概要
『Doors to Darkness』は、Chaosium社が刊行するTRPG『Call of Cthulhu』(第7版)向けのシナリオ集である。Chaosium公式の商品ページによれば、著者はChristopher Smith Adair、Glynn Owen Barrass、Brian Courtemanche、Tom Lynch、Kevin Ross、Brian M. Sammonsの6名、ISBNは978-1-56882-437-6、ページ数は144、判型はフルカラーの上製本(Full color Hardcover)、SKUはCHA23148-Hである[1]。価格はハードカバーが定価34.95米ドル(セール価格27.96米ドル)、別途販売されているPDF版は17.48米ドルである[1][2]。
商品ページは、本書を「新しいプレイヤーとキーパーのために作られた、クトゥルフ神話の恐怖を描く5本のシナリオ」と位置づけ、続けて「1920年代ニューイングランドという看板設定を、これら5編の禍々しい物語を通じて探ってほしい。あなたが『Call of Cthulhu』に不慣れなら、これが次の一歩になる」と説明する[1]。内容物として挙げられているのは、多作の著者Kevin Rossによるキーパー向けの助言、各シナリオ専用の高品質な地図とハンドアウト、そしてすぐに卓へ出せる10体のプリジェネレート探索者である[1]。
どんな作品か
収録されているのは次の5本のシナリオで、いずれも舞台は1920年代のニューイングランドに置かれている[1]。
- The Darkness Beneath the Hill — ロードアイランド州プロビデンスでの家屋改築工事が、探索者たちを地中に眠る古い秘密へと導く。
- Genius Loci — ダンバーズ州立精神医療施設(Danvers State Hospital)を舞台に、窮地に陥った友人を救い出そうとする探索者たちの物語。
- Servants of the Lake — 行方不明になった友人を追ううち、探索者たちはロードサイドの古びたモーテルに足止めされ、そこで様子のおかしい出来事に巻き込まれる。
- Ties That Bind — アーカムに暮らす裕福な一族の邸宅にある泉に、奇妙な岩石が現れる。その謎を追うと禁断の知識へ行き着く。
- None More Black — ミスカトニック大学の学生の死が発端となり、探索者たちは地下社会との危うい取引に足を踏み入れていく。
商品ページに載っているのはここまでの粗筋であり、各シナリオの中で具体的にどの神格・怪物・魔道書が登場するかは、ネタバレを避けるためか明記されていない[1]。5編とも独立したシナリオとして構成されており、同梱の10体のプリジェネレート探索者と地図・ハンドアウトが各編に添えられる[1]。
他の初心者向け教材との位置づけ
Chaosiumは『Call of Cthulhu』第7版の入り口として、性格の異なる複数の商品を用意している。まず無料で配布されている「Call of Cthulhu 7th Edition Quick-Start Rules」は、基本ルールを学ぶための簡易ルールブックに、すぐ遊べる導入シナリオ「The Haunting」を1本添えたものである[3]。次に、箱入りの「Call of Cthulhu Starter Set」は2018年と2022年(40周年記念版)に展開されており、収録シナリオはソロプレイ用の「Alone Against the Flames」に加え、3人用の「Paper Chase」、4人用の「Edge of Darkness」、5人まで対応する「Dead Man Stomp」の計4本である[4]。この「Dead Man Stomp」については、当サイトの「死者のストンプ」で扱っている。
これらと比べたとき、『Doors to Darkness』の位置づけがはっきりする。Quick-Start Rulesが「ルールを覚えるための1本」、Starter Setが「新しいプレイヤー全般」を主な対象とするのに対し、『Doors to Darkness』の商品ページは冒頭から「新しいプレイヤーとキーパーのために」「あなたが不慣れなら、これが次の一歩」と述べ、進行役であるキーパーを初めて務める人を名指しで意識した作りになっている[1]。144ページというボリュームで5本のシナリオとキーパー向けの助言エッセイをまとめて収めている点も、1本のシナリオで基本ルールを示す無料版や、4本構成のStarter Setとは異なる規模である[1][3][4]。
受賞歴——公式ストアの記載とENnie公式記録の照合
商品ページには「2017年のENnie賞Best Adventure部門を受賞した」という趣旨の記載がある[1]。Chaosium自身のブログ記事も、投票期間中に「Doors to DarknessはProduct of the YearとBest Adventureの両部門にノミネートされた」と伝えている[5]。
ただし、版元の記載だけを鵜呑みにせず、ENnie Awards公式サイトの「2017 Nominees and Winners」で実際の結果を確認すると、Best Adventure部門のゴールド(金賞)は『Blood in the Chocolate』(Lamentations of the Flame Princess)が受賞しており、『Doors to Darkness』はシルバー(銀賞)である[6]。Chaosium自身が結果発表後に公開したブログ記事「Chaosium wins seven Gold and three Silver at the 2017 ENnies!」でも、Best Adventure部門の『Doors to Darkness』はシルバーとして記載されている[7]。ENnie賞はゴールドとシルバーの双方を「受賞(Winner)」として扱う制度であるため、商品ページの「受賞した」という記載自体は誤りではない。しかし金・銀いずれかは明示していないため、正確には金賞ではなく銀賞であることを、ここに書き添えておく。
もう一つのノミネート先であるProduct of the Year部門については、同じくENnie Awards公式サイトの結果一覧に『Doors to Darkness』を含む10作品のノミネートが記載されている一方、この部門のゴールドは『Tales from the Loop – Roleplaying in the ’80s That Never Was』(Free League Publishing)、シルバーは『7th Sea: Core Rulebook』(John Wick Presents)が受賞しており、『Doors to Darkness』はノミネートにとどまり受賞していない[6]。
原典との距離(神話の三層のどこに立つか)
