書籍(TRPGアドベンチャーバンド・ドイツ語版、2026年8月10日発売、ソフトカバー80頁、14.95ユーロ) — Cthulhu: Der Mythos weltweit – Nepal & Japan

Cthulhu: Der Mythos weltweit – Nepal & Japan

ドイツPegasus Spieleが2026年8月10日に発売する『Cthulhu: Der Mythos weltweit – Nepal & Japan』は、ネパールと東京を舞台にした2本の新シナリオを収める。東京編「Großblütig」は、パリ留学中の日本人画家が見つけた「宇宙由来の色」が寄生生物として彼の身体を乗っ取り、夜の東京を徘徊しながら人間の生命力を吸うという筋で、ラヴクラフト「宇宙からの色」の核にある「名状しがたい色」を、土地に染み込む拡散した脅威から一体の追跡可能な怪物へと作り替えている。

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新潮文庫『インスマスの影 クトゥルー神話傑作選』(南條竹則編訳)。日本編シナリオが着想元とみられる「宇宙からの色」を「異次元の色彩」の題で収録している。

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概要

ドイツのPegasus Spieleは2026年9月4日、公式ニュースページ「Cthulhu breitet sich weiter aus」で、TRPG『クトゥルフの呼び声』ドイツ語版のブランド「Cthulhu」から2026年後半に4冊を投入すると発表した[1]。当サイトが各商品ページで個別に確認した仕様は次の通りである。

  • Der Mythos weltweit – Nepal & Japan(ソフトカバー、40129G)。発売日2026年8月10日、80頁、14.95ユーロ(デジタル版9.95ユーロ)、ISBN 9783969281703。ネパールと日本を舞台にした2本のシナリオを収録する[2]。
  • Regency Cthulhu(ハードカバー、40131G)。発売日2026年8月10日、216頁、29.95ユーロ(デジタル版19.95ユーロ)、ISBN 9783969281741。1811年から1820年の英国摂政時代を舞台とし、架空都市Tarryfordを1813年と1913年の二時代で扱う。通常調査者6体とPulp Cthulhu用調査者6体、計12体の事前製作済みキャラクターを含む[3]。
  • Von Staub verborgen(ソフトカバー、40132G)。発売日2026年9月3日、84頁、14.95ユーロ(デジタル版9.95ユーロ)、ISBN 9783969281840。ベルリンのプロイセン国立図書館、ニュルンベルクのゲルマン国立博物館、ワイマールのアンナ・アマーリア公爵夫人図書館を舞台にした3本のシナリオを収める[4]。
  • Unter die Haut(ハードカバー、40133G)。発売日2026年10月予定、176頁、29.95ユーロ、ISBN 9783969281710。「宇宙的恐怖が世界だけでなく自分自身の身体・精神・魂を脅かす」ボディホラーに特化した7本のシナリオ集で、公式ページ自身が「強いボディホラー表現を含む」との注意書きを添えている[5]。

発売日は『Der Mythos weltweit – Nepal & Japan』と『Regency Cthulhu』が2026年8月10日で重なり、『Von Staub verborgen』が9月3日、『Unter die Haut』が10月予定と続く[2][3][4][5]。本稿では、このうち日本を舞台にした唯一の一編を収める『Der Mythos weltweit – Nepal & Japan』を中心に扱う。

どんな作品か

商品ページの説明文は、本書全体の趣旨を「新しいもの、非日常的なものへの憧れは、人をいつの時代も異国や異なる大陸へと駆り立ててきた」という一文で始め、この巻が調査者たちをネパールと日本へ導くとする[2]。収録される2本のシナリオの概要は次の通りである。

「Mein eigen Fleisch und Blut」(ネパール編)。舞台はカトマンズ。数年にわたり若い女性が失踪する事件が続いており、現地の住民が調査者に助けを求める。背景には年に一度の蛇祭りを主催する蛇司祭がおり、彼はYigを奉じる教団の指導者として、カトマンズ盆地の地下に眠る蛇人間を目覚めさせる儀式の生贄に女性たちを捧げようとしている。調査は市内の複数の拠点から地下河川を経て、蛇人間の宮殿へと向かう構成である[2]。

「Großblütig」(日本編)。舞台は東京。パリに滞在していた日本人の画家が、「宇宙に由来する色」を発見する。この物質は彼の絵に取り込まれて作品を有名にするが、代償を伴う。日本へ帰国した後、この「色」は実のところ生命力を吸収する宇宙生物であることが判明し、画家の身体に寄生してその肉体を乗っ取る。乗っ取られた画家は夜になると東京の街を移動しながら、人間の生命力を吸い取っていく[2]。

