総合ガイド — Cthulhu Mythos Games — A Comparative Overview

クトゥルフ神話ゲーム総合ガイド

TRPG・ボードゲーム・デジタルゲームを横断調査し、クトゥルフ神話とコズミックホラーの実装傾向・評価動向を整理した特集記事。

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概要

クトゥルフ神話やコズミックホラーを題材にしたゲームは、大きく二系統に分かれる。一つは「ライセンス直系の神話作品」で、調査・手掛かり収集・正気度管理・儀式阻止を軸に設計されることが多い。『クトゥルフの呼び声TRPG』[1]系のTRPGや『アーカムホラー』[4]系のボードゲームが代表格である。もう一つは「不可知な存在への恐怖を独自の世界観に翻案した作品」で、その実感を戦闘・ストレス・環境演出に埋め込む傾向が強い。『Bloodborne』[20]『Darkest Dungeon』[13]『DREDGE』[14]『WORLD OF HORROR』[15]などが典型例である。本記事は、TRPG・ボードゲーム・カードゲーム・デジタルゲームの主要20作品を横断し、媒体ごとの傾向と選び方を整理する。各作品の詳しい評価は、当サイトの個別レビューを参照してほしい。

TRPG——会話と正気度がもっとも噛み合う媒体

クトゥルフ神話の恐怖は「結末」よりも「接近していく過程」にある。この性質は、会話とロールプレイを主軸にするTRPGともっとも噛み合う。同じ神話世界を扱っていても、設計思想は大きく分かれる。

『クトゥルフの呼び声TRPG』は、サンディ・ピーターソンが1981年に発表した源流であり[1]、正気度(SANITYポイント)を中核に据えた重厚な判定システムを持つ。日本ではホビージャパンを経て、現在はKADOKAWAが最新版を刊行している[1]。一方『トレイル・オブ・クトゥルー』は、Pelgrane PressのGUMSHOEシステムを採用し、シナリオの核心となる手掛かりを技能ロールの成否に関わらず入手できるよう設計されている[2]。日本語版はグループSNE・新紀元社が刊行した改訂版が流通している[2]。GUMSHOEシステムの設計思想そのものについては、当サイトの解説記事にまとめてある。

さらに『Delta Green: Agent’s Handbook』のように、神話よりも現代アメリカの官僚制・隠蔽構造を前景化した「現代化されたコズミックホラー」も見逃せない。Arc Dream Publishingが刊行するこの作品では、プレイヤーは英雄的な探索者ではなく、家庭や仕事を抱えながら組織の命令で危険な任務に従事する「公務員」として描かれる[3]。デルタグリーンという組織そのものの背景は、当サイトの入門記事で扱っている。

ボードゲーム・カードゲーム——協力プレイの共同体験

ボードゲーム・カードゲームは、TRPGほど自由度は高くないものの、協力プレイによって「圧倒的な脅威に立ち向かう共同体験」を作りやすい媒体である。

『アーカムホラー 第3版』は、Fantasy Flight Games製・日本語版はアークライトが2019年4月25日に発売した、街ひとつを舞台にした協力型ボードゲームである[4]。舞台を世界規模へ広げたのが『Eldritch Horror』で、同じくFantasy Flight Games製、日本語版は2014年4月にアークライトから発売された[5]。南極からアマゾン、東京までを旅する構成は、街ひとつを盤にする『アーカムホラー』との対比になっている。

『Mansions of Madness: Second Edition』は、無料アプリがシナリオ進行と音響演出を担う協力型ボードゲームで、デザイナーはNikki Valens、日本語版は2016年12月3日にアークライトが発売した[6]。アプリとの連動によって、盤面だけでは表現しきれない没入感を実現している。カードゲームでは『Arkham Horror: The Card Game』が、デッキ構築と複数シナリオが連なる「キャンペーン」を通じて、TRPGに迫る長期的な物語没入を実現している[7]。探索者のデッキやカード自体が傷つき変化していく仕組みは、「知識を得るごとに損なわれていく」という原典の感覚と重なる。

一方『Cthulhu: Death May Die』は、CMON製・デザイナーはRob DaviauとEric M. Lang、日本語版は2019年12月19日にアークライトが発売した作品で、「狂気に身を任せる」ことを勝ち筋に組み込んだ設計が特徴である[8]。原典的な陰鬱さより遊びやすさとテンポを優先しており、「原典らしさ」と「遊びとしての即効性」のどちらを重視するかで評価が分かれやすい。短時間で気軽に遊べる卓上体験を求めるなら、『Elder Sign』も候補になる。Fantasy Flight Gamesが発売するこの協力型ダイスゲームは、博物館を舞台に古のものの覚醒を防ぐという設定で、1回のプレイが1〜2時間程度に収まるよう設計されている[9]。

