概要(2〜3行)
ラヴィニア・ウェイトリーは、H・P・ラヴクラフト「ダニッチの怪」に登場する、マサチューセッツ州ダニッチの女。語り手は彼女を「退廃したウェイトリー家の一人で、やや畸形の、人目を惹かない三十五歳の白皮症の女」と紹介し、若い頃に魔術の噂を立てられた半狂人の父と二人で暮らしていたと書く[1]。1913年2月2日に生まれたウィルバー・ウェイトリーの母であり[2]、知られた夫を持たないまま子を育てたが[3]、1926年のハロウィーンを最後に姿を見られなくなった[4]。
基本プロフィール
- 分類: 人物
- 欧文表記: LAVINIA WHATELEY
- 初出・出典: 「ダニッチの怪」(1928年夏執筆/1929年4月『ウィアード・テイルズ』第13巻第4号、481〜508頁)[5]
- 年齢: ウィルバーが生まれた1913年2月の時点で35歳[1]
- 住居: ダニッチ村から4マイル、他のどの人家からも1マイル半離れた、丘の斜面に建つ農家[2]
- 家族: 父はオールド・ウェイトリー(作中で下の名は与えられない)。母ウェイトリー夫人は、ラヴィニアが12歳のときに原因の分からない変死を遂げた[6]。息子はウィルバー[2]。物語の終わりで、ヘンリー・アーミテージはもう一人の存在を「ウィルバーの双子の兄弟」と説明している[7]
- 学歴: 学校へ通ったことがない[8]
- 消息(作中): 1926年のハロウィーンを最後に姿を見られない[4]。原典は彼女の死も、その死因も明言していない
原典での描写
誰の子とも知れない子の出産
物語の第2章は、ウィルバーの出生を日付から書き起こす。1913年2月2日日曜の午前5時、ダニッチ村から4マイル、他の人家から1マイル半離れた、丘を背にした大きな農家での出産だった[2]。その夜、丘の唸りと近隣の犬の吠え声を越えて恐ろしい叫び声が響いたが、立ち会った医者も産婆もいなかった[9]。
ラヴィニアには知られた夫がなく、この土地の習いに従って子を否認しようとはしなかった。父方の血筋について、村人たちは好きなだけ憶測を巡らせることができた[3]。生後1か月のあいだにウィルバーを見たのは、「衰えていない」系統のゼカライア・ウェイトリーと、アール・ソイヤーの内縁の妻マミー・ビショップの二人だけである[10]。
父オールド・ウェイトリーは、この子の父について村の雑貨店で公然と語った。彼は、娘の男はアイルズベリーのこちら側で見つかる限り上等な夫だと言い張り、丘のことを自分ほど知っていれば教会での式など望みはしないだろうと続けたうえで、いつか「ラヴィニーの子」がセンティネル・ヒルの頂で父の名を呼ぶのを聞くことになる、と告げた[11]。オールド・ウェイトリーが孫の父について語ったのは、作中この場面だけである。
赤子への誇りと、呟かれた予言
語り手は、ラヴィニアがこの子を恥じなかったどころか奇妙に誇っていた、と書く。黒く山羊めいた赤子は、彼女自身の病んだような桃色の目をした白皮症とあまりに対照的だった。彼女はその赤子の異常な力と巨大な未来について、数々の奇妙な予言を呟くのが聞かれている[12]。
こうした呟きが彼女から出たことを、語り手は不自然だと見ていない。ラヴィニアは雷雨のさなかの山を独りさまよい、父が二世紀分のウェイトリー家から受け継いだ、古びと虫食いで崩れかけた大きな臭い本を読もうとする、孤独な生き物だった[13]。学校へは一度も行っていない。頭にあったのは、オールド・ウェイトリーが教え込んだ古い伝承の、脈絡のない断片ばかりである[8]。
奇妙な影響のただ中に孤立した彼女は、荒唐無稽で誇大な白昼夢と、風変わりな仕事を好んだ。秩序も清潔さも失われて久しい家では、家事に時間を取られることもなかった[14]。
山を歩く母と子
ウィルバーの誕生後、ウェイトリー家の牛には切り傷めいた爛れが現れるようになる。それと似たものを、最初の数か月のうち一度か二度、訪ねた者が、灰色の無精髭の老人と「だらしのない、縮れ毛の白皮症の娘」の喉にも見分けられるように思った、と語り手は書いている[15]。
翌春、ラヴィニアは「不釣り合いな腕」に浅黒い子を抱いて、いつもの山歩きを再開した[16]。やがて子は自分の足で歩くようになり、1914年9月、1歳7か月のウィルバーは野と丘を自由に駆け回って、母の放浪すべてに付き添うようになる[17]。
この間の一場面だけが、二人が丘の上で何をしていたかをわずかに覗かせる。山歩きを再開した年のハロウィーンの夜、センティネル・ヒルの頂に火が上がった。迷い牛を追っていたサイラス・ビショップは、火が目に留まる1時間ほど前に、母の前を力強く駆け上がる少年を提灯の薄明かりで見たと語っている。二人は下生えを音もなく駆け抜けていき、驚いたビショップの目には、どちらも何ひとつ身に着けていないように映った[18]。
外見の面でも、母と子は結び付けられている。ウィルバーは母と祖父の「顎の無さ」を受け継いでおり、そこに早熟な鼻と大きく黒い目が加わって、擬似的な成人の相貌をつくっていた[19]。
一階に取り残される
第3章に入ると、ラヴィニアの立ち位置は目に見えて下がる。数少ない訪問者は、板で塞がれた二階から奇妙な叫びと足音が響くあいだ、一階に独りでいる彼女を見つけることが多かった。父と息子が上で何をしているのか、彼女は決して語ろうとしない。ふざけた魚売りが階段へ通じる錠のかかった戸を試したとき、彼女は蒼白になり、尋常でない怯えを見せた[20]。
家の中で起きていることを知る者から、ラヴィニアは外されつつあった。この描写は、後にウィルバーが母を丘から締め出す場面の前触れになっている。
父の臨終(1924年)
1924年のラマスの夜、オールド・ウェイトリーが危篤に陥り、ウィルバーが最後の1頭の馬を走らせて村から電話をかけ、アイルズベリーのヒューストン医師を呼んだ[21]。医師が枕元に見たのは、「形の崩れた白皮症の娘」と「奇妙に髭の生えた孫」だった[22]。
