編集部注(拡張神話): 本記事が扱うゾス=オムモグは、H・P・ラヴクラフト存命期のパブリックドメイン原典には登場しません。リン・カーターが1970年代の連作「ゾス神話群(The Xothic Legend Cycle)」で創造した、後年の拡張神話に属する存在です。同作群は現時点でパブリックドメインではないため、本記事は原文からの引用を行わず、公知の設定情報の要約のみで構成しています。
概要
ゾス=オムモグは、クトゥルフ神話に登場する旧支配者のひとつである。ラヴクラフト自身の作品には登場せず、後継作家リン・カーターが自らのゾス神話群(Xothic Legend Cycle、五部作)で創造した存在で、クトゥルフの第三子としてポナペ島沖の海底に封じられているとされる。原型はラヴクラフトの「クトゥルフの呼び声」および「時代よりの光」に求められるが、ゾス=オムモグという固有名・設定自体はカーターによる完全な後付けである。
基本プロフィール
- 分類: 旧支配者(カーターによる体系化上の位置づけ)
- 欧文表記: ZOTH-OMMOG
- 初出: 「陳列室の恐怖」(The Horror in the Gallery、1976年。原題のまま作品集『The Xothic Legend Cycle: The Complete Mythos Fiction of Lin Carter』に収録)
- 創造者: リン・カーター(ラヴクラフト自身の創造ではない)
- 封印場所: ポナペ島(太平洋)沖、ルルイエに近い海底
- 配下: 「父なるウブ」および蠕虫状の眷属ユッグ族
別名/呼称
作品によって表記の揺れは大きくないが、日本語圏では「ゾスオムモグ」「ゾス=オムモグ」の両表記が見られる。固有の異名は確認されていない。
区分
カーターの設定では、クトゥルフとイダ=ヤー(ゾス星系における配偶神)の間に生まれた「星の落し子」四兄妹――長男ガタノトーア、次男イソグタ、三男ゾス=オムモグ、末妹クティーラ――の一柱として位置づけられる。ただしこの血縁体系そのものが、ラヴクラフトの原典には存在しない後世の創作である。日本の神話研究では、ラヴクラフトが最初に創造したのはガタノトーアのみであり、カーターが後にイソグタ・ゾス=オムモグを加えて「ゾス三神」とし、さらにブライアン・ラムリーが末妹クティーラを追加したという成立順序が整理されている。
象徴・モチーフ
深海、眠りと封印、太平洋の孤島(ポナペ)、夢を介した意志の伝播。
性質・権能
- 円錐形の胴体、ティラノサウルスを思わせる牙の生えた爬虫類的な頭部、吸盤を備えた四本の扁平なヒトデ状の腕、そして触手の鬣(たてがみ)を持つと描写される。移動方法は不明だが、イースの大いなる種族に似たナメクジ状の足を持つ可能性が示唆されている
- ルルイエ近郊、ポナペ島沖の海底に旧神(Elder Gods)によって封印されている。同じく封印された兄イソグタとともに、父なるウブおよび蠕虫状のユッグ族に仕えられる
- 眷属ユッグ族は、封印を解こうと人間に知識・富・権力を夜ごと囁きかけ、堕落させようとする
- 夢を介して人間に意志を伝える力を持つとされ、その力を込めた偶像(ポナペ・フィギュリン)を通じて人間を狂気に導く挿話がある(小説「ウィンフィールドの相続」)
- 公式TRPG(クトゥルフ神話TRPG)の紹介では、封印が長い年月を経て緩んでいるのか、地上で確認される現象が単なる教団による一時的召喚に過ぎないのかは意図的に曖昧にされている
関係図
クトゥルフの第三子とされ、長兄ガタノトーア・次兄イソグタ・末妹クティーラと並ぶ「星の落し子」四兄妹の一柱である。母はゾス星系でクトゥルフと交わったとされる配偶神イダ=ヤー。イソグタとは同じくポナペ島沖に封じられ、父なるウブとユッグ族という同じ配下を共有する間柄にある。カーター自身の『ネクロノミコン』版では、アブドゥル・アルハザードがクトゥルフの子として「(1)ガタノトーア (2)イソグタ (3)ゾス=オムモグ (4)口にするのもはばかられるもの」と列挙しており、この4番目の記述が後にラムリーによって具体化されるクティーラの存在を暗示しているとする指摘もある。設定資料は、架空の魔導書『無名祭祀書』『ポナペ経典』『ザントゥ石板』、およびカーター独自版の『ネクロノミコン』に分散して記載される体裁を取っている。
主要登場作と読みどころ
- 「陳列室の恐怖」(The Horror in the Gallery、1976年): ゾス=オムモグを主題とする作品。刊行経緯が複雑で、当初「陳列室の恐怖」として書かれた後、DAW Books版アンソロジー『The Disciples of Cthulhu』で改題されて発表され、ケイオシアム社の再録版では収録されなかったが、後年の『The Xothic Legend Cycle』完全版では原題のまま採録された。
- 「時代よりの光」(Out of the Ages、1975年): ゾス神話群の一角を成す作品で、ポナペを巡る考古学的探求が描かれる。
- 「ウィンフィールドの相続」(The Winfield Heritance、1981年): ゾス=オムモグの偶像「ポナペ・フィギュリン」を中心に据えた作品。ハロルド・ハドリー・コープランド教授とヘンリー・スティーヴンソン・ブレインという2人の人物が、この像に触れて狂気に陥る様子が描かれる。物語終盤、ブレインの助手が投げた「古の印」の星石によって、像は像を狙う深きものどもごと破壊される。ダーレスの「閾を守る者」やセネカ・ラファム教授といった、他作家の作品との地続き感を意識した書かれ方をしている点が批評でも指摘されている。
- 2014年に邦訳作品集『クトゥルーの子供たち』が刊行されるまで、日本ではゾス三兄弟のうちガタノトーアだけが広く知られており、イソグタ・ゾス=オムモグの知名度は長らく低かった。
よくある誤解
Q. ゾス=オムモグはラヴクラフトが創造した神格ですか?
A. いいえ。ラヴクラフト自身の作品には登場しません。後継作家リン・カーターが、ラヴクラフトの「クトゥルフの呼び声」「時代よりの光」を下敷きにしつつ、ゾス神話群(Xothic Legend Cycle)で新たに創造した神格です。
Q. クトゥルフの子とされる兄弟姉妹は全員同じ作者が作ったのですか?
A. いいえ。長兄ガタノトーアはラヴクラフト創造ですが、次兄イソグタと三男ゾス=オムモグはリン・カーターが追加し、末妹クティーラはさらに後年ブライアン・ラムリーが追加したもので、成立時期の異なる複数作家による積み重ねです。
Q. 現在も封印は有効なのですか?
A. 公式のTRPG設定でも意図的に曖昧にされており、封印が長期にわたり緩んでいるとする説と、地上で確認される現象は教団による一時的な召喚にすぎないとする説の両方が並立しています。
次に読むなら
- 親にあたる神格を知る → クトゥルフ
- 創造者リン・カーターを知る → リン・カーター——神話体系の編纂者
- ゾス=オムモグが属する分類を見る → 旧支配者





