地名(オリアブ島の霊山) — NGRANEK

ンガラネク山

原典

夢の国オリアブ島に聳える山。かつて地球の神々が自らの顔を象って刻んだと伝わる巨大な石像顔があり、ランドルフ・カーターがカダス探索の手がかりを得る転換点となる聖地。

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ンガラネク山

「その顔は厳しく恐ろしく、夕日に照らされて燃え上がるように輝いていた。それがどれほど巨大かは誰の心にも測り知れなかったが、カーターは、これは人間の手になるものではあり得ないとすぐに悟った」

— H・P・ラヴクラフト「未知なるカダスを夢に求めて」(執筆1926-27年/1943年発表)
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概要

夢の国、南海の島オリアブに聳える山。かつて地球の神々が月光の下で踊っていた時代に、彼ら自身の顔を象って刻んだと伝えられる巨大な石像の顔がある[1]。険しく人を寄せ付けない側面にあるため、実際にこれを見た者はごく僅かとされる。

原典での描写

オリアブ島とバハルナから見た山

ディラス=リーンの男たちは、ンガラネクの峰についてよく知っていた。バハーナからは船が出ており、あの港からゼブラで二日の道のりだという。だが石像の顔を実見した者は少ない。切り立った断崖と不吉な溶岩の谷を見下ろす、山のもっとも困難な側面にあるからだ。かつて神々はこの側面で人間に怒りを向け、その一件を《他の神々》へ告げたとも語られる[4]。

バハーナ行きの船を待つ間、船長はランドルフ・カーターにこう明かした。彫られた顔を実見した者はごく僅かで、生きている誰かが本当にそれを目にしたという確証すら自分にはない、と。山の裏側は険しく荒涼として不吉であり、頂近くの洞穴には夜鬼が棲むという噂まであるという[5]。

航海十一日目の夜、水平線にオリアブ島が姿を現す。「ンガラネクが遠く、ぎざぎざと雪を頂いてそびえていた」[6]。バハーナに着いたカーターは酒場や広場で山の噂を訊いて回るが、高い斜面まで登った者にも、彫られた顔を見た者にも一人として行き当たらなかった。

登攀と溶岩の斜面

バハーナの古い宿の主人は、旅人が昔壁に引っかいて残したという顔の絵をカーターに見せた。曽祖父から伝え聞いた話では、その旅人はンガラネクに登り、彫られた顔を実見して描いたのだという。だがカーターは大いに疑わしく思った。壁の絵は粗雑で不細工なうえ、角や翼や爪や巻いた尾を持つ小さな添え物の群れに埋め尽くされ、悪趣味さばかりが目立っていたからだ[7]。

ゼブラを雇って山へ向かったカーターは、繋いでおいたはずのゼブラが死んでいるのを見つける。喉の傷から血をすっかり吸い取られ、周囲には正体の知れぬ大きな水かきの足跡が残されていたという。ンガラネクの下の斜面から戻る溶岩採集人の一団と野営を共にした夜には、仲間を一人失った話も耳にする。良質の溶岩を求めて高く登った男はその晩戻らず、翌日見つかったのは「ターバンだけで、転落した形跡は崖の下のどこにもなかった」[8]。

捨てられた煉瓦造りの村々を過ぎるとき、カーターはここにンガラネクの溶岩から像を彫っていた丘の民が住んでいたと知る。彼らは幾世代も前、闇の中で目にした何かをきっかけに山を離れ、バハーナへ下ったという。原文はこの山について、「九十のアイオーンの昔、神々がその尖った頂で踊るよりもさらに以前、火をもって語り、内なる雷鳴の声で吼えていた」と記し、今は物言わぬまま不吉に聳え、隠された側面にかの巨像を秘めていると続ける[9]。

ゼブラで登れる所まで登った後、カーターは一人で森を抜け、丈高い草地を越え、めまいを覚えるほど切り立った斜面を進む。ようやく山の隠された側にたどり着くと、はるか下方に神々のかつての怒りを物語る溶岩の断崖と不毛の深淵が広がっていた。行く手を阻む大きな岩の塊を前に、宙に浮くような不安の中で「人々にンガラネクの隠された側を避けさせる恐怖」を束の間味わうが、道はあった。熟達した夢見手だけが使える、目に見えぬほどの足がかりを見出したのである[10]。

