概要
シャンタク鳥(Shantak-bird)は、未知なるカダスを夢に求めて(1926–1927年執筆/1943年発表)にのみ登場する、夢の国北方の寒冷荒地と、レン高原とインガノク(インクアノク)を隔てる山稜に棲む巨鳥である。象より大きく馬に似た頭部を持ち、羽毛ではなく滑りやすい鱗に覆われている[1][2]。物語終盤では、ニャルラトホテプの命に従い、主人公ランドルフ・カーターを日没の都市へ導くと偽ってアザトースの座す無限の中心へ運ぶ役を担う。
| 項目 | 内容 |
|---|---|
| 分類 | 種族(夢の国の怪鳥。原典に明確な神格分類の記述はない) |
| 欧文表記 | Shantak / Shantak-bird |
| 初出 | 「未知なるカダスを夢に求めて」(1926–1927年執筆/1943年『Arkham House』刊行の作品集にて死後発表) |
| 体格 | 象より大きい[1] |
| 被覆 | 羽毛ではなく鱗(非常に滑りやすい)[2] |
| 主な生息地 | レンとインガノクを隔てる山稜の岩棚(中腹)[3] |
| 「父なるシャンタク鳥」の所在 | インガノクのヴェールの王の宮殿、中央円蓋の内部(暗闇の中で飼われている)[6][7] |
初出作品
シャンタク鳥が登場する原典作品は、H・P・ラヴクラフトの長編「未知なるカダスを夢に求めて」(1926–1927年執筆/1943年発表)ただ一作のみである。この作品以外に、ラヴクラフト自身がシャンタク鳥へ言及した記録はない。
原典での描写
シャンタク鳥は、象より大きな体躯と馬に似た頭部を持ち、羽毛の代わりに滑りやすい鱗で覆われている[1][2]。レンとインガノクを隔てる山稜の中腹の岩棚に巣を作るが、頂上近くの洞窟に潜む夜鬼(ナイトゴーント)を恐れ、悲鳴を上げてその巣穴から逃げ出す[3][4]。
途方もなく大きく美味な卵を産み、その卵は素性の知れない斜視の商人によってヤクの隊商でインガノクへ持ち込まれ、翡翠の杯と交換に取引される[5]。すべてのシャンタク鳥の父とされる個体が、インガノクのヴェールの王の宮殿、中央円蓋の内部に暗闇の中で飼われているという噂があり、これゆえに人間がシャンタク鳥の実物を目にした例は一度もないのが最善とされる[6][7]。何らかの様式で「話しかける」ことができるが、太古の記憶を呼び起こす以上の説得力は持たないとされる[9]。
主人公ランドルフ・カーターとの関わりでは、まず寒冷荒地で素性の知れない斜視の商人に率いられた一団に強いられて騎乗させられ、レンにある「名状しがたい高僧」の窓のない石造りの修道院へ連れて行かれる[8]。物語終盤では、ニャルラトホテプがカーターに、憧れの日没の都市へ導くと称してシャンタク鳥に乗るよう仕向けるが、実際にはこの鳥はニャルラトホテプの命令にのみ従い、カーターの意志を無視してアザトースの座す無限の中心へと進路を取り続ける[10][11][12]。原典において、シャンタク鳥はランドルフ・カーターにとって終始「乗り手を裏切りうる」存在として描かれている。
ダーレス以降の変化
ここでまとめる設定は、原典より後に付け加えられたものである。旧支配者に仕える奉仕種族という位置づけを加えたのはオーガスト・ダーレスだが、それ以外の設定拡張の一部はリン・カーターなど別の作家による。
ダーレスは、シャンタク鳥を旧支配者(Great Old Ones)に仕える奉仕種族の一つと位置づける設定を加えた。これは原典にはない後続作家による拡張であり、原典の記述と混同すべきではない。短編「The Gable Window」では、原典と異なり毛皮に覆われコウモリ状の翼を持つ姿のシャンタク鳥が描かれている。
リン・カーターも独自の設定を加えている。「外世界からの漁師」「クームヤーガ」「グロス=ゴルカ」といった系譜設定、および「ハイパーボリアの地底にも棲息する」という生息地の拡張が挙げられるが、これらがどの作品に由来するのか旧稿に具体的な作品名の記載がなく、今回の材料では確認できない。
TRPGでの扱い
クトゥルフ神話TRPGの公式資料集におけるシャンタク鳥の扱いは、今回の材料には含まれておらず確認できていない。
公式ライセンス作品『Starfinder』の設定資料集『Alien Archive 2』(Paizo Inc.、2018年)は、シャンタクを知性ある宇宙飛行生物として再構成しており、原典の「夢の国の怪鳥」という位置づけから大きく離れた発展形として参照できる。
登場作品一覧
| 作品 | 年 | 作者 | この作品が足したもの |
|---|---|---|---|
| 未知なるカダスを夢に求めて | 1926–27執筆/1943発表 | H・P・ラヴクラフト | 唯一の原典描写。乗り手を裏切りうる怪鳥として[1][2][8][10][11][12] |
| The Gable Window | 年不明 | オーガスト・ダーレス | 毛皮に覆われコウモリ状の翼を持つ姿(原典と異なる外見) |
