概要
McFarland社の公式商品ページに、研究書『H.P. Lovecraft and Modern Philosophy: Horror Fiction as Phenomenological Inquiry』が掲載されている。ページ上部には「New 2026」「Pre-Order」の表示があり、現時点では予約受付の段階だ。価格は55.00ドル、判型はソフトカバー(6×9インチ)。書誌情報の欄には「notes, bibliography, index」(注・参考文献・索引を収録)とあり、Copyright Dateは2026年と記載されている。ISBNは印刷版が978-1-4766-9741-3、電子版が979-8-3686-0141-0で、インプリントはMcFarland。分類カテゴリは「Literature, American, Body, Mind & Spirit, Genre, Horror, Philosophy」の6つが並ぶ[1]。
ページ内の「Pages」欄は空欄になっている。McFarlandはこの本のページ数をまだ公式には出していない。発売日についても、ページ上に日付のラベルは見当たらず、「Pre-Order」という状態表示があるのみだ。流通サイトによってはページ数や発売日の数字が掲載されている場合もあるが、サイトごとに食い違う数字も見られるため、この記事では版元公式が出していない数字には触れない。確認できるのは、McFarland自身がこの2点をまだ公表していないという事実までだ[1]。
分類カテゴリが「Literature, American」「Body, Mind & Spirit」「Genre」「Horror」「Philosophy」と6つにまたがっている点も、この本の位置づけを考えるうえで参考になる。文学研究としての棚だけでなく、精神世界系の棚や哲学の棚にも同時に置かれる想定になっているということであり、McFarland自身がこの本を、文学研究の枠に収まらない横断的な一冊として扱っていることがうかがえる[1]。
「About the Book」が書いていること
公式ページには「About the Book」「About the Author(s)」「Bibliographic Details」という3つのタブがあり、それぞれ異なる文章が置かれている。まず本の内容を説明する「About the Book」には、次の一節がある。
「H.P. Lovecraft’s imagery consistently reaches towards the ineffable. From conjuring monstrosities that violate natural law to cosmic immensities that defy human comprehension, his fictional landscapes often inspire visceral dread in the reader because of the experience of confronting the unknowable.」(訳:H・P・ラヴクラフトの描写は、一貫して名状しがたいものへと手を伸ばしている。自然の法則を破る怪物を呼び出すことから、人間の理解を拒む宇宙的な巨大さに至るまで、彼が描く虚構の風景は、未知なるものと対峙する経験ゆえに、読者の中に本能的な恐怖を呼び起こすことが多い。)[1]
続く一文で、この本が現象学という哲学の系譜とラヴクラフトを結びつける狙いを明かす。
「Situating this literary study alongside modern philosophical phenomenology reveals unexpected parallels between Lovecraft’s work and thinkers such as Martin Heidegger, Maurice Merleau-Ponty and Emmanuel Levinas. These philosophers sought to let existence, embodiment, alterity and technological modernity speak for themselves, mirroring Lovecraft’s practice of stripping anthropocentric worldviews from his work.」(訳:この文学研究を近代の哲学的現象学と並べて置くことで、ラヴクラフトの作品と、マルティン・ハイデガー、モーリス・メルロ゠ポンティ、エマニュエル・レヴィナスといった思想家たちのあいだに、予想外の類似点が浮かび上がる。これらの哲学者たちは、存在・身体性・他者性・技術的近代を、それ自体として語らせようとした。それは、人間中心的な世界観を作品から剥ぎ取っていくラヴクラフトのやり方と重なる。)[1]
名前が挙がる3人はいずれも20世紀の現象学を代表する哲学者だ。ハイデガーは存在そのものを問う『存在と時間』で知られ、メルロ゠ポンティは身体を通じて世界を知覚することを論じ、レヴィナスは「他者」との倫理的な出会いを中心に据えた。この本は、これら3人の名前を個別の章立てとして紹介しているわけではなく、あくまで「About the Book」の紹介文の中で、ラヴクラフトの作品と重なる思想家の例として挙げている、というのが公式ページから確認できる範囲だ。
最後の一文は、この本が具体的にどのような主題を扱うかをまとめている。
「Through studying recurring motifs of monstrous entities, alien possession, dream incursions and anxieties around technological advancement in relation to philosophical thought, this work explores how Lovecraft’s fiction intentionally positions humanity at the fringes of a vast, indifferent cosmos.」(訳:怪物的な存在、異星による憑依、夢の侵入、そして技術の進歩をめぐる不安という繰り返し現れるモチーフを、哲学的思考との関係で研究することを通じて、この著作は、ラヴクラフトの小説が人類を広大で無関心な宇宙の周縁に意図的に位置づけている様子を探っていく。)[1]
