地名 — DEVIL REEF

デビル・リーフ

原典

インスマス港沖1マイル半に浮かぶ黒い暗礁。深きものどもの儀式の場であり、その沖の海底に広がる都市イハ=ンスレイへの入口とされる。

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デビル・リーフ

「そして満潮にもかかわらず、はるか沖合に、水面からほとんど盛り上がらない黒い線を私は目にした。それでいて、そこには奇妙などす黒い悪意が潜んでいることを思わせる何かがあった」

— H・P・ラヴクラフト「インスマスの影」(1936年発表)
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概要

ラヴクラフト「インスマスの影」に登場する暗礁。インスマス港から1マイル半沖にある低く黒い岩礁で、常に水面上に姿を見せ、決してほとんど水没しない[1]。付近の老水夫たちの間では、悪魔の一団が岩礁の上にたむろするという伝承が語られてきた。

原典での描写

暗礁の姿と位置

インスマスへ向かう道中、語り手は高台から沖合はるかに「水面からほとんど盛り上がらないのに、得体の知れぬ潜在的な邪悪さを感じさせる、黒く長い一線」を認め、これがデビル・リーフだと悟る[5]。物語終盤、街を脱出する語り手が防波堤の先に見るのも同じ暗礁である。この場面では、これまで聞かされてきた「名状しがたい恐怖と底知れぬ異常性への現実の門」という数々の伝説の記憶と結びつけて語られ、暗礁の上に点滅する光を認めた瞬間、語り手の恐怖は理性を超えたものへと変わっていく。

ザドクが語る暗礁

老水夫たちの間では、デビル・リーフの上で「時おり一団の悪魔がのさばり回ったり、頂近くの洞穴のようなものを出入りしたりする姿が見られる」という言い伝えが語られてきた[6]。インスマス出身でない船乗りたちは、往時の航路でこの岩礁をわざわざ大きく迂回して避けていたという。ザドク・アレンの視線がふとこの遠くの暗礁に落ちたとき、彼は不快そうに悪態をつき始め、語り手に顔を近づけてこう仄めかす。「あそこがすべての始まりだ——あらゆる邪悪の凝り固まった、深い水が始まる忌まわしい場所だ。地獄の門よ——測深線も届かぬ、切り立った崖のように落ち込む底へ」[7]。破棄草稿にも、語り手がザドクを波止場の奥へ連れ出す途中、ザドク自身が「海の方、デビル・リーフのある方角へ、落ち着かない視線を投げていた」という一場面があり、正式版のこの証言場面と同じ状況設定が見られる[8]。

若者たちの遠泳と伝承

インスマスの若者たちの間では、デビル・リーフまでの遠泳競争が盛んな習わしとして行われ、「見える範囲にいる誰もが皆、この過酷な競技に加われるようであった」と描写される[9]。この習わしは、年に二度、4月30日と10月31日に催される祭礼と結びつけて語られる。暗礁付近で目撃されたという異国風の装身具をめぐっては、老キャプテン・オベドが異教の港で手に入れたという説のほかに、「オベドがデビル・リーフで古い海賊の隠し財宝を見つけたのだと考える者もあり、今もそう考える者がいる」という噂も住民の間に残っていた[10]。

掃討作戦と魚雷

住民たちの多くが固く口を閉ざす中、日頃から突飛な論調で割り引かれていた大衆紙一紙だけが、「海淵の奥、デビル・リーフのすぐ先へ向けて魚雷を撃ち込んだという深海潜水艦」のことに触れた[11]。この記事は水夫たちの溜まり場でたまたま拾われたもので、当の暗礁がインスマス港から1マイル半沖にすぎないことを思えば、いかにも眉唾な話に見えたと語られる。

基本プロフィール

由来・モデル

デビル・リーフという地名自体はラヴクラフトの創作であり、実在の岩礁とのモデル関係は確認されていない。ただし物語の舞台インスマスがマサチューセッツ州の実在の港町(ニューベリーポート等)をモデルとしていることから、沿岸部に実際に見られる岩礁地形へのイメージが投影されていると考えられる。

歴史・年表

かつてのインスマス住民オベド・マーシュ船長は、夜な夜な20人あまりの仲間とデビル・リーフへ漕ぎ出しては大声で何かを唱和し、重い物を暗礁の向こうの深い水底へ沈めていたと、老人ザドク・アレンが酒の勢いを借りて語る[2]。若者たちは岩礁までの遠泳を盛んに行う習わしがあり、その泳ぎに秀でた者ほど「インスマス面(Innsmouth look)」——深きものどもの血が色濃く表れた容貌——の兆候が濃いとされた。1927–28年頃、米国政府はこの海域へ潜水艦で魚雷を撃ち込む大規模な「掃討」を実施したが、その先の海底都市イハ=ンスレイは「傷ついたが、破壊されはしなかった」と語られる。

性質・特徴

インスマス住民が信仰対象と結ぶ最も直接的な接点であり、恐怖と忌避の対象であると同時に、血を引く者たちにとっては「不可解な呼びかけ」を感じさせる場所として描かれる。町の古老ザドク・アレンは、岩礁の上で「手真似で会話する影のような姿」を目撃したと証言しており[3]、五月前夜祭(May-Eve)と諸聖人の祝日前夜(Hallowmas)には、そこから聞こえてくる恐ろしい音について語る場面もある。物語終盤、語り手自身もこの暗礁に強い牽引力を覚え、結末では自らここへ泳ぎ、海底の都市イハ=ンスレイへ下ることを望むに至る[4]。