オールド・ウェイトリーが孫へ最後の言葉を告げたあと、声はふたたび喘ぎに変わる。ヨタカの鳴きがその喘ぎに合わせて調子を変えたとき、ラヴィニアは悲鳴を上げている。臨終のあと、彼女はむせび泣いた。同じ場で、ウィルバーは含み笑いを漏らしただけだった[23]。
この対比は、ダニッチの俗信を知っていると重く読める。この土地ではヨタカは死にゆく者の魂を待ち伏せる魂の案内人だとされ、鳴き声を瀕死の者の息づかいに合わせるのだと言われていた[24]。
1926年のハロウィーン
父の死後、ウィルバーは年を追って白皮症の母を侮蔑するようになり、ついに五月前夜と万聖節に丘へ同行することを禁じた。1926年、彼女はマミー・ビショップに、息子が怖いと訴えている[25]。このときの言葉が、作中でラヴィニアが発した唯一の台詞である。
あいつについては、あんたに話せる以上のことをあたしは知ってる、マミー。でも近ごろは、あたしが知っていること以上のものがあいつにはあるんだ。神さまに誓って、あいつが何を欲しがっているのか、何をしようとしているのか、あたしには分からない[26]
その年のハロウィーン、丘の唸りはかつてないほど高く、センティネル・ヒルにはいつもどおり火が燃えた。だが人々の耳を惹いたのは、灯の消えたウェイトリー農家の近くに集まった、季節外れのヨタカの大群が刻む律動的な叫びだった。真夜中を過ぎると、その甲高い鳴き声は田舎じゅうを満たす悪鬼じみた哄笑に変わり、夜明けまで静まらなかった[27]。
夜が明けると鳥は南へ去り、あとには何も起きていないように見えた。土地の者には誰一人死んだ様子がなかった——「だが哀れなラヴィニア・ウェイトリー、あの捻じくれた白皮症の女は、二度と姿を見られなかった」[4]。
以後、人々はおおむね、ウィルバーが母の失踪について何か知っていると疑うようになる。その近所へ寄る者は、もうごくわずかだった[28]。
名前だけが残る
失踪の後も、彼女の名は村の言葉づかいの中に残った。1928年、セス・ビショップ家の家政婦サリー・ソイヤーが牛の惨状をコーリー夫人へ電話で伝える場面で、時間の目盛りとして使われるのが「ラヴィニーの黒いガキが生まれてこのかた」である[29]。
物語の最後、センティネル・ヒルの頂で消えた存在の顔を望遠鏡越しに見たカーティス・ウェイトリーは、正気に返ってから「赤い目と縮れた白皮症の髪、そして顎の無い、ウェイトリー家そっくりの」半ばだけ形をなした人の顔だったと繰り返す[30]。白皮症と顎の無さ——ラヴィニアを描くのに使われたのと同じ語[1][19]が、ここでもう一度使われている。
続けてゼブロン・ウェイトリーが、15年前にオールド・ウェイトリーが語った予言——いつか「ラヴィニーの子」がセンティネル・ヒルの頂で父の名を呼ぶ——を思い出す[31]。その直前、丘の上の声は紛れもない英語で「助けて! 助けて! ……父さん! 父さん! ヨグ=ソトース!」と叫んでいた[32]。そしてアーミテージは、いま送り返したものについて「それはウィルバーの双子の兄弟だったが、父親のほうにより似ていた」と説明する[7]。
別名・呼称
作中でラヴィニアに与えられた別名はない。地元の言葉づかいでは「ラヴィニー(Lavinny)」と訛って呼ばれ、父の演説[11]、村人の噂[29]、終盤のゼブロンの回想[31]のいずれもこの形を使う。彼女自身の名前が村で口にされるのは、ほとんどが「ラヴィニーの子」「ラヴィニーの黒いガキ」という、息子を指す言い回しの一部としてである。
語り手の側の呼び方も固有名ではない。「形の崩れた白皮症の娘」[22]、「半ば畸形の白皮症の母」[25]、「あの捻じくれた白皮症の女」[4]と、白皮症と体の歪みを軸にした言い換えが繰り返される。結婚していないため、姓はウェイトリーのまま変わらない[3]。
人物像・性格
原典が彼女に与えた性格は、大きく二つの面から書かれている。
一つは孤立である。学校教育を受けず[8]、母を12歳で変死で失い[6]、魔術の噂のために村から忌避される農家で父と暮らした[1]。荒唐無稽で誇大な白昼夢と風変わりな仕事を好んだという記述は、その孤立の裏返しとして置かれている[14]。雷雨の山をさまよい、崩れかけた蔵書を読もうとする姿も同じ文脈にある[13]。
もう一つは、自分の子への誇りである。父の血筋を隠さず[3]、赤子の異常な力と巨大な未来を予言して回った[12]。この誇りは、ウィルバーの成長とともに行き場を失っていく。二階の仕事から外され[20]、五月前夜と万聖節の丘からも締め出され[25]、最後に残った言葉は、息子が何を望んでいるのか分からないという訴えだった[26]。
当サイトが原文を通しで検索した限り、彼女が呪文を唱える場面、何かを呼び出す場面は見当たらない。「ダニッチの怪」がラヴィニアに与えた行為は、本を読もうとすること、山を歩くこと、子を抱いて丘へ上ること、そして黙っていることである。
生涯・経歴
原典から年を追える出来事は多くない。
1913年2月に35歳だったことから[1]、生まれは1877年から78年頃と計算できる。12歳の年、母ウェイトリー夫人が原因の分からない変死を遂げた。もともとオールド・ウェイトリーの黒魔術の評判で恐れられていた農家は、この事件でいっそう人が寄りつかなくなる[6]。
1913年2月2日、ウィルバーを出産[2]。翌春には子を抱いて山歩きを再開し[16]、その年のハロウィーンには、センティネル・ヒルの火が上がる前に母子が丘を駆け上がる姿が目撃されている[18]。1914年9月、子は自分の足で母の放浪すべてに付き添うようになった[17]。
ウィルバーが独りで本を読むようになった頃には、家の中心は板で塞がれた二階へ移り、彼女はそこから外された[20]。1924年のラマスの夜に父が没する[21][23]。1926年、息子への恐れをマミー・ビショップに訴え[25]、その年のハロウィーンに姿を消した[27][4]。
