概要
追放された妖術師が、無数の死体を合成した百フィートの巨人を作り上げる一編。『エイボンの書』と『ネクロノミコン』が同一世界観の文献として明示的に対照・統合される代表作であり、CASのアヴェロワーニュ物の中でも屈指のスケール感を誇る一作。
作品情報
- 原題: The Colossus of Ylourgne
- 執筆・発表年: 1934年発表(「ウィアード・テイルズ」誌6月号、Vol.23 No.6)
- 主題タグ: 無数の死体を合成した巨人、廃城に立てこもる妖術師、『エイボンの書』と『ネクロノミコン』の対照校訂
登場神格・用語
あらすじ
ヴィヨーヌの町を追われた矮躯の妖術師ネテールは、十人の弟子とともに廃城イルーニュに立てこもり、死にゆく己の恨みを晴らすべく、盗掘した無数の死体を合成した百フィートの巨人を作り上げる。埋葬されたばかりの死体が次々と消え、疾走する死者たちが目撃される中、ネテールの元弟子ガスパール・デュ・ノールが真相を探るべくイルーニュに乗り込み、いったんは捕らえられるものの脱出に成功する。ネテールの魂を移した巨人がヴィヨーヌの町を蹂躙し始めると、ガスパールは大聖堂の塔に上って自ら調合した粉薬で巨人を無力化し、町を救う[1]。作中、『エイボンの書』は学者トレガーディス(『ウボ=サスラ』の主人公)によって『ネクロノミコン』と対照校訂されたとされ、その第四改訂版はガスパール自身が手掛けたと語られる。
読みどころと注目テーマ
本作最大の見せ場は、盗掘された無数の死体を溶接するように組み上げた「全長百フィートの人骨の巨人」という、スミスならではの過剰なまでに悍ましいスケール感にある。原文では、その骨組みが「サタンの身廊のアーチのような肋骨」を持ち、「今なお地獄の溶接の火で焼かれているかのように」輝いていたと形容されており[2]、単なる大きさの誇張にとどまらない、鍛冶や溶接といった工業的なイメージを不気味な錬金術と結びつける独特の描写になっている。また、巨人の中に宿ったネテールの魂が、かつての弟子ガスパールに対して憎悪と未練の入り混じった台詞を吐きかける場面も読みどころで、原文では『そこにいるのはお前か、ガスパール、この裏切り者の弟子め』と巨人が嵐のように吼え、『イルーニュの土牢で朽ち果てているとばかり思っていたが……お前はわしが置き去りにした場所に大人しく留まっているべきだったのだ』と続く[3]。師弟の因縁が、怪物と化した師の口から語られることで、単なる怪物退治劇にとどまらない哀感を作品に加えている。決着後、巨人が自ら墓穴を掘って横たわり、その後もしばらくネテールの声だけが腐乱した巨体から漏れ聞こえたという結末部も、勝利の高揚感を素直には許さないスミスらしい後味の悪さを残す。
執筆背景と影響
『エイボンの書』と『ネクロノミコン』が同一世界観の文献として明示的に対照・統合される、CASの創作神話とラヴクラフト神話の融合を示す代表的作品であり、『ウボ=サスラ』の主人公トレガーディスとの直接的な相互参照も持つ。本作は「ウィアード・テイルズ」誌1934年6月号(第23巻第6号)に掲載された[4]。クラーク・アシュトン・スミス(1893-1961)が創造した中世フランス風の架空の地方「アヴェロワーニュ」を舞台とする連作の一本で、追放された妖術師とその弟子という構図、死体を用いた禁断の錬金術、そして最終的に元弟子が師の脅威を打ち破るという筋立ては、同じアヴェロワーニュ物の『戻ってきた魔術師』や『アヴェロワーニュの獣』とも通じるスミスの得意なパターンである。本作は英語版ウィキソースに全文が掲載されており、同サイトのクラーク・アシュトン・スミス著者ページでは、著作権が存続中の一部の作品に付されている「Copyrighted in the United States until ####」という注記が本作には見られないため、本記事ではパブリックドメインの原典として扱い、原文からの引用を行っている。
出典
- [1] 巨人と化したネテールがヴィヨーヌの町を蹂躙する中、脱出していたガスパール・デュ・ノールが大聖堂の塔に上り、死者を鎮める粉薬を巨人の顔に浴びせて無力化する筋書きは原文終盤に記述されている。— 出典: Clark Ashton Smith, “The Colossus of Ylourgne,” Weird Tales 23, no. 6 (June 1934), Wikisource, 該当ページ ↩
- [2] 原文: “The prodigious and macabre framework, complete in every part, with ribs like arches of some Satanic nave, shone as if it were still heated by the fires of an infernal welding.”(訳: 「その途方もなく悍ましい骨組みは隅々まで揃い、悪魔の身廊のアーチのような肋骨を持ち、まるで今なお地獄の溶接の火で焼かれているかのように輝いていた」)— 出典: 同上, Wikisource, 該当ページ ↩
- [3] 原文: “‘Is it you, Gaspard, my recreant pupil?’ the colossus roared stormily. ‘I thought you were rotting in the oubliette beneath Ylourgne… You had been far wiser to remain where I left you, my good Gaspard.'”(訳: 「『そこにいるのはお前か、ガスパール、この裏切り者の弟子め』と巨人は嵐のように吼えた。『イルーニュの土牢で朽ち果てているとばかり思っていたが……お前はわしが置き去りにした場所に大人しく留まっているべきだったのだ』」)— 出典: 同上, Wikisource, 該当ページ ↩
- [4] 「The Colossus of Ylourgne」はWeird Tales誌1934年6月号(第23巻第6号)に掲載された短編として記録されている。英語版ウィキソースのクラーク・アシュトン・スミス著者ページでも同作は全文転載作品として一覧に載っており、著作権継続中の他の一部作品に付される注記が本作には無い。— 出典: Wikisource「Author: Clark Ashton Smith」作品一覧, 該当ページ ↩




