小説 — The Faceless God

顔のない神

砂漠で発掘された黒い彫像を力ずくで奪取した商人が、姿なき何かに付け纏われる。ブロックのエジプト怪奇連作の第一作。

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顔のない神

編集部注(著作権について): 本記事が扱う『顔のない神』(原題: The Faceless God、1936年発表)は、パブリックドメインであるとは断定できません。ブロックは1994年まで存命で著作権管理に積極的であり、同時期の複数作品について実際の著作権更新記録が確認されています。本記事は原文からの引用を行わず、あらすじ・論評・書誌的事実のみで構成しています。

概要

砂漠で発掘された黒い彫像を力ずくで奪取した強欲な商人が、姿なき何かに付け纏われる一編。ブロックの「エジプト怪奇連作」の第一作であり、彼が10代の頃からラヴクラフトと文通を交わしていた末に発表した初期作品の一つでもある[1]。強欲さゆえに禁忌を踏みにじった者が、目に見えない力によって静かに追い詰められていくという構成は、直接的な暴力描写に頼らずに恐怖を積み上げるブロック初期作品の特徴をよく示している。

作品情報

  • 原題: The Faceless God
  • 執筆・発表年: 1936年発表(「ウィアード・テイルズ」誌5月号)
  • 主題タグ: 強欲な商人による彫像の強奪、姿なき追跡者、エジプト怪奇連作の起点

登場神格・用語

あらすじ

闇市場の強欲な商人ドクター・ストガッチェは、隊商が砂漠で発掘した黒い彫像の在処を拷問で聞き出し、奪取隊を組織する。現地人たちが触れることさえ拒む彫像を力ずくで発掘させるが、オアシスへの帰路、姿なき何かに付け纏われ始める。彫像の正体はピラミッド建造以前より追放された邪神ナイアーラトホテップであり、商人は自らが暴いた神の裁きを受ける。物語は、彫像を発掘する現地人たちの怯えと拒絶、それを力ずくで押し切る商人の強欲、そして帰路で徐々に強まっていく「見えない何かに見られている」という不安の三段階で構成されており、怪物そのものの姿を最後まで見せないことで恐怖を持続させる語り口を取っている。あらすじの骨格は、信仰の対象を軽んじて力ずくで手に入れようとした者が、目に見えぬ報いを受けるという、ブロックが以後繰り返し用いることになる「暴かれた神の裁き」の型を早い段階で示している点で位置づけられる。

読みどころと注目テーマ

拷問による強奪という発端、姿なき追跡者という恐怖の演出、暴いた神の裁きを受けるという因果応報――特に、怪物や神の姿そのものを一度も直接描写せず、あくまで「気配」と「結果」だけで恐怖を積み上げていく手法は、当時まだ10代から20代前半だったブロックの筆力の高さを示す一編として読むことができる。師と仰いだラヴクラフトが得意とした「明示せず暗示する」恐怖演出を、若きブロックなりに消化して自らの作品に取り込もうとした跡がうかがえる点も興味深い。エジプトという舞台そのものも重要な意味を持つ。古代の異国的な廃墟や禁忌の信仰は怪奇小説において古くから恐怖の宝庫として扱われてきた題材であり、ブロックはこれをなぞりつつ、ナイアーラトホテップという神話固有の邪神を絡めることで、単なる異国情緒の怪奇談から神話体系の一部へと物語を引き上げている。

執筆背景と影響

ブロックの「エジプト怪奇連作」の第一作。以後『セベクの秘密』『暗黒のファラオの神殿』などに続くエジプト系ナイアーラトホテップ譚の起点。ブロックは1933年、当時16歳でラヴクラフトへ最初のファンレターを送り、その後1934年7月(17歳)に最初の作品売り込みに成功、1935年1月・5月号の「ウィアード・テイルズ」誌に初期作品が掲載されるという経緯を辿った[1]。本作『顔のない神』が発表された1936年の時点でも、ブロックはまだ弱冠19歳の新進作家だった。もっとも、その道のりは平坦ではなく、彼が最初に書き上げた「Lilies」「The Laughter of a Young Ghoul」「The Black Lotus」の3作は、いずれも「ウィアード・テイルズ」誌編集長ファーンズワース・ライトに掲載を拒否されている[3]。なお、彼はこの時期の一連の神話作品で、後年広く流用されることになる架空の魔道書『屍食教典儀』(De Vermis Mysteriis)と『妖蛆の秘密』(Cultes des Goules)を考案してもいる[2]。これらの魔道書はいずれも本作そのものには登場しないが、同じ1930年代を通じてブロックが積み重ねていった神話拡張の一部であり、本作『顔のない神』もその流れの中に位置する初期作品として読むことができる。10代の若さで書き始めたブロックが、わずか数年のうちに独自の魔道書や神格を次々と考案し、ラヴクラフト本流の固有名詞(本作ではナイアーラトホテップ)と組み合わせて自分なりの神話世界を築いていった過程は、クトゥルフ神話が単一の作者の専有物ではなく、書簡でつながった若い書き手たちの手によって共同で育てられていったことをよく示している。

出典

  • [1] ロバート・ブロックは1933年、16歳でラヴクラフトへファンレターを送って以降文通を続け、1934年7月(17歳)に作家として初めて作品を売り込み、1935年1月・5月号の「ウィアード・テイルズ」誌に初期作品が掲載された。本作『顔のない神』はナイアーラトホテップを題材とする作品として紹介されている。冒頭の編集部注のとおり本作は著作権保護下にある可能性が高いため、原典からの引用は行わず、本注記の書誌的事実のみを出典として明記する。— 出典: Wikipedia「Robert Bloch」の経歴の項, 該当ページ
  • [2] ブロックは1930年代の神話作品群の中で、架空の魔道書『屍食教典儀』(De Vermis Mysteriis)と『妖蛆の秘密』(Cultes des Goules)を考案したことで知られる。いずれも後年、他の神話作家によって繰り返し引用されることになった。— 出典: Wikipedia「Robert Bloch」の作品解説の項, 該当ページ
  • [3] ブロックが最初に完成させた短編「Lilies」「The Laughter of a Young Ghoul」「The Black Lotus」の3作は、いずれも「ウィアード・テイルズ」誌編集長ファーンズワース・ライトに掲載を拒否された。— 出典: Wikipedia「Robert Bloch」の経歴の項, 該当ページ
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