年表 — The Life and Works of Lin Carter

リン・カーター——神話体系の編纂者

バランタイン・アダルト・ファンタジー叢書の編集者として幻想文学の古典を復興し、ゾス神話群でクトゥルフの眷属を体系化した「神話の編纂者」の生涯と創作の軌跡

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概要

リン・カーター(Linwood Vrooman Carter、1930-1988)は、アメリカのファンタジー・SF作家、評論家、編集者です。「バランタイン・アダルト・ファンタジー」叢書の編集者として埋もれていた幻想文学の古典を復興させる一方、クトゥルフ神話では、作家同士の書簡でしか語られていなかった設定を小説へ反映し、クトゥルフの眷属や出身惑星を新たに設定するなど、体系の整理と拡張に力を尽くしました。クトゥルフの「息子たち」をめぐる連作「ゾス神話群」の作者であり、神話研究書の著者としても知られる、「編纂者」の名にふさわしい多面的な人物です。

生涯と創作の年表

1930年

  • 6月9日、フロリダ州セントピーターズバーグに生まれます。
  • 幼少時から幻想文学全般の熱狂的なファンとして育ち、後にコロンビア大学を卒業します。

1950年代

  • 朝鮮戦争で米陸軍歩兵として従軍します。帰国後はニューヨークで広告・出版のコピーライターとして働きながら創作を続けます。
  • 1951年、事実上の最初の著書となる幻想詩集『Sandalwood and Jade』を刊行します。

1957年

  • ランドール・ギャレットとの共作短編「Masters of the Metropolis」が『The Magazine of Fantasy and Science Fiction』4月号に掲載され、商業誌デビューを果たします。

1960年代

  • L・スプレイグ・ディ・キャンプらと共にロバート・E・ハワードの『英雄コナン』シリーズの続編・改作を手がけます。
  • ディ・キャンプ、ジョン・ジェイクスとの3名でヒロイック・ファンタジー作家グループ「アメリカ剣士と魔術師ギルド(SAGA)」を創設します。
  • 自作ではレムリアを舞台とする「レムリアン・サーガ」(ソンガー・シリーズ)などのヒロイック・ファンタジーを発表します。

1968年-1974年

  • 1968年11月22日、バランタイン夫妻と契約を結び、「バランタイン・アダルト・ファンタジー」叢書が始動します。翌1969年にはコピーライターを辞し、フリーランスの作家・編集者となります。
  • 叢書本体は1969年5月から1974年4月まで刊行され、ダンセイニ、E・R・エディスン、マーヴィン・ピーク、クラーク・アシュトン・スミス、ラヴクラフトらの古典を復刊し、現代ファンタジーの正典形成に大きな役割を果たしました。

1971年

  • クトゥルフ神話連作「ゾス神話群」の第1作「The Dweller in the Tomb」を発表します。この連作でカーターは、クトゥルフの「息子」とされる三神ガタノソア、イソグサ、ゾス=オムモグを二重星ゾス近傍の出自として設定し、「ザントゥー石板」「ポナペ経典」などの魔道書や、ムー大陸の沈没をめぐる物語を神話に導入していきます。
  • 同年、神話アンソロジー『The Spawn of Cthulhu』を編纂します。

1972年

  • 研究書『Lovecraft: A Look Behind the Cthulhu Mythos』を刊行し、神話体系の解説者としての地位を確立します。

1975年

  • アーカム・ハウスから、クトゥルフ神話ソネット連作を含む詩集『Dreams from R’lyeh』を刊行します。
  • ゾス神話群の中核作「Out of the Ages」を発表します。また年刊アンソロジー『The Year’s Best Fantasy Stories』の編纂をこの年から始め、1980年まで最初の6巻を担当します。

1976年-1983年

  • 「The Horror in the Gallery」(1976)、「The Thing in the Pit」(1980)、「The Winfield Heritance」(1981)を発表し、ゾス神話群の中核5作が出そろいます。
  • 1980年から1983年には、怪奇小説誌『ウィアード・テイルズ』のアンソロジー形式での復刊を編集します(剣と魔法のアンソロジー『Flashing Swords!』の編纂は1973年から1981年まで)。

1985年-1988年

  • 1985年に口腔癌と診断され、手術を受けるも回復には至りませんでした。
  • 1988年2月7日、ニュージャージー州モントクレアで死去します。

没後

  • 『Crypt of Cthulhu』誌の編者ロバート・M・プライスが遺稿管理者となって伝記を著し、1997年には神話小説の集成『The Xothic Legend Cycle: The Complete Mythos Fiction of Lin Carter』(Chaosium)を編纂します。没後には『エイボンの書』やカーター版『ネクロノミコン』も編まれました。
  • 日本では2014年、ゾス神話群を中心とする連作集『クトゥルーの子供たち』(森瀬繚・立花圭一訳)がKADOKAWAから刊行されています。一部の作品は先行して国書刊行会『真ク・リトル・リトル神話大系』にも訳出されていました。

影響・意義

カーターの本領は、体系家・紹介者としての仕事にあります。ラヴクラフトの死後に拡がり続けた神話設定を書誌的な知識で整理し、ゾス神話群によってクトゥルフの系譜を「家族」として可視化しました。ゾス三神は、盟友ブライアン・ラムレイが『タイタス・クロウの帰還』で描いたクトゥルフの娘クティーラと結びつけられ、後続作家の共有財産となっています。Great Old Onesに対する「Lesser Old Ones」の命名など用語面の貢献も大きく、「バランタイン・アダルト・ファンタジー」による古典復興とあわせて、研究書と選集を通じて神話を読者へ手渡し続けたその仕事は、今日の事典的な神話受容の原型といえるでしょう。

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