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導入——「一冊の本」ではなく「その場で立ち上がる物語」
小説やマンガは、作者があらかじめ書き上げた物語を読者が追体験するものです。TRPG(テーブルトークRPG)はそれとは根本的に違います。誰も結末を知らないまま、参加者の会話とダイスの偶然が積み重なって、その場でしか存在しない一回きりの物語が立ち上がっていく——それがTRPGという遊びの本質です。
このページでは、クトゥルフ神話に限らない一般的なジャンルとしての「TRPGとは何か」を整理します。クトゥルフ神話TRPGそのものの特徴については「クトゥルフ神話TRPGとは」で扱っているので、そちらもあわせてご覧ください。
TRPGの定義と語源
TRPG(テーブルトークRPG)は和製英語です。英語圏では tabletop RPG(TTRPG)、あるいは pen-and-paper RPG と呼ばれます。「テーブルを囲んで、会話(トーク)によって進行する」という日本での遊ばれ方の特徴が、そのまま呼び名になりました。
コンピューターゲームのRPG(CRPG、後述)と区別するために、日本では「TRPG」という呼称が定着しています。
基本要素——進行役+プレイヤー+キャラクターシート+ダイス
TRPGは、おおむね次の要素の組み合わせで成立します。
- 進行役:物語の舞台・状況を説明し、プレイヤーキャラクター以外の登場人物や敵を担当する役割。呼び名はゲームによって異なり、「ゲームマスター(GM)」「ダンジョンマスター(DM)」「キーパー(KP)」など様々です
- プレイヤー:各自1人のキャラクター(プレイヤーキャラクター、PC)を担当し、その視点で「何をするか」を宣言します
- キャラクターシート:担当するキャラクターの能力値・技能・所持品などを記録した紙(またはデジタルツール)
- ダイス判定:行動が成功するかどうかを、キャラクターの能力値・技能値とダイスの出目で判定します。使うダイスの種類や判定方式はゲームによって異なります(20面ダイスで一定値以上を出す方式、100面相当のパーセンタイル判定で一定値以下を出す方式など)
進行役があらかじめ用意するのは「シナリオ」——事件の発端、舞台、登場人物、想定される展開の骨格です。ただし小説の筋書きとは違い、プレイヤーがどう動くかによって実際の展開は大きく変わります。
一回の遊びの流れ
TRPGを1本のシナリオ通して遊ぶことを、一般に「セッション」と呼びます。おおよそ次のように進みます。
- キャラクター作成/選択:プレイヤーがキャラクターシートを作る、または用意されたキャラクターを選ぶ
- 導入:進行役が物語の入り口(依頼・事件など)を説明する
- 展開:プレイヤーが探索・交渉・戦闘などの行動を宣言し、ダイス判定を交えながら物語が進む
- クライマックス:物語の山場。重要な判定や決断がここに集中することが多い
- 結末:成功・失敗を含め、物語に一応の区切りがつく
所要時間はシナリオによって様々で、数時間で完結するものもあれば、複数回に分けて遊ぶ長編キャンペーンもあります。
似て非なるもの——ボードゲーム・LARP・CRPGとの違い
- ボードゲーム:盤面・コマ・カードなど、あらかじめ定められたルールの範囲内で行動が完結します。TRPGは進行役がその場で状況を裁定するため、原理上は行動の選択肢が無限に近く、自由度が本質的に高いという違いがあります
- LARP(ライブアクションロールプレイ):参加者が実際に衣装を身につけ、身体を動かして「その場で演じる」実演型のロールプレイです。TRPGは基本的にテーブルに座ったまま、会話と想像で物語を進めます
- CRPG(コンピュータRPG):ルールの判定や物語の分岐をプログラムが処理します。分岐は開発時にあらかじめ用意された範囲に限られますが、TRPGは人間の進行役がその場でリアルタイムに状況を作り、プレイヤーの想定外の行動にも応答できます[1]
起源——1974年の『ダンジョンズ&ドラゴンズ』
TRPGというジャンルの起点は、1974年にアメリカで発売された『ダンジョンズ&ドラゴンズ(D&D)』初版とされています。ゲイリー・ガイギャックス(Gary Gygax)とデイヴ・アーンソン(Dave Arneson)が制作し、ガイギャックスの会社TSR(Tactical Studies Rules)から刊行されました[2]。
D&Dの直接の母体は、中世を舞台にしたミニチュア・ウォーゲームでした。多数の駒を動かす戦争ゲームから、「1つの駒=1人のキャラクターを演じる」という個人視点を切り出し、そこにファンタジー世界観を組み合わせたことが、TRPGというジャンルを生み出す転換点になったとされています[3]。
D&Dが確立した能力値・キャラクタークラス・レベル・ダイス判定といった基本概念は、以後の無数のTRPGだけでなく、コンピューターゲームのRPGというジャンルの設計にも大きな影響を与えました[3]。
そしてクトゥルフ神話TRPGへ
D&Dが切り拓いたのは、剣と魔法のファンタジー世界で「怪物を倒し、宝を得て、強くなる」ことを目的とするタイプのTRPGでした。その7年後の1981年、全く逆方向の設計思想を持つTRPGが登場します。「勝つ」のではなく、「正気を保ったまま、人智を超えた恐怖の真相にどこまで迫れるか」を主題に据えた、クトゥルフ神話TRPGです。
クトゥルフ神話TRPGがどのような特徴を持ち、なぜホラーというジャンルが卓上ゲームとして成立し得たのかは、「クトゥルフ神話TRPGとは」で詳しく扱います。
出典
- [1] “The involvement of a skilled Gamemaster allows a degree of responsiveness and flexibility in the creation of story which is difficult to achieve in single player Computer Role Playing Games.”(訳: 熟練した進行役の関与は、単独プレイのコンピュータRPGでは実現しにくい、物語創出における即応性と柔軟性をもたらす) — *The Encyclopedia of Science Fiction*、”Role Playing Game” 項(編者 John Clute & David Langford), sf-encyclopedia.com ↩
- [2] “Dungeons & dragons, Rules for Fantastic Medieval Wargames, by Gary Gygax and Dave Arneson, edited by Tactical Studies Rules (1974)”(訳: 『ダンジョンズ&ドラゴンズ——幻想的な中世ウォーゲームのルール』、ゲイリー・ガイギャックスとデイヴ・アーンソン著、Tactical Studies Rules刊、1974年) — フランス国立図書館(BnF)公式 “Dungeons & Dragons: When Wargames Are Inspired by Fantasy”, fantasy.bnf.fr ↩
- [3] “It was also the very first one.”(訳: それ[ダンジョンズ&ドラゴンズ]は、最初のテーブルトークRPGでもあった) / “in 1971, Gary Gygax decided to create a wargame set in the Middle Ages: Chainmail.”(訳: 1971年、ゲイリー・ガイギャックスは中世を舞台にしたウォーゲーム『チェインメイル』の制作を決めた) / “The Gygax/Arneson tandem’s creation also had an impact on the nascent video-game industry, inspiring dnd (1975) and Akalabeth: World of Doom (1979) by Richard Garriott, who went on to launch the Ultima series.”(訳: ガイギャックスとアーンソンによるこの創作は、黎明期のビデオゲーム業界にも影響を与え、『dnd』(1975年)や、後にUltimaシリーズを生み出すリチャード・ギャリオットの『Akalabeth: World of Doom』(1979年)に着想を与えた) — フランス国立図書館(BnF)公式 “Dungeons & Dragons: When Wargames Are Inspired by Fantasy”, fantasy.bnf.fr ↩



