人物 — DR. HENRY ARMITAGE

ヘンリー・アーミテージ博士

原典

ミスカトニック大学付属図書館の司書。「ダニッチの怪」において、禁断の知識に理性と学識で対抗する学究の徒として怪異の核心に迫る中心人物となる。

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ヘンリー・アーミテージ博士

「結局、アーカムから来た三人の男――老いて白髭を蓄えたアーミテージ博士、がっしりとして鉄灰色の髪をしたライス教授、そして痩せて若々しいモーガン博士――が、ひとりで山を登って行った」

— H・P・ラヴクラフト「ダニッチの怪」(1929年発表)
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概要

ミスカトニック大学付属図書館の司書であり、文学修士(ミスカトニック大学)・哲学博士(プリンストン大学)・文学博士(ジョンズ・ホプキンス大学)の学位を持つ博学の老学究[1]。「ダニッチの怪」(1928年執筆/1929年発表)において、異形の青年ウィルバー・ウェイトリーの企てを阻み、彼の死後は真の脅威——姿を持たぬ「ダニッチの怪物」——に理性と学識で立ち向かう中心人物となる。

基本プロフィール

  • 分類: 人物
  • 欧文表記: DR. HENRY ARMITAGE
  • 初出・出典: 「ダニッチの怪」(1928年執筆/1929年『ウィアード・テイルズ』4月号発表)
  • 肩書: ミスカトニック大学付属図書館司書。文学修士(同大学)・哲学博士(プリンストン大学)・文学博士(ジョンズ・ホプキンス大学)の学位を持つ[1]

原典での描写

唯一の登場作「ダニッチの怪」(1928年執筆/1929年発表)における描写を、以下の観点から記す。

初登場と経歴の語られ方

作中でアーミテージの名が最初に記されるのは、ウィルバー・ウェイトリーがラテン語版『ネクロノミコン』の閲覧のためミスカトニック大学図書館を訪れた場面である。生い立ちや司書に就いた経緯は語られず、地の文は彼を「かつて農場を訪ねたことのある、あの博学なヘンリー・アーミテージ(文学修士・ミスカトニック大学、哲学博士・プリンストン大学、文学博士・ジョンズ・ホプキンス大学)」と紹介し、丁重に質問を重ねる人物として描くにとどまる[9]。

ウィルバーとの対面と『ネクロノミコン』の拒絶

ウィルバーが書き写す一節を横からのぞき込んだアーミテージは、ラテン語版の見開きの左側に「世界の平和と正気に対するこの上ない脅威」を読み取り、慄然とする。ウィルバーは本を農場へ持ち帰りたいと願い出るが、アーミテージは必要な部分だけ写させようかと一度は思いながらも、その先の危険に思い至って思いとどまる[10]。

拒まれたウィルバーは「そうかい、そっちがそういうつもりなら仕方ねえ。ハーバードならそっちほどうるさく言わねえかもしれねえ」と言い捨てて図書館を去る。以後アーミテージは、ハーバード大学ワイドナー図書館をはじめ『ネクロノミコン』を蔵する各図書館の司書へ警告を送り、ウィルバーの企てを未然に封じている[11]。

日記の解読と決意

ウィルバーの死後、彼の下宿から見つかった正体不明の暗号台帳は、ウェイトリー一件への関心と語学の素養を理由にアーミテージへゆだねられ、彼は8月いっぱいを暗号学の文献の渉猟に費やす。9月2日の晩、ついに文面が英語であることを突き止め、日記を読み進めた[12]。

徹夜で日記を読み続けたアーミテージは体調を崩し、翌日は譫妄状態に陥る。正気に戻るとライス、モーガンとの会議を求め、対抗の準備に取りかかった[13]。

丘での儀式と結末での言葉

金曜の朝、アーミテージはライス、モーガンとともにダニッチへ入り、フライ家やビショップ家を襲った怪物の痕跡をたどってセンティネル・ヒルの祭壇状の岩を望む。怪物が丘を這い上るのを望遠鏡でとらえた三人は村人を残して丘を登り、噴霧器の薬品で姿を一瞬だけ現出させながら呪文を唱え始めた。彼にとってその丘の道筋は「ほとんど大変動的な意味」を帯びていたという[14]。

怪物は「ヘルプ、ヘルプ……父よ、父よ、ヨグ=ソトースよ!」と叫んだのを最後に雷鳴とともに消え去った。麓に降りたアーミテージは、詰め寄る村人に「それはウィルバーの双子の弟だったが、父親のほうによく似ていた」とだけ答えている[15]。