当サイトでは、クトゥルフ神話に関わる記述を、ラヴクラフト原典(1917年-1937年)、ダーレス以降の拡張(1939年-)、TRPGによる拡張(1981年-)の三層に分けて扱っている。分類の考え方は「神話の三層」の記事にまとめてある。
この区分に照らすと、『Doors to Darkness』という作品そのものは、TRPGによる拡張の層に位置する制作物である。5本のシナリオはいずれもChaosiumが『Call of Cthulhu』というゲームのために書き下ろしたオリジナル作品であり、ラヴクラフトの特定の短編を翻案したものではない[1]。ただし舞台となる1920年代ニューイングランドという時代設定や、「Ties That Bind」の舞台であるアーカム、「None More Black」に関わるミスカトニック大学の学生といった要素は、TRPG版元が独自に育ててきた作品世界の一部であり、アーカムという町そのものの成り立ちや、そこに置かれたミスカトニック大学がクトゥルフ神話TRPGでどう扱われてきたかは、当サイトの「アーカム」「ミスカトニック大学」の記事で扱っている。
商品ページの記述からは、各シナリオの中で具体的にどの神格・怪物・魔道書が扱われているかまでは確認できなかった。ネタバレ回避のためと見られる。
関連して読むなら
- クトゥルフの呼び声TRPG — 『Doors to Darkness』が使用するKeeper Rulebook/Investigator Handbookの解説記事
- クトゥルフ神話TRPG クイックスタート・ルール — 無料で試せる簡易ルールと導入シナリオ
- 死者のストンプ — Starter Set収録シナリオの1本。本作との対象読者の違いを比較する節で触れた
- アーカム — 「Ties That Bind」の舞台となる架空の町
- ミスカトニック大学 — 「None More Black」に関わる大学の背景
- 初めてキーパー(KP)をやる人へ — シナリオ選びと当日の準備についての当サイトの案内
- クトゥルフ神話TRPGを初めて遊ぶ人へ — セッションの流れとシナリオの選び方
- 神話の三層 — 本稿で用いた原典/ダーレス以降/TRPGの区分の解説
出典
- [1] Publisher「Chaosium Inc.」、ISBN「978-1-56882-437-6」、Page Count「144」、Format「Full color Hardcover」、SKU「CHA23148-H」、Authors「Christopher Smith Adair, Glynn Owen Barrass, Brian Courtemanche, Tom Lynch, Kevin Ross, Brian M. Sammons」、価格「$34.95(セール$27.96)」、収録シナリオ5本の粗筋、キーパー助言・地図/ハンドアウト・プリジェネレート探索者10体の記載、および2017年ENnie賞Best Adventure受賞の記載を確認 — Chaosium公式, “Doors to Darkness – Hardcover”商品ページ(取得日 2026-09-19), https://www.chaosium.com/doors-to-darkness-hardcover/ ↩
- [2] ISBN「978-1-56882-437-6」、Page Count「144」、Format「PDF」、価格「$17.48」の記載を確認 — Chaosium公式, “Doors to Darkness – PDF”商品ページ(取得日 2026-09-19), https://www.chaosium.com/doors-to-darkness-pdf/ ↩
- [3] 収録シナリオ「The Haunting」、無料配布である旨の記載を確認 — Chaosium公式, “Call of Cthulhu – Quickstart Rules”ページ(取得日 2026-09-19), https://www.chaosium.com/cthulhu-quickstart/ ↩
- [4] 発行年「2018, 2022」、収録シナリオ「Alone Against the Flames」「Paper Chase」「Edge of Darkness」「Dead Man Stomp」の記載を確認 — Chaosium公式, “Call of Cthulhu Starter Set – PDF”商品ページ(取得日 2026-09-19), https://www.chaosium.com/call-of-cthulhu-starter-set-pdf/ ↩
- [5] 「Doors to DarknessがProduct of the YearとBest Adventureの両部門にノミネートされた」旨の記載を確認 — Chaosium公式ブログ, “ENnies spotlight: Doors to Darkness nominated for Product of the Year & Best Adventure”(取得日 2026-09-19), https://www.chaosium.com/blog/ennies-spotlight-doors-to-darkness-nominated-for-product-of-the-year-best-adventure/ ↩
- [6] Best Adventure部門のゴールド「Blood in the Chocolate」、シルバー「Doors to Darkness」の記載、およびProduct of the Year部門のノミネート一覧(10作品、Doors to Darknessを含む)とゴールド「Tales from the Loop – Roleplaying in the ’80s That Never Was」、シルバー「7th Sea: Core Rulebook」の記載を確認 — ENNIE Awards公式, “2017 Nominees and Winners”(取得日 2026-09-19), https://ennie-awards.com/portfolio-item/2017-nominees-and-winners/ ↩
- [7] Best Adventure部門の『Doors to Darkness』をシルバー受賞として記載していることを確認 — Chaosium公式ブログ, “Chaosium wins seven Gold and three Silver at the 2017 ENnies!”(取得日 2026-09-19), https://www.chaosium.com/blog/chaosium-wins-seven-gold-and-three-silver-at-the-2017-ennies/ ↩
