概要
Chaosium公認のCall of Cthulhu(CoC)同人シナリオ投稿プラットフォーム「Miskatonic Repository」だけを対象にした無料のオンラインコンベンション「Miskatonic Repository Con 2026」が、2026年10月23日(金)から25日(日)までの3日間、7回目として開かれる。対象はMiskatonic Repositoryで公開済み、または公開準備中のCoC第7版シナリオに限られ、Keeperによるゲーム登録は9月4日、プレイヤー登録は9月25日に開始予定だ。未完成作品のプレイテストも歓迎されており、Discordを使った完全オンライン開催で参加費は無料である[1]。
当サイトは以前、「日本のクトゥルフはなぜ『書く文化』になったのか」で、日本のBOOTHを中心にした同人シナリオ文化の広がりを扱った。今回のMiskatonic Repository Conを見て気づくのは、同じ「ファンがシナリオを書いて配布する」という営みでありながら、日本と英語圏とでは市場の成り立ち方がまったく違うという点だ。
Miskatonic Repositoryという場所
Miskatonic RepositoryはDriveThruRPG上で運営される、Chaosium公認のCoC向けコミュニティコンテンツプログラムだ。公式には「Keeperが新しいシナリオを探し、プレイヤーがキャラクター案を見つける場所」と説明されている。参加のハードルは低く、DriveThruRPGの通常アカウントがあれば足り、出版社アカウントは不要である。追加のライセンス取得も不要と明記されているが、これは「ライセンスが要らない」という意味ではない。このプログラムに参加すること自体が、公式から許諾を受けた状態になるという意味だ[2]。
収益の分配も定められている。クリエイターが設定した価格のうち50%がクリエイター本人に、残り50%がChaosiumとDriveThruRPGに分配される仕組みで、無料公開や「払いたい額を払う」形式を選ぶことも可能だ[2]。利用できる範囲はCoC第7版のルールブックといくつかのソースブックの設定材料とされている[2]。
日本のBOOTH——ライセンスという発想自体が前面に出ない市場
一方、日本の同人シナリオ文化はBOOTHや同人即売会を中心に広がってきた。当サイトが以前扱った「Roll of Cthulhu」のようなクトゥルフ神話TRPG専門の同人即売会は、2026年10月と2027年3月に連続開催が決まっているほど定着している[3]。ここで書き手がシナリオを頒布するにあたって、Miskatonic Repositoryのような公式コミュニティコンテンツ制度への登録や、版元との収益分配契約は前提になっていない。
この違いは、どちらが優れているという話ではない。「二次創作をどう合法的に成立させるか」という課題そのものへの向き合い方が違う、という話だ。Miskatonic Repositoryは、その課題に対して「公式が明文化した参加プログラムを用意し、そこに乗れば誰でも合法的に販売できる」という解決策を選んでいる。日本のBOOTH文化は、そうした公式プログラムの存在を前提とせずに、既に大きな市場として成立している。
なぜ違う形になったのか(推測)
なぜこの2つの市場は別の進化を遂げたのか。ここから先は、確認できた事実からの当サイトの推測であることを断っておく。
日本の同人文化は、コミックマーケットに代表される即売会を土台に、権利者が黙認する形で数十年かけて育った歴史を持つ。個々の同人シナリオがどこまで著作権法上グレーかという論点は残るとしても、「即売会で頒布する」という形式自体は、クトゥルフ神話TRPGに限らずアニメ・マンガ二次創作全般で先に確立していた慣習であり、TRPGシナリオもその枠組みに乗る形で広がったと考えられる。
対する英語圏では、Chaosiumというアメリカ企業が権利者として明確に存在し、商標・著作物の扱いについて訴訟リスクを含めて厳密に管理する土壌がある。Chaosiumは実際、Miskatonic Repositoryの前身にあたる「Small Publisher Limited License」という個別許諾制度を運用したのち、DriveThruRPGのコミュニティコンテンツプログラムへ一本化した経緯を公式ブログで説明している[4]。黙認で広がる余地の薄い環境だからこそ、公式が先回りして参加プログラムを用意する必要があった、という見方が成り立つのではないか。
参加のしやすさを比べる
実際の参加条件を並べると、性質の違いがよりはっきりする。
| Miskatonic Repository(英語圏) | 日本のBOOTH/同人即売会 | |
|---|---|---|
| 公式との関係 | Chaosium公認プログラムに登録して参加 | 公式プログラムは無い |
| 収益 | 50%がクリエイター、50%を版元とプラットフォームで分配[2] | 頒布価格は書き手が自由に設定 |
| 使える範囲 | CoC第7版ルールブック等の設定材料[2] | 明文化された利用規約は前提にない |
| コンベンション | Miskatonic Repository Conが年1回、無料・オンライン[1] | Roll of Cthulhu等の即売会が年数回、対面中心[3] |
この表からも分かるように、Miskatonic Repositoryの仕組みは「公式のプラットフォームに乗る代わりに収益の半分を渡す」という取引に近い。日本のBOOTH文化は、その取引自体が存在しない代わりに、公式の後ろ盾もない状態で市場を築いてきたことになる。
日本から参加するなら、まず時間割が壁になる
会期は2026年10月23日(金)から25日(日)までの3日間で、時間割は米国東部夏時間(EDT、UTC−4)を基準に組まれている。公式ページは国際的なコンベンションだと述べつつ、運営体制の都合でEDTを基準にしていると断り、参加者に自分の地域の時刻へ換算するよう求めている[1]。日本時間(JST)はEDTより13時間進んでいるため、日本から卓に着こうとすると、この13時間をまたいで自分の生活時間と突き合わせる作業から始まる。
ゲーム枠は1日あたり最大5コマ、1コマ4時間で区切られている。公式ページのEDT表記を日本時間へ直すと次のようになる(日本時間の欄は当サイトによる換算)。