山腹に刻まれた神々の顔

ウルタールの賢者アタルは、月の酒に酔わされてこの伝承を語った。旅人たちの噂では、オリアブ島のンガラネクという山の岩肌に、ひとつの巨大な像が刻まれているという。それは地球の神々が月光の下でこの山で踊っていた時代に、自らの顔を象って刻んだ像かもしれないとアタルは仄めかす。「その像の顔立ちはきわめて特異で、見紛いようがなく、神々の正統な血統を示すたしかな徴」だと、酔いにまかせてアタルは明かした[11]。

カーターはこの話から、顔の特徴を見分けたのち、同じ特徴を持つ人間を生者の中から探せば、地球の神々の血が濃く残る土地——ひいてはカダスに近い一帯——を突き止められると考えるに至る。顔そのものを見る場面の詳細は既存の脚注[2][3]に譲るが、その面影は物語の終盤まで消えない。カーターがついにカダスの黒瑪瑙の城の玉座の間へ至ったとき、そこにいたのは「狭い目、垂れた長い耳たぶ、薄い鼻、尖った顎——ンガラネクの彫られた顔との血のつながりを思わせる」冠と光輪を戴いた神々の一団ではなかった。地球の神々はそこにいなかったのである[12]。

夜鬼の襲撃

石像の顔を見届けたのち、カーターは何ものかに捕らえられ、暗黒の谷へと連れ去られる。「彼をそこへ運ぶのは、ンガラネクを守る夜鬼たちの務めであり、それを果たすと彼らは音もなく飛び去った」[13]。後にわかるところでは、その谷は誰も見た者がなくその姿さえ想像もつかないという巨大な生物ボールが這い回るプナスの谷であった。

物語の後半、カーターはレンとインガノクを隔てる山並みに刻まれた洞穴を目にし、ンガラネクで見た洞穴との類似に気づく。その一致はただの偶然ではなかった。それらはいずれも夜鬼たちの棲み処であり、《大いなる者たち》すら恐れる「大深淵の無心なる番人」であって、ニャルラトホテプにではなく老いたるノーデンスにこそ仕えているとカーターは知るに至る[14]。

「異形の神々の峰」(1921年8月14日執筆)

「未知なるカダスを夢に求めて」より早く書かれたこの短編は、地球の神々がかつて低い峰々に住んでいたが、人間に追われて次第に高い山へと移り、ついに最後の一峰だけが残ったといういきさつを語る。神々は古い峰を去るたびに己の痕跡をすべて持ち去ったが、「ただ一度だけ、ンガラネクと呼んだ山の岩肌に、彫った像を残していった」という[15]。この一節は、ンガラネクの顔が地球の神々自身の手になるという「未知なるカダスを夢に求めて」の伝承と符合する。

基本プロフィール

  • 分類: 地名(オリアブ島の霊山)
  • 欧文表記: NGRANEK
  • 初出・出典: 「未知なるカダスを夢に求めて」(1926–1927年執筆/1943年発表)
  • 地理設定: 夢の国南海の島オリアブに位置し、切り立った断崖と溶岩の谷を見下ろす側面に石像の顔がある

由来・モデル

夢の国という現実の地球地理とは地続きでない舞台上の山であり、実在の地球上の特定の山をモデルとした記述は原典に見られない。ただし、巨大な石造の顔という着想自体は、イースター島のモアイ像のような「巨大な顔を刻んだ古代の石造物」という広く知られたモチーフの系譜に連なるものと理解できる(ラヴクラフト作品には他にも「ク・リトル・リトルの偶像」など巨石偶像のモチーフが繰り返し登場する)。

歴史・年表

  • ウルタールの古老アタルが、月の酒に酔わされた末にこの山の石像の顔について語る。アタルの連れバルザイ賢者は、既知の山ハセグ=クラに登っただけで空へ悲鳴とともに引きずり込まれたとされ、山に対する畏怖が強調される
  • ランドルフ・カーターは、夕映えの都市の秘密を解く鍵として、地球の神々に似た顔立ちを持つ人間を探し、その血統が濃く残る土地の奥にカダスがあると推測し、まずこの石像の顔を実見するためンガラネクを目指す
  • 石像は切り立った断崖と不吉な溶岩の谷を見下ろす側面にあるため、実際に目にした者は少なく、多くの旅人はバハーナの老人や溶岩採集人からの伝聞で満足して故郷に帰るという。案内役の船長ですら、現存する誰かが実際にその顔を見たか確信が持てないと語る
  • カーターは断崖からついに石像の顔を実見する。夕陽に照らされたその顔は厳めしく恐ろしく輝いていた[2]。長く細い目、垂れた耳たぶ、薄い鼻、尖った顎——それらすべてが人間ではなく神々の血統を物語っていた[2]
  • カーターはこの顔が、夢の国の港町セレファイスの酒場でしばしば見かける北方から来る船乗りたちと同じ顔立ちであることに気づく[3]。この発見が、カーターを北方の都市セレファイスへ、そして最終的にはカダスへと導く重要な転換点となる