以後、彼女が原文に登場することはない。1928年の一連の出来事の中で名が出るのは、村人の言葉づかいの中だけである[29][31]。
他の人物・存在との関係
オールド・ウェイトリー(父) — 作中で下の名を与えられない魔術師。ラヴィニアに古い伝承の断片を教えた人物であり[8]、蔵書の持ち主でもある[13]。孫の父について公に語ったのも彼だった[11]。1924年のラマスの夜に没する[21][23]。
ウィルバー・ウェイトリー(息子) — 誕生から彼女が誇り続けた相手[12]。母と祖父の顎の無さを受け継ぎ[19]、幼いうちは母の放浪すべてに同行した[17]。成長するにつれて母を侮蔑するようになり、丘への同行を禁じる[25]。母の失踪については、村人が彼を疑ったという記述があるだけで、原典は真相を書いていない[28]。
ダニッチの怪(存在) — 終盤にセンティネル・ヒルで消えた存在。アーミテージはこれを「ウィルバーの双子の兄弟」と呼んでいる[7]。カーティス・ウェイトリーの証言では、その顔は「赤い目と縮れた白皮症の髪、そして顎の無い、ウェイトリー家そっくりの」ものだった[30]。原文はこれを「ウェイトリー家そっくり」と言うにとどめ、誰から受け継いだものかは書いていない。
ヨグ=ソトース — 丘の上の声が最後に呼んだ名。オールド・ウェイトリーの予言[11]と、ゼブロンの回想[31]、そしてアーミテージの説明[7]が、この名をウィルバーの父として結び付ける。ただし原文は、ラヴィニアとこの存在との間に何が起きたのかを描く場面を持たない。
マミー・ビショップ — アール・ソイヤーの内縁の妻。生後1か月のウィルバーを見た二人のうちの一人であり[10]、1926年にラヴィニアが恐れを打ち明けた相手でもある[25]。原典で彼女の言葉を受け取った人物は、この一人だけである。
ウェイトリー夫人(母) — ラヴィニアが12歳のときに変死した[6]。原典に名も、死の事情の説明もない。
主要登場作と読みどころ(3〜5作)
- 「ダニッチの怪」(1928年夏執筆/1929年4月発表): ラヴィニアの唯一の登場作[5]。彼女が地の文に現れるのは第2章から第4章までで、第5章以降は他人の口に上る名前として残る。読みどころは、誇らかに予言を呟いていた母が、二階から、次いで丘から外され、最後に「あいつが何をしようとしているのか分からない」という一言だけを残して消えるまでの、位置の下がり方にある。
- あわせて読む「ウィルバー・ウェイトリー」: 同じ出来事を息子の側から追う記事。母子の関係が逆転していく過程は、こちらと読み比べると分かりやすい。
- あわせて読む「ダニッチの怪(存在)」: 終盤に現れる双子の弟を扱う記事。ラヴィニアが産んだもう一人がどう描かれたかは、この記事の側にある。
- あわせて読む「ダニッチ」: ウェイトリー家を含む土地そのものの記事。ラヴィニアの孤立を、村の側の事情から読み直せる。
- あわせて読む「センティネル・ヒル」: 彼女が子を連れて上った丘[18]と、予言が果たされる場所[31]を扱う記事。
よくある誤解(Q&A)
Q. ラヴィニアはヨグ=ソトースの妻だったのですか? A. 原典は「知られた夫がいなかった」と書くだけで[3]、婚姻にあたるものは示していない。父オールド・ウェイトリーは、娘の男はアイルズベリーのこちら側で見つかる限り上等な夫だと言い[11]、物語の最後に丘の上の声が父として呼んだのはヨグ=ソトースだった[32]。アーミテージも、消えた存在が「父親のほうにより似ていた」と述べている[7]。ただし、ラヴィニアとこの存在の間に何が起きたのかを描く場面は原文に無く、当サイトでも書ける以上のことは分かっていない。
Q. ラヴィニアは死んだのですか? A. 原典は「二度と姿を見られなかった」としか書いていない[4]。その直前には、季節外れのヨタカの大群がウェイトリー農家の近くに集まり、真夜中過ぎに狂騒的な哄笑へ変わったという記述がある[27]。ダニッチではヨタカは死にゆく者の魂を待ち伏せる案内人とされ、魂を捕らえれば悪魔じみた笑い声を上げて飛び去るのだと言われていた[24]。二つの記述の並びは死を示唆するが、原文は死も死因も書いていない。村人がウィルバーを疑ったという記述があるだけである[28]。
Q. ラヴィニアは魔女だったのですか? A. 当サイトが原文を通しで検索した限り、彼女が呪文を唱える場面も、何かを召喚する場面も見当たらない。書かれているのは、父の蔵書を「読もうとする」こと[13]、雷雨の山を歩くこと[13]、子を抱いて山へ入ること[16]、そして子を連れてセンティネル・ヒルへ上ったらしい一夜[18]である。二階で行われていたことについては、彼女は語るのを拒み、錠のかかった戸に人が触れると怯えた[20]。原典は彼女を、儀式の主体ではなく、そこから締め出されていく者として描いている。
Q. ウィルバーの双子の弟もラヴィニアが産んだのですか? A. 原典はその出産を描いていない。根拠はアーミテージの「ウィルバーの双子の兄弟だった」という一言だけである[7]。誕生の夜に響いた恐ろしい叫び声の記述[9]は、ウィルバーの誕生についてのもので、原文はもう一人の誕生に触れていない。
出典
