概要
クトゥルフ神話TRPGシナリオ『プルガトリウムの夜』『デストルドーの使者』のコラボカフェが、2026年8月29日(土)から9月17日(木)まで、東京都豊島区南池袋のeeo Cafeで開催されている[1]。営業時間は土日祝10:00〜19:00、平日11:30〜19:00[1]。会場のページには「Call of Cthulhu is copyright ©1981, 2015, 2019 by Chaosium」という表記があり、原作元であるChaosiumのCall of Cthulhuシステムを正規に利用していることが示されている[1]。
原作は、個人が頒布する同人シナリオ
ここで押さえておきたいのは、原作となっている2本のシナリオが、KADOKAWAのような大手出版社が刊行する公式サプリメントではなく、個人サークル「R’lyeh-TRPG専門店」(中尾ヤスヒロ氏)がBOOTHで頒布する同人作品だという点である。『プルガトリウムの夜』は価格800円、2人固定のプレイ人数、プレイ時間7〜8時間、新クトゥルフ神話TRPG(第7版)を使用するシナリオで、「2020年8月4日、東京で見つかった不可解な遺体」から始まる連続怪死事件を描く[2]。『デストルドーの使者』は同じく800円・2人固定・新クトゥルフ神話TRPG第7版で、プレイ時間は8〜10時間(ボイスセッションの場合)。「2021年10月29日。都内で発見された、とある夫婦の遺体」から始まる、前作の1年後を舞台にした物語である[3]。シナリオ側の説明では「単体で物語は完結するので独立したシナリオと捉えて問題ございません」とされており、前作を未プレイでも楽しめる設計になっている[3]。
『プルガトリウムの夜』のシナリオ概要には、趣旨として「PCやNPCとのRP(ロールプレイ)を楽しむ」「PCが協力して事件を解決する」ことが挙げられている[2]。謎解きそのものより、探索者・NPCとの掛け合いに重心を置いた設計であることが、あらかじめ明記されているシナリオだと言える。
グッズ展開: 7人のキャラクター
eeo Storeのグッズ販売ページには、缶バッジ(550円)、アクリルキーホルダー(880円)、アクリルカード(660円)、アクリルスタンド(1,980円)、BIGアクリルスタンド(2,970円)、アクリルコースター(1,320円)などが並び、いずれも「夏カフェver.」の描き下ろしイラスト仕様になっている[4]。登場するキャラクターは「桃下冬香」「蛇原辰巳」「古鳥ヒナノ」「佐々羅透李」「霧嶋凛道」「韮澤理紫」「立浪紫音」の7人[4]。個人が頒布するシナリオの登場人物が、缶バッジやアクリルスタンドになって物販の主役を張っている。一つのシナリオが1回のセッションで完結するTRPGという媒体で、これだけ多種類のグッズ展開に耐える固有性を7人ものキャラクターが同時に獲得したこと自体、単発の人気にとどまらない継続的な支持があったことを示している。
なぜ「シナリオ」がキャラクターコンテンツになるのか
当サイトは別記事「日本のクトゥルフはなぜ『書く文化』になったのか」で、日本のクトゥルフ神話が、原典を「読む」文化より先に、シナリオを「書いて遊ぶ」文化として広がってきた経緯を扱っている。この記事によれば、TRPGはキーパー(進行役)が毎回シナリオを用意しなければ卓が成立しないという構造上、遊ぶ側が同時に作る側へ回りやすいメディアであり、現代を舞台にできる自由度の高さも、同人シナリオが量産される土壌になってきた。2010年代なかば、ニコニコ動画でのリプレイ動画人気が、TRPGを「観るもの」に変えたという転機もあったとされる。今回のコラボカフェは、その「書く文化」が行き着いた先の一つの形だと言える。
海外のCall of Cthulhuでは、シナリオは主に「シナリオ集」として出版社から刊行され、探索者はプレイヤーが自作するのが基本だ。ところが日本のシナリオ文化では、シナリオ制作者があらかじめ用意したNPC・PCに名前と人格を与え、プレイヤーがその人物を演じてロールプレイを楽しむという遊び方が広く定着している。『プルガトリウムの夜』のシナリオ説明が「PCやNPCとのRP」を趣旨として明記していたのは、この土壌があってのことだ。あらかじめ作り込まれた人格を持つキャラクターは、遊び終えた後も配信のアーカイブやファンアートを通じて生き続け、やがてグッズ化に耐えるだけの固有性を獲得する。今回のコラボカフェは、そうして育った7人のキャラクターが、一つの到達点としてカフェの物販とメニューの主役になった事例である。
