たちとともにユイキルスへ招かれるという筋書きが伝えられる。仲間が一人ずつ姿を消すことに不審を抱いたエヴァーは、新月の晩、リム・シャイコースが眠りに就いた隙に単身その塔へ赴くとされる。そこで彼は、既に喰われた魔道士たちの声——彼らの魂は眠りの間だけ目覚める——から真実を聞かされ、剣を抜いてその肥大した体を貫く。傷口からは黒い液体が奔流のように溢れ出し、エヴァーもまた氷の階段から転落して命を落とすという。物語は、リム・シャイコースの死によってユイキルスの南下が止んだことを示唆して幕を閉じると伝えられる。
ダーレス以降の変化
オーガスト・ダーレスがこの神格を自作へ取り込んだ形跡は、当サイトが確認した範囲では見つかっていない。ダーレスの関与は、アーカム・ハウスの『Lost Worlds』(1944年)へ「白蛆の襲来」を収めた編集者としてのものにとどまる[1]。
後続作家によるリム・シャイコースの再登場についても、書誌データベースで裏づけの取れる記録は確認できていない。他のスミス作の神格——ツァトゥグァのように後続作家が繰り返し書き足した例——と比べると、この神格は初出の一篇にほぼ閉じている。
TRPGでの扱い
クトゥルフ神話TRPGの公式資料にリム・シャイコースの個別項目があるかどうかは、当サイトでは確認していない。frontmatterの「旧支配者」という分類も、作中での位置づけを明言した資料に基づくものではなく、当サイトの神格分類による整理である。
登場作品一覧
| 作品 | 年 | 作者 | 確認の状態 |
|---|---|---|---|
| 白蛆の襲来(初稿) | 1933 | クラーク・アシュトン・スミス | 未発表のまま1989年『Strange Shadows』へ収録。書誌のみ確認[3] |
| 白蛆の襲来(The Coming of the White Worm) | 1941 | クラーク・アシュトン・スミス | 初出。書誌は確認済み、本文は未照合[1][2] |
関連神格・地域・書物
神格
地域
- 氷山ユイキルス — リム・シャイコースが宿り、意のままに操るとされる北の海の氷山
- 都市ケルンゴス、港市レックワン — 氷山の南下によって凍結させられたと伝えられる地
書物
- 『エイボンの書』 — 収録版によっては、「白蛆の襲来」にこの書物の第九章という副題が付く[1]
参考文献
- [1] 書誌データベースISFDB「The Coming of the White Worm」Title Record #56999(該当ページ)。著者クラーク・アシュトン・スミス、発表1941年4月、短編、ハイパーボレア連作。同記録の収録一覧で『Stirring Science Stories』1941年4月号(初出)、『Uncanny Tales』1941年11月号(編集Melvin R. Colby、Adam Publishing Company)、『Lost Worlds』(Arkham House、1944年10月)、『Hyperborea』(Ballantine Books、1971年4月)、『The Last Hieroglyph』(Night Shade Books、2010年以降)への収録と、各国語訳の刊行年を確認した。異題記録には「(Chapter IX of the Book of Eibon)」を含む題も登録されている。ISFDBは利用者が編集する書誌データベースであり、当サイトでは刊行年・版元・掲載誌といった書誌事実に限って用いる。作中の描写の裏づけには使っていない。
- [2] 書誌データベースISFDB、雑誌『Stirring Science Stories, April 1941』Publication Record #253368(該当ページ)。第1巻第2号、編集ドナルド・A・ウォルハイム、発行Albing Publications、132ページ、パルプ判、定価15セント、表紙ハンネス・ボク。目次上、「The Coming of the White Worm」は105ページから始まる。同記録の注記によれば、誌面の挿絵は署名から作者を推定したもので、この作品の挿絵はボクの手によるものと見なされている。
- [3] 書誌データベースISFDB「The Coming of the White Worm (first version)」Title Record #69168(該当ページ)。1933年、クラーク・アシュトン・スミス。収録は『Strange Shadows: The Uncollected Fiction and Essays of Clark Ashton Smith』(Greenwood Press、1989年5月)の1件のみ。
- [4] ラヴクラフト公式サイト hplovecraft.com の作品一覧(該当ページ)。「白蛆の襲来」もリム・シャイコースの名も含まれないことを確認した(2026年9月14日確認)。
- [5] 「原典での描写」の節は、当サイトが収集した二次的な要約に基づく。初出誌の本文は照合していない。当サイトが調べた範囲では『Stirring Science Stories』1941年4月号のスキャンは公開されておらず、同年11月の『Uncanny Tales』についても表紙画像のみで本文が公開されていなかった。本文を照合できる資料が見つかり次第、この節を書き直す。
FAQ
Q. リム・シャイコースはラヴクラフトが生み出した神格ですか。 A. いいえ。クラーク・アシュトン・スミスが1941年4月発表の短編「白蛆の襲来」で登場させた神格です[1]。ラヴクラフト公式サイトの作品一覧にも、作品名・神格名とも含まれていません[4]。
Q. スミスはラヴクラフトの文通仲間なのに、なぜ「拡張神話」に分類されているのですか。 A. 当サイトの三層区分は、作者ではなく発表時期で分けているためです。基準はラヴクラフトの没年(1937年)より前か後かで、「白蛆の襲来」の発表は1941年4月にあたります[1]。同じスミスの作品でも、1932年発表の「土星への扉」は原典として扱っています。
Q. リム・シャイコースはどうやって犠牲者を集めるのですか。 A. 伝えられるところでは、選ばれた魔道士に地上を超えた叡智と支配権を約束し、従僕として氷山ユイキルスへ招き寄せるとされます。実際には夜ごとその家を訪れ、一人ずつ肉体ごと喰らっていくといいます。約束された神格化が最初から欺瞞だという構図ですが、当サイトはこれを初出誌の本文で確認していません[5]。
Q. リム・シャイコースを倒す方法はありますか。 A. 伝えられるところでは、眠っている間に限り剣で刺し貫くことで殺せるとされています。ただし殺す者もその行為と同時に命を落とす運命にあるとされ、代償を伴う手段だといいます(いずれも初出誌の本文は未照合です)[5]。
Q. 本文が確認できていないのに記事を出しているのはなぜですか。 A. 書誌事実と作中の内容を分けて書くためです。誰がいつどこに発表したかは書誌データベースの記録で確認できるので断定的に書き[1][2][3]、氷山や魔道士たちの描写は二次的な要約に基づくものとして「伝えられるところでは」と断っています[5]。本文を照合できる資料が見つかった時点で、後者を書き直します。



