小説 — The Secret of Kralitz

クラーリッツの秘密

クラーリッツ家当主の座を継いだ青年が、死後に不死の怪物として蘇るという一族の宿命を知る。カットナーの神話デビュー作。

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クラーリッツの秘密

「深い眠りから目覚めると、黒衣に身を包んだ二つの人影が、物も言わず私の傍らに立っていた。その顔は闇の中で青白くぼやけて見えた。」

— ヘンリー・カットナー「クラーリッツの秘密」(Weird Tales、1936年10月号)冒頭部

概要

クラーリッツ家当主の座を継いだ青年が、代々の当主に伝わる恐るべき秘密――死後に不死の怪物として蘇るという一族の宿命――を知る一編。ヘンリー・カットナーが「ウィアード・テイルズ」誌1936年10月号に発表した実質的な神話デビュー作であり、独自神イオドの初出でもある[3]。父の死という個人的な喪失から始まり、一族全体を巻き込む宇宙的恐怖へと視野が広がっていく展開は、貴族の家系という古典的なゴシック要素を神話的恐怖と結びつけた一例である。

作品情報

  • 原題: The Secret of Kralitz
  • 執筆・発表年: 1936年発表(「ウィアード・テイルズ」誌10月号)
  • 主題タグ: 貴族の家系に伝わる恐るべき秘密、死後に迎える不死の秘儀、独自神イオドの初出

登場神格・用語

あらすじ

クラーリッツ家第21代当主フランツは、父の死に際し家系に伝わる恐るべき秘密の存在を知らされる。父の死の床にはローブ姿の黒衣の人影が忽然と現れ、フランツを地下の秘儀へと呼び寄せる[1]。案内人に導かれ、城の地下に広がる巨大な洞窟へ降りると、そこには代々の当主たちが亡者となって集う饗宴が行われていた。彼らはフランツを一族の仲間として迎え入れ、酒杯を交わしながら、冷たく暗いユゴス星に棲む菌類じみた異形の存在、海底都市に潜む不眠のクトゥルフに付き従う無数の姿、地底に潜むヨグ=ソトースの信奉者が味わうという異様な快楽、そして銀河の彼方で「源なるイオド」がいかに崇拝されているかを、フランツに語り聞かせる[2]。地上に戻ったフランツは、自分の名が刻まれた空の石棺を発見し、クラーリッツ家の当主は死後にのみ真の秘儀に入信し不死の怪物として蘇るという逃れられない運命を悟る。

フランツを地下の饗宴へ先導したのは、頬に大きな傷跡を持つ髭の男だった。饗宴の終わり、彼は「だが、お前こそ真のクラーリッツだ、フランツよ。我らはまた会おう、また祝宴を開こう、お前が思うより長く」とフランツに最後の乾杯を促し、フランツもまた「クラーリッツの家に――永遠に滅びぬことを!」と唱和して杯を干す[4]。案内を終えた男は「私は自分の場所へ戻らねばならない」とだけ告げて姿を消す。歴代の当主たちの棺は、最も古い代から順に、まるで首飾りの珠のように連なって並んでおり、フランツはまだ誰も入っていない空の納骨堂の奥へと導かれていた[5]――この棺の連なりの奥に、フランツ自身の名を刻んだ棺が既に用意されていたという事実が、物語最後の一撃になっている。

読みどころと注目テーマ

代々の当主が亡者として集う地下の饗宴、逃れられない一族の宿命という構成、ユゴスへの言及による本流神話との接続――特に、恐怖の対象である地下の秘儀そのものにフランツが酒杯を交わして加わってしまう場面は、被害者が同時に加害者側へ組み込まれていくという、単純な怪奇談を超えた不穏さを生んでいる。ユゴス・クトゥルフ・ヨグ=ソトースといったラヴクラフト本流の固有名詞を惜しみなく織り込みながら、イオドという独自神を新たに提示する手つきは、若きカットナーが神話体系に参入しようとする野心をよく示している。フランツが最後に目にする、自分の名が刻まれた空の石棺という小道具も効果的で、一族の宿命がすでに自分のために準備されていたことを、言葉ではなく物証によって突きつける結末の付け方は、カットナーの新人離れした構成力を感じさせる。