この土壌を支えている要因の一つに、オンラインセッションツールの普及がある。2018年にリリースされた「ココフォリア(CCFOLIA)」は、国内トップシェアのTRPGオンラインセッションツールとされ、キャラクターの立ち絵やダイス判定、演出機能を備えている[5]。ブラウザだけで動くため、GMが部屋を作ってURLを共有するだけでセッションを始められ、その様子を録画・配信することも容易だ。プレイヤーが操作する探索者やNPCの立ち絵が画面上に表示された状態で進行するセッションは、キャラクターの「顔」を視聴者に強く印象づける。文章だけで完結していた紙のシナリオ集の時代とは異なり、画面に映る一枚絵とセットでキャラクターが消費される土壌が、こうしたツールの普及によって整ってきたと言える。
当サイトが整理している原典/ダーレス系拡張/TRPG設定という三層に照らせば、『プルガトリウムの夜』『デストルドーの使者』のような同人シナリオは、TRPG設定という第3層のさらに上に、個々の書き手が積み増した堆積にあたる。ただしこれは、単一の権利者が管理する「公式設定」ではなく、遊ぶ人の数だけ枝分かれしていく創作の集積だ。7人のキャラクターがコラボカフェのグッズになったからといって、彼らがクトゥルフ神話の「公式設定」に組み込まれたわけではない。あくまで一人の同人作家が作り、多くのプレイヤーに遊ばれ、ファンの熱量によって商業コラボへ押し上げられた、TRPG設定層のさらに外側にある創作だという位置づけになる。
この位置づけは、深淵書架が神格記事で「原典ではこう」「後世の設定ではこう」と分けて書いていることと、根は同じ発想である。クトゥルフやニャルラトホテプのような神格が、原典・ダーレス系拡張・TRPG設定という積み重ねを経て今の姿になったように、桃下冬香や蛇原辰巳といった一人の同人作家が生んだキャラクターも、シナリオ頒布・配信・ファンアート・コラボカフェという積み重ねを経て、缶バッジやアクリルスタンドになるだけの固有性を獲得した。神格の拡張と、同人シナリオのキャラクターの拡張は、規模も権利関係もまったく違うが、「遊ばれ、語られるほど積み重なっていく」という構造そのものは共通している。深淵書架がクトゥルフ神話を扱う際に層を分けて記録するのと同じ注意深さを、こうした同人発のキャラクター文化に向けても持っておく必要がある。
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出典
- [1] 開催期間「2026年8月29日(土)〜9月17日(木)」、会場「東京都豊島区南池袋1-9-21 JK7 1階」eeo Cafe、営業時間(土日祝10:00-19:00、平日11:30-19:00)、「Call of Cthulhu is copyright ©1981, 2015, 2019 by Chaosium」の記載がある — eeo Cafe公式サイト, eeo.today ↩
- [2] 作者「R’lyeh-TRPG専門店」、価格800円、対応人数2人固定、プレイ時間7〜8時間、システム「新クトゥルフ神話TRPG(第7版)」、シナリオ概要「2020年8月4日、東京で見つかった不可解な遺体。その事件を皮切りに23区内で1ヵ月ごとに次々と同様の遺体が見つかった。磔にされた遺体、必ず夜に犯行が行われることから、付いた名前はモズ。」、趣旨「PCやNPCとのRPを楽しむ」「PCが協力して事件を解決する」の記載がある — 『プルガトリウムの夜』商品ページ, BOOTH, booth.pm ↩
- [3] 作者「中尾ヤスヒロ / R’lyeh-TRPG専門店」、価格800円、対応人数2人固定、プレイ時間8〜10時間(ボイスセッション)、システム「新クトゥルフ神話TRPG(第7版)」、シナリオ概要「2021年10月29日。都内で発見された、とある夫婦の遺体。喉を引き裂かれた2人の口元は死んで尚も至福」、『プルガトリウムの夜』の1年後を舞台にしていること、「単体で物語は完結するので独立したシナリオと捉えて問題ございません」の記載がある — 『デストルドーの使者』商品ページ, BOOTH, booth.pm ↩
- [4] グッズ種類(缶バッジ550円・アクリルキーホルダー880円・アクリルカード660円・アクリルスタンド1,980円・BIGアクリルスタンド2,970円・アクリルコースター1,320円等)、「夏カフェver.」描き下ろし、キャラクター名(桃下冬香・蛇原辰巳・古鳥ヒナノ・佐々羅透李・霧嶋凛道・韮澤理紫・立浪紫音)の記載がある — eeo Store商品ページ, eeo.today ↩
- [5] 「ココフォリア(CCFOLIA)」が2018年にリリースされたTRPGオンラインセッションサポートツールであること、国内トップシェアのオンラインセッションツールとされていること、セッションルームの作成や演出機能を備えていることが記載されている — KAI-YOU「TRPGセッションツール『ココフォリア』初の公式解説書が刊行」, kai-you.net ↩



