
東雅夫『クトゥルー神話大事典』(新紀元社)。本作は特定の原典の翻案ではないため、神話の固有名詞を出典つきで引ける事典を挙げた。
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概要
Steam公式ストアページによれば、『Roguecraft DX』はノルウェーのBadger Punch Gamesが開発し、Thalamus Digitalが発売するターン制ローグライクで、2026年9月10日にWindows向けにSteamで発売された[1]。価格は1,600円で、確認時点(2026年9月11日)では9月24日までの期間限定で20%オフの1,280円が表示されている[1]。対応言語はEnglish、French、Italian、German、Spanish(Spain)、Norwegianの6言語で、日本語は含まれていない[1]。ユーザーレビューの集計は「概ね好評」で、母数は14件中85%が好評という表示だった[1]。発売から日が浅く、この評価はまだ母数が極めて小さい段階のものである。
ストアページの説明によれば、プレイヤーはWarrior・Rogue・Wizardの3クラスから1体を選び、階層ごとに手続き生成されるダンジョンを1フロアずつ下っていく。1周のプレイ時間はおよそ30〜40分、ゲームの基本操作を覚えるのに必要な時間は「about five minutes」だとされる[1]。モードはボス戦付き全15階層の「Classic Mode」、際限なく難度が上がっていく「Endless Dungeon Mode」、2HPのニワトリとして潜り金の卵を探す「Chicken Run Mode」の3種類があり、無料デモも別ページで配信されている(デモは5階層まで、製品版は15階層)[1][2]。
どんな作品か
ストアページの説明文を借りると、本作は「Pick one of three heroes and descend into the dungeon, fighting your way down one floor at a time. Every level is generated fresh, so no two attempts play the same」というシンプルな骨格を持つ[1]。「向いている人」向けの箇条書きには「You’d rather a run took half an hour than a whole evening」「You think a badger following you through a Lovecraftian dungeon is a good idea」とあり、逆に「向いていない人」向けには「You’re here for deep item identification, hunger clocks, inventory management and a hundred-key verb set. We built a deliberately compact system instead」と明記されている[1]。アイテム識別や空腹値、細かなインベントリ管理を持つ伝統的なローグライクとは距離を置き、短時間で周回できる設計を売りにしていることがわかる。
戦闘を助ける仲間として「familiar」を呼び出せる仕組みもあり、その一体はアナグマ(badger)で、数ターンの間だけ戦闘を手伝い、プレイヤーが届かない場所の戦利品を拾ってくる[1]。
物語の導入部(Backstory)は次のように書かれている。「For time immemorial a legend has been told of a dark, deadly dungeon containing unimaginable horrors and riches beyond belief」から始まり、プレイヤーキャラクターのZendarが「an ancient Egyptian library」でこの伝説を知り、「an ancient dark being」と「a magic amulet」の噂を追って世界を渡り歩いた末に、ついにダンジョン「Mordecoom」の入り口に立つという筋立てである[1]。
「DX」とは何のDXか——Amigaから5年越しでSteamへ
本作を「新作のLovecraftianローグライク」として単体で見ると見誤る。開発元Badger Punch Gamesの公式サイトを商品ページごとにたどると、今回のSteam版は、レトロプラットフォームへの移植を積み重ねてきた末の、現時点での最新の到達点であることがわかる。
無印『Roguecraft』は2024年9月2日にAmiga向けとして発売され、2025年3月3日にはV1.5がリリースされている(いずれも同社公式の商品ページの「Released On」欄に記載)[3]。この無印版のBackstoryは、先に引用したZendarとMordecoomの物語そのものであり、加えて「defeat the tentacle-toting final boss」という一文も含まれている[3]。つまり触手を持つボスや、古代エジプトの図書館で見つけた伝説という筋立ては、2026年のPC版で新しく足された要素ではなく、2024年の時点ですでに存在していたことになる。
その後、拡張版である『Roguecraft DX』はEvercade向けに2025年8月29日に発売され(発売元はBlaze EntertainmentとThalamus Digitalの共同)[6]、続いてAmiga・MEGA65・Game Boy Colorの3機種向けにも展開された。ここで確認作業中に一つ食い違いに突き当たった。Amiga版の商品ページ自体は「Released On」欄に「February 2 – 2025」と表示している[4]。ところが同じ公式サイトのブログには、この3機種同時発売を告知する投稿があり、そのアーカイブ一覧では同じ記事が「February 2, 2026」の日付で分類されている[5]。投稿のURL自体も/2026/02/02/という構造を持つ。商品ページとブログ記事という、同じ公式サイト内の二つの一次資料が年号で食い違っている以上、当サイトではどちらか一方を単純に正としない。URLの日付構造とブログアーカイブの表記という状況証拠からは2026年2月の可能性が高いと見ているが、断定はしていない。
