小説 — AT THE MOUNTAINS OF MADNESS

狂気の山脈にて

南極探検隊が、人類誕生よりはるか昔に地球を支配していた「古のもの」の巨大な石造都市の遺跡を発見し、その歴史と奴隷ショゴスの恐怖を解き明かす。

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狂気の山脈にて

「人類の平和と安全のため、地球の暗く死せる片隅と測られざる深みは、そっとしておかねばならない。」

— 「狂気の山脈にて」(1936)

編集部注(著作権について): 本記事が扱う『狂気の山脈にて』は、H・P・ラヴクラフトの他の多くのWeird Tales掲載作とは異なり、Astounding Stories誌掲載号の著作権が更新されているため(Catalog of Copyright Entries登録番号R309944)、2032年まで米国で著作権が継続しています(パブリックドメインではありません)。本記事は原文からの引用を行わず、あらすじ・論評・書誌的事実のみで構成しています。

概要

SFとホラーを極限まで融合させ、先史時代の地球史を地質学的スケールで描き出した、ラヴクラフト後期の記念碑的長編。単なる怪物譚ではなく、探検隊が壁画を読み解きながら数億年に及ぶ地球生命の興亡史を再構築していくという、科学論文にも似た記述スタイルを取る点が本作最大の特色である[1]。恐怖の対象は怪物そのものというより、人類が地球史においていかに新参者かつ周縁的な存在にすぎないかという、圧倒的な時間スケールの提示そのものにある。

作品情報

  • 執筆・発表年: 1931年執筆/1936年発表(「アスタウンディング・ストーリーズ」誌)
  • 主題タグ: 科学探検、太古の文明、人類以前の地球史

登場神格・用語

あらすじ

ミスカトニック大学の地質学者ダイアー教授率いる南極探検隊は、前人未到の超巨大山脈の麓で、奇妙な星形の頭部を持つ超生命体の死体を発見する。ダイアー自身は語り手として、後続の探検隊がこの地に近づくことを防ぐためにこの手記を公表すると宣言し、物語は報告書的な体裁で進む。別動隊が全滅した報を受け、教授と大学院生ダンフォースは小型飛行機で山脈を越え、人類以前の地球を支配していた「古のもの」(エルダーシングズ)の放棄された巨大石造都市に到達する。二人は都市に刻まれた精巧な壁画を丹念に読み解き、地球生命の発生から、南極への漂着、クトゥルフの一族との太古の戦争、そして彼ら自身が労働力として創造した不定形の奴隷生命「ショゴス」の反乱にいたる、数億年規模の文明史を復元していく。

都市の奥へと進んだ二人は、先行して全滅したはずの別動隊の遺体と、何らかの理由で持ち去られていた標本の痕跡を発見し、まだ何かが都市に生き残っている可能性を悟る。そして地下深くの温水湖のほとりで、彼らはついに、眠りから目覚めた本物のショゴスと遭遇する。かろうじて追跡を振り切って地上へ逃れた二人であったが、ダンフォースは逃走の最中に振り返って山脈のさらに奥に広がる光景を目にしてしまい、それが何であったかを語ることを頑なに拒んだまま、深刻な精神的衝撃を負って南極から生還する。ダイアーの手記は、この地への今後のいかなる調査も強く思いとどまらせる警告として締めくくられる。

読みどころと注目テーマ

本作は、地質学・古生物学・考古学の知見を総動員して架空の文明史を組み立てていく、ドキュメンタリー的な筆致が最大の魅力である。壁画の解読を通じて明かされる「古のもの」の文明史は、彼らを単なる怪物としてではなく、独自の科学・芸術・社会を持つ知的種族として描き出しており、探検隊(そして読者)の心証が恐怖から次第に一種の敬意へと移り変わっていく過程が丁寧に描かれる。同時に、彼らが自らの繁栄のために生み出したショゴスに、皮肉にも文明そのものを滅ぼされるという展開は、創造主と被造物の関係を扱う本作のもう一つの軸である。ダンフォースが最後に目撃したものが何であったかを最後まで明かさない終わり方も、直接描写を避けることで恐怖を増幅させるラヴクラフト作品らしい手法として知られる。

執筆背景と影響

当時の南極探検(バード少将による1928-30年の探検など)や、地球物理学・地質学の最新の知見に基づいて執筆された。長大かつSF色の強い内容であったため、当初『ウィアード・テイルズ』誌への掲載は実現せず、5年近くを経て『アスタウンディング・ストーリーズ』誌に3回に分けて連載される形でようやく発表された[2]。この掲載の遅れと不遇な扱いはラヴクラフトに大きな落胆を与えたと伝えられるが、現代では緻密な世界構築と重厚な文体から、彼の最高傑作のひとつと評されている。なお本作は掲載誌の号自体の著作権が更新されているため、2032年まで米国で著作権が存続する非パブリックドメイン作品である点に留意されたい[3]

出典

本作は2032年まで米国で著作権が存続するため、原文からの引用は行っていません。以下は書誌的事実についての出典です。

  • [1] 探検隊の手記という体裁、および地質学的スケールでの文明史復元という構成は、本作の書誌情報(執筆1931年2月〜3月22日)からも、同時期にラヴクラフトが傾倒していた地球科学分野の知見を反映した作品であることが確認できる。— 出典: Wikisource「Author: Howard Phillips Lovecraft」執筆年月の記載, 該当ページ
  • [2] 本作は1936年2月号・3月号・4月号の『アスタウンディング・ストーリーズ』誌(16巻6号8-32頁/17巻1号125-155頁/17巻2号132-150頁)に3回に分けて分載された。執筆(1931年)から発表(1936年)まで約5年を要している。— 出典: Wikisource「Author: Howard Phillips Lovecraft」書誌情報, 該当ページ
  • [3] 本作が掲載された『アスタウンディング・ストーリーズ』各号の著作権は登録番号R309944として更新されており、米国において2032年まで著作権が存続する(パブリックドメインではない)。ラヴクラフトの大半のWeird Tales掲載作とは異なる扱いである点に注意。— 出典: Wikisource「Author: Howard Phillips Lovecraft」著作権注記, 該当ページ

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