小説 — The Seven Geases

七つの呪い

妖術師への無礼から呪いをかけられた高官が、ツァトゥグァ・アブホース・アトラク=ナクァと次々に引き合わされる。CASミソスの集大成的作品。

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七つの呪い

「コモリオムの高等執政官にしてホンクァト王の再従兄弟にあたる卿ラリバール・ヴーズは、黒きエイグロフィアン山脈がもたらす獲物を求め、最も勇猛な二十六名の従者を率いて出立していた。」

— クラーク・アシュトン・スミス「七つの呪い」(Weird Tales、1934年10月号)冒頭部

概要

妖術師の儀式を妨げた高官が、次々と地底の邪神たちへたらい回しにされる一編。ツァトゥグァアブホースアトラク=ナクァという複数の邪神が同時に登場する、CASミソスの集大成的作品である。狩人としての誇りを一瞬で剥ぎ取られ、丸腰のまま怪物の巣へ追い立てられていく主人公の転落ぶりが、ブラックユーモアすれすれの筆致で描かれる[1]

作品情報

  • 原題: The Seven Geases
  • 執筆・発表年: 1934年発表(「ウィアード・テイルズ」誌10月号)
  • 主題タグ: 妖術師への無礼という発端、地底神々へのたらい回し、複数邪神の集大成的登場

登場神格・用語

あらすじ

ハイパーボリアの高等執政官にして狩人のラリバール・ヴーズは、二十六名の従者を率いてヴーミサドレス山でヴーミ族狩りに興じるが、途中で一人道を外れ、山中に隠棲する妖術師エズダゴルの儀式を無礼にも踏み荒らしてしまう[2]。激怒したエズダゴルは、武器をすべて捨てさせた上で、丸腰のままヴーミ族の巣を突破し、山の奥深くに眠るツァトゥグァへの生贄として身を捧げよという呪い(ギース)をヴーズにかける。使い魔の夜行性の鳥ラフトンティスに導かれ、ヴーズは牙と爪で迫るヴーミ族の群れを鎧の拳だけで殴り倒しながら、地の底へと追い立てられていく。

ようやくたどり着いたツァトゥグァは、しかし「つい先ほど血の生贄を平らげたばかりで満腹である」との理由でヴーズを拒み、退屈しのぎに新たな呪いをかけて、蜘蛛の姿をした地底神アトラク=ナクァのもとへと送り出す[3]。永遠に糸を紡ぎ続けるアトラク=ナクァもまた獲物としての価値を認めず、ヴーズをさらに別の地底神のもとへとたらい回しにする。こうして七つの呪いを重ねながら、ヴーズは始原の穴の主アブホースの領域や、名状しがたい太古の神々の巣が並ぶ地底世界を次々と巡らされていく。どの神も彼を食らおうとはせず、ただ次の恐怖への通行手形として利用するだけであり、誇り高き狩人であったはずのヴーズは、いつしか自らが「誰にも求められない生贄」であるという屈辱を噛みしめながら、なおも地の底へと沈んでいく。異形の始祖たちの洞窟、万物の穢れの母アブホースのもとを経て、七つ目の呪いによりようやく「外の世界(地上)へ去れ」と命じられたヴーズは、地上へ戻るべくアトラク=ナクァの糸の橋を引き返すが、先に渡った怪物の重みで弱っていた橋が足元で崩れ落ち、誰も自ら測ろうとしたことのない奈落へと転落してしまう。地底の神々の誰にも望まれなかった末に、最後は呪いの言葉にも記されていなかった単なる事故によって呑み込まれるという結末は、宇宙的恐怖を荘厳に語るのではなく、皮肉なアンチクライマックスとして突き放す本作らしい幕切れになっている[4]

読みどころと注目テーマ

妖術師への無礼という些細な発端から広がる災厄、地底の邪神たちを次々と巡る構成、複数の邪神が同時に登場する集大成的スケール――特筆すべきは、これほどの数の旧支配者が登場しながら、誰一人としてヴーズを「積極的に」求めない点である。恐怖の対象であるはずの神々が、獲物にすら関心を示さず気だるげにやり過ごしていくという逆説的な扱いは、宇宙的恐怖を茶化すことなく、むしろ人間の卑小さを一段と際立たせる効果を生んでいる。

執筆背景と影響

一作でツァトゥグァ・アブホース・アトラク=ナクァという複数の既存邪神が同時に登場する、CASミソスの集大成的作品と評される一編。ハイパーボリア連作の他作品で個別に語られてきた地底神たちの位階・縄張りを一つの旅程の中で串刺しにする構成は、スミス自身が自作の神話体系を俯瞰し、整理し直す意図を持って書かれたとも考えられている。英語版ウィキソースに全文が掲載されており、パブリックドメインとして扱われている。

出典

  • [1] “The Lord Ralibar Vooz, high magistrate of Commoriom and third cousin to King Homquat, had gone forth with six-and-twenty of his most valorous retainers in quest of such game as was afforded by the black Eiglophian Mountains.”(訳: 「コモリオムの高等執政官にしてホンクァト王の再従兄弟にあたる卿ラリバール・ヴーズは、黒きエイグロフィアン山脈がもたらす獲物を求め、最も勇猛な二十六名の従者を率いて出立していた」) — Clark Ashton Smith, “The Seven Geases”(Weird Tales、1934年10月号)冒頭部, Eldritch Dark(原文)
  • [2] “Know that I am the sorcerer Ezdagor…In retribution for the charm you have shattered, the business you have undone by this oafish trespass, I shall put upon you a most dire and calamitous and bitter geas.”(訳: 「我こそは妖術師エズダゴルなり……そなたが打ち砕いた呪法、この愚鈍な侵入によって台無しにされた務めへの報いとして、私はそなたに、最も苛烈にして災いに満ちた、苦い呪い(ギース)をかけようぞ」) — 同上, Eldritch Dark(原文)
  • [3] “Thanks are due to Ezdagor for this offering. But, since I have fed lately on a well-blooded sacrifice, my hunger is appeased for the present, and I require not the offering…I place you under this geas, to betake yourself downward through the caverns till you reach…the spider-god Atlach-Nacha.”(訳: 「この供物についてはエズダゴルに感謝しよう。だが、つい先ごろ血なまぐさい生贄を平らげたばかりで、今のところ我が飢えは満たされており、この供物は要らぬ……そなたにこの呪いをかけよう。洞窟を下り続け、やがて……蜘蛛神アトラク=ナクァのもとへたどり着くまで」) — 同上, Eldritch Dark(原文)
  • [4] “But at this point the web gave way beneath him. He caught wildly at the broken, dangling strands, but could not arrest his fall…This, unfortunately, was a contingency that had not been provided against by the terms of the seventh geas.”(訳: 「だがこの時、足元の糸の橋が崩れ落ちた。彼は破れて垂れ下がる糸を必死につかもうとしたが、落下を止めることはできなかった……これは不運にも、七つ目の呪いの条項には織り込まれていなかった不測の事態であった」) — 同上、末尾, Eldritch Dark(原文)
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