小説 — Ubbo-Sathla

ウボ=サスラ

水晶球を通じて時間を遡る隠秘学の徒が、『エイボンの書』の魔道士の生を経て原初の始源神ウボ=サスラへと至る幻視を描く。

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ウボ=サスラ

「「ウボ=サスラこそは始原にして終焉である。ゾタッカーワ、あるいはヨク=ゾトス、あるいはクトゥルフトが星々より到来するより前、ウボ=サスラは出来たばかりの地球の湯気立つ沼沢に住まっていた――頭もなく手足もない一塊の肉塊として、原初の灰色の無定形なる幼生と、地上の生命の忌まわしき原型とを生み落としながら……そして地上のあらゆる生命は、いつか大いなる時の環をめぐって、ついにはウボ=サスラのもとへと還っていくのだと語られている。」」

— クラーク・アシュトン・スミス「ウボ=サスラ」(Weird Tales、1933年7月号)冒頭、『エイボンの書』からのエピグラフ

編集部注(著作権について): 本記事が扱う『ウボ=サスラ』(1933年「ウィアード・テイルズ」誌7月号掲載)は、著作権継承者による同時代作品の個別更新実例があるため、パブリックドメインであるとは断定できません。本記事は原文からの引用を行わず、あらすじ・論評のみで構成しています。

概要

水晶球を通じて時間を遡る隠秘学の徒が、『エイボンの書』の魔道士の生を経て、原初の始源神ウボ=サスラへと至る幻視を描く一編。『ネクロノミコン』への直接言及によりラヴクラフト神話との融合点となった代表作。

作品情報

  • 原題: Ubbo-Sathla
  • 執筆・発表年: 1932年執筆/1933年発表(「ウィアード・テイルズ」誌7月号)
  • 再録: 作品集『Out of Space and Time』(1942年)に収録
  • 主題タグ: 水晶球による時間遡行、『エイボンの書』からの疑似引用、始源神ウボ=サスラ

登場神格・用語

あらすじ

考古学者にして隠秘学の徒ポール・トレガーディスは、骨董店で奇妙な水晶球を手に入れる。『ネクロノミコン』と『エイボンの書』の両方に通じていた彼は、球を覗き込むことで時間を遡り、過去の生を追体験していく。彼はやがて『エイボンの書』に記されたハイパーボリアの魔道士ゾン・メザマレックの生に至り、「地球誕生以前に死した神々」が遺した石板を求める幻視を見る。彼の幻視はそこからさらに時を遡り、ハイパーボリアの文明に先立つ太古のサーペント・メンの時代を経て、生命という現象そのものが姿を持つ以前の混沌へと沈み込んでいく。伝承によれば、地上のあらゆる生命はやがて巨大な時の環を巡り、最後には再びウボ=サスラのもとへ帰っていくのだという。物語は、こうして原初の無定形の始源神ウボ=サスラへと遡っていく。トレガーディスの探求は英雄的な啓示にはたどり着かず、むしろ人間という存在そのものを無に帰すかのような認識へと行き着く点に、本作の冷徹な結末がある。

読みどころと注目テーマ

時間を遡る水晶球というSF的な仕掛けを媒介に、幻視の階層を次々に潜り抜けながら原初の混沌へと遡っていく構成の壮大さ、そして『エイボンの書』という架空の魔道書に本文からの疑似引用という形で実体を与えた点が、本作最大の読みどころである。スミス自身が創造した『エイボンの書』と、ラヴクラフトの『ネクロノミコン』が同一の物語内で並び立つことにより、スミスが築いたハイパーボリアという独自の幻想世界と、ラヴクラフトのミソスとが地続きの神話体系であることを読者に強く印象づける一編でもある。時間遡行の果てに待つのが英雄的な啓示ではなく、あらゆる生命の起源にして終着点である無定形の原初的存在だったという結末は、人間の探求心そのものを冷ややかに突き放すクトゥルフ神話らしい宇宙的恐怖の一形態と言える。知識を渇望する隠秘学の徒が、知れば知るほど自らの卑小さを思い知らされていくという構図は、ラヴクラフト作品にも通底する主題でありながら、スミス特有の絢爛な文体と幻視的なイメージの奔流によって、また異なる質感の恐怖として描き出されている点も見逃せない。

執筆背景と影響

本作は1933年「ウィアード・テイルズ」誌7月号に初出し[1]、後に1942年の作品集『Out of Space and Time』に収録された[2]。スミス自身の『エイボンの書』本文からの疑似引用を初めて創作した作品であり、同時に『ネクロノミコン』に直接言及することでラヴクラフトのミソスとの明示的な接続を果たした、両創作神話の融合点となる代表作である。後年編まれた神話大系の総覧的な資料群では、始源神ウボ=サスラは「原初なる根源(The Unbegotten Source)」の異名を与えられ、太古の神々の系譜に連なる存在として位置づけられている[4]。著者クラーク・アシュトン・スミス(1893年-1961年)の没後、その文学的遺産はCASiana Literary Enterprisesを主宰する義理の息子ウィリアム・ドーマン教授によって管理されている[3]。本作を含む同時代の作品群について著作権継承者による個別の更新実例が確認されているため、本記事は冒頭の編集部注のとおりパブリックドメインと断定せず、原文からの引用を避けている。スミスは1929年から1934年にかけて特に旺盛な創作活動を行い、世界恐慌下の生活を支えるために100編を超える短編を量産した時期があったことが知られている[3]。本作もこの多作期にあたる1932年に執筆されており、スミスが築いたハイパーボリア連作の中でも、時間と生命の起源という最も根源的な主題を扱った一編として位置づけられている。

出典

本作は著作権継承者による同時代作品の個別更新実例があり、パブリックドメインであるとは断定できないため、原文からの引用は行っていません。以下は書誌的事実についての出典です。

  • [1] 本作の初出は「ウィアード・テイルズ」誌1933年7月号(Title Record #63519)。— 出典: ISFDB「Ubbo-Sathla」title record, 該当ページ
  • [2] 本作は後にスミスの作品集『Out of Space and Time』(1942年)に収録された。ハイパーボリアを舞台とする一連の作品群の一つとして扱われている。— 出典: Wikipedia「Clark Ashton Smith bibliography」, 該当ページ
  • [3] クラーク・アシュトン・スミス(1893年-1961年)の文学的遺産は、義理の息子であるウィリアム・ドーマン教授が主宰するCASiana Literary Enterprisesが代表しており、Arkham Houseも同作家の多数の作品の著作権を保有している。— 出典: Wikipedia「Clark Ashton Smith」, 該当ページ
  • [4] 後年のクトゥルフ神話の神格総覧では、ウボ=サスラは「原初なる根源(The Unbegotten Source)」という異名とともに「アウター・ゴッド」の一柱として分類されている。— 出典: Wikipedia「Cthulhu Mythos deities」, 該当ページ
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