概要
ミスカトニック大学医学部の学生として、死体は薬剤(レアジェント)によって蘇生可能だという理論を掲げ、無名の語り手(本人)とともに生涯にわたって非合法な死体蘇生実験を繰り返す医学者[1]。物語は「死体蘇生者」と題された全6話の連作として展開し、学生時代から従軍外科医時代、開業医時代、そして最期に至るまでの経歴が語り手の回想として描かれる。
基本プロフィール
- 分類: 人物
- 欧文表記: HERBERT WEST
- 初出: 「ハーバート・ウェスト——リアニメイター」第1話「闇より」(1921–1922年執筆/1922年発表) — この作品でミスカトニック大学が初めて言及された
- 収録作: 全6話(「闇より」「疫病の悪魔」「真夜中の六発の銃声」「死者の絶叫」「影からの恐怖」「墓の軍勢」)
- 職業: 医学生 → 従軍外科医 → 開業医(ボルトン、後にアーカム)
人物像・性格
外見は物語の全編を通じて「小柄で華奢、眼鏡をかけ、繊細な顔立ち、黄色い髪、淡い青の瞳、物静かな声」と描写され[2]、青年期からほとんど変化しない。この終始変わらない冷静で線の細い外見と、行為の凄惨さとの落差が、この人物の恐怖を際立たせる仕掛けになっている。感傷を排した実証主義者であり、死を「有機的機構の停止」に過ぎない可逆的現象と捉える唯物論的な信念を生涯貫いた[3]。
生涯・経歴
ミスカトニック大学医学部在学中、死とは単なる有機的機構の停止であり、腐敗が始まっていない新鮮な死体であれば適切な処置で「再起動」できるという理論を掲げ、学部長ハルジー博士ら大学当局と対立する[3]。以後、語り手とともに墓地や死体安置所から新鮮な死体を秘密裏に入手しては地下実験室で蘇生実験を重ねるが、蘇生に成功した死体はいずれも理性を失い、獣的で暴力的な存在と化した[4]。特に第2話「疫病の悪魔」では、ボルトンの町を襲ったチフスの流行に乗じて新鮮な死体を大量に確保し実験を重ねる過程で、地元のボクサー崩れの死体を蘇生させてしまい、これが後年まで尾を引く災厄の種となる。
第一次大戦期(第5話「影からの恐怖」)には、カナダ軍の従軍外科医としてフランドルの戦場に身を置き、負傷者が絶えない環境を利用して人体の部位単位——特に生きた頭部と胴体を切り離した状態——での蘇生実験にまで手を染めた。この段階でウェストは、部隊随一の外科医であった親友クラファム=リー少佐の首なき遺体を奪い取り、実験台に載せている[5]。戦場という混乱状況が、大学という文明的な監視の目から彼を完全に解き放ち、実験はもはや歯止めを失っていた。
他の人物・存在との関係
物語全編は、ウェストの唯一の協力者であり続けた無名の語り手(本人)の一人称回想として綴られる。語り手は当初こそウェストの理論に学問的関心から協力するが、実験の凄惨さに次第に恐怖と疑念を深めていく、いわば読者の視点を代弁する存在である。第一次大戦の戦友であったクラファム=リー少佐は、死してなお首だけの状態で蘇生させられ、物語終盤でウェストに復讐する「成果」たちの首魁となる、因縁の深い人物である[5]。
主要登場作と読みどころ
- 「闇より」(第1話): 医学生時代、レアジェントの理論と最初の蘇生実験(農夫の死体)が失敗に終わる場面。ウェストの信念と語り手の逡巡が初めて示される
- 「疫病の悪魔」(第2話): ボルトンのチフス流行に乗じた実験で、後年まで因縁を残すボクサーの死体を蘇生させてしまう
- 「影からの恐怖」(第5話): 第一次大戦の戦場を舞台に、頭部と胴体を分離した状態での蘇生という、シリーズ最も凄惨な実験が描かれる
- 「墓の軍勢」(第6話): 過去にウェストが手を下した「成果」たちが結集し、彼を地下墓所へ引きずり込んで消息を絶たせる衝撃の結末[6]
よくある誤解
Q. ウェストは映画版(1985年『ZOMBIO/死霊のしたたり』)のような狂気的マッドサイエンティストとして原作でも描かれているのですか?
A. 原作での彼は終始「冷静で物静かな」人物として描かれ、感情の昂ぶりを見せる場面はほとんどありません。恐怖の演出は彼の外見の平静さと行為の凄惨さの落差によるところが大きく、映画版のような誇張されたマッドサイエンティスト像は翻案側の解釈です。
Q. ウェストの最期はどのように描かれていますか?
A. 第6話「墓の軍勢」で、過去に蘇生させた「成果」たちが仮面をつけた集団としてウェストの元へ現れ、彼を八つ裂きにして地下の納骨堂へ運び去ります。首はクラファム=リーの成れの果てと思われるカナダ軍将校の制服を着た仮面の指導者が持ち去ったとされます[6]。
出典
- [1] “I have said that West’s fixed pallor was owing to his life-work…”(ウェストの生涯の研究への言及、蘇生理論の根幹) — H. P. Lovecraft, “Herbert West—Reanimator”(1921–1922年執筆/1922年発表), 公式アーカイブ ↩
- [2] “a small, slender, spectacled youth with delicate features, yellow hair, pale blue eyes, and a soft voice”(訳: 「小柄で華奢、眼鏡をかけ、繊細な顔立ち、黄色い髪、淡い青の瞳、物静かな声の青年」) — 同上, 公式アーカイブ ↩
- [3] “artificial reanimation of the dead can depend only on the condition of the tissues; and that unless actual decomposition has set in, a corpse fully equipped with organs may with suitable measures be set going again”(訳: 「死者の人工的な蘇生は組織の状態のみに左右され、実際に腐敗が始まっていなければ、器官の揃った死体は適切な処置により再び動き出せるはずだ」) — 同上, 公式アーカイブ ↩
- [4] “The results of partial or imperfect animation were much more hideous than were the total failures, and we both held fearsome recollections of such things.”(訳: 「不完全な蘇生の結果は、完全な失敗よりもはるかに忌まわしいものであり、私たちは二人ともそうしたものについての恐ろしい記憶を抱えていた」) — 同上, 公式アーカイブ ↩
- [5] “Major Sir Eric Moreland Clapham-Lee, D.S.O., was the greatest surgeon in our division… West had greedily seized the lifeless thing which had once been his friend… and proceeded to treat the decapitated body on the operating table.”(訳: 「エリック・モーランド・クラファム=リー少佐は、我が師団随一の外科医であった……ウェストはかつて友であったその物言わぬ亡骸を貪欲に奪い取り……手術台の上でその首なき遺体の処置に取りかかった」) — 同上, 公式アーカイブ ↩
- [6] “Then they all sprang at him and tore him to pieces before my eyes, bearing the fragments away into that subterranean vault of fabulous abominations. West’s head was carried off by the wax-headed leader, who wore a Canadian officer’s uniform.”(訳: 「そして彼らは一斉に彼へ飛びかかり、私の目の前で彼を八つ裂きにし、その断片を、あの地下にある忌まわしきものたちの納骨堂へと運び去った。ウェストの首は、カナダ軍将校の制服をまとった蝋のような頭部の指導者が持ち去った」) — 同上, 公式アーカイブ ↩