シナリオの著者名・イラストレーター名は、当サイトが確認した公式ページの範囲では明記がない。両編とも、探偵役の調査者が現地に呼ばれる、あるいは異変に気づいて首を突っ込む、という『クトゥルフの呼び声』の典型的な導入構造を踏襲しているとみられるが、具体的な導入シーン・NPC名・入手可能な手がかりの詳細までは、当サイトが参照した商品説明の域を出ない。

原典「宇宙からの色」から「Großblütig」への変形

公式の商品説明は、ラヴクラフトの短編「宇宙からの色」への言及を一度もしていない。それでも「宇宙に由来する色」「地球外の生命体」という核となる着想の重なりは大きく、このシナリオが原典の骨格を下敷きにしていることは、当サイトの読者であれば察しがつくはずである。ただし公式説明にない結びつきを断定として書くことは避け、以下では両者の間にある具体的な相違点に絞って比較する。

当サイトの「宇宙からの色」記事で確認した通り、原典が描くのは1882年6月、アーカム西方の丘陵にあるネイアム・ガードナーの農場に落下した隕石から滲み出す、地球のどの色とも一致しない「ただの色」である。この「色」は姿形を持たず、分光器にも既知の化学分析にも掛からない。井戸に棲みつき、作物・家畜・そして一家の人間を、外からではなく内側から一年がかりで変質させ、最後は光の柱となって夜空へ立ち去る。物語自体、隕石落下から半世紀後に土地を訪れた測量技師が、老農夫アミ・ピアスの回想を聞き取るという間接的な語りの形をとる。

「Großblütig」の説明文が描く姿は、この構造から大きく外れている。第一に、汚染の起点が土地(農場の井戸)ではなく人間(パリ滞在中の画家)である。第二に、「色」は地球外の色そのものにとどまらず、公式説明が明言する通り「寄生する生物(parasitäre Kreatur)」として、一人の人間の肉体を乗っ取る力を持つ。第三に、原典の「色」が一つの農場に居着いて拡散していくのに対し、「Großblütig」の脅威は乗っ取った肉体を使って夜の東京を能動的に移動し、獲物を選んで生命力を奪う。第四に、原典が半世紀という時間をかけて緩慢に進行する災厄だったのに対し、こちらは調査者が現地で直接遭遇し、追跡し、対峙できる一つの怪物として設計し直されている。

言い換えれば、原典の「宇宙からの色」が体現していたのは、姿も名前も持たず、殺意すら読み取れない、土地に染み込んでいく不可解な災厄そのものへの恐怖だった。「Großblütig」がそこから引き継いでいるのは「地球の物理法則に属さない色」という設定の核だけであり、TRPGのシナリオとして遊べる形にするために、可視化され、身体を持ち、行動範囲を持つ「追える怪物」へと大きく作り替えられている。これは、拡散する名状しがたさをそのまま遊ぶことの難しさを、TRPGというメディアがどう解決しようとしたかを示す一例と読める。

なお、当サイトの「宇宙からの色(存在)」記事は、この存在について「ダーレス以降の体系化やTRPGでの公式な扱いは、本記事の調査では確認できなかった」と記していた。今回の「Großblütig」が原典の「色」を直接下敷きにした創作である確証は取れていないものの、もしそうであるなら、この空白を埋める初めての事例の一つになる可能性がある。

三層のどこに位置するか

深淵書架が用いる「原典/ダーレス系拡張/TRPG設定という三層」に照らすと、原典「宇宙からの色」は第1層に属する。「Großblütig」は、公式説明を読む限りオーガスト・ダーレス以降の拡張設定を経由した形跡がなく、第2層を飛び越えて第1層の着想に直接、TRPGとして新たな肉付けを施した第3層の創作にあたる。1981年の『クトゥルフの呼び声』発売から数えて45年後、原典発表から数えれば99年後という時期に、原典の中編一作から新たな一本のシナリオが枝分かれしたことになる。

このシナリオ表題「Großblütig」は、ドイツ語の一般的な語彙としては「大輪の」「大きく花開いた」を意味する形容詞である。公式説明文はこの語がシナリオ内で何を指すのか説明しておらず、画家の絵に描かれた花なのか、寄生生物の比喩なのか、当サイトでは確認できていない。

描かれる街と、そこに届かない本

商品ページの説明は舞台を「東京」とだけ記し、具体的な区や地区の名前までは挙げていない[2]。この点は、同じ2026年に日本国内で刊行された「クトゥルフ神話ボードゲームブック 東京ラヴクラフト」と対照的である。同作は浅草・銀座・池袋・渋谷・新宿・町田という具体的な6つの街を舞台に指定していた。国内の作り手が固有の地名を積み重ねて東京を描くのに対し、海外の商品説明はより抽象的な「東京」という記号にとどまっている——ただし、これは商品ページの要約が簡潔であるためという可能性もあり、シナリオ本文にまで地名の指定がないと断定はできない。