- [1] “Less worthy of notice was the fact that the mother was one of the decadent Whateleys, a somewhat deformed, unattractive albino woman of thirty-five, living with an aged and half-insane father about whom the most frightful tales of wizardry had been whispered in his youth.”(訳: 注目に値しないこととされたのは、その母が退廃したウェイトリー家の一人で、やや畸形の、人目を惹かない三十五歳の白皮症の女であり、若い頃に最も恐ろしい魔術の噂を囁かれた、老いて半ば正気を失った父と暮らしていたという事実だった) — 「ダニッチの怪」(1929年), The H. P. Lovecraft Archive ↩
- [2] “It was in the township of Dunwich, in a large and partly inhabited farmhouse set against a hillside four miles from the village and a mile and a half from any other dwelling, that Wilbur Whateley was born at 5 A.M. on Sunday, the second of February, 1913.”(訳: ウィルバー・ウェイトリーが生まれたのは、ダニッチの町域の、村から四マイル、他のどの住居からも一マイル半離れた丘の斜面に建つ、一部しか使われていない大きな農家で、1913年2月2日日曜の午前5時のことだった) — 「ダニッチの怪」(1929年), The H. P. Lovecraft Archive ↩
- [3] “Lavinia Whateley had no known husband, but according to the custom of the region made no attempt to disavow the child; concerning the other side of whose ancestry the country folk might—and did—speculate as widely as they chose.”(訳: ラヴィニア・ウェイトリーには知られた夫がなかったが、この地方の習いに従って子を否認しようとはしなかった。その子のもう一方の血筋について、土地の者たちは好きなだけ憶測を巡らせることができた——そして実際そうした) — 「ダニッチの怪」(1929年), The H. P. Lovecraft Archive ↩
- [4] “Then they vanished, hurrying southward where they were fully a month overdue. What this meant, no one could quite be certain till later. None of the country folk seemed to have died—but poor Lavinia Whateley, the twisted albino, was never seen again.”(訳: やがて鳥たちは姿を消し、すでに一か月も遅れていた南への道を急いだ。これが何を意味したのか、後になるまで誰にも確かなことは言えなかった。土地の者には誰一人死んだ様子がなかった——だが哀れなラヴィニア・ウェイトリー、あの捻じくれた白皮症の女は、二度と姿を見られなかった) — 「ダニッチの怪」(1929年), The H. P. Lovecraft Archive ↩
- [5] “The Dunwich Horror (Summer 1928)”(訳: 「ダニッチの怪」(1928年夏執筆)) — H・P・ラヴクラフト作品一覧, The H. P. Lovecraft Archive。初出誌は “Weird Tales vol. 13, no. 4 (April 1929): 481–508.” — Data Page, The H. P. Lovecraft Archive ↩
- [6] “The remote farmhouse had always been feared because of Old Whateley’s reputation for black magic, and the unexplained death by violence of Mrs. Whateley when Lavinia was twelve years old had not helped to make the place popular.”(訳: その人里離れた農家は、オールド・ウェイトリーの黒魔術の評判のためにかねて恐れられており、ラヴィニアが十二歳のときに起きたウェイトリー夫人の原因不明の変死も、その場所の評判を良くする助けにはならなかった) — 「ダニッチの怪」(1929年), The H. P. Lovecraft Archive ↩
- [7] “It grew fast and big from the same reason that Wilbur grew fast and big—but it beat him because it had a greater share of the outsideness in it. You needn’t ask how Wilbur called it out of the air. He didn’t call it out. It was his twin brother, but it looked more like the father than he did.”(訳: それはウィルバーが速く大きく育ったのと同じ理由で速く大きく育った——だがウィルバーを上回った。外なるものの取り分がより多かったからだ。ウィルバーがどうやってそれを宙から呼び出したのか、尋ねるには及ばない。彼は呼び出してなどいない。それはウィルバーの双子の兄弟だったのだ。ただし、父親のほうにより似ていた) — 「ダニッチの怪」(1929年), The H. P. Lovecraft Archive ↩