執筆背景と影響

カットナーの実質的な神話デビュー作であり、独自神イオドの初出。ユゴスへの言及によりラヴクラフト本流神話との直接的な接続点を持つ点で、単なる模倣に留まらない神話体系拡張の起点として評価される。当時20歳前後の新人作家であったカットナーが、既存の神話体系に接続しつつ自分自身の独自神を提示するという二段構えの戦略を初作から採っていたことは、彼が単なる模倣者としてではなく、体系の拡張者として神話に参入しようとしていたことをうかがわせる。カットナーはこの後まもなく1936年に「ウィアード・テイルズ」誌へ「墓場の鼠」を売り込んで文筆家としての足場を固め、後にラヴクラフト・サークルの一員であったC・L・ムーアと出会い結婚することになるが、その出発点は本作を含む1936年の神話系作品群にあったとされる[3]

出典

  • [1] “I awoke from profound sleep to find two black-swathed forms standing silently beside me, their faces pale blurs in the gloom.”(訳: 「深い眠りから覚めると、黒い布に身を包んだ二つの人影が、無言のまま私のかたわらに立っていた。その顔は薄闇の中で青白くぼやけて見えた」) — Henry Kuttner, “The Secret of Kralitz”(Weird Tales、1936年10月号)冒頭, Project Gutenberg #32584
  • [2] “I learned of the fungoid, inhuman beings that dwell on far cold Yuggoth, of the cyclopean shapes that attend unsleeping Cthulhu in his submarine city, of the strange pleasures that the followers of leprous, subterranean Yog-Sothoth may possess, and I learned, too, of the unbelievable manner in which Iod, the Source, is worshipped beyond the outer galaxies.”(訳: 「私は、遠く冷たいユゴスに棲む菌類じみた異形の存在たちのことを、海底都市で不眠のクトゥルフに付き従う無数の巨大な姿のことを、地底に潜む病んだヨグ=ソトースの信奉者たちが味わうという異様な快楽のことを、そして『源』たるイオドが外宇宙の彼方でいかに信じがたい仕方で崇拝されているかを学んだ」) — 同上、地下の饗宴の場面, Project Gutenberg #32584
  • [3] カットナーは1936年初頭に「墓場の鼠」を「ウィアード・テイルズ」誌へ売り込んでデビューし、同年のうちに本作「The Secret of Kralitz」(1936年10月号)で独自神イオドを導入した。後にラヴクラフト・サークル(ラヴクラフトと文通していた作家・ファンの集まり)を通じてC・L・ムーアと知り合い、結婚することになる。— 出典: Wikipedia「Henry Kuttner」の経歴・書誌の項, 該当ページ
  • [4] “But you are a true Kralitz, Franz, and we shall meet again, and feast again, and make merry for longer than you think. One last pledge!”―“To the House of Kralitz! May it never fall!”(訳: 「だが、お前こそ真のクラーリッツだ、フランツよ。我らはまた会おう、また祝宴を開こう、お前が思うより長く。最後の乾杯だ!」――「クラーリッツの家に――永遠に滅びぬことを!」) — Henry Kuttner, “The Secret of Kralitz”(Weird Tales、1936年10月号)、饗宴の結びの場面, Project Gutenberg #32584
  • [5] “Each Baron had been placed in his stone casket in his separate chamber, and each chamber lay, like beads on a necklace, adjacent to the next, so that we proceeded from the farthermost tombs of the early Barons Kralitz toward the unoccupied vaults.”(訳: 「代々の男爵はそれぞれ石棺に納められ、各々の部屋は首飾りの珠のように隣り合って連なっており、我々は最も古い代のクラーリッツ男爵たちの墓所から、まだ誰も入っていない空の納骨堂へと進んでいった」) — 同上、地下墓所の場面, Project Gutenberg #32584
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