もう一つ見落とせない事実がある。Pegasus Spiele公式の配送・支払条件ページを当サイトで確認したところ、配送対象国としてベルギー・デンマーク・エストニア・フィンランド・フランス・ギリシャ・イギリス・アイルランド・イタリア・クロアチア・ラトビア・リトアニア・ルクセンブルク・モンテネグロ・オランダ・ノルウェー・オーストリア・ポーランド・ポルトガル・ルーマニア・スウェーデン・スイス・スロバキア・スロベニア・スペイン・チェコ・トルコ・ハンガリーが挙げられており、日本は含まれていなかった[6]。つまり本書は、東京を舞台にしたシナリオを収めながら、Pegasus Spieleの公式ルートでは日本の読者・プレイヤーへ直接届かない。

当サイトの「日本のクトゥルフはなぜ『書く文化』になったのか」で確認した通り、日本のクトゥルフ神話TRPGは、自分たちでシナリオを書いて遊び、その記録を公開するという参加型の実践として大衆化してきた。日本国内では同人シナリオという形で、遊ぶ側が同時に書く側に回る文化が根づいている一方、「Großblütig」は逆に、海外の書き手が日本を舞台として選びながら、当の日本には公式には届かないという非対称な位置に立っている。当サイトの「日本におけるクトゥルフ神話の受容史」で辿った通り、日本のクトゥルフ受容は翻訳と国内TRPG版元による大衆化を通じて独自の広がりを見せてきたが、今回のケースはそのどちらの経路にも乗っていない、第三の位置にある事例と言える。

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出典

  • [1] Pegasus Spiele公式ニュースページ「Cthulhu breitet sich weiter aus」(2026年9月11日確認)。2026年後半に『Der Mythos weltweit – Nepal & Japan』『Regency Cthulhu』『Von Staub verborgen』『Unter die Haut』の4冊を刊行すると発表していることを確認。https://news.pegasus.de/cthulhu-neuheiten-sommer-2026/ ↩
  • [2] Pegasus Spiele公式商品ページ「Cthulhu: Der Mythos weltweit – Nepal & Japan(Softcover)」(2026年9月11日確認)。発売日2026年8月10日、80頁、価格14,95ユーロ、ISBN 9783969281703であること、ネパール編「Mein eigen Fleisch und Blut」と日本編「Großblütig」のあらすじ、著者・イラストレーター名の記載が無いことを確認。https://pegasus.de/Cthulhu-Der-Mythos-weltweit-Nepal-Japan-Softcover/40129G ↩
  • [3] Pegasus Spiele公式商品ページ「Cthulhu: Regency Cthulhu(Hardcover)」(2026年9月11日確認)。発売日2026年8月10日、216頁、価格29,95ユーロ、ISBN 9783969281741であること、架空都市Tarryfordを1813年・1913年の二時代で扱うこと、事前製作済み調査者が通常6体・Pulp Cthulhu用6体の計12体であることを確認。https://pegasus.de/Cthulhu-Regency-Cthulhu-Hardcover/40131G ↩
  • [4] Pegasus Spiele公式商品ページ「Cthulhu: Von Staub verborgen(Softcover)」(2026年9月11日確認)。発売日2026年9月3日、84頁、価格14,95ユーロ、ISBN 9783969281840であること、舞台がベルリンのプロイセン国立図書館・ニュルンベルクのゲルマン国立博物館・ワイマールのアンナ・アマーリア公爵夫人図書館の3か所であることを確認。https://pegasus.de/Cthulhu-Von-Staub-verborgen-Softcover/40132G ↩
  • [5] Pegasus Spiele公式商品ページ「Cthulhu: Unter die Haut(Hardcover)」(2026年9月11日確認)。発売日2026年10月予定、176頁、価格29,95ユーロ、ISBN 9783969281710であること、ボディホラーに特化した7本のシナリオを収めること、「強いボディホラー表現を含む」との注意書きがあることを確認。https://pegasus.de/Cthulhu-Unter-die-Haut-Hardcover/40133G ↩
  • [6] Pegasus Spiele公式「Versand- und Zahlungsbedingungen」ページ(2026年9月11日確認)。配送対象国としてベルギー・デンマーク・エストニア・フィンランド・フランス・ギリシャ・イギリス・アイルランド・イタリア・クロアチア・ラトビア・リトアニア・ルクセンブルク・モンテネグロ・オランダ・ノルウェー・オーストリア・ポーランド・ポルトガル・ルーマニア・スウェーデン・スイス・スロバキア・スロベニア・スペイン・チェコ・トルコ・ハンガリーが挙げられ、日本が含まれていないことを確認。https://pegasus.de/Versand-und-Zahlungsbedingungen/ ↩

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