概要
『クトゥルフ邪神の描き方』は、新紀元社より2026年8月19日発売のイラストメイキング本である[1]。判型はB5、136ページ。著者はタカヤマトシアキ、Nottsuo、藤木ゆう、緑川美穂の4名[1]。定価は本体3,200円(税別)、ISBNは978-4-7753-2290-1[1]。本記事は発売前に公式情報のみを基に書いたもので、内容の評価は行っていない。同書は予定どおり刊行され、新紀元社の公式書誌ページは2026年8月21日時点で「発行年月日:2026年08月19日/在庫:在庫あり」と表示している[1]。
本書の内容
公式紹介文によれば、邪神イラストを得意とする4名の著者が、ニャルラトホテプ、ハスター、クトゥルフほか全5邪神を描き起こす構成になっている[1]。ラフから完成イラストまでの制作プロセスを公開し、恐怖感を引き出す演出テクニックを解説する内容とされ、使用ツールとしてAdobe Photoshop・Clip Studio Paint・Kritaが挙げられている[1]。5邪神のうち公式ページで名前が明記されているのはニャルラトホテプ・ハスター・クトゥルフの3柱で、残る2柱は「ほか」とのみ記載されており、現時点では特定できない。
原典は邪神の姿をどこまで書いているのか
このサイトが「神話の三層」ガイドで整理してきた通り、クトゥルフ神話の記述は原典(ラヴクラフト生前, 1917-1937)/ダーレス以降の拡張(1939-)/TRPGによる拡張(1981-)の3つの層に分けて捉える必要がある[2]。「描き方」を扱う本書が主に対象とするのは、この3層のいずれかというより、後世に定着していったビジュアル表現の蓄積そのものである。
クトゥルフを例に取ると、原典「クトゥルフの呼び声」(1926年執筆/1928年発表)における唯一の直接的な外見描写は、語り手による次の一節にとどまる。
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“A sort of monster, or symbol representing a monster, of a form which only a diseased fancy could conceive. If I say that my somewhat extravagant imagination yielded simultaneous pictures of an octopus, a dragon, and a human caricature, I shall not be unfaithful to the spirit of the thing.”
(訳: 「病んだ想像力のみが思い描き得るような、一種の怪物、あるいは怪物を表す象徴。いくらか大仰な私の想像力が、タコと竜と人間の戯画とを同時に思い描いたと言っても、そのものの本質を裏切ることにはならないだろう」)[3]
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この「タコと竜と人間の戯画」という形容は、あくまで語り手の主観的な比喩であり、単一の確定した外見設定を示すものではない。ラヴクラフト自身の作品内でも描写は揺れており、初出「クトゥルフの呼び声」ではイカに近いものとして語られる一方、後年の「狂気の山脈にて」「墳丘の怪」ではタコにたとえられている[4]。
一方、ラヴクラフト自身が手を動かしてクトゥルフの姿を描いた記録も残っている。ラヴクラフト公式アーカイブ hplovecraft.com の「Lovecraft’s Drawings」ページによれば、1934年5月11日付の書簡の中に「クトゥルフのスケッチ」があり、「クトゥルフの呼び声」でルイジアナの沼地でカルト教徒から押収されたと語られる小像を描いたもので、友人ロバート・H・バーロウのために描かれたと説明されている[5]。つまりこのスケッチは、クトゥルフ本体そのものというより、作中に登場する信者の偶像(小像)の再現である。
こうして見ると、原典が言葉で与えているのは「タコ・竜・人間の戯画」という抽象的な比喻と、作者自身が一度だけ紙に起こした小像スケッチだけであり、触手や鱗、翼といった細部まで統一されたビジュアルは原典の時点では確定していない。今日「クトゥルフらしい」と広く共有されている姿——本書のようなイラストメイキング本が描き起こす対象——の多くは、この曖昧な原典描写を後続のイラストレーターや漫画・ゲームが繰り返し解釈し、定着させてきた層に属する。本書がどの版のクトゥルフ像を採用するかは発売後の実物でしか確認できないが、「描かれた姿はどの層由来か」を切り分けて読むことは、本書を含むあらゆるクトゥルフ神話イラストを楽しむ上での一つの視点になる。
参考資料
- 新紀元社『クトゥルフ邪神の描き方』公式書誌ページ
- H. P. Lovecraft, “The Call of Cthulhu”(1926年執筆/1928年発表)公式アーカイブ
- hplovecraft.com「Lovecraft’s Drawings」(クトゥルフのスケッチ, 1934年5月11日)
- 三層ガイド — 「神話の三層」の分け方について
出典
- [1] 新紀元社公式書誌ページ「クトゥルフ邪神の描き方」著者・定価・判型・ページ数・ISBN・発行年月日・在庫状況・本の紹介文(「名状しがたき邪神は、こうして描かれる!」「タカヤマトシアキ、Nottsuo、藤木ゆう、緑川美穂——邪神イラストを得意とする4名が、ニャルラトホテプ、ハスター、クトゥルフほか全5邪神を描き起こす。ラフから完成イラストまでの制作プロセスを公開し、恐怖感を引き出す演出テクニックを解説。」「使用ツール(一部):Adobe Photoshop/Clip Studio Paint/Krita」) — http://www.shinkigensha.co.jp/book/978-4-7753-2290-1/ ↩
- [2] このサイトの神話の三層ガイド(原典/ダーレス以降の拡張/TRPGによる拡張)。定義は
wp-content/plugins/shinen-archive/includes/module-k-canon-layers.phpに集約。 /trpg/mythos-three-layers/ ↩ - [3] H. P. Lovecraft, “The Call of Cthulhu”(1926年執筆/1928年発表)、既存記事クトゥルフで照合済みの引用と同一出典 — https://www.hplovecraft.com/writings/texts/fiction/cc.aspx ↩
- [4] 既存記事クトゥルフ「性質・権能」節および「よくある誤解」節の記述(初出はイカに近い描写、「狂気の山脈にて」「墳丘の怪」ではタコの比喩) ↩
- [5] hplovecraft.com「Lovecraft’s Drawings」ページ「Sketch of Cthulhu (11 May 1934) In ‘The Call of Cthulhu’ (1926), Lovecraft describes a statuette taken from the cultists in the Louisiana swamps. He drew this representation of it for his friend, Robert H. Barlow.」 — https://www.hplovecraft.com/writings/drawings.aspx ↩



