TRPG(独立系インディーTRPG、コアブック260頁+シナリオ集『EXTRA CURRICULAR HORRORS』210頁、ともにハードカバー、2026年9〜10月入荷予定の予約商品) — High School Cthulhu

High School Cthulhu

スイス・イタリアを拠点とする独立系TRPG出版社Gear Gamesが手がける、1990年代のインスマスを舞台にした学園コズミックホラー。システムはChaosiumの『クトゥルフの呼び声』とは無関係のDirector's Cut(Two Little Mice製)で、90年代米国ティーンドラマの様式を原典の漁村へ移植するとどうなるかを、当サイトの既存記事と突き合わせて読み解く。

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新潮文庫『インスマスの影 クトゥルー神話傑作選』(南條竹則編訳)。本作が舞台に選んだインスマスを描いた原典「インスマスの影」を収録している。

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概要

スイス・イタリアを拠点とする独立系TRPG出版社Gear Gamesが、『High School Cthulhu』のコアブックと、シナリオ集『Extra Curricular Horrors』の2冊を展開している。同社公式サイトによれば、舞台は1990年代のインスマスで、生徒である主人公たちが思春期の悩みと宇宙的恐怖の両方に直面するという学園コズミックホラーである[1]。米国の小売店Miniature Marketの予約ページでは、コアブックが260ページ・ハードカバー・定価55.00ドル、シナリオ集が210ページ・ハードカバー・定価50.00ドルで、いずれも「2026年9月〜10月」を発売予定時期として掲載している[3][4]。

この2冊は書き下ろしの新刊ではなく、数年越しの計画である。Gear Games自身が主催したクラウドファンディングサイトBackerKitのキャンペーンページによれば、支援募集は目標額5,000ユーロに対し56,294ユーロ・696人の支援者を集めて2024年10月24日に終了しており、当初の出荷予定は2025年6月とされていた[6]。業界メディアICv2が2026年6月15日に配信した記事では、この時点でGear Gamesが小売展開を2026年8月15日に開始すると発表していたと報じている[5]。ところが本稿執筆時点(2026年9月)でMiniature Marketが掲げる入荷予定は「9月〜10月」であり、当初の小売開始予定から見ても後ろ倒しになっている[3][4][5]。クラウドファンディング終了から数えれば、実に2年近い期間が支援者への発送と一般小売の間に横たわっていることになる。

シナリオ集『Extra Curricular Horrors』についても、収録本数に変化がある。BackerKitのキャンペーンページでは執筆時点の収録数を「3本」とし、ストレッチゴール次第で増える可能性があると説明していたが[6]、現在のMiniature Marketの予約ページでは「seven chilling tales」、つまり7本のシナリオを収録すると案内されている[4]。ストレッチゴールでどこまで積み増されたかの詳細な内訳は、今回参照した資料からは追い切れていない。

Gear Games自身についても触れておく。BackerKitの掲載情報によれば、同社は2026年9月時点で2,957人のフォロワーを抱え、これまでに2件のクラウドファンディングプロジェクトを完遂している[6]。もう1件は『Vulcania』という、火山群島を舞台にした飛行船と錬金術のファンタジーTRPGで、『High School Cthulhu』のキャンペーンページに追加特典として同社の別作品が並んでいたことから確認できる[6]。つまりGear Gamesは、クトゥルフ神話専門の出版社ではなく、クラウドファンディングを軸に複数ジャンルのインディーTRPGを手がける小規模スタジオの1作として、本作を送り出している。

どんな作品か

公式サイトの紹介文は、本作を”Beverly Hills 90210″(ビバリーヒルズ高校白書)や”Dawson’s Creek”(ドーソンズ・クリーク)といった90年代の学園ドラマ、”Buffy the Vampire Slayer”(バフィー 〜恋する十字架〜)や”Roswell”(ロズウェル、星の恋人たち)といったホラー・SF寄りのティーンドラマから着想を得たと説明している[1][6]。プレイヤーは1990年代のインスマスにあるSaint John’s High Schoolに通う生徒を演じ、成績や人気、恋愛といった学園ドラマの定番要素と、原典由来の宇宙的恐怖を同時に扱う[6]。学校のアメリカンフットボールチームの名称は”the Amphibians”(両生類たち)とされており、インスマス系一族に特有とされる魚類・両生類的な身体的特徴を踏まえた遊び心のある命名になっている[6]。

