ボードゲーム(1〜2人・2026年9月発売予定) — Masks of Nyarlathotep: A Call of Cthulhu Board Game

Masks of Nyarlathotep: A Call of Cthulhu Board Game

スペインのLudonovaが、CoC屈指の長編キャンペーン『マスクス・オブ・ナイアーラトテップ』(666ページ・世界5大陸)を題材にしたボードゲームを2026年9月に発売する。ケイオシアム自身が手がけた先行事例『Horror on the Orient Express』ボードゲーム版と並べると、「誰が作るか」と「原作のどこを土台にするか」という二つの軸で対照的な選択が見えてくる。

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新潮文庫『インスマスの影 クトゥルー神話傑作選』(南條竹則編訳)。題名の由来であるナイアルラトホテップをラヴクラフト自身が書いた散文詩「ニャルラトホテプ」を収録している。

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概要

ドイツの正規流通元Pegasus Spiele(フリードベルク)の公式商品ページによれば、スペインのボードゲーム出版社Ludonova(LUDONOVA S.L.、コルドバ)が開発した『Masks of Nyarlathotep – A Call of Cthulhu Board Game』が、同ページ上で2026年9月30日付でカタログ登録されている。価格は70.00ユーロ(税込・送料別)、対象年齢は14歳以上、プレイ人数は1〜2人、プレイ時間は90分以上、言語は英語版のみで、EANは0793588575588、型番はLDNV5301である[1]。ページには「voraussichtlich erhältlich ab September 2026(2026年9月から入手可能見込み)」とあり、9月中の発売を前提に予約を受け付けている[1]。

一方、英国Asmodee UKの公式商品ページには、同じ商品名で型番LDNVMINの版が掲載されており、価格67.49ポンド(希望小売価格)、プレイ人数1〜2人、対象年齢14歳以上までは一致するものの、プレイ時間は60分、外箱寸法も23.0×31.0×6.5cmとPegasus版(25.5×29.5×9cm)より小さく記載されている[2]。同一タイトルの下に型番の異なる二つの商品情報が並立しており、この食い違いが版の違いによるものか表記の誤りによるものか、当サイトでは確認できていない。

開発元Ludonova自身の公式サイトには、本作単独の商品ページを本稿執筆時点で見つけられなかった(推測でURLを組み立てて404になったものを含め、複数のURLパターンで確認済み)。同サイトのトップページに埋め込まれたInstagram投稿の中に、2026年の発売ラインナップの一つとして本作の名が挙がっているにとどまる[3]。

どんな作品か

Ludonova自身の詳細な説明文は、本稿で確認できたページの範囲では見つからなかった。編集体制を持つスペイン語のボードゲームメディアConsola y Tableroが2026年2月13日付の記事で伝えるところによれば、本作は「接続されたシナリオを持つナラティブキャンペーン(campaña narrativa con escenarios conectados)」であり、カード形式のリソース管理システムを採用しているという。同記事はデザイナーをGermán P. MillánとJuan Luqueの2名、イラストをPablo de la Rosaが担当すると記し、原作TRPG『クトゥルフの呼び声』のキャンペーンに着想を得ていると説明している[4]。ただし同記事自体、「Ludonova no ha todavía dado fechas exactas(Ludonovaはまだ正確な日程を発表していない)」と2026年2月時点での情報の限界を明記しており、当サイトはこれをLudonova自身の公式発表ではなく二次情報として扱う。

原作となるTRPGキャンペーン『Masks of Nyarlathotep』は、ケイオシアム公式商品ページによれば1984年に初版が刊行され、現行版はハンドアウト類を含めて666ページ、スリップケースにまとめられた2巻構成である。調査員は「失われたカーライル探検隊(the lost Carlyle Expedition)」の手がかりを追い、ペルー・ニューヨーク・エジプト・ケニアなど世界の複数地域を巡ることになる。現行版の担当としてLarry DiTillio、Lynn Willis、Mike Mason、Lynne Hardy、Paul Fricker、Scott Dorwardの名が挙げられている[5]。当サイトの既存記事でも、1984年初版・2018年第7版刷新・2巻本600頁超という基本情報とあわせて、ニューヨークの富豪焼死事件を発端に投資家一族の依頼でエジプト・ケニア・上海・オーストラリア・ペルーなど世界5大陸を巡る展開、ENnie賞受賞歴、GM側の準備負担が大きく初心者向けではないとされる点を確認している[6]。