- [8] “She had never been to school, but was filled with disjointed scraps of ancient lore that Old Whateley had taught her.”(訳: 彼女は学校へ行ったことがなかったが、オールド・ウェイトリーが教え込んだ古い伝承の脈絡のない断片で満たされていた) — 「ダニッチの怪」(1929年), The H. P. Lovecraft Archive ↩
- [9] “There was a hideous screaming which echoed above even the hill noises and the dogs’ barking on the night Wilbur was born, but no known doctor or midwife presided at his coming.”(訳: ウィルバーが生まれた夜、丘の唸りや犬の吠え声をも越えて響く恐ろしい叫び声があった。だが彼の誕生に立ち会った医者も産婆も知られていない) — 「ダニッチの怪」(1929年), The H. P. Lovecraft Archive ↩
- [10] “The only persons who saw Wilbur during the first month of his life were old Zechariah Whateley, of the undecayed Whateleys, and Earl Sawyer’s common-law wife, Mamie Bishop.”(訳: 生後一か月のあいだにウィルバーを見た者は、衰えていないほうのウェイトリー家の老ゼカライア・ウェイトリーと、アール・ソイヤーの内縁の妻マミー・ビショップの二人だけだった) — 「ダニッチの怪」(1929年), The H. P. Lovecraft Archive ↩
- [11] “I dun’t keer what folks think—ef Lavinny’s boy looked like his pa, he wouldn’t look like nothin’ ye expeck. Ye needn’t think the only folks is the folks hereabaouts. Lavinny’s read some, an’ has seed some things the most o’ ye only tell abaout. I calc’late her man is as good a husban’ as ye kin find this side of Aylesbury; an’ ef ye knowed as much abaout the hills as I dew, ye wouldn’t ast no better church weddin’ nor her’n. Let me tell ye suthin’—some day yew folks’ll hear a child o’ Lavinny’s a-callin’ its father’s name on the top o’ Sentinel Hill!”(訳: 人が何と思おうと構わん——ラヴィニーの子が父親に似ているとしたら、お前らの思うようなものには見えんだろうよ。人間といえばこのあたりの人間だけだと思うな。ラヴィニーは少しばかり読んでいるし、お前らの大半が話に聞くだけのものを見てきた。あの娘の男は、アイルズベリーのこちら側で見つかる限り上等な夫だと思っている。丘のことを俺くらい知っていれば、教会での式など望みはすまい。教えてやろう——いつかお前らは、ラヴィニーの子がセンティネル・ヒルの上で父親の名を呼ぶのを聞くことになる!) — 「ダニッチの怪」(1929年), The H. P. Lovecraft Archive ↩
- [12] “On the contrary, she seemed strangely proud of the dark, goatish-looking infant who formed such a contrast to her own sickly and pink-eyed albinism, and was heard to mutter many curious prophecies about its unusual powers and tremendous future.”(訳: それどころか彼女は、自分の病んだような桃色の目をした白皮症とあまりに対照的な、黒く山羊めいた赤子を奇妙に誇っているように見え、その異常な力と巨大な未来について数々の奇妙な予言を呟くのが聞かれた) — 「ダニッチの怪」(1929年), The H. P. Lovecraft Archive ↩
- [13] “Lavinia was one who would be apt to mutter such things, for she was a lone creature given to wandering amidst thunderstorms in the hills and trying to read the great odorous books which her father had inherited through two centuries of Whateleys, and which were fast falling to pieces with age and worm-holes.”(訳: ラヴィニアはそうしたことを呟きかねない女だった。彼女は雷雨のさなかの丘をさまよい歩き、父が二世紀にわたるウェイトリー家から受け継いだ、古さと虫食いで急速に崩れつつある大きな臭い本を読もうとする、孤独な生き物だったからである) — 「ダニッチの怪」(1929年), The H. P. Lovecraft Archive ↩