システムはDirector’s Cutと呼ばれるゲームエンジンで、Two Little Miceが開発し、『Outgunned』や『Household』といった作品でも採用されている[1][5]。6面ダイスを複数個まとめて振り、目の大小ではなく同じ目をいくつ揃えられるかで結果を判定する、いわゆるダイスプール・シンボル集計型のシステムである[1]。キャラクター作成では、ジョック・チアリーダー・ナード・ゴス・自力型・反逆児という6種類のStyle(スタイル)を選び、さらにその下位区分であるJourney(ジャーニー)で人物像を掘り下げる[6]。正気度に相当する仕組みはSpiral of Madness(狂気の螺旋)と呼ばれ、これを使い切ると精神の乱れを表すDisorder(障害)を抱える[1]。加えてDrama(ドラマ)という1から12までの数値が、GM役を指す”the Ancient”という呼称を持つ進行役の裁量で上下し、物語に緊張と展開をもたらす[1]。GMをAncient(古きもの)と呼ぶ命名自体、クトゥルフ神話の「古きもの(Old Ones)」を意識した言葉遊びと読める。

原典の漁村と、学園ドラマの舞台のあいだ

ラヴクラフトが「インスマスの影」で描いたインスマスは、当サイトのインスマス記事やインスマスの影記事で確認した通り、マニューゼット川の河口に位置する閉鎖的な港町であり、外部との通婚をほぼ絶ち、住民の身体的特徴が徐々に変化していくという排他性そのものが恐怖の核になっている。よそ者を歓迎しない町、秘密を抱えた家系、そして視察に来た語り手が町全体から敵視される展開は、原典の緊張感を支える骨格である。

Gear Games自身は、このBackerKitキャンペーンページの中で、町の歴史と地誌をラヴクラフトの「インスマスの影」の記述にできる限り忠実であろうとして作り込んだ、登場人物や店舗もラヴクラフトの作品に登場する人物像から着想を得たと説明している[6]。つまり制作陣は、原典の設定を軽視して舞台だけを借用したわけではないと自認している。その一方で実際に組み込まれるのは、進級・人気投票・初恋といった、原典にはまったく存在しない学園ドラマの文法である。閉鎖的な漁村という原典の恐怖装置と、生徒同士の人間関係を軸にした学園ドラマの文法は、本来別々の物語形式に属する。両者を同じ舞台の上に同居させたとき、原典が持っていた「よそ者が排除される恐怖」がどう機能するのか、あるいは「実はインスマス系の血を引く生徒」というテーマが生徒間の人間関係にどう反映されるのかは、今回参照した公式資料からは具体的に読み取れなかった。

Chaosiumの『クトゥルフの呼び声』ではない、という位置

『High School Cthulhu』というタイトルから、Chaosiumの『クトゥルフの呼び声』(Call of Cthulhu、通称CoC)シリーズの一部だと誤解されることがあるかもしれないが、両者は無関係のシステムである。CoCはBasic Roleplaying(BRP)というシステムを土台にしているのに対し、本作はTwo Little Mice制作のDirector’s Cutを採用しており、判定方法も入手経路もまったく異なる[1][5]。今回確認した公式サイト・小売ページ・クラウドファンディングページのいずれにも、ChaosiumやCoCブランドとの提携・ライセンス関係を示す記載は見当たらなかった。