いずれの年であっても、少なくとも次の順序は公式サイトの記載から確認できる。無印Amiga版(2024年9月)、V1.5(2025年3月)、Evercade版DX(2025年8月)、Amiga・MEGA65・Game Boy Color版DX、そしてPC・Steam版DX(2026年9月10日)[1][7]。さらに2026年3月にはZX Spectrum Next向けのDX版も発表されている(検索結果からタイトルのみ確認、詳細未確認)。つまりPC版は、2年以上かけて複数のレトロハードへ順に展開されてきたタイトルが、最後に主要プラットフォームであるSteamへたどり着いた結果であり、Steamでの発売そのものを目的に新規開発された企画ではない。
Badger Punch Gamesは公式の「Our Studio」ページで自らを「norwegian game devs with a passion for retro inspired game experiences」と紹介し、「Founded by Henning Ludvigsen and Ricki Sickenger」と明記している[8]。設立年やAmigaデモシーンとの関わりへの言及はこのページには無く、レトロハード向けの開発を続けてきたスタジオという情報にとどまる。
「Lovecraftian」は説明か、それとも雰囲気の記号か
ストアページの説明文には確かに「Lovecraftian dungeon」「tentacled horrors」という表現があり、ストアタグ18個のうち1つに「Lovecraftian」が含まれている[1]。ただし同じページ全体を検索しても、「Cthulhu」「eldritch」「cultist」といった、クトゥルフ神話を直接名指しする固有名詞は一つも出てこない。「Lovecraftian」という語自体も、ゲームの核心的な設定説明としてではなく、「向いている人」向けの軽い一文――「a badger following you through a Lovecraftian dungeon」――の中に一度出てくるのみで、あとはジャンルタグとしての使用にとどまる[1]。
前節で見た通り、Backstoryの筋立て(古代エジプトの図書館、目覚めを待つ古代の存在、魔法のアミュレット、触手を持つボス)は2024年の無印Amiga版からすでに存在している。ではこの「Lovecraftian」という形容そのものはいつから使われているのか。無印版の発売元であるThalamus DigitalのItch.ioページを確認すると、「Lovecraftian」という単語が唯一登場する箇所は、開発元自身の説明文ではなく、Amiga専門誌Amiga Addictのレビュー引用――「The Lovecraftian look has been achieved splendidly. The dungeon levels ooze with atmosphere, and characters have charm and bags of personality」――だった[9]。つまりこの語は、もともとは第三者のレビュアーがビジュアルの雰囲気を評した言葉であり、それが今回のPC・Steam版で商品説明とストアタグへ格上げされた形になる。
原典・ダーレス以降の拡張・TRPG設定という「神話の三層」のどこにも、本作は接続点を持たない。固有の神格名も、地名も、魔導書名も一切登場せず、あるのは「古代の存在」「アミュレット」「触手」という、ホラー系ダンジョン探索ゲームであれば頻出する記号だけである。この構図は、当サイトが固有名詞のないラヴクラフトの記事で扱った『Ritual Tides』のケース――固有名詞を欠いたまま「Lovecraftian」を名乗る作品――と同じ型に属する。むしろ『Ritual Tides』以上に、本作の場合は「Lovecraftian」という語自体が、開発元の言葉としてではなく、レビュアーの評価語からストアタグへ転用されたという経路まで確認できる分、装飾としての性格がはっきりしている。
ローグライクという器と「借り物の不穏さ」
Steamのタグ一覧を見ると、Roguelike、Dungeon Crawler、Turn-Based Combat、Pixel Graphics、Perma Death、Dark Fantasyなど、大半はゲームシステムや見た目を示す機能タグで占められている[1]。「Lovecraftian」はその中の一つに過ぎず、「Dark Fantasy」や「Fantasy」といった他のジャンルタグと並列に置かれている。当サイトのクトゥルフ神話ゲーム総合ガイドで扱ってきた作品の多くは、固有の神格名・地名・魔導書名を作中に明示する形で原典やTRPG設定と接続点を持つが、本作にはその接続がない。手続き生成ダンジョン・パーマデス・短時間周回というローグライクの型に、「古代の存在」「触手」という記号を足せば「Lovecraftian」タグが成立する――本作はその典型例として読める。これ自体は非難すべき欠陥ではない。短時間で遊べる軽量なローグライクとして評価すべき作品であり、Amiga Addict誌の高評価(96%、無印版)が示す通り、レトロハード愛好者の間では実際に支持されている[9]。ただし「本格的なクトゥルフ神話考察作品」として本作を紹介するのは、一次資料の裏付けを欠く過大評価になる。
関連して読むなら
- 固有名詞のないラヴクラフト——『Ritual Tides』はなぜ”Lovecraftian”なのか — 固有名詞を欠いたまま「Lovecraftian」を名乗る作品を扱った先行記事。本作と同じ構図を別タイトルで確認できる
- 原典/ダーレス系拡張/TRPG設定——三層で読み解くクトゥルフ神話 — 本サイトが基準とする「神話の三層」の枠組みそのもの
- クトゥルフ神話ゲーム総合ガイド——20作品の傾向と評価から見る選び方 — 他のクトゥルフ神話ゲームが原典・TRPG設定とどう接続しているかを比較できる記事
- Call of Cthulhu(ビデオゲーム) — 固有の神格名・設定を明示して原典と接続するビデオゲームの実例
- 『The Sinking City 2』のアーカムと原典のアーカム — 同じく「ゲームがクトゥルフ神話をどう扱っているか」を検証した先行記事
出典