- [14] “Isolated among strange influences, Lavinia was fond of wild and grandiose day-dreams and singular occupations; nor was her leisure much taken up by household cares in a home from which all standards of order and cleanliness had long since disappeared.”(訳: 奇妙な影響のただ中に孤立して、ラヴィニアは荒唐無稽で誇大な白昼夢と風変わりな仕事を好んだ。秩序と清潔さの基準がとうに失われた家では、家事に暇を取られることもあまりなかった) — 「ダニッチの怪」(1929年), The H. P. Lovecraft Archive ↩
- [15] “once or twice during the earlier months certain callers fancied they could discern similar sores about the throats of the grey, unshaven old man and his slatternly, crinkly-haired albino daughter.”(訳: 最初の数か月のうち一度か二度、訪ねてきた者が、灰色の髭を剃らない老人と、そのだらしのない縮れ毛の白皮症の娘の喉にも、似たような爛れを見分けられるように思った) — 「ダニッチの怪」(1929年), The H. P. Lovecraft Archive ↩
- [16] “In the spring after Wilbur’s birth Lavinia resumed her customary rambles in the hills, bearing in her misproportioned arms the swarthy child.”(訳: ウィルバーが生まれた翌春、ラヴィニアは不釣り合いな腕にその浅黒い子を抱いて、いつもの丘歩きを再開した) — 「ダニッチの怪」(1929年), The H. P. Lovecraft Archive ↩
- [17] “He ran freely about the fields and hills, and accompanied his mother on all her wanderings.”(訳: 彼は野と丘を自由に駆け回り、母の放浪のすべてに付き添った) — 「ダニッチの怪」(1929年), The H. P. Lovecraft Archive ↩
- [18] “Considerable talk was started when Silas Bishop—of the undecayed Bishops—mentioned having seen the boy running sturdily up that hill ahead of his mother about an hour before the blaze was remarked. Silas was rounding up a stray heifer, but he nearly forgot his mission when he fleetingly spied the two figures in the dim light of his lantern. They darted almost noiselessly through the underbrush, and the astonished watcher seemed to think they were entirely unclothed.”(訳: 衰えていないほうのビショップ家のサイラス・ビショップが、火が目に留まる一時間ほど前に、その少年が母の前を力強く丘へ駆け上がっていくのを見たと口にしたとき、かなりの取り沙汰が起きた。サイラスは迷い出た若い雌牛を追っていたのだが、提灯の薄明かりの中に二つの人影を一瞬見たとき、危うくその用事を忘れかけた。二人は下生えの中をほとんど音もなく駆け抜け、驚いて見ていた男の目には、どちらもまったく何も身に着けていないように思われた) — 「ダニッチの怪」(1929年), The H. P. Lovecraft Archive ↩
- [19] “His facial aspect, too, was remarkable for its maturity; for though he shared his mother’s and grandfather’s chinlessness, his firm and precociously shaped nose united with the expression of his large, dark, almost Latin eyes to give him an air of quasi-adulthood and well-nigh preternatural intelligence.”(訳: 顔つきもまた、その成熟ぶりが際立っていた。母と祖父ゆずりの顎の無さを共有していたにもかかわらず、しっかりと早熟に形づくられた鼻が、大きく黒い、ほとんどラテン系のような目の表情と結び付いて、擬似的な成人らしさと、ほとんど超自然的とも言える知性の気配を与えていたからである) — 「ダニッチの怪」(1929年), The H. P. Lovecraft Archive ↩
