小説 — The Mysterious Ship

謎の船

1847年、村ルーラルヴィルに正体不明のブリッグが現れ、名士ジョン・グリッグズが姿を消す。追跡は米国フリゲート艦上の戦闘、マダガスカル島、フロリダ・キーズ沖の難破船、そして潜水艇の発見へと広がり、北極点付近の「無人地帯」に囚われていた行方不明者たちが救出される。海賊マヌエル・ルエロの末路は、短縮版と長編版で異なる結末を迎える。1902年執筆、1959年アーカム・ハウス刊『The Shuttered Room and Other Pieces』で没後発表。約1,200語。

公開更新作成AI支援で作成

誤りの指摘・訂正依頼と編集方針は運営者情報へ。

謎の船

「1847年の春、小さな村ルーラルヴィルは、見慣れぬ双檣帆船(ブリッグ)が港に姿を現したことに沸き立った」

— H・P・ラヴクラフト「謎の船」(1902年執筆、1959年発表)冒頭部(短縮版)
記事内に商品プロモーションを含む場合があります

概要

『謎の船(The Mysterious Ship)』は、H・P・ラヴクラフトが1902年に書いた少年期の習作です[2]。1847年、港町ルーラルヴィルに現れた正体不明のブリッグと、そこから始まる連続失踪事件を、村、海上のフリゲート艦、マダガスカル島、フロリダ・キーズ沖、北極点付近という五つの舞台を渡り歩きながら描いています[1]。

本文は公式アーカイブに短縮版と長編版の二種類として収められており、どちらも同じ筋書きをたどりますが、登場人物の呼び名や結末の細部が異なります[1]。短縮版は出来事を淡々と要約する文体で進み、長編版は台詞や地の文の描写を交えて同じ出来事を膨らませています[1]。

物語の発端は、短縮版の一文がよく表しています。「1847年の春、小さな村ルーラルヴィルは、見慣れぬ双檣帆船(ブリッグ)が港に姿を現したことに沸き立った」[1]。この一文から始まる失踪事件は、海賊の正体と潜水艇という秘密兵器の発見を経て、短縮版で九章、長編版で十章という短い章立ての中で語られます[1]。

作品情報

  • 原題: The Mysterious Ship
  • 執筆: 1902年[2]
  • 初出: 『The Shuttered Room and Other Pieces』(Sauk City, WI: Arkham House, 1959)52–53ページ[3]
  • 分量: 約1,200語(公式アーカイブ本文を機械集計)。短縮版・長編版という二種類の本文からなり、いずれも短い章に分かれる
  • 語り: 三人称。短縮版は出来事を要約的にたどる文体、長編版は台詞や情景描写を加えた文体です[1]
  • 舞台: ルーラルヴィル、米国フリゲート艦上、マダガスカル島、フロリダ・キーズ沖、北極点付近の「無人地帯」[1]
  • 主題: 連続する失踪事件の謎解きと、正体不明の海賊船・潜水艇の発見[1]

登場神格・用語

  • マヌエル・ルエロ(Manuel Ruello) — 正体不明のブリッグの船長。長編版では出身地がトリポリとされ、小屋の扉に「M. Ruello」の表札が掛かっています[1]
  • ジョン・グリッグズ(John Griggs) — ルーラルヴィルの住人。長編版では「村の名士」と紹介され、最初に姿を消す人物です[1]
  • ヘンリー・ジョンズ(Henry Johns / Henry F. Johns) — 米国フリゲート艦の乗組員。海賊船との戦闘後に行方不明になります[1]
  • ダハビア(Dahabea) — マダガスカル島の住民。島民が集まった際に一人だけ姿が見当たらなかった人物です[1]
  • ジョン・ブラウン(John Brown) — フロリダ沖で潜水艇が見つかった直後に姿を消す人物。物語終盤で救出されます[1]
  • ファラガット司令官(Commander Farragut) — 長編版に登場する米国フリゲート艦「コンスティチューション」の指揮官[1]
  • 「無人地帯」(No-Mans Land) — 北極点付近にあるとされる大陸。火山性の土壌からなり、一部が探検家に開かれていると説明されます[1]
  • 神格は登場しません。人名・地名はいずれも本作オリジナルの創作で、他のクトゥルー神話作品と接続する記述は本文にありません。

あらすじ

短縮版 第1章〜第3章/長編版 第I章〜第III章 消えた三人

1847年の春、ルーラルヴィルの港に名前も国旗もないブリッグが現れます。短縮版はその様子を「疑いを招くようなものだった」とだけ記し、長編版は船がトリポリから来たことと、船長がマヌエル・ルエロという名であることを明かします[1]。10月4日の夜、村の住人ジョン・グリッグズが自宅から姿を消し、長編版はグリッグズを「村の名士」と紹介します。翌10月5日、ブリッグは港から去ります[1]。

舞台は海上へ移ります。米国フリゲート艦(長編版では「コンスティチューション」、指揮官はファラガット司令官)が同じ特徴を持つブリッグを発見し、誰何すると海賊旗が掲げられて砲撃戦になります。戦いが終わったとき、乗組員のヘンリー・ジョンズが一人欠けていました[1]。続いて舞台はマダガスカル島へ移り、とうもろこしを摘んでいた島民が同じブリッグを見つけて四方へ逃げ、島の反対側に集まったときにはダハビアという一人が姿を消していたと語られます[1]。