| ゲーム枠 | 東部夏時間(EDT) | 日本時間(JST) |
|---|---|---|
| 第1枠 | 0:00-4:00 | 同日13:00-17:00 |
| 第2枠 | 4:00-8:00 | 同日17:00-21:00 |
| 第3枠 | 8:00-12:00 | 同日21:00-翌1:00 |
| 第4枠 | 14:00-18:00 | 翌3:00-7:00 |
| 第5枠 | 20:00-24:00 | 翌9:00-13:00 |
金曜は第3枠から始まり、日曜は第4枠で終わる[1]。第1枠と第2枠が立つのは土曜と日曜のEDTだけで、この2枠がちょうど日本時間の土日の午後から夜にあたる。現地では深夜から早朝の、参加者が最も集まりにくい時間帯だ。逆に現地の目玉になる金曜夜と土曜夜の第5枠は、日本では翌日の午前から昼にかけて落ちる。日本の書き手や遊び手が無理なく座れる枠は、現地で最も人が薄い時間帯に集中している。
Keeperとして卓を立てる場合、枠は4時間で確保されるが、それより短いゲームを出すことも認められている。ただし公式ページは、実際の所要時間をEDT表記でゲーム説明文へ明記するよう求めており、割り当てられた時間帯の外へ投稿された企画は修正のために差し戻すと告知している[1]。連絡と卓の進行はDiscordが土台になり、参加者は全体の行動規範(Code of Conduct)への同意を前提とする。年齢は18歳以上に限られる[1]。パネル企画は1日2枠が確保されているものの、登壇者と題目、特別ゲストの顔ぶれは開催が近づいてから順次告知される段取りで、本稿の執筆時点では公表されていない[1]。
三層構造から見た二次創作の位置
当サイトが整理している原典/ダーレス系拡張/TRPG設定という三層構造に照らすと、Miskatonic RepositoryもBOOTHの同人シナリオも、どちらも「TRPG設定という第3層の上に、個々の書き手がさらに積み増した堆積」という点では同じ位置にある。違うのは、その堆積が公式の管理下にあるか、公式の外側で自律的に育ったかという一点だ。「クトゥルフ神話に『公式設定』は存在するのか」で確認した通り、この神話には単一の権利者が隅々まで管理する体系はそもそも存在しない。Miskatonic Repositoryは、その「管理されない領域」の一部を公式が制度として取り込んだ例であり、日本のBOOTH文化は、その領域が公式の手を借りずに自走した例だと整理できる。同じ第3層の上の堆積でも、片方は版元が敷いたレールの上に積み上がり、もう片方はレールが敷かれる前から独力で積み上がっていた——出発点の違いが、いまも市場の形として残っている。
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出典
- [1] 「Miskatonic Repository Con 2026」が7回目の開催であること(「return for our seventh year」)、3日間のオンライン開催であること、対象はMiskatonic Repositoryで公開済みまたは公開準備中のCoC第7版シナリオに限ること、Keeperのゲーム登録開始が2026年9月4日、プレイヤー登録開始が2026年9月25日であること、未完成作品のプレイテストを歓迎すること(「Playtests welcome!」)、参加費が無料であること(「Best of all? It’s all FREE.」)、時間割が米国東部夏時間(EDT)基準で、参加者に各自の地域への換算を求めていること、ゲーム枠が1コマ4時間で金曜は第3枠から日曜は第4枠までであること(ページ下部のGame Slots表。金曜・土曜・日曜の3日構成)、4時間より短いゲームも可だが所要時間をEDT表記で説明文に明記すること、割り当て枠外の投稿は差し戻すこと(「Events submitted outside of these blocks will be sent back for modification.」)、Discordを連絡と卓の基盤とすること、行動規範(Code of Conduct)への同意と18歳以上の制限があること、パネルの詳細と特別ゲストは開催が近づいてから告知されることが記載されている。会期の2026年10月23日から25日は、同ページに登録された会期(start 2026-10-23 / end 2026-10-26 04:00 UTC)とGame Slots表の金・土・日の並びによる — Miskatonic Repository Con 2026公式イベントページ, tabletop.events ↩
- [2] Miskatonic RepositoryがCall of Cthulhu RPGの自作コンテンツ投稿プラットフォームであること、DriveThruRPGの通常顧客アカウントで参加可能で出版社アカウントは不要であること、追加ライセンスが不要であること(「No extra license is required」)、クリエイターが設定した価格の50%がクリエイターへ、残り50%がChaosiumとDriveThruRPGへ分配されること、無料公開やペイ・ワット・ユー・ウォント方式も選択可能であること、対応範囲がCoC第7版ルールブックおよびいくつかのソースブックの設定材料であることが記載されている — Chaosium公式サイト「Miskatonic Repository」, chaosium.com ↩
- [3] 「Roll of Cthulhu SP2026」が2026年10月11日「COMIC CITY SPARK 21」内で、次回「Roll of Cthulhu 神話TRPGオンリー」が2027年3月21日「HARU COMIC CITY 翠葉 2027」内で開催予定であることが記載されている — 赤ブーブー通信社公式, akaboo.jp ↩
- [4] Chaosiumが個別許諾制度「Small Publisher Limited License」の終了と、DriveThruRPG上のコミュニティコンテンツプログラム(Miskatonic Repository等)への一本化を告知したことが記載されている — Chaosium公式ブログ「Chaosium to end the Small Publisher Limited License」, chaosium.com ↩