人物像・性格

危険な禁書を扱う立場にありながら、興味本位の閲覧希望者には毅然と拒絶の姿勢を示す慎重な学究者として描かれる。ウィルバーが大学図書館所蔵の『ネクロノミコン』(ディー訳)を借り出そうとした際も、アーミテージはこれを拒み、他大学の図書館にも警戒を促してウィルバーの企てを未然に阻んだ[2]。単なる保守的な司書ではなく、事態の深刻さを見抜いた後は自ら現地(センティネル・ヒル)に赴いて怪物に対峙する行動力も併せ持つ。

生涯・経歴

ウィルバーの死後、彼の下宿から見つかった暗号日記(古い台帳)をアーミテージが解読に取り組んだことで、ダニッチで進行中の真の脅威——ウィルバーの双子の片割れであり、姿を持たぬまま育った「ダニッチの怪物」——の存在が明らかになる。ウィルバー自身は、番犬に襲われて図書館侵入中に落命しており、その死体は「疑いなく部分的には人間だった——手や頭部は極めて人間的だったが……胴体から下は分類学上不可能なほど奇怪だった」[3]、「腰から上は半人半獣的だったが、その胸部は……鰐や鰐に似た革質の網状の皮膚を持っていた」[4]、「腰から下では、赤い吸盤の口を持つ二十本ほどの緑がかった灰色の触手が力なく垂れ下がっていた」[5]と記される衝撃的な姿だった。息絶える間際には、正体不明の音節に交じって『ネクロノミコン』の一節と思われる言葉をつぶやいていたという[8]。検死官が到着した頃には、床の上には粘つく白い塊が残るのみであったという[6]。

物語の終盤、アーミテージは同僚のウォレン・ライス教授、フランシス・モーガン博士とともにダニッチへ赴き、センティネル・ヒルの頂で怪物に対抗する呪文を唱える。丘の上の人影が「リズミカルな間隔で両手を頭上に掲げている」のが見え、遠くから「半ば音楽的な、かすかな音」が聞こえてきたと目撃者は語る[7]。怪物は末期に「ヘルプ、ヘルプ……父よ、父よ、ヨグ=ソトースよ!」と父の名を叫んで消滅していく[16]。

他の人物・存在との関係

ウィルバー・ウェイトリーとは、彼の禁書借用を拒み続けた対立的な関係にありながら、彼の死後はその暗号日記を解読することで真相へ迫る間接的な後継者となる。ダニッチの怪物、ひいてはその父ヨグ=ソトースに対しては、理性と学識、そして最終的には秘儀の呪文をもって対抗する立場を取る。同僚のウォレン・ライス教授、フランシス・モーガン博士とは、センティネル・ヒルでの対決を共にする協力者である。

主要登場作と読みどころ

  • 「ダニッチの怪」(1928年執筆/1929年発表): アーミテージの唯一の登場作。ウィルバーの禁書借用を拒む場面から、暗号日記の解読、センティネル・ヒルでの対決までを描く、彼の人物像の全てがこの一作に凝縮されている

よくある誤解

Q. アーミテージはミスカトニック大学の学長や教授なのですか?A. いいえ。作中の肩書はあくまで大学付属図書館の司書(librarian)であり、学長や正規の教授職ではない。ただし複数の学位を持つ博学の人物として描かれる。

Q. アーミテージはその後の作品にも登場しますか?A. 原典「ダニッチの怪」以外にラヴクラフト自身の作品には再登場しないが、ミスカトニック大学を舞台とする後続の二次創作・TRPG等では、大学関係者キャラクターの原型的存在としてしばしば言及される。