短縮版 第4章〜第7章/長編版 第IV章〜第VII章 手配、フロリダの潜水艇、北極の「無人地帯」

三件の失踪が結びつけられ、マヌエル・ルエロの逮捕に5,000ポンドの懸賞金がかけられます[1]。折しも、名も無いブリッグがフロリダ・キーズ沖で難破したという報せが届きます。駆けつけた人々が難破船のそばに見つけたのは、鋼鉄でできた紡錘形の物体でした。誰かが「潜水艇だ」と声を上げ、別の一人が「謎が解けた」と応じます。海賊たちは戦闘の混乱に乗じてこの潜水艇で人をさらっていたのだろうと推測され、まさにそのとき、今度は乗組員のジョン・ブラウンが姿を消したと叫ぶ声が響きます[1]。

物語はここで地理の説明を挟みます。北極点には火山性の土壌からなる広大な大陸が存在するとされ、その一部は探検家に開かれているものの大半は不毛で踏破できない土地とされ、「無人地帯」と呼ばれています[1]。この無人地帯の南端で、桟橋と一軒の小屋、人が住んでいた跡が見つかります。長編版では小屋の扉に「M. ルエロ」と刻まれた錆びた表札があり、中からグリッグズの手帳、フリゲート艦の航海日誌、ダハビアの持ち物が発見されます。小屋の側面のばねを押すと壁に穴が開き、その先の地下洞窟で黒く濁った海に浮かぶもう一隻の潜水艇が見つかり、船内の床に鎖でつながれたグリッグズ、ジョンズ、ダハビアの三人が生きたまま発見されます。三人はロンドンに着いたのち、それぞれルーラルヴィル、フリゲート艦、マダガスカルへ帰っていきます[1]。

短縮版 第8章・第9章/長編版 第VIII章〜第X章 ジョン・ブラウンの救出と結末の分かれ道

ジョン・ブラウンの行方だけはまだ分かりません。人々は無人地帯の港を見張り続け、ついに潜水艇が戻ってきます。長編版は攻撃の日を10月5日と定めたことを書き添えます。マヌエル・ルエロを先頭に海賊たちが一人ずつ船を降りたところを、待ち構えていた一斉射撃が襲い、戦いの末にブラウンは救出されます[1]。

村に戻ったグリッグズは盛大な歓迎を受け、ヘンリー・ジョンズのための晩餐会が開かれ、ダハビアはマダガスカルの王に迎えられます。短縮版はここでブラウンが自分の船の船長に任命されたと結び、マヌエル・ルエロのその後には触れません。長編版はこれと結末が異なり、マヌエル・ルエロはニューゲート監獄で処刑されたと明記して物語を閉じます[1]。

読みどころと注目テーマ

きわめて短い章立てと大陸をまたぐ飛躍

約1,200語の中に短縮版で九章、長編版で十章が詰め込まれているため、1章あたりの分量はごくわずかです[1]。舞台もルーラルヴィルの港から米国フリゲート艦上、マダガスカル島、フロリダ・キーズ沖、北極点付近の「無人地帯」へと、章が変わるたびに大陸をまたいで移動します。距離や移動手段の説明はほとんどなく、事件の要点だけが次々と積み重ねられていく構成です。

短縮版と長編版、ふたつの草稿が並べて残されている

公式アーカイブは同じ物語を短縮版と長編版という二種類の本文で掲載しており、細部の食い違いも修正されずにそのまま残されています[1]。船長の名は短縮版で「マヌエル・ルエロ」ですが、長編版では小屋の表札の場面で「マイケル・ルエロ」とも記され、グリッグズの表記も終盤で「グレッグ」に変わります。何より結末が異なり、短縮版はマヌエル・ルエロの処遇を語らずに終わるのに対し、長編版は処刑という結末をはっきり書き添えています。「Anonymus(アノニマス)」という署名の綴り違いも含め、本文の誤記は公式アーカイブの方針どおり手を加えられていません。

潜水艇という異物が海賊物語に紛れ込む

帆船同士の戦いや南洋の島、北極の秘境といった舞台立ては伝統的な海洋冒険譚の型ですが、その中に鋼鉄製の紡錘形をした潜水艇が二度にわたって登場します[1]。フロリダ沖で発見された一隻は誘拐の道具として、無人地帯の地下洞窟で見つかったもう一隻は囚われた三人を閉じ込める場所として使われ、当時の最新技術だった潜水艇が、海賊の秘密兵器という形で物語に組み込まれています。

執筆背景と影響

公式年譜は本作の執筆年を1902年としています[2]。作品情報ページによれば、初出は没後の1959年、アーカム・ハウスが刊行した作品集『The Shuttered Room and Other Pieces』の52ページから53ページで、生前に発表された記録はありません[3]。成立の経緯や執筆の動機、他の習作との関連については、公式アーカイブに記載がなく、当サイトでは確認していません。

出典

[1] H. P. Lovecraft, “The Mysterious Ship” (本文). The H. P. Lovecraft Archive.https://www.hplovecraft.com/writings/texts/fiction/mys.aspx本記事の引用・要約はすべてこの本文に基づきます。訳文は当サイトによる試訳です。

[2] “Lovecraft’s Fiction” (作品年譜). The H. P. Lovecraft Archive.https://www.hplovecraft.com/writings/fiction/執筆年(1902年)ほかの出典。

[3] “Data Page for ‘The Mysterious Ship'” (作品情報・出版履歴). The H. P. Lovecraft Archive.https://www.hplovecraft.com/writings/fiction/mys.aspx初出『The Shuttered Room and Other Pieces』(Arkham House, 1959)52–53ページの出典。

関連作品ガイド ── どれから楽しむか

原典そのものを読むなら
原典そのものを読むなら
定番の全集での紹介書籍 表紙
定番の全集で

ラヴクラフト作品を日本語の定訳でまとめて読みたいなら、創元推理文庫の全集(第1巻)から。全巻を通して主要作をほぼ網羅しています。

『ラヴクラフト全集1』をAmazonで見る ↗

※上記は広告リンク(アフィリエイト)です。

続きを辿る

隣の棚

記事URLをコピーしました