関連する人物・存在・出来事

深きものどもとの交渉によって富と繁栄を得たオベド・マーシュ船長、その様子を酒に酔って饒舌に語る古老ザドク・アレンが、この暗礁をめぐる伝承の主要な語り手として登場する。沖合の海底都市イハ=ンスレイとは、水面上の目印とその真下の隠された都市という不可分の関係にある。

主要登場作と読みどころ

  • 「インスマスの影」(1931年執筆/1936年発表): 唯一の原典。ザドク・アレンの酔いどれた証言、若者たちの遠泳の風習、米国政府の掃討作戦、そして結末で語り手自身がこの暗礁へ向かう衝動を得るまで、デビル・リーフをめぐる情報のすべてがこの一作に集約されている

よくある誤解

Q. デビル・リーフはインスマス住民全員にとって恐怖の対象なのですか?A. 住民の多くにとっては忌避される禁域ですが、深きものどもとの混血が進んだ一族にとっては、老いとともに強まる「呼びかけ」を感じる特別な場所として描かれており、単純な恐怖の対象とは言い切れません。

Q. デビル・リーフは米国政府の掃討作戦で破壊されたのですか?A. いいえ。岩礁そのものへの言及ではありませんが、その先の海底都市イハ=ンスレイは「傷ついたが、破壊されはしなかった」と作中で明言されています。

出典

  • [1] “the low, black reef lies a full mile and a half out from Innsmouth Harbour”(訳: 「その低く黒い暗礁は、インスマス港から完全に1マイル半沖に横たわっている」) — H. P. Lovecraft, “The Shadow over Innsmouth”(1931年執筆/1936年発表), 公式アーカイブ ↩
  • [2] 老人ザドク・アレンによる、オベド・マーシュ船長らが夜な夜な暗礁へ漕ぎ出したという証言の要約 — 同上, 公式アーカイブ ↩
  • [3] “Shapes talkin’ sign language with their hands…haow’d ye like to hear what comes from that awful reef every May-Eve an’ Hallowmass?”(訳: 「手真似で会話する影のような姿……あの恐ろしい暗礁から五月前夜祭と諸聖人の祝日前夜のたびに聞こえてくるものを、お前さんも聞いてみたいかね?」) — 同上, 公式アーカイブ ↩
  • [4] “We shall swim out to that brooding reef in the sea and dive down through black abysses to Cyclopean and many-columned Y’ha-nthlei”(訳: 「われらはあの海に浮かぶ暗い礁まで泳ぎ、暗黒の深淵を潜ってキュクロプス的な円柱林立するイハ=ンスレイへ下るだろう」) — 同上, 公式アーカイブ ↩
  • [5] “a long, black line scarcely rising above the water yet carrying a suggestion of odd latent malignancy”(訳: 「水面からほとんど盛り上がらないのに、得体の知れぬ潜在的な邪悪さを感じさせる、黒く長い一線」) — 同上, 公式アーカイブ ↩
  • [6] “there’s a whole legion of devils seen sometimes on that reef—sprawled about, or darting in and out of some kind of caves near the top”(訳: 「その岩礁の上には、時おり一団の悪魔がのさばり回ったり、頂近くの洞穴のようなものを出入りしたりする姿が見られる」) — 同上, 公式アーカイブ ↩
  • [7] “Thar’s whar it all begun—that cursed place of all wickedness whar the deep water starts. Gate o’ hell—sheer drop daown to a bottom no saoundin’-line kin tech.”(訳: 「あそこがすべての始まりだ——あらゆる邪悪の凝り固まった、深い水が始まる忌まわしい場所だ。地獄の門よ——測深線も届かぬ、切り立った崖のように落ち込む底へ」) — 同上, 公式アーカイブ ↩
  • [8] “casting nervous glances out to sea in the direction of Devil Reef”(訳: 「海の方、デビル・リーフのある方角へ、落ち着かない視線を投げていた」) — H. P. Lovecraft, “Discarded Draft of The Shadow over Innsmouth”(1931年), 公式アーカイブ ↩
  • [9] “Swimming races out to Devil Reef were very common, and everyone in sight seemed well able to share in this arduous sport.”(訳: 「デビル・リーフまでの遠泳競争はごくありふれたもので、見える範囲にいる誰もが皆、この過酷な競技に加われるようであった」) — H. P. Lovecraft, “The Shadow over Innsmouth”(1931年執筆/1936年発表), 公式アーカイブ ↩
  • [10] “Others thought and still think he’d found an old pirate cache out on Devil Reef.”(訳: 「オベドがデビル・リーフで古い海賊の隠し財宝を見つけたのだと考える者もあり、今もそう考える者がいる」) — 同上, 公式アーカイブ ↩
  • [11] “the deep-diving submarine that discharged torpedoes downward in the marine abyss just beyond Devil Reef”(訳: 「海淵の奥、デビル・リーフのすぐ先へ向けて魚雷を撃ち込んだという深海潜水艦」) — 同上, 公式アーカイブ ↩
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