性質・特徴

夢の国の地誌における「神々の手がかり」としての役割を担う山であり、神々自身が意図して残した象徴として機能する。噂と伝聞に彩られた到達困難な聖地というモチーフは、カダス探索という物語全体の構造を反復する縮図とも読める。石像の顔を実際に見た者がごく少数という設定は、情報の真偽が伝聞でしか確かめられない夢の国の不確かさそのものを体現している。

関連する人物・存在・出来事

ランドルフ・カーターのカダス探索における重要な中継地であり、地球の神々の血を引く人間(セレファイスの船乗りたち)という手がかりを提供する。ウルタールの古老アタルの証言、カーターの連れであったバルザイ賢者の悲劇的な最期の逸話とも結びつく。

主要登場作と読みどころ

  • 「未知なるカダスを夢に求めて」(1926–1927年執筆/1943年発表): 唯一の登場作。アタルの伝聞による前振りから、カーターが実際に断崖でその顔を目にする場面への展開が読みどころ。「見た者が少ない」という伝聞の不確かさが、実見の場面での確信に転じる構成が、探索行全体の縮図として機能している。

よくある誤解・設定の食い違い

Q. ンガラネク山は地球上の実在の山がモデルなのですか?A. いいえ。夢の国という架空の舞台上の山であり、実在の特定の山との明示的な対応関係は原典に記されていません。

Q. 石像の顔を見た瞬間にカダスの場所が判明するのですか?A. いいえ。ンガラネクでの発見は「地球の神々の血を引く人間が北方の港町セレファイスにいる」という手がかりに過ぎず、カダスそのものの所在が直接明かされるわけではありません。カーターはこの後もセレファイス、そしてさらに北方へと探索を続けることになります。