CoCの判定方法は、技能ごとに割り振られたパーセンテージ値に対してd100(パーセンタイルダイス)を1回振り、その値以下が出れば成功という仕組みである。対して本作のDirector’s Cutは、複数個のd6をまとめて振り、出た目の中から同じ数字の組(ペア・スリーカード・フォーカード)をいくつ作れるかで成否と展開の派手さを決めるダイスプール方式であり、判定の質感そのものが異なる[1]。CoCが「一度の判定で成否が決まる」構造を持つのに対し、Director’s Cutは複数の組をまとめて評価することで、判定結果に段階的な強弱を持たせやすい設計になっている。

当サイトが以前確認した『クトゥルフ神話TRPG インスマスからの脱出』や、同じ2026年に刊行された『Call of Cthulhu: Innsmouth』は、いずれもChaosium公式のBRP系ルールでインスマスを扱う作品である。『High School Cthulhu』は同じ「TRPGによる拡張」という第3層に位置づけられるものの、Chaosium公式のCoC系列とは別の系譜、すなわちTwo Little Miceが築いてきたDirector’s CutファミリーのインディーTRPGシーンに属する。同じ町・同じ原典を土台にしながら、公式ライセンス下で体系化されていくCoC系列と、まったく別のルールとジャンルで町を再解釈するインディー系列とが、並行して存在していることになる。

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出典

  • [1] Gear Games公式サイト「High School Cthulhu」商品ページ(2026年9月11日確認)。舞台設定・Director’s Cutシステムの説明(Spiral of Madness、Drama、the Ancient)、自社ストアでの直接販売価格(コアブック物理版CHF45.00・デジタル版CHF15.00、Extra Curricular Horrors物理版CHF40.00)を確認。https://www.geargames.eu/high-school-cthulhu ↩
  • [2] Gear Games公式サイト トップページ(2026年9月11日確認)。同社がイタリアとスイスを拠点とする独立系TRPG出版社であり、クラウドファンディングを主な資金調達手段としていることを確認。https://www.geargames.eu ↩
  • [3] Miniature Market予約ページ「High School Cthulhu: Corebook (Preorder)」(2026年9月11日確認)。定価55.00ドル、260ページ、ハードカバー、発売予定時期が「Estimated Release Date: September – October 2026」と表示されていること、90年代ティーンドラマへの言及とDirector’s Cutシステムの説明を確認。https://www.miniaturemarket.com/High-School-Cthulhu-Corebook-Preorder/GEA2001 ↩
  • [4] Miniature Market予約ページ「High School Cthulhu: Extra Horrors (Preorder)」(2026年9月11日確認)。定価50.00ドル、210ページ、ハードカバー、7本のシナリオ(“seven chilling tales”)を収録すること、コアブックが別途必要である旨を確認。https://www.miniaturemarket.com/High-School-Cthulhu-Extra-Horrors-Preorder/GEA2002 ↩
  • [5] ICv2「Experience the Cosmic Horror of Teen Drama at ‘High School Cthulhu’」(Jeffrey Dohm-Sanchez、2026年6月15日付、2026年9月11日確認)。同時点でGear Gamesが2026年8月15日に本作の小売展開を開始すると発表していたこと、定価55.00ドル、システムがTwo Little Mice製で『Outgunned』と同一エンジンであることを確認。https://icv2.com/articles/news/view/62623/experience-cosmic-horror-teen-drama-high-school-cthulhu ↩
  • [6] BackerKit「High School Cthulhu – Roleplaying Game」クラウドファンディングキャンペーンページ(Gear Games主催、2026年9月11日確認)。目標額5,000ユーロに対し56,294ユーロを696人の支援者から調達し2024年10月24日に終了したこと、当初の出荷予定が2025年6月とされていたこと、6種類のStyleとその下位区分Journey、Spiral of MadnessとDramaのシステム詳細、Extra Curricular Horrorsの執筆者がCristian Piovanoであること、舞台の高校名がSaint John’s High School、アメフトチーム名がAmphibiansであること、ラヴクラフトの「インスマスの影」の地誌にできる限り忠実であろうとしたという自己説明を確認。https://www.backerkit.com/c/projects/gear-games/high-school-cthulhu-roleplaying-game ↩

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