概要
「秘密の洞窟」は、外出するリー夫人が子どもたちに「いい子にしているのよ」と言い聞かせる場面から始まります。10歳のジョンと幼い妹アリスは、両親が出かけるとすぐに地下室へ下り、瓦礫の山を漁り始めました。ジョンが樽の側板で舟を作っている間、壁にもたれていたアリスの背後でれんがが崩れ落ち、その奥に通路が現れます。二人はいったん台所へ戻って蝋燭とマッチを取ってから、あらためて通路の奥へ進みました。しっくいの残る一角を抜けると、そこから先は自然の洞窟になっていて、空の木箱や、二本の櫂が入った舟が見つかります。
やがて通路が行き止まりになり、ジョンが塞いでいた岩を取り除くと、水が奔流となって押し寄せました。ジョンは泳ぎの達者な少年でしたが、木箱と妹を抱えたままでは浮き上がれず、浮上してきた舟にしがみついてようやく水面に出ます。しかしそのとき、妹アリスの体はすでに動かなくなっていました。ジョンは増水を止め、妹の亡骸を舟に乗せて真っ暗な通路を漕ぎ下り、自宅の地下室に浮かび上がって両親に一部始終を話します。アリスの葬儀が長引くうちに置き忘れられていた木箱を、後で開けてみると、中身は1万ドル相当の金塊でした。
作品情報
- 原題: The Secret Cave or John Lees Adventure(年譜の表記)
- 執筆: 1898年[2]
- 初出: 『The Shuttered Room and Other Pieces』(Sauk City, WI: Arkham House, 1959)46–47ページ[3]
- 分量: 約600語(公式アーカイブ本文を機械集計)
- 語り: 三人称。ジョンの行動に沿って進む地の文
- 舞台: リー家の地下室から続く洞窟
- 主題: 兄妹による地下室の探検と、その先で妹の命が失われる顛末
登場神格・用語
- ジョン・リー(John) — 10歳の兄。物語の視点はおおむね彼の行動に沿って進みます
- アリス(Alice) — 本文では2歳と記されている妹
- リー夫妻(Mr. & Mrs. Lee) — 外出する両親。冒頭で子どもたちに留守番を言いつけ、結末で帰宅します
- 神格は登場しません。人間の兄妹と両親だけで進む物語です
あらすじ
崩れた壁と通路の発見
物語は、外出するリー夫人が「さあ、いい子にしているのよ」「わたしが留守の間、いたずらをしないでね」と言い聞かせる場面から始まります。両親が出かけると、10歳のジョンと幼い妹アリスはさっそく地下室に下り、瓦礫を漁り始めました。ジョンが樽の側板で舟をこしらえている間、壁にもたれて眺めていたアリスの背後でれんがが崩れ落ち、彼女は鋭い悲鳴を上げます。ジョンが助け起こすと、アリスは「壁がなくなった」と告げました。覗き込んだジョンは奥へ続く通路を見つけ、「これが何か見に行こう」と妹を誘います。二人はいったん台所の引き出しへ戻って蝋燭2本とマッチを取ってから、あらためて地下室の通路へ入りました[1]。
蝋燭を手に洞窟の奥へ
通路の壁や天井、床にはしっくいが残っており、目についたのは座るための木箱だけで、中を調べても空でした。さらに歩みを進めるとしっくいが途切れ、そこから先は自然の洞窟になっていました。アリスは最初こそおびえますが、兄が「大丈夫」と請け合うと落ち着きを取り戻します。奥へ進んだジョンは小さな木箱を見つけて抱え上げ、続いて二本の櫂が乗った舟を見つけると、それを苦労しながら引きずっていきました[1]。
押し寄せる水、そして黄金の箱
通路はやがて行き止まりになり、ジョンが塞いでいた岩を取り除くと、水が奔流となって流れ込みます。泳ぎの達者なジョンは、ちょうど息を大きく吸い込んだ直後だったため浮き上がろうとしますが、木箱と妹を抱えたままでは体が浮かず、そこへ浮上してきた舟が目に入り、それにしがみついてようやく水面に出ました。気づけば妹の体はすでに動かなくなっており、水がどこから入り込んだのか、ジョンにも見当がつきません。水位が上がり続ければ天井まで達しかねないという新たな危険を前に、彼はふと増水を止める手立てを思いつき、すぐさま実行に移します。妹の亡骸を舟に横たえて自らも乗り込み、蝋燭の消えた真っ暗な通路を漕ぎ下ると、浮かび上がった先は自宅の地下室でした。ジョンは亡骸を抱えて階段を駆け上がり、ちょうど帰宅していた両親に一部始終を語ります。アリスの葬儀に時間を取られるうちに木箱のことはすっかり忘れられていましたが、後になって開けてみると、中身は1万ドル相当の金塊でした。物語は「妹の死以外なら何にでも支払えるだけの金額だった」という一文で締めくくられます[1]。
読みどころと注目テーマ
つづりと句読点にみる草稿の勢い
公式アーカイブの本文は草稿の綴りをそのまま残しており、”long breathede”や、climbedを”climed”と綴る箇所が見られます。台詞の引用符が閉じないまま地の文へ流れ込む箇所や、句読点を欠いたまま文が長く連なる箇所も多く、思いついた出来事をそのまま書き取っていった筆致がうかがえます。
妹の年齢をめぐる食い違い
本文ではアリスは「2歳」と記されていますが、物語の中では兄の呼びかけに「はい」と答え、崩れた壁を見て「壁がなくなった」と自分の言葉で状況を説明し、地下室の階段や洞窟の奥まで自分の足で歩いて進みます。2歳児の行動として読むには噛み合わない点が多く、草稿の数字がそのまま誤って記されている可能性がありますが、当サイトでは真偽を確認していません。
唐突な場面転換と結末の一文
物語は「* * * * * *」という区切り記号を境に、水没の恐怖から一転して妹の葬儀へ飛びます。葬儀の様子そのものは描かれず、「時間がかかった」とだけ記されて、そのまま木箱の中身が明かされる結末へつながります。冒険の末に得た金塊の価値を1万ドルという具体的な金額で示しながら、それでも妹の命の代わりにはならないと結ぶ一文で物語は閉じられます。
執筆背景と影響
「秘密の洞窟」はラヴクラフトの年譜上、1898年の執筆とされています[2]。生前に発表されることはなく、没後の1959年にアーカム・ハウスから刊行された作品集『The Shuttered Room and Other Pieces』の46–47ページで初めて世に出ました[3]。成立の経緯や執筆の動機、当時の反響については、公式アーカイブに記載がなく、当サイトでは確認していません。
出典
[1] H. P. Lovecraft, “The Secret Cave” (本文). The H. P. Lovecraft Archive.https://www.hplovecraft.com/writings/texts/fiction/sc.aspx本記事の引用・要約はすべてこの本文に基づきます。訳文は当サイトによる試訳です。
[2] “Lovecraft’s Fiction” (作品年譜). The H. P. Lovecraft Archive.https://www.hplovecraft.com/writings/fiction/執筆年(1898年)と題名の表記の出典。
[3] “Data Page for ‘The Secret Cave'” (作品情報・出版履歴). The H. P. Lovecraft Archive.https://www.hplovecraft.com/writings/fiction/sc.aspx初出『The Shuttered Room and Other Pieces』(Arkham House, 1959)46–47ページの出典。
