概要
ブライアン・ラムレイ(Brian Lumley、1937-2024)は、イギリス・ダラム郡出身のホラー小説家です。イギリス陸軍の憲兵として勤務する傍ら小説を書き始め、オーガスト・ダーレスに見出されてクトゥルフ神話の書き手としてデビューしました。オカルト探偵タイタス・クロウを主人公とするシリーズでは、人間が邪神に反撃するという新機軸を持ち込み、クトゥルフの娘クティーラをはじめ多くの神話要素を創造しています。1986年に始まる『ネクロスコープ』シリーズで世界的ベストセラー作家となり、晩年まで「ホラーのグランド・マスター」として活躍しました。
生涯と創作の年表
1937年
- 12月2日、イングランド北東部ダラム郡ホーデンに生まれます。
- 少年時代にロバート・ブロックの「無人の家で発見された手記」を読み、クトゥルフ神話に傾倒します。
1959年
- イギリス陸軍の王立憲兵隊に入隊します。以後22年間の軍務の傍ら、余暇に小説を書き続けます。
1968年
- ラヴクラフトの本を探す過程でオーガスト・ダーレスに手紙で接触し、作品を認められて神話作品集への寄稿に誘われます。
- 『アーカム・コレクター』誌に「深海の罠」(The Cyprus Shell)が掲載され、作家デビューします。デビュー作では魔道書『水神クタアト』(Cthaat Aquadingen)が初登場しました。
1971年
- アーカム・ハウスから初期作品集『黒の召喚者』(The Caller of the Black)を刊行します。この時期の中短編で、オカルト探偵タイタス・クロウが活躍を始めます。
1974年
- タイタス・クロウ・サーガの第1長編『地を穿つ魔』(The Burrowers Beneath)を発表します。ダーレスが発展させた神話を、人間側が邪神と戦うオカルト・アクションとして再構築した点が特徴です。
- サーガの展開とあわせて、地中の怪物シュド=メルとクトーニアン、旧神クタニド、イブ=ツトゥル、バグ=シャースなど、多くの神話存在を創造していきます。
1975年
- 『タイタス・クロウの帰還』(The Transition of Titus Crow)で、クトゥルフの再生のための「秘められた種子」たる娘クティーラを初登場させます。クティーラはこのときリン・カーターが構想した「ゾス三神」の妹として言及されましたが、ゾス三神自体もこの作品が活字上の初出でした。
1980年
- 准尉一級(Warrant Officer Class 1)で退役し、専業作家となります。
1986年
- 死者と対話する能力を持つ青年ハリー・キーオを主人公とする『ネクロスコープ』を発表します。シリーズは後に13か国で出版され、アメリカだけで300万部以上を売り上げる世界的ベストセラーとなります。
- 同年、それまで神話作品群で扱われることの少なかったラヴクラフトの幻夢境を舞台に、デイヴィッド・ヒーローとエルディン・ザ・ワンダラーが活躍する『Hero of Dreams』を発表し、幻夢境シリーズを開始します。
1989年
- 『旧神郷エリシア』(Elysia)でタイタス・クロウ・サーガ全6作が完結します。
- 短編「Fruiting Bodies」で英国幻想文学大賞を受賞します。
1996年-2010年
- 1996年から1997年までホラー作家協会(HWA)会長を務め、1998年には世界ホラー大会でグランド・マスター・オブ・ホラーに選ばれます。
- 2009年にブラム・ストーカー賞生涯功労賞、2010年に世界幻想文学大賞生涯功労賞を受賞します。
2001年-2017年
- 日本では2001年に短編集『タイタス・クロウの事件簿』(The Compleat Crow)が刊行され、続いて長編サーガ全6作(『地を穿つ魔』『タイタス・クロウの帰還』『幻夢の時計』『風神の邪教』『ボレアの妖月』『旧神郷エリシア』)が夏来健次訳・創元推理文庫で2006年から2017年にかけて刊行されます。
- それ以前にも、1980年代の国書刊行会『真ク・リトル・リトル神話大系』での短編訳や、朝松健訳の『黒の召喚者』で紹介されていました。
2024年
- 1月2日、86歳で死去します。
影響・意義
ラムレイの最大の功績は、宇宙的恐怖に打ちのめされるだけだった人間像を転換し、「私の主人公たちは反撃する」という自身の言葉どおり、邪神と戦う冒険譚として神話を再構築したことです。クティーラや旧神クタニド、シュド=メルらの創造物は現代の神話体系、とりわけクトゥルフ神話TRPGに広く取り込まれ、ラムレイはラムジー・キャンベルと並ぶ「第二世代」の代表格と位置付けられています。顧みられることの少なかった幻夢境を神話へ接続した点も重要です。ダーレス以後の神話がエンターテインメントとして世界へ拡がっていく道筋を、その60年に及ぶ作品群が体現しているといえるでしょう。

