概要
『Omen Exitio: Hunger』は、Tiny Bull Studiosが開発、2P Gamesが発売する調査ゲームブックである[1]。2026年6月24日にSteamで発売され、プレイヤーは1927年のニューヨークを舞台に、ジャーナリストとして失踪事件を追う[1]。選択肢によって展開が枝分かれし、5種類のエンディングへ収束していく作りだ[1]。
作品情報
開発はTiny Bull Studios、発売は2P Games。ジャンルはアドベンチャー/インディー、価格は1,350円。舞台は1927年のブルックリン、ニューヨーク。前作『Omen Exitio: Plague』に続くシリーズ第2作にあたる。Steamのレビュー評価は、全体では「非常に好評」(112件)、直近では「賛否両論」(13件)と表示されている——ここまでは公式ストアページの記載だ[1]。
ゲームとしての骨格は次の通り。インタラクティブな街の地図から捜査先を自分で選ぶ「Interactive city map」、現場の物品・書類を調べて手がかりを探す「Investigative Hidden Objects」、欺瞞・共感・圧力という3つの態度を使い分けて証言者から情報を引き出す会話システム。ビジュアル面では900点を超えるオリジナルイラストを用意し、フランク・ミラーとコラード・ロイの作風に着想を得たと明記されている[1]。
8月20日のアップデート
2026年8月20日、開発元は大型アップデートを公開した。任意のタイミングで保存できる手動セーブ機能、テキスト断片が出るたびに自動保存するオートセーブ、読み返しを楽にする早送り機能、多言語ローカライズの修正、各種バグ修正が加わっている[2]。同じ告知で、同日から8月27日までSteam Daily Dealとして10%オフになることも案内されていた。この値引きは既に終了している[2]。
発売から2か月での大型アップデートという時期、そして目玉が「手動セーブの追加」という基本的な機能である点は、直近レビューが「賛否両論」(13件)にとどまっている現状と無関係ではないだろう。オートセーブ専用の仕様に不満を持ったプレイヤーの声へ、開発元が応答した格好に見える。全体評価はなお「非常に好評」(112件)を保っているだけに、この後の評価の推移は注視したいところだ[1][2]。
実在事件は、どこから”Lovecraftian”になるのか
公式ストアページの煽り文句は明確だ。「事件は実在している。殺人者は実在している。彼を連れ去った男は実在している。だが、その目的は別の次元に由来していた」[1]。この一文には、史実・創作・コズミックホラーという3つの異なる層がひとつの文の中に同居している。層ごとに分けて見ていく。
史実として確認できる部分
1927年2月11日、ブルックリンで4歳の男児ビリー・ガフニーが行方不明になった――ここまでは実際に起きた事件である[1][3]。当時居合わせた3歳の子供は「boogey man(お化け)が連れて行った」と証言し、後に路面電車の運転士ジョセフ・ミーアンが、その夜見かけた老人の特徴から連続殺人犯アルバート・フィッシュを容疑者として結びつけた[3]。フィッシュは逮捕後の取り調べと裁判に向けた供述の中でガフニー事件への関与も認めているが、遺体は今日に至るまで発見されておらず、ガフニー事件自体が正式に起訴・裁判で立証されたことは一度もない[3]。フィッシュが1936年1月16日にニューヨーク州シンシン刑務所で処刑されたのは、別の被害者グレース・バッドの殺害容疑によってである[3]。つまり本作の題材である「失踪した男児」の一件そのものは、史実としては最後まで公式に解決していない未解決事件のままだ。ゲーム側も「実在の歴史的事実に基づく」ことを明言しており、実在の人物・場所・当時の新聞記事を丹念に再構成したと説明している[1]。
ゲームが加えたフィクション
一方、「ジャーナリストが主人公として事件を追う」という筋立て自体はゲームの創作だ。実在するのはあくまで事件そのものと、行方不明になった経緯、そして後年の容疑者の存在までで、それを調査する記者という視点人物はゲームオリジナルの設定である。街を自由に歩き回る捜査パート、証言者との駆け引き、5通りに分岐するエンディング――こうした構造は、史実の空白(遺体も真相も公式には確定していない未解決事件)を、プレイヤーが埋めていくために組まれた仕掛けにあたる[1]。
さらに加わったコズミックホラー要素
そしてもう一段、史実にもゲームの推理パートにも無い層が重ねられる。捜査は「夢、異世界、そしてすべての土台にあるラヴクラフト的神話」へと広がっていくと説明され、超自然的存在との(非露骨な)遭遇までもが示唆されている[1]。冒頭の煽り文句にあった「その目的は別の次元に由来していた」という一文は、まさにこの層に属する。史実の殺人事件を宇宙的恐怖という枠組みで説明し直す――実在の犯罪をコズミックホラーへ変換する境界線は、この一文にこそ引かれている。
Omen Exitioシリーズという文脈
本作は単発企画ではない。前作『Omen Exitio: Plague』の実績を受け、2025年10月にTiny Bull Studiosは発売元2P Gamesとの提携を改めて発表し、続く2027年に向けて開発を進めてきた経緯がある[4]。開発陣は2025年5月の時点で、900点を超える挿絵と映画的なサウンドデザインを備えた作品になると予告しており、実際に本作のKey Featuresはこの予告どおりの規模で仕上がっている[4][1]。現在Steamでは『Omen Exitio: Plague and Hunger』のバンドルも用意されており、前作からの続けてのプレイも想定された作りだ[1]。
発売直後の告知文では、主人公がジャーナリストとして「正気を賭して(wagering your sanity)」街に巣食う恐怖に立ち向かう、という表現も使われている[4]。SAN値という数値化されたメカニクスこそ持たないゲームブックだが、「正気を賭ける」という言い回し自体が、クトゥルフ神話TRPG由来の語彙を踏襲していることの表れだろう。