- [20] “The few callers at the house would often find Lavinia alone on the ground floor, while odd cries and footsteps resounded in the boarded-up second story. She would never tell what her father and the boy were doing up there, though once she turned pale and displayed an abnormal degree of fear when a jocose fish-peddler tried the locked door leading to the stairway.”(訳: その家を訪れる数少ない者は、板で塞がれた二階に奇妙な叫びと足音が響くあいだ、一階に独りでいるラヴィニアを見つけることがよくあった。父と少年が上で何をしているのか、彼女は決して語ろうとしなかった。もっとも一度、ふざけた魚の行商人が階段へ通じる錠のかかった戸を試したとき、彼女は蒼白になり、尋常でない度合いの怯えを見せた) — 「ダニッチの怪」(1929年), The H. P. Lovecraft Archive ↩
- [21] “On Lammas Night, 1924, Dr. Houghton of Aylesbury was hastily summoned by Wilbur Whateley, who had lashed his one remaining horse through the darkness and telephoned from Osborn’s in the village.”(訳: 1924年のラマスの夜、アイルズベリーのヒューストン医師が、ウィルバー・ウェイトリーによって急ぎ呼び出された。ウィルバーは残る一頭の馬に鞭を当てて闇を駆け、村のオズボーンの店から電話をかけていた) — 「ダニッチの怪」(1929年), The H. P. Lovecraft Archive ↩
- [22] “The shapeless albino daughter and oddly bearded grandson stood by the bedside, whilst from the vacant abyss overhead there came a disquieting suggestion of rhythmical surging or lapping, as of the waves on some level beach.”(訳: 形の崩れた白皮症の娘と、奇妙に髭の生えた孫が枕元に立ち、その頭上のがらんとした深みからは、平らな浜に打ち寄せる波のような、律動的にうねり、あるいは舐めるような気配が、落ち着かない形で伝わってきた) — 「ダニッチの怪」(1929年), The H. P. Lovecraft Archive ↩
- [23] “But speech gave place to gasps again, and Lavinia screamed at the way the whippoorwills followed the change. It was the same for more than an hour, when the final throaty rattle came. Dr. Houghton drew shrunken lids over the glazing grey eyes as the tumult of birds faded imperceptibly to silence. Lavinia sobbed, but Wilbur only chuckled whilst the hill noises rumbled faintly.”(訳: だが言葉はふたたび喘ぎに取って代わられ、ヨタカがその変化に付き従う様子に、ラヴィニアは悲鳴を上げた。同じことが一時間あまり続いたのち、最後の喉の鳴りが来た。鳥の騒ぎがいつの間にか静けさへ薄れていくなか、ヒューストン医師は曇っていく灰色の目に、縮んだ瞼を引き下ろした。ラヴィニアはむせび泣いたが、ウィルバーは含み笑いを漏らしただけで、丘の唸りがかすかに鳴っていた) — 「ダニッチの怪」(1929年), The H. P. Lovecraft Archive ↩
- [24] “It is vowed that the birds are psychopomps lying in wait for the souls of the dying, and that they time their eerie cries in unison with the sufferer’s struggling breath.”(訳: その鳥たちは死にゆく者の魂を待ち伏せる魂の案内人であり、不気味な鳴き声を、苦しむ者のあえぐ息に合わせて刻むのだと言い立てられている) — 「ダニッチの怪」(1929年), The H. P. Lovecraft Archive ↩