怪物的な存在や夢の侵入、技術への不安といった主題は、いずれもラヴクラフトの作品に繰り返し現れる要素であり、目新しい着眼点ではない。この本の特徴は、それらを個別の作品論としてではなく、現象学という一つの哲学的な枠組みでまとめて読み直そうとする点にある。
著者について
著者マイケル・J・バークの紹介文も、公式ページの「About the Author(s)」タブに置かれている。
「Specializing in continental philosophy, Michael J. Burke is a professor of philosophy at St. Joseph’s University in New York and explores the intersection of horror and ethics in popular culture. He has published articles in publications such as Film-Philosophy, Journal of Film and Video, and Journal of Graphic Novels and Comics.」(訳:大陸哲学を専門とするマイケル・J・バークは、ニューヨークのセントジョセフズ大学で哲学の教授を務め、大衆文化におけるホラーと倫理の交差点を研究している。Film-Philosophy誌、Journal of Film and Video誌、Journal of Graphic Novels and Comics誌などに論文を発表してきた。)[2]
ホラーと倫理の交差点を研究テーマに掲げる哲学者が、映画やコミックを扱う専門誌に論文を発表してきたという経歴からは、今回の本もラヴクラフトの文学作品そのものだけでなく、ホラーというジャンルが持つ倫理的・存在論的な含みを扱う一冊になりそうだと推測できる。ただし、目次や章立てそのものは公式ページに掲載されておらず、各章がハイデガー・メルロ゠ポンティ・レヴィナスのどの思想をどう割り当てて論じるのかは、現時点では確認できない。
「名状しがたい」を、哲学の側から読むとどうなるか
当サイトでは、ラヴクラフト原典87本を対象に「名状しがたい」に類する形容詞が英語原文で何回使われているかを数えた記事、「名状しがたい」はどこから来たのか——ラヴクラフト原典87本で数えた340回を公開している。この記事は該当語の合計が340回、最も多く使われた語がnamelessの195回、unnamableが26回だったという集計結果を、語彙の頻度という切り口から示すものだ。
「About the Book」が引く一文――「his fictional landscapes often inspire visceral dread in the reader because of the experience of confronting the unknowable(彼が描く虚構の風景は、未知なるものと対峙する経験ゆえに、読者の中に本能的な恐怖を呼び起こす)」――は、まさにこの語彙が指し示してきた現象を、哲学の言葉で言い換えたものだと読める。原典の側からは「何回、どの語が使われたか」という頻度の集計で見えてくるものが、この本では「なぜ、その形容がラヴクラフトにとって不可避だったのか」という問いに置き換えられている。namelessやunnamableという語を、怪物の形容としてではなく、人間の認識そのものが破れる場所として読み直す視点を、この研究書はハイデガー・メルロ゠ポンティ・レヴィナスという3人の名前を通じて提示しようとしている、と言える。
原典の語彙を数えた記事と、その語彙を哲学の言葉に置き換えて論じるこの研究書を並べて読むと、「名状しがたい」という一語が、単なる形容の便利さを超えて、ラヴクラフト文学の骨格に関わる語だったことが見えてくる。
関連して読むなら
- 「名状しがたい」はどこから来たのか——ラヴクラフト原典87本で数えた340回 — 原典の英語テキストで該当語の頻度を数えた姉妹記事。この記事が哲学の側から論じる語彙を、原典の側から数量で確認できる
- 宇宙的恐怖とは何か — 「未知なるものへの怖れ」というラヴクラフト的恐怖の骨格を確認する記事
- コズミックホラー(用語解説) — 用語としての位置づけを短く確認できる索引記事
- 名状しがたきもの — 「名状しがたい」という語そのものを題名に掲げたラヴクラフトの短編
出典
- [1] 書名・副題「H.P. Lovecraft and Modern Philosophy: Horror Fiction as Phenomenological Inquiry」、価格「$55.00」、ステータス表示「New 2026」「Pre-Order」、判型「softcover (6 x 9)」、Pages欄が空欄であること、Bibliographic Info「notes, bibliography, index」、Copyright Date「2026」、pISBN「978-1-4766-9741-3」、eISBN「979-8-3686-0141-0」、Imprint「McFarland」、分類カテゴリ「Literature, American, Body, Mind & Spirit, Genre, Horror, Philosophy」、「About the Book」の本文全体(引用箇所は本文中に記載)を確認(取得日 2026-09-16) — McFarland公式商品ページ「H.P. Lovecraft and Modern Philosophy」、https://mcfarlandbooks.com/product/hp-lovecraft-and-modern-philosophy/ ↩
- [2] 「About the Author(s)」タブに掲載された著者マイケル・J・バークの紹介文全体(引用箇所は本文中に記載)を確認(取得日 2026-09-16) — McFarland公式商品ページ「H.P. Lovecraft and Modern Philosophy」、https://mcfarlandbooks.com/product/hp-lovecraft-and-modern-philosophy/ ↩
