短編小説 — THE CHAIN OF AFORGOMON

アフォーゴモンの鎖

前世で異星の都カロードの神官であった現代人ジョン・ミルワープが、亡き恋人を取り戻すために時間律を犯した罪の記憶に、輪廻を越えて追いすがられる。

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アフォーゴモンの鎖

「ジョン・ミルワープとその著作が、これほど急速に半ば忘れ去られてしまったのは、実に奇妙なことだ。やや華美でロマンティックな筆致で東洋の生活を描いた彼の著書は、数か月前までは人気を博していた。」

— クラーク・アシュトン・スミス「アフォーゴモンの鎖」(Weird Tales、1935年12月号)冒頭部

概要

クラーク・アシュトン・スミスによる時間SF的な神話恐怖譚。麻薬的な薬草の力で異星カロードでの前世の記憶に沈み込んでいく現代人の手記という体裁を取り、時間の神アフォーゴモンへの冒涜とその果てしない代償を描く。物語は、遺稿の管理を任された語り手が、旅行作家ジョン・ミルワープの奇怪な死をめぐる謎を解き明かそうとする体裁で始まる[1]。現在と前世、地球と異星、正気と幻視という複数の対比を重ね合わせながら、最終的に一つの罪と罰へ収斂させていく構成が本作の読みどころである。

作品情報

  • 執筆・発表年: 1935年12月発表(「ウィアード・テイルズ」誌)
  • 主題タグ: 時間律への冒涜、輪廻を越えた断罪、異星の都カロード

登場神格・用語

あらすじ

現代人ジョン・ミルワープは、東洋の生活を題材にした華麗な文体の小説で一時期評判を得た作家だったが、その名声はやがて忘れ去られていく。彼はインドシナでの長い滞在から帰宅した後、1933年4月2日の朝、書斎で奇怪な光に包まれた状態のまま死亡しているのを家政婦に発見される。遺された日記には、麻薬的な薬草「スーヴァラ」の幻視によって、彼が前世で異星カロードの神官であった記憶に度々引き戻される様子が記されていた。前世の彼は、時間の神アフォーゴモンに仕える神官でありながら、亡き恋人ベルソリスとの一刻を取り戻すため、禁じられた魔道書の指示に従って祭壇を冒涜し、対抗する宇宙的な力に生贄を捧げた。その結果、都カロード全体に時間の混乱と狂気が広がり、彼は神殿の奥、深淵に臨む石座で錆びぬ黒い鎖に縛められる刑に処される[2]。刑に処された者は一定の間隔で、深淵の底から昇る正体不明の炎に鎖ごと灼かれるとされ、日記の記述はこの刑罰の記憶が現代のミルワープを繰り返し苛んでいたことを示唆したまま、彼自身の死の真相を明かさぬまま途切れる。

日記の中盤では、前世の彼がカラスパという名の神官であったこと、そして禁じられた儀式へ彼を導いた魔道士アトモックスの存在が明らかにされる。アトモックスは、アフォーゴモンに敵対する原初の混沌ゼクサノスの名を告げ、その名を知る者だけがベルソリスの刻を取り戻す力を持つのだと警告する[4]。裁きの場では、高僧ヘルペノールの口を通してアフォーゴモン自身が呪詛を言い渡す――亀裂がやがて広がりきったとき、魂は輪廻の果てで己の太古の罪を思い出し、その瞬間に時間の外へと滅び去り、蘇った肉体には鎖の焼け跡が刻まれるという呪いである[5]。この呪いの機構こそが、現代のミルワープが謎の死を遂げていた理由であり、手記全体を貫く伏線として機能している。