原典との接点 ── レッド・フックという偶然
公式は本作の着想源としてラヴクラフトの特定作品を挙げていない。それでも見過ごせない符合がある。ラヴクラフト自身が1925年に書き、1927年1月号の「ウィアード・テイルズ」に発表した短編「レッド・フックの恐怖」は、まさに本作と同じブルックリンの移民街レッド・フックを舞台に、刑事が失踪事件の奥にある悪魔崇拝の秘密結社を追う話である。刑事(原典)とジャーナリスト(本作)という違いこそあれ、「1927年前後のブルックリンの荒れた地区」「失踪事件の捜査」「その先に潜む秘教的な脅威」という骨格は驚くほど重なる。
ラヴクラフト自身、1924年から1926年にかけてニューヨークに暮らし、移民の多い界隈への強い忌避感を作品に持ち込んだ人物として知られる。「レッド・フックの恐怖」はその実体験と偏見が色濃く出た一作で、当サイトでもレッド・フックの記事でその背景を扱っている。本作が同じ年代・同じ土地を舞台に選んだのが意図的な引用なのか単なる偶然なのかは分からない。ただ、1927年のブルックリンという設定そのものが、実は原典に直接の先例を持つという事実は、本作を読む上で知っておいて損はない。
年代を動かす手法としての位置づけ
当サイトでは、同じく原典より後の年代へ神話を拡張した『Dark Days in Sydney Town』(1780〜1810年代のオーストラリア植民地)も紹介している。あちらが実在の施設・事件を土台にしたのに対し、本作は実在の未解決事件そのものを主人公が調査する構造を取る。年代も題材も異なるが、「架空の設定ではなく現実の歴史を土台に据える」という手つきは共通している。実在の史実にコズミックホラーを重ねるという手法がどこまで一般化できるかは、今後も追っていきたい観点だ。
遊ぶ前に知っておきたいこと
本作はSteam上で「多少のヌードや性的なコンテンツ」を含む成人向け表示がされている。開発元自身の説明によれば、子供に対する暴力・殺害・共食いの詳細な描写、拷問と残酷描写、未成年の登場人物が絡む売春への言及、超自然的存在との示唆的な性的接触、禁酒法時代の飲酒描写、悲嘆・罪悪感・トラウマを扱う心理的ホラーが含まれる[1]。実在の児童殺害事件を題材にしている以上、内容は相応に重い。手に取る前提として明記しておく。
関連して読むなら
- レッド・フックの恐怖 — 同じブルックリンのレッド・フックを舞台にした原典短編。刑事が失踪事件の奥を追う筋立てが本作と重なる
- Dark Days in Sydney Town — 同じく原典より後の年代(1780〜1810年代)へ神話を拡張したTRPGシナリオ集。実在の史実を土台にする手法を比較できる
- 「宇宙的恐怖」とは何か — 実在の出来事がどこからコズミックホラーになるのかを考える土台
- 原典/ダーレス系拡張/TRPG設定——三層で読み解くクトゥルフ神話 — 「原典」「拡張」の層分けという当サイトの基本的な読み方
出典
- [1] Steam公式ストアページ。開発Tiny Bull Studios、発売2P Games、2026年6月24日発売、価格1,350円、レビュー評価(全体:非常に好評112件/直近:賛否両論13件)、あらすじ「事件は実在している。殺人者は実在している。彼を連れ去った男は実在している。だが、その目的は別の次元に由来していた」、”documented historical fact”に基づき実在の人物・場所・新聞記事を再構成したこと、捜査が夢・異世界・ラヴクラフト的神話へ広がること、インタラクティブな街の地図・Investigative Hidden Objects・欺瞞/共感/圧力の会話システム・5種類のエンディング・900点超のオリジナルイラスト(フランク・ミラー、コラード・ロイに着想)、成人向けコンテンツの内容説明が明記されている — store.steampowered.com ↩
- [2] “Omen Exitio: Hunger – Daily Offer & Major Updates”、2026年8月20日。手動セーブ機能・テキスト断片ごとのオートセーブ・早送り機能・多言語ローカライズ修正・各種バグ修正の追加、8月20日から27日までSteam Daily Dealとして10%オフのセールを実施していることが明記されている — Tiny Bull Studios公式, steamcommunity.com ↩
- [3] ビリー・ガフニー失踪事件(1927年2月11日、ブルックリン)の概要、居合わせた3歳児の「boogey manが連れて行った」という証言、路面電車運転士ジョセフ・ミーアンによる容疑者アルバート・フィッシュの特定、フィッシュが取り調べ・裁判に向けた供述の中でガフニー事件への関与を認めたこと、遺体が発見されていないこと、フィッシュが1936年1月16日にシンシン刑務所で処刑されたこと、その処刑は別の被害者グレース・バッドの殺害容疑によるものだったことが記載されている — “How Child Killer Albert Fish Was Caught by New York Police”, Oxygen(NBCUniversal), oxygen.com; “Albert Fish”, Crime Library, crimelibrary.org ↩
- [4] Steamコミュニティの公式アナウンス群。2025年10月21日「Tiny Bull Studios X 2P Games」(2P Gamesとの提携発表)、2025年5月6日の進捗報告(900点超の挿絵・映画的サウンドデザインの予告)、2026年6月18日「Launch Date Set for 6/25」(「実在の連続殺人事件に基づき、正気を賭してジャーナリストとして街の言い表せない恐怖に立ち向かう」という紹介文)が掲載されている — Tiny Bull Studios公式, steamcommunity.com ↩