- [1] Steam公式ストアページ「Roguecraft DX」(2026年9月11日確認)。開発元Badger Punch Games、発売元Thalamus Digital、発売日2026年9月10日、対応OS Windows、対応言語(English/French/Italian/German/Spanish-Spain/Norwegian、日本語なし)、価格1,600円(確認時点20%オフ1,280円、9月24日まで)、ユーザーレビュー「概ね好評」(14件中85%)、Warrior/Rogue/Wizardの3クラス、familiar(badger)、Classic Mode(全15階層+ボス)/Endless Dungeon Mode/Chicken Run Modeの3モード、ストアタグ18個(Lovecraftianを含む)、説明文中の「Lovecraftian dungeon」「tentacled horrors」の表現、「You think a badger following you through a Lovecraftian dungeon is a good idea」の一文、「Cthulhu」「eldritch」「cultist」の語が本文に存在しないこと、Backstory全文、「Originally developed in Assembly for Commodore Amiga, now faithfully ported to PC」の記載を確認。https://store.steampowered.com/app/3674680/Roguecraft_DX/ ↩
- [2] Steam公式ストアページ「Roguecraft DX Demo」(2026年9月11日確認)。無料デモであること、デモは5階層まで、製品版は15階層であることを確認。https://store.steampowered.com/app/4598140/Roguecraft_DX_Demo/ ↩
- [3] Badger Punch Games公式サイト「Roguecraft – Amiga」商品ページ(2026年9月11日確認)。発売日2024年9月2日、V1.5が2025年3月3日にリリースされたこと、開発元Badger Punch Games・発売元Thalamus Digital、Backstory本文(Zendar、Mordecoom、古代エジプトの図書館、古代の存在、魔法のアミュレット、「defeat the tentacle-toting final boss」の一文)を確認。https://www.badgerpunch.com/title/roguecraft/ ↩
- [4] Badger Punch Games公式サイト「Roguecraft DX – Amiga」商品ページ(2026年9月11日確認、生HTMLを直接取得して該当箇所を確認)。「Released On」欄が「February 2 – 2025」と表示されていることを確認。https://www.badgerpunch.com/title/roguecraft-dx-amiga/ ↩
- [5] Badger Punch Games公式ブログ「Roguecraft DX released for Amiga, MEGA65 and Game Boy Color!」(2026年9月11日確認、生HTMLを直接取得して該当箇所を確認)。本文に「Roguecraft DX is out! Now available on Amiga, Game Boy Color & MEGA65」とあること、サイト内の月別アーカイブ一覧で本記事へのリンクが「February 2, 2026」の日付で表示されていること、投稿URLが
/2026/02/02/の構造を持つことを確認。[4]の商品ページ表記(2025年)と食い違うことを確認。https://www.badgerpunch.com/2026/02/02/roguecraft-dx-released-for-amiga-mega65-and-game-boy-color/ ↩ - [6] Badger Punch Games公式サイト「Roguecraft DX – EVC(Evercade)」商品ページ(2026年9月11日確認)。「Released On」が「August 29 – 2025」であること、発売元が「Blaze Entertainment, Thalamus Digital」であることを確認。https://www.badgerpunch.com/title/roguecraftdx-evercade/ ↩
- [7] Badger Punch Games公式サイト「Roguecraft DX – PC」商品ページ(2026年9月11日確認)。発売日「September 10 – 2026」、開発元Badger Punch Games・発売元Thalamus Digitalであることを確認。https://www.badgerpunch.com/title/roguecraft-pc/ ↩
- [8] Badger Punch Games公式サイト「Our Studio」ページ(2026年9月11日確認)。「We are norwegian game devs with a passion for retro inspired game experiences」「Founded by Henning Ludvigsen and Ricki Sickenger」の記載を確認。設立年・デモシーンへの言及がこのページには無いことも確認。https://www.badgerpunch.com/our-studio/ ↩
- [9] Thalamus Digital Itch.ioページ「Roguecraft」(無印Amiga版、2026年9月11日確認)。Amiga Addict誌のレビュー引用「The Lovecraftian look has been achieved splendidly. The dungeon levels ooze with atmosphere, and characters have charm and bags of personality」(96%評価と併記)が、このページで「Lovecraftian」という語が確認できる唯一の箇所であることを確認。https://thalamusdigital.itch.io/roguecraft ↩