出典

  • [1] “Henry Armitage (A.M. Miskatonic, Ph.D. Princeton, Litt.D. Johns Hopkins)”(訳: 「ヘンリー・アーミテージ(文学修士・ミスカトニック大学、哲学博士・プリンストン大学、文学博士・ジョンズ・ホプキンス大学)」) — H. P. Lovecraft, “The Dunwich Horror”(1928年執筆/1929年発表), 公式アーカイブ ↩
  • [2] “There was too much responsibility in giving such a being the key to such blasphemous outer spheres.”(訳: 「そのような存在に、あのように冒涜的な外部の球体への鍵を与えることには、あまりに大きな責任が伴った」) — 同上 ↩
  • [3] “It was partly human, beyond a doubt, with very man-like hands and head…the torso and lower parts of the body were teratologically fabulous.”(訳: 「それは疑いなく部分的には人間であり、手や頭部は極めて人間的だった……だが胴体から下の部分は、分類学上不可能なほど奇怪だった」) — 同上 ↩
  • [4] “Above the waist it was semi-anthropomorphic; though its chest…had the leathery, reticulated hide of a crocodile or alligator.”(訳: 「腰から上は半人半獣的だったが、その胸部は……鰐に似た革質の網状の皮膚を持っていた」) — 同上 ↩
  • [5] “Below the waist…a score of long greenish-grey tentacles with red sucking mouths protruded limply.”(訳: 「腰から下では、赤い吸盤の口を持つ二十本ほどの長い緑がかった灰色の触手が力なく垂れ下がっていた」) — 同上 ↩
  • [6] “When the medical examiner came, there was only a sticky whitish mass on the painted boards.”(訳: 「検死官が到着した頃には、塗装された床板の上には粘つく白い塊が残るのみだった」) — 同上 ↩
  • [7] “One figure…seemed to be raising its hands above its head at rhythmic intervals; and as Sawyer mentioned the circumstance the crowd seemed to hear a faint, half-musical sound from the distance.”(訳: 「一つの人影が……リズミカルな間隔で両手を頭上に掲げているように見えた。ソーヤーがその様子を口にすると、群衆は遠くから半ば音楽的な、かすかな音を聞いたようだった」) — 同上 ↩
  • [8] “N’gai, n’gha’ghaa, bugg-shoggog, y’hah; Yog-Sothoth, Yog-Sothoth…”(訳: 「ンガイ、ンガー・ガー、バグ=ショゴグ、イ・ハー。ヨグ=ソトース、ヨグ=ソトース……」、図書館で息絶えつつあったウィルバー・ウェイトリーの死体がつぶやいた言葉の断片) — 同上 ↩
  • [9] “the same erudite Henry Armitage (A.M. Miskatonic, Ph. D. Princeton, Litt. D. Johns Hopkins) who had once called at the farm, and who now politely plied him with questions.”(訳: 「かつて農場を訪ねたことのある、あの博学なヘンリー・アーミテージ(文学修士・ミスカトニック大学、哲学博士・プリンストン大学、文学博士・ジョンズ・ホプキンス大学)であり、今は丁重に質問を重ねていた」) — 同上 ↩
  • [10] “the left-hand one of which, in the Latin version, contained such monstrous threats to the peace and sanity of the world.” / “Armitage, half-ready to tell him he might make a copy of what parts he needed, thought suddenly of the possible consequences and checked himself.”(訳: 「その左側のページには、ラテン語版で、世界の平和と正気に対するこの上ない脅威が記されていた」「アーミテージは必要な部分の写しを取らせてもよいと言いかけたが、ふと結果を思い、思いとどまった」) — 同上 ↩
  • [11] “Wal, all right, ef ye feel that way abaout it. Maybe Harvard wun’t be so fussy as yew be.” / “since Armitage had issued warnings of the keenest intensity to all librarians having charge of the dreaded volume.”(訳: 「そうかい、そっちがそういうつもりなら仕方ねえ。ハーバードならそっちほどうるさく言わねえかもしれねえ」「アーミテージがあの忌まわしい本を管理するすべての司書に、この上なく強い警告を発していたからである」) — 同上 ↩
  • [12] “The old ledger was at length given wholly into the charge of Dr. Armitage, both because of his peculiar interest in the Whateley matter, and because of his wide linguistic learning and skill in the mystical formulae of antiquity and the Middle Ages.” / “On the evening of September 2nd the last major barrier gave way, and Dr. Armitage read for the first time a continuous passage of Wilbur Whateley’s annals.”(訳: 「古い台帳は、ウェイトリー一件への特別な関心と、古代・中世の神秘的秘式に通じた広い語学的素養とを理由に、最終的にアーミテージ博士の手に全面的にゆだねられた」「9月2日の晩、最後の大きな壁が崩れ、アーミテージ博士は初めてウィルバー・ウェイトリーの記録のまとまった一節を読むことができた」) — 同上 ↩
  • [13] “Dr. Armitage slept, but was partly delirious the next day.”(訳: 「アーミテージ博士は眠ったが、翌日は半ば譫妄状態だった」) — 同上 ↩
  • [14] “The trail up and down Sentinel Hill seemed to Armitage of almost cataclysmic significance, and he looked long at the sinister altar-like stone on the summit.”(訳: 「センティネル・ヒルを上り下りする痕跡は、アーミテージにはほとんど大変動的な意味を帯びているように思われ、彼は山頂の不吉な祭壇状の岩を長く見つめた」) — 同上 ↩
  • [15] “HELP! HELP!…FATHER! FATHER! YOG-SOTHOTH!” / “It was his twin brother, but it looked more like the father than he did.”(訳: 「ヘルプ、ヘルプ……父よ、父よ、ヨグ=ソトースよ!」「それはウィルバーの双子の弟だったが、父親のほうによく似ていた」) — 同上 ↩
  • [16] “HELP! HELP!…FATHER! FATHER! YOG-SOTHOTH!”(訳: 「ヘルプ、ヘルプ……父よ、父よ、ヨグ=ソトースよ!」、センティネル・ヒルの頂で消滅する怪物が発した最後の叫び) — 同上 ↩
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