概要
ブルックリンの荒廃した港湾地区レッド・フックを舞台に、刑事トマス・F・マローンが移民街に潜む悪魔崇拝の秘密結社と、その中心にいた隠遁の学者ロバート・サイダムの正体を追う一篇。
作品情報
- 執筆・発表年: 1925年8月執筆/1927年1月号「ウィアード・テイルズ」誌発表
- 主題タグ: 移民街の闇、悪魔崇拝結社、リリス信仰、都市の退廃
登場神格・用語
(なし)
あらすじ
神経を病んだ末に静養するマローン刑事の回想として物語は語られる。彼はかつてニューヨーク市警の特別捜査班として、ブルックリンの港湾スラム、レッド・フックで相次ぐ子供の失踪事件を追っていた。捜査線上に浮かんだのは、老いた隠遁学者ロバート・サイダム——かつては碩学として知られたが、今や落ちぶれ、クルド人・ヤズィード派の末裔とされる怪しげな移民集団と親しく交わっていた。サイダムの住居からは、地下の化学実験室と、壁一面に描かれた怪物の絵、そしてギリシア語やヘブライ語で記された悪魔召喚の呪文が発見される。やがてサイダムは突如として若返り、上流階級の令嬢と電撃的に結婚するが、その新婚旅行の船上で夫婦ともに惨殺死体となって発見される。妻の喉には人間の手によるものではない爪痕が残り、壁には血文字で「リリス」の名が記されていた。事件を受けて警察はレッド・フックの教会を強制捜査し、地下に隠された古代の水盤と祭壇、そこで行われていた身の毛もよだつ儀式の痕跡を発見する。マローンは崩落する建物の中で、リリスへの呼びかけと共に現れる悍ましい幻視を目の当たりにし、辛くも生還するが、事件の根は完全には絶たれなかったことを悟る。
読みどころと注目テーマ
超自然の脅威よりもむしろ、都市の底辺に堆積する人間の悪意と退廃そのものを恐怖の源泉とする点が特異な一篇。ニューヨークの移民街に対するラヴクラフトの偏見が色濃く表れた作品としてもしばしば論じられる。
執筆背景と影響
「彼」と同じく、1924年からのニューヨーク生活での失望と疎外感が色濃く投影された作品とされる。移民集団への差別的な描写は後年強く批判されており、ラヴクラフトの伝記的側面と作品を切り離せない代表例としてもしばしば言及される。