- [25] “Through all the years Wilbur had treated his half-deformed albino mother with a growing contempt, finally forbidding her to go to the hills with him on May-Eve and Hallowmass; and in 1926 the poor creature complained to Mamie Bishop of being afraid of him.”(訳: 年月を通じて、ウィルバーは半ば畸形の白皮症の母を、いよいよ侮蔑をもって扱うようになり、ついには五月前夜と万聖節に自分と丘へ行くことを禁じた。そして1926年、この哀れな者はマミー・ビショップに、息子が怖いと訴えた) — 「ダニッチの怪」(1929年), The H. P. Lovecraft Archive ↩
- [26] “They’s more abaout him as I knows than I kin tell ye, Mamie…an’ naowadays they’s more nor what I know myself. I vaow afur Gawd, I dun’t know what he wants nor what he’s a-tryin’ to dew.”(訳: あいつについては、あんたに話せる以上のことをあたしは知ってる、マミー……それに近ごろは、あたしが知っていること以上のものがある。神さまに誓って、あいつが何を欲しがっているのか、何をしようとしているのか、あたしには分からない) — 「ダニッチの怪」(1929年), The H. P. Lovecraft Archive ↩
- [27] “That Hallowe’en the hill noises sounded louder than ever, and fire burned on Sentinel Hill as usual; but people paid more attention to the rhythmical screaming of vast flocks of unnaturally belated whippoorwills which seemed to be assembled near the unlighted Whateley farmhouse. After midnight their shrill notes burst into a kind of pandaemoniac cachinnation which filled all the countryside, and not until dawn did they finally quiet down.”(訳: そのハロウィーン、丘の唸りはかつてないほど高く響き、センティネル・ヒルにはいつもどおり火が燃えた。だが人々の注意をより強く惹いたのは、灯の消えたウェイトリー農家の近くに集まっているらしい、不自然に季節の遅れたヨタカの大群が刻む律動的な叫びだった。真夜中を過ぎると、その甲高い鳴き声は田舎じゅうを満たす悪鬼じみた哄笑へと弾け、夜明けになってようやく静まった) — 「ダニッチの怪」(1929年), The H. P. Lovecraft Archive ↩
- [28] “People generally suspected him of knowing something about his mother’s disappearance, and very few ever approached his neighbourhood now.”(訳: 人々はおおむね、彼が母の失踪について何か知っていると疑っており、いまやその近所へ寄る者はごくわずかだった) — 「ダニッチの怪」(1929年), The H. P. Lovecraft Archive ↩
- [29] “with sores on ’em like they’s ben on Whateley’s cattle ever senct Lavinny’s black brat was born.”(訳: ラヴィニーの黒いガキが生まれてこのかたウェイトリーの家の牛に出ているのと同じような爛れが、そいつらにも出ていたんだ) — 「ダニッチの怪」(1929年), The H. P. Lovecraft Archive ↩
- [30] “that face with the red eyes an’ crinkly albino hair, an’ no chin, like the Whateleys”(訳: 赤い目と縮れた白皮症の髪をして、顎が無い、ウェイトリー家そっくりのあの顔) — 「ダニッチの怪」(1929年), The H. P. Lovecraft Archive ↩
- [31] “I heerd Ol’ Whateley say as haow some day we’d hear a child o’ Lavinny’s a-callin’ its father’s name on the top o’ Sentinel Hill.”(訳: いつかわしらは、ラヴィニーの子がセンティネル・ヒルの上で父親の名を呼ぶのを聞くことになる、とオールド・ウェイトリーが言うのを聞いた) — 「ダニッチの怪」(1929年), The H. P. Lovecraft Archive ↩
- [32] “h’yuh . . . h’yuh . . . HELP! HELP! . . . ff—ff—ff—FATHER! FATHER! YOG-SOTHOTH!”(訳: ひゅう……ひゅう……助けて! 助けて! ……ち、ち、ち——父さん! 父さん! ヨグ=ソトース!) — 「ダニッチの怪」(1929年), The H. P. Lovecraft Archive ↩





