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その光その翼~アザトースの遺産~

シリアスADV『その光その翼~アザトースの遺産~』を解説。

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概要

『その光その翼~アザトースの遺産~』は、同人サークル「Tの弐乗」が2013年1月に発売したシリアス系アドベンチャーゲームです。主人公の如月冬馬は、小学生の頃に原因不明の病で倒れて以来、長い入院生活を送ってきた少年。北海道の山奥にある総合病院へ転院した彼は、父の友人であるマーカス、そして謎めいた美少女ユイと出会い、閉ざされていた心が少しずつ救われていきます。しかし彼に残された時間は確実に刻まれており、やがて隠された秘密が明かされるとき、静かな療養の日々は「巨大な事件」へと変転していきます。DLsiteでの評価は★4.1前後(2026年7月時点)。タイトルに神話最高位の神格の名を掲げながら、物語の入口は難病ものの人間ドラマという、ギャップの大きな構成が印象的な作品です。

クトゥルフ神話との関係

タイトルに名を刻むアザトースは、クトゥルフ神話体系の中枢に位置する「万物の王」であり、宇宙の中心で白痴のように泡立ち冒涜の言葉を呟く盲目の神として描かれる存在です。ラヴクラフト自身は同名の断章『アザトース』や『未知なるカダスを夢に求めて』などでこの神格に触れており、「すべての根源にありながら、意味も目的も持たない」という点で宇宙的恐怖の極点をなしています。本作はその名を「遺産」という言葉と結びつけることで、根源的存在から人間の側へ何かが受け渡されてしまったら、という発想を物語の核に据えています。原因不明の病、常人と異なる出自を思わせる少女、雪深い土地に隔離された病院という道具立ては、血筋と継承の恐怖——『インスマウスを覆う影』や『ダンウィッチの怪』が描いた「受け継がれてしまうもの」の主題——のバリエーションとして読むことができます。

独自の要素・原典との違い

原典のアザトースは人格も意志も持たない「盲目にして白痴の神」であり、物語の登場人物として振る舞うことはほとんどありません。それゆえにアザトースを冠する派生作品は、神格そのものを出すのではなく「その力や血脈の断片が人間界に及ぼす影響」を描く形を取ることが多く、本作もその系譜に連なります。特徴的なのは、物語の重心が恐怖ではなく切なさに置かれていることです。余命を意識する少年と謎の少女の交流という、いわゆる泣きゲー的な感情曲線の先に神話的な真実を配置しており、宇宙的存在の無慈悲さが人間ドラマの悲劇性を増幅する装置として機能しています。絶望のための神話ではなく、限りある生の輝きを照らすための神話という使い方は、2000年代〜2010年代初頭の同人ビジュアルノベルらしいアプローチであり、「アザトースの名を冠した泣き系ADV」という取り合わせの珍しさだけでも一見の価値がある作品です。

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