概要
古代アルカディアのマイナロス山を舞台に、互いに競い合いながらも深い友情で結ばれていた二人の彫刻家カロスとムシデスの運命を、彼らの別荘跡に残る奇怪な樹木の由来として語る一篇。
作品情報
- 執筆・発表年: 1920年執筆/1921年10月「ザ・トライアウト」誌発表
- 主題タグ: 友情の裏に潜む感情、彫刻家の宿命、死者の復讐、古代ギリシアの怪異
登場神格・用語
(なし)
あらすじ
シラクサの僭主が発注した女神テュケーの像を巡り、彫刻家カロスとムシデスは競作を依頼される。互いに深い友情で結ばれた二人だったが、やがてカロスは原因不明の病に倒れ、オリーブの木立でひとり過ごす時間を増やしていく。死の間際、カロスはただ一つ、自分の墓の傍らにオリーブの若枝を埋めてほしいと頼み、ムシデスはその願いを叶える。カロスの死後、墓の傍らから異様な速さで育つ奇怪な形をした樹木が現れ、人々を驚かせる。三年後、ムシデスがついにテュケー像を完成させ、シラクサからの使者が像を受け取りに訪れた夜、激しい嵐が吹き荒れる。翌朝、ムシデスの工房があった一角は、奇怪な樹木の太い枝が崩れ落ちたことで瓦礫の山と化しており、ムシデスの姿も完成した像も、跡形もなく消え失せていた。以来、その樹は夜ごと風に揺れながら「オイダ!オイダ!(知っている!知っている!)」と囁くのだと、老養蜂家は語り手に伝えた。
読みどころと注目テーマ
超自然の存在を直接描かず、樹木という象徴だけで友情の裏にあった秘められた感情と復讐を暗示する構成が巧み。ラヴクラフトには珍しい、古代ギリシアを舞台とする異色作でもある。
執筆背景と影響
ダンセイニ的な幻想譚と、ポー的な因果応報の物語が融合した一篇。直接的な怪物や神格を用いずに、樹木という自然物の異様さだけで恐怖を成立させる手法は、同時期の「墓地にて」などにも通じるラヴクラフトの語りの幅広さを示している。