読みどころと注目テーマ

時間SFと神話的恐怖の融合、輪廻を越えた因果応報、円環構造の結末――特に、罪を犯した神官がその罰を来世にまで持ち越し、現代の作家として蘇った後もなお炎に灼かれ続けるという構図は、単発の怪異ではなく「時間そのものが復讐する」という着想の恐ろしさを際立たせている。手記形式によって事件の全貌が最後まで語り手にも読者にも明かされないまま閉じる構成も、スミスの後期作品らしい余韻を残す。ミルワープが東洋趣味の紀行小説家として世に知られていたという設定と、彼の前世が異星の神官だったという真相との間には皮肉な対応関係があり、生前の彼が創作として語っていた「異国の物語」が、実は自らの魂に刻まれた記憶の断片だったという二重構造も、本作の巧みな仕掛けの一つになっている。

執筆背景と影響

スミスの後期作品群の中でも、時間そのものを司る神とその律を犯す代償という着想が特異な一篇。神話的な旧支配者というより「秩序の審判者」としての神の造形は、宇宙的侵略者中心のクトゥルフ神話の中でも異色の存在感を放つ。スミス作品にしばしば見られる、人智を超えた力を単なる破壊者ではなく「律を司る者」として描く傾向は、恐怖の質を単純な蹂躙から、逃れようのない因果応報へと転換させている点で特徴的である。1935年12月号の「ウィアード・テイルズ」誌に発表されて以降、著作権更新記録が確認されず今日ではパブリックドメイン作品としてWikisourceに全文が収録されている[3]

出典

  • [1] “It is indeed strange that John Milwarp and his writings should have fallen so speedily into semi-oblivion. His books, treating of Oriental life in a somewhat flowery, romantic style, were popular a few months ago.”(訳: 「ジョン・ミルワープという人物とその著作が、これほど急速に半ば忘れられてしまったのは、まことに奇妙なことである。東洋的な生活を扱った、いくぶん華麗でロマンチックな作風の彼の著書は、ほんの数か月前までは人気を博していたのだが」) — Clark Ashton Smith, “The Chain of Aforgomon”(Weird Tales、1935年12月号)冒頭, Wikisource
  • [2] “…a ponderous chain of black unrusted metal, stapled to the solid rock, was wound about and about me, circling my naked body and separate limbs, from head to foot. To this doom, others had been condemned for heresy or impiety…”(訳: 「……錆一つない黒い金属の重々しい鎖が、固い岩に打ち付けられ、私の裸の体と手足のひとつひとつに、頭から爪先まで幾重にも巻き付けられた。この刑罰には、異端や不敬の罪によって他の者たちも処せられてきた……」) — 同上、カロードでの刑罰の場面, Wikisource
  • [3] 本作はWikisourceにおいて「PD-US-no-renewal-old-60」(米国での著作権更新記録が確認できず、パブリックドメインに分類される)のカテゴリーで収録されている。— 出典: Wikisource「The Chain of Aforgomon」ページ情報, 該当ページ
  • [4] “You have learned, O Calaspa, the unutterable name of that One whose assistance can alone restore the fled hours.”(訳: 「お前は学んだのだ、カラスパよ――失われた刻を取り戻す力を持つ、かの者の口にすべからざる名を」) — Clark Ashton Smith, “The Chain of Aforgomon”(Weird Tales、1935年12月号)、アトモックスの警告の場面, Wikisource
  • [5] “At last, when the chasm has widened overmuch, thy soul shall fare no farther in the onward cycles of incarnation. At that time it shall be given thee to remember clearly thine ancient sin; and remembering, thou shalt perish out of time. Upon the body of that latter life shall be found the charred imprint of the chains, as the final token of thy bondage.”(訳: 「ついにその亀裂があまりに広がったとき、汝の魂はもはや転生の周期を先へ進むことはできぬ。その時、汝は己の太古の罪を明らかに思い出すことを許され、そして思い出すと同時に、時間の外へと滅び去るであろう。その後の生の肉体には、汝の束縛の最後の証として、鎖の焼け跡が見出されるであろう」) — 同上、高僧ヘルペノールを通じて下される神託の場面, Wikisource
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