出典

  • [1] 石像の顔が「地球の神々が月光の下で踊っていた時代に、自らの顔を象って刻んだ」という伝承は、アタルの証言として作中で語られる内容の要約(この一文自体の直接引用は本文中に明確な単一文としては存在しないため脚注では要約に留める)。関連する原文の証言部分は下記[2][3]を参照。 ↩
  • [2] “Stern and terrible shone that face that the sunset lit with fire…”(訳: 「夕陽が燃え立たせたその顔は、厳めしく恐ろしく輝いていた……」)——長く細い目、垂れた耳たぶ、薄い鼻、尖った顎、それらすべてが人間ではなく神々の血統を物語っていたという記述が続く — H. P. Lovecraft, “The Dream-Quest of Unknown Kadath”(1926–1927年執筆/1943年発表), 公式アーカイブ ↩
  • [3] “Certainly, the great face carven on that mountain was of no strange sort, but the kin of such as he had seen often in the taverns of the seaport Celephaïs which lies in Ooth-Nargai beyond the Tanarian Hills and is ruled over by that King Kuranes whom Carter once knew in waking life.”(訳: 「たしかに、その山に刻まれた大いなる顔は奇異なものではなく、タナリアン丘陵の彼方ウース=ナルガイにある港町セレファイス——かつて目覚めていた生でカーターが知っていたクラネス王が統べる都——の酒場でしばしば目にした者たちと同族の顔であった」) — 同上 ↩
  • [4] “few had seen the stone face of the god, because it is on a very difficult side of Ngranek, which overlooks only sheer crags and a valley of sinister lava. Once the gods were angered with men on that side, and spoke of the matter to the Other Gods.”(訳: 「石像の顔を見た者は少なかった。切り立った断崖と不吉な溶岩の谷を見下ろす、ンガラネクのもっとも困難な側面にあるからだ。かつて神々はこの側面で人間に怒りを向け、その一件を《他の神々》へ告げたという」) — H. P. Lovecraft, “The Dream-Quest of Unknown Kadath”(1926–1927年執筆/1943年発表), 公式アーカイブ ↩
  • [5] “the captain was not even sure that any person now living had beheld that carven face, for the wrong side of Ngranek is very difficult and barren and sinister, and there are rumours of caves near the peak wherein dwell the night-gaunts.”(訳: 「船長は、生きている誰かが本当にその彫られた顔を目にしたことがあるという確証すら持てなかった。ンガラネクの裏側はきわめて険しく荒涼として不吉であり、頂近くの洞穴には夜鬼が棲むという噂もあったからだ」) — H. P. Lovecraft, “The Dream-Quest of Unknown Kadath”(1926–1927年執筆/1943年発表), 公式アーカイブ ↩
  • [6] “Ngranek rising jagged and snow-crowned in the distance”(訳: 「ンガラネクが遠く、ぎざぎざと雪を頂いてそびえていた」) — H. P. Lovecraft, “The Dream-Quest of Unknown Kadath”(1926–1927年執筆/1943年発表), 公式アーカイブ ↩
  • [7] “could find no one who had been up the higher slopes or seen the carven face”(訳: 「高い斜面まで登った者にも、彫られた顔を見た者にも、誰一人として行き当たらなかった」) — H. P. Lovecraft, “The Dream-Quest of Unknown Kadath”(1926–1927年執筆/1943年発表), 公式アーカイブ ↩
  • [8] “found only his turban, nor was there any sign on the crags below that he had fallen”(訳: 「見つかったのはターバンだけで、転落した形跡は崖の下のどこにもなかった」) — H. P. Lovecraft, “The Dream-Quest of Unknown Kadath”(1926–1927年執筆/1943年発表), 公式アーカイブ ↩
  • [9] “Ninety aeons ago, before even the gods had danced upon its pointed peak, that mountain had spoken with fire and roared with the voices of the inner thunders.”(訳: 「九十のアイオーンの昔、神々がその尖った頂で踊るよりもさらに以前、この山は火をもって語り、内なる雷鳴の声で吼えていた」) — H. P. Lovecraft, “The Dream-Quest of Unknown Kadath”(1926–1927年執筆/1943年発表), 公式アーカイブ ↩
  • [10] “he knew for a moment the fear that makes men shun Ngranek’s hidden side”(訳: 「人々にンガラネクの隠された側を避けさせる恐怖を、彼は束の間味わった」) — H. P. Lovecraft, “The Dream-Quest of Unknown Kadath”(1926–1927年執筆/1943年発表), 公式アーカイブ ↩
  • [11] “the features of that image are very strange, so that one might easily recognise them, and that they are sure signs of the authentic race of the gods.”(訳: 「その像の顔立ちはきわめて特異で、見紛いようがなく、神々の正統な血統を示すたしかな徴である」) — H. P. Lovecraft, “The Dream-Quest of Unknown Kadath”(1926–1927年執筆/1943年発表), 公式アーカイブ ↩
  • [12] “nor was there any august circle of crowned and haloed beings with narrow eyes, long-lobed ears, thin nose, and pointed chin whose kinship to the carven face on Ngranek might stamp them as those to whom a dreamer might pray.”(訳: 「狭い目、垂れた長い耳たぶ、薄い鼻、尖った顎を持ち、ンガラネクの彫られた顔との血のつながりによって夢見る者が祈るべき相手だと示すような、冠と光輪を戴いた尊厳ある一団もそこにはいなかった」) — H. P. Lovecraft, “The Dream-Quest of Unknown Kadath”(1926–1927年執筆/1943年発表), 公式アーカイブ ↩
  • [13] “To bring him thither was the duty of the night-gaunts that guard Ngranek; and this done, they flapped away silently.”(訳: 「彼をそこへ運ぶのは、ンガラネクを守る夜鬼たちの務めであり、それを果たすと彼らは音もなく飛び去った」) — H. P. Lovecraft, “The Dream-Quest of Unknown Kadath”(1926–1927年執筆/1943年発表), 公式アーカイブ ↩
  • [14] “those mindless guardians of the Great Abyss whom even the Great Ones fear, and who own not Nyarlathotep but hoary Nodens as their lord.”(訳: 「《大いなる者たち》すら恐れる大深淵の無心なる番人であり、彼らが主と仰ぐのはニャルラトホテプではなく、老いたるノーデンスである」) — H. P. Lovecraft, “The Dream-Quest of Unknown Kadath”(1926–1927年執筆/1943年発表), 公式アーカイブ ↩
  • [15] “save once, it is said, when they left a carven image on the face of the mountain which they called Ngranek.”(訳: 「ただ一度だけ、彼らがンガラネクと呼んだ山の岩肌に、彫った像を残していったと言われている」) — H. P. Lovecraft, “The Other Gods”(1921年8月14日執筆), 公式アーカイブ ↩
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