| Alien Archive 2 | 2018 | Paizo Inc.(編) | 知性ある宇宙飛行生物としての再構成(TRPG『Starfinder』設定資料集) |
このほか、リン・カーターが著作(旧稿に具体的な作品名の記載なし)で「外世界からの漁師」「クームヤーガ」「グロス=ゴルカ」といった設定、および「ハイパーボリアの地底にも棲息する」という設定を加えている。
シャンタク鳥が登場する原典作品は「未知なるカダスを夢に求めて」の1作のみである。読みどころは、寒冷荒地で斜視の商人に強いられてシャンタク鳥に乗せられ、レンの高僧の修道院へ連れ去られる中盤の緊迫した展開[8]と、物語終盤、ニャルラトホテプに欺かれたカーターがシャンタク鳥に乗せられ、日没の都市への帰還を信じながら実際にはアザトースの無限の中心へと運ばれていくクライマックスの場面[10][11][12]である。
関連神格・地域・書物
種族・神格
- 夜鬼(ナイトゴーント) — シャンタク鳥が天敵として恐れる相手。両者は山稜の頂上付近で縄張りを接する[3][4]
- ニャルラトホテプ — 物語終盤、シャンタク鳥にカーターを乗せて欺く[10][11][12]
- アザトース — シャンタク鳥が最終的にカーターを運び込む先
人物
- ランドルフ・カーター — シャンタク鳥に二度乗せられる主人公。一度目は強制的に、二度目はニャルラトホテプに欺かれて[8][10]
- オーガスト・ダーレス — シャンタク鳥を旧支配者への奉仕種族と位置づけた後続作家
地域
書物
- 未知なるカダスを夢に求めて — シャンタク鳥が登場する唯一の原典作品
参考文献
- [1] “…they were not any birds or bats known elsewhere on earth or in dreamland, for they were larger than elephants and had heads like a horse’s.”(訳:「それらは地球にも夢の国にも知られたいかなる鳥やコウモリでもなかった。象よりも大きく、馬のような頭部を持っていたからだ」) — H. P. Lovecraft, “The Dream-Quest of Unknown Kadath”(1926–1927年執筆/1943年発表), 公式アーカイブ
- [2] “…the shantak-bird has scales instead of feathers, and those scales are very slippery.”(訳:「シャンタク鳥は羽毛の代わりに鱗を持ち、その鱗は非常に滑りやすい」) — 同上, 公式アーカイブ
- [3] “…the monstrous shantak-birds that build nests on the ledges half way up…”(訳:「中腹の岩棚に巣を作る、あの怪物じみたシャンタク鳥たち」) — 同上, 公式アーカイブ
- [4] “He spoke of the fear of shantaks for night-gaunts, and of how the vast hippocephalic birds fly screaming from the black burrows high up on the gaunt grey peaks that divide Inganok from hateful Leng.”(訳:「彼はシャンタクがナイトゴーントを恐れていること、そしてあの巨大な馬頭の鳥たちが、インガノクと忌まわしきレンとを隔てる荒涼たる灰色の峰々の高みにある暗い洞穴から悲鳴をあげて飛び去ることを語った」) — 同上, 公式アーカイブ
- [5] “…bearing the colossal and rich-flavoured eggs of the rumoured shantak-bird to trade for the dexterous jade goblets that merchants brought from Ilarnek.”(訳:「噂に聞くシャンタク鳥の、途方もなく大きく美味な卵を携えて、イラーネクの商人が持ち込む精巧な翡翠の杯と交換するために」) — 同上, 公式アーカイブ
- [6] “…it is not well to look too long and steadily at the great central dome, since it is said to house the archaic father of all the rumoured shantak-birds, and to send out queer dreams to the curious.”(訳:「あの中央の大円蓋を長く見つめ続けるのはよろしくない。噂に聞くすべてのシャンタク鳥の太古の父がそこに住まい、好奇心を持つ者へ奇怪な夢を送り出すと言われているからだ」) — 同上, 公式アーカイブ