二つの継承者——「誰が作るか」という違い

同じ2026年、ケイオシアムは自社のTRPGキャンペーン『Horror on the Orient Express』を題材にした協力型ボードゲームを、自ら発売元として9月30日に一般発売する[8]。デザイナーはアダム・クワピンスキとMichał Gołąb Gołębiowskiの2名で、ケイオシアム自身が公式ブログでデザイン日記を連載し、開発の経緯を逐一公開してきた[8]。

対して本作『Masks of Nyarlathotep』のボードゲーム版は、ケイオシアムではなくスペインのLudonovaという第三者が、ライセンスを得て開発したものである。Ludonova自身が権利関係を明言した文章は本稿では見つけられず、ケイオシアム公式サイト上にもLudonovaへの言及は確認できなかった。同じ「CoCの長編キャンペーンをボードゲーム化する」という営みでありながら、一方は版元自身の直系プロジェクトとして制作過程まで公開され、もう一方は外部の出版社による、詳細不明な部分を多く残したまま発売日を迎えようとしている。この透明度の差そのものが、二つの企画を比べるときにまず目につく違いだ。

何を土台に選んだか——カーライル探検隊という「核」の扱い

もう一つの違いは、原作のどの部分を土台に選んだかという点にある。『Horror on the Orient Express』のボードゲーム版は、デザイナー自身がデザイン日記で明かした通り、19本のシナリオ・千マイルの行程を丸ごと再現するのではなく、番外編として組み込まれていた「ドリームランドを舞台にした番外シナリオ」だけを物語の土台に据えた[8]。本編のロンドンからコンスタンティノープルへ向かう捜査劇そのものは、ボードゲーム版では前提としてしか扱われていない。

Consola y Tableroが伝える限りで見ると、本作『Masks of Nyarlathotep』のボードゲーム版は、これとは逆の選択をしているように読める。同記事は本作を「クトゥルフの呼び声の冒険に着想を得た」ナラティブキャンペーンとしか説明しておらず、詳細な機構は不明だが、少なくとも作品名そのものが原作キャンペーンの題名をそのまま引き継いでいる点は確認できる[4]。原作の核をなす「カーライル探検隊」という謎が、ボードゲーム版でもプレイヤーが追う中心的な謎として維持されているのか、それとも『Horror on the Orient Express』のように周辺エピソードの一つだけを切り出したものなのかは、本稿で参照できた資料からは判別できない。この一点を確認できないまま、二作を「同じ手法の二例」と単純に並べることは避けたい。

原典との距離(神話の三層のどこに立つか)

本作が題材とする「ナイアーラトホテプ」という存在自体は、当サイトの既存記事で確認した通り、ラヴクラフトが1920年に執筆し同年11月にアマチュア文芸誌The United Amateurで発表した散文詩「Nyarlathotep」が初登場作品であり、第1層(原典)に属する[7]。この散文詩でのニャルラトホテプは、エジプトから来たと名乗る謎の人物として都市を巡り、不可解な実演の末に文明の終焉を思わせる幻視へ観客を引き込む存在として描かれた。

そこから60年余りを経て、TRPGキャンペーン『Masks of Nyarlathotep』(1984年)が、この存在をカーライル探検隊をめぐる世界規模の陰謀の黒幕として再構成した。当サイトの区分に沿えば、これは第3層(TRPGによる拡張)にあたる。原典の散文詩が一つの都市を巡る幻視だったのに対し、TRPG版はペルー・ニューヨーク・エジプト・ケニアなど複数大陸を股にかけた666ページの捜査劇へと規模を拡大している。

そして本作のボードゲーム版は、さらにその先に位置する。第3層のキャンペーンを土台に、今度は版元とは別の第三者Ludonovaが1〜2人・90分程度で完結する形へ再構成した、いわば第3層から派生した孫世代の作品である。原典の散文詩からは二段階、TRPG版からは一段階離れた位置に立っていることになる。

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出典

  • [1] Pegasus Spiele公式商品ページ「Masks of Nyarlathotep – A Call of Cthulhu Board Game」(2026年9月11日確認)。開発元がLudonova(LUDONOVA S.L.、スペイン・コルドバ)、販売元がPegasus Spiele Verlags- und Medienvertriebsgesellschaft mbH(独・フリードベルク)であること、価格70.00ユーロ(税込・送料別)、対象年齢14歳以上、プレイ人数1〜2人、プレイ時間90分以上、言語英語版のみ、EAN 0793588575588・型番LDNV5301であること、「Im Sortiment seit: 30.09.2026」「voraussichtlich erhältlich ab September 2026」の記載があることを確認。詳細な商品説明文はページ上に掲載されていない。https://pegasus.de/Masks-of-Nyarlathotep-A-Call-of-Cthulhu-Board-Game/LDNV5301 ↩
  • [2] Asmodee UK公式商品ページ「Masks of Nyarlathotep」(2026年9月11日確認)。パブリッシャーLudonova、価格67.49ポンド(希望小売価格)、対象年齢14歳以上、プレイ人数1〜2人、プレイ時間60分、商品コードLDNVMIN、外箱寸法23.0×31.0×6.5cmであることを確認。Pegasus Spiele版(型番LDNV5301)との仕様の不一致は当サイトでは解消できていない。https://www.asmodee.co.uk/products/ldnvmin-masks-of-nyarlathotep ↩
  • [3] Ludonova公式サイト(2026年9月11日確認)。スペイン・コルドバを拠点とするボードゲーム出版社であること、トップページのInstagram埋め込み欄に「Lanzamientos 2026: Dice Arcana, Mascaras de Nyarlathotep, The Revenge of the Seven Dwarfs, Watson and Holmes 2, Green Gold」と2026年発売ラインナップの一つとして本作が挙げられていることを確認。単独の商品ページは同サイト上で見つけられなかった。https://ludonova.com ↩
  • [4] Consola y Tablero「Ludonova: un repaso por sus juegos de mesa para 2026」(2026年2月13日、2026年9月11日確認)。編集体制を持つスペイン語ボードゲームメディア。デザイナーがGermán P. MillánとJuan Luque、イラストをPablo de la Rosaが担当すること、プレイ人数1〜2人であること、「接続されたシナリオを持つナラティブキャンペーン」でカード形式のリソース管理を採用すること、原作TRPG『クトゥルフの呼び声』の冒険に着想を得ていること、発売日は本稿執筆時点で未発表であることの記載を確認。https://consolaytablero.com/2026/02/13/ludonova-juegos-de-mesa-2026/ ↩
  • [5] Chaosium Inc.公式商品ページ「Masks of Nyarlathotep – Slipcase Set」(2026年9月11日確認)。TRPGキャンペーンの初版が1984年刊行であること、現行版が666ページ(ハンドアウト等含む)・スリップケース2巻構成であること、舞台がペルー・ニューヨーク・エジプト・ケニアなど世界複数地域にまたがること、「the lost Carlyle Expedition」の手がかりを追う設定であること、現行版の担当としてLarry DiTillio、Lynn Willis、Mike Mason、Lynne Hardy、Paul Fricker、Scott Dorwardの名が記載されていることを確認。https://www.chaosium.com/masks-of-nyarlathotep-slipcase-set/ ↩
  • [6] 当サイト「マスクス・オブ・ナイアーラトテップ」記事(https://shinenshoka.com/reviews/masks-of-nyarlathotep/)。1984年初版・2018年第7版刷新・2巻本600頁超という基本情報、ニューヨークの富豪焼死事件を発端に投資家一族の依頼でエジプト・ケニア・上海・オーストラリア・ペルーなど世界5大陸を巡る展開、ENnie賞受賞歴、GM側の準備負担が大きく初心者向けではないとされる点の記載を確認。 ↩
  • [7] 当サイト「ナイアーラソテップ」記事(https://shinenshoka.com/lovecraft/nyarlathotep-prose-poem/)。ラヴクラフトの散文詩「Nyarlathotep」が1920年執筆・同年11月にアマチュア文芸誌The United Amateurで発表された、ニャルラトホテプの初登場作品であることの記載を確認。 ↩
  • [8] 当サイト「Horror on the Orient Express: The Board Game」記事(https://shinenshoka.com/reviews/horror-on-the-orient-express-board-game/)。ケイオシアム自身が発売元であり2026年9月30日に一般発売予定であること、デザイナーがアダム・クワピンスキとMichał Gołąb Gołębiowskiであること、ボードゲーム版が原作19シナリオのうち「ドリームランドを舞台にした番外シナリオ」だけを物語の土台に据えたことの記載を確認。 ↩

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