- [7] “…for that fabled father of shantaks in the king’s dome is fed in the dark.”(訳:「王の円蓋にいる、あの語り草のシャンタクの父は、暗闇の中で餌を与えられているのだから」) — 同上, 公式アーカイブ
- [8] “…the man motioned Carter to mount one of the repugnant shantaks, helping him up as his judgment struggled with his loathing.”(訳:「その男はカーターに、忌まわしいシャンタクの一頭に乗るよう身振りで示し、彼の判断力が嫌悪感と格闘する中、乗るのを手助けした」) — 同上, 公式アーカイブ
- [9] “And the shantak will talk to them in the manner of shantaks, but it will have no powers of persuasion beyond the recalling of elder days.”(訳:「そしてシャンタクはシャンタクなりのやり方で彼らに話しかけるだろうが、太古の日々を思い起こさせる以上の説得力は持たないだろう」) — 同上, 公式アーカイブ
- [10] “See! There comes hither a monstrous shantak, led by a slave who for your peace of mind had best keep invisible. Mount and be ready…Steer for that brightest star just south of the zenith—it is Vega, and in two hours will be just above the terrace of your sunset city.”(訳:「見よ!ここに巨大なシャンタクがやって来る。お前の心の平安のために姿を見せぬ方がよい奴隷に率いられて。乗って備えるがよい……天頂のすぐ南にある最も明るい星、あれがヴェガだ、目指して進め。二時間後にはお前の日没の都市のテラスの真上に来るだろう」) — 同上, 公式アーカイブ
- [11] “…taunt had Nyarlathotep marked out the way to safety and the marvellous sunset city; only to mock had that black messenger revealed the secret…”(訳:「嘲るためにこそ、ニャルラトホテプは安全への道と、あの驚異の日没の都市への道筋を示したのだ。あの黒き使者が秘密を明かしたのは、ただあざけるためにすぎなかった」) — 同上, 公式アーカイブ
- [12] “He could leap off the evil shantak that bore him hurtlingly doomward at the orders of Nyarlathotep…”(訳:「彼は、ニャルラトホテプの命令によって彼を破滅へ向けて猛然と運んでいく、あの邪悪なシャンタクから飛び降りることもできた」) — 同上, 公式アーカイブ
- [13] “…the shantak would answer with tittering tones that rasped like the scratching of ground glass.”(訳:「シャンタクは、すりガラスをこするような耳障りな、くすくす笑うような音で応じた」) — 同上, 公式アーカイブ
FAQ
Q. シャンタク鳥は旧支配者や外なる神の一柱として原典に登場するのですか。A. いいえ。原典「未知なるカダスを夢に求めて」自体には、シャンタク鳥を旧支配者・外なる神・旧神のいずれかに分類する記述はありません。「旧支配者に仕える奉仕種族」という位置づけは、オーガスト・ダーレスによる後世の拡張設定です。
Q. シャンタク鳥は「すりガラスをこするような声」で人間の言葉に応じるのですか。A. これに近い描写は原典にあります。ニャルラトホテプに欺かれる場面より前、レンの北を飛ぶ場面で、斜視の商人が自分のシャンタクに話しかけると、シャンタクは「すりガラスをこするような耳障りな、くすくす笑うような音」で応じたと記されています[13]。なお、これとは別に、シャンタク鳥が独自の様式で「話しかける」ことができるものの、太古の記憶を呼び起こす以上の説得力は持たないという一文もあります[9]。
Q. シャンタク鳥はどこにでも生息しているのですか。A. 原典で明示されるのは、レンとインガノクを隔てる山稜の岩棚(中腹)という営巣地です[3][4]。日本語圏の一部紹介記事はインクアノクの「縞瑪瑙採石場の洞窟」を生息地とする記述もありますが、これは原典本文の記述と一致しないため、本記事では原典の事実として採用していません。リン・カーターが後付けで加えた「ハイパーボリアの地底にも棲息する」という設定も、同様に後続作家による拡張です。