デジタルゲーム——調査ゲームと、そうでないゲームの分かれ目

デジタルゲームでは、「調査そのものが遊びになる作品」ほどクトゥルフ適性が高い傾向がある。

『Call of Cthulhu』(2018年)は、Cyanide Studioが開発しFocus Entertainmentが2018年10月29日に発売した、ケイオシアムのTRPGを原作とする公式ビデオゲームである[10]。1924年のダークウォーター島を舞台にした調査アドベンチャーで、原作TRPGとの関係を公式が明言している数少ない例でもある。『The Sinking City』は、Frogwaresが開発・発売した、半ば水没した都市オークモントを私立探偵として調べるオープンワールドの捜査ゲームである[11]。神話を題材にしたオープンワールド作品は少なく、他の多くの作品が基地・屋敷・ダンジョン・海域といった区切られた舞台を採る中で異色の存在といえる。『Stygian: Reign of the Old Ones』は、Cultic Gamesが開発し2019年9月26日に発売した物語重視のCRPGで、着想元としてTRPGの『Call of Cthulhu』を公式に名指ししている点が特徴である[12]。

これらの調査系作品に対し、批判が向かいやすいのは「戦闘やアクションが探偵・恐怖の核を上回れない」というパターンである。これはコズミックホラーの翻案でしばしば見られる失敗であり、逆に低予算のインディー作品はこの弱点を回避しやすい。『Darkest Dungeon』は、Red Hook Studiosが2016年1月19日に配信したローグライクRPGで、「ストレス」を戦闘と同格の敵として設計した点が特徴である[13]。神話の固有名を前面に出さないが、正気を数値で扱う発想をもっとも広い層へ届けた作品といえる。『DREDGE』は、Black Salt Gamesが開発しTeam17が2023年3月30日に発売した釣りアドベンチャーで、版元自身が「コズミックホラー・フィッシングアドベンチャー」と名乗っている[14]。『WORLD OF HORROR』は、個人開発者panstaszがMSペイントの1ビット絵で作ったローグライトRPGで、伊藤潤二とラヴクラフトの双方への敬意を公式が明示している[15]。

基地や火星、深海といった「区切られた閉鎖空間」を舞台にした作品も多い。『Conarium』はStormling Studiosが開発し2017年6月6日に発売した、『狂気の山脈にて』の「後」を舞台にした一人称アドベンチャーで、原作との関係を公式が明言している数少ない例である[16]。『Moons of Madness』は、Rock Pocket Gamesが開発しFuncomが発売した、火星の研究基地を舞台にした一人称コズミックホラーである[17]。『Sunless Sea』は、Failbetter Gamesが2015年2月6日に配信した、地下の暗い海をヴィクトリア朝の蒸気船で航るゴシックホラーRPGで、船長が死んでも遺産が次代へ渡る設計を持つ(日本語非対応)[18]。『Call of the Sea』は、Out of the Blue Gamesが開発しRaw Furyが2020年12月8日に発売した一人称アドベンチャーパズルで、1934年の南太平洋を舞台に、失踪した夫を追う女性の物語を、暗鬱さより色彩の明るい熱帯の島の情景で描く点が珍しい[19]。

神話を名乗らないコズミックホラー

見落とされがちな視点として、「クトゥルフ」を名乗っていない作品の方が、コズミックホラーとして優れている場合がある。『Bloodborne』はクトゥルフ神話を標榜していないが、ゴシック的な幻想が宇宙的な真相へと反転する構造によって、コズミックホラー作品として頻繁に参照される[20]。物語序盤は「獣の呪い」を巡るゴシックホラーとして進行し、進行するにつれて不可知の存在や人間の認識能力の限界といったテーマが前景化していく。前述の『Darkest Dungeon』も同様に、神話の固有名詞を使わずに、人間の脆弱さと狂気そのものをプレイ体験に組み込んでいる。ブランド名や神話固有名詞の有無だけで探すと、この分野の面白さの半分を見落とすことになりかねない。

媒体ごとの比較表

媒体 代表作 開発/発売元 発売年 強み
TRPG クトゥルフの呼び声TRPG[1] ケイオシアム系/KADOKAWA 1981年初版 会話とロールプレイに最適
TRPG トレイル・オブ・クトゥルー[2] Pelgrane Press系 改訂版2023年(日本語版) 手掛かりの取りこぼしがない
TRPG Delta Green[3] Arc Dream Publishing 2016年 現代の隠蔽・官僚制を描く
ボードゲーム アーカムホラー 第3版[4] Fantasy Flight Games 2019年(日本語版) 街ひとつの緊張感
ボードゲーム Eldritch Horror[5] Fantasy Flight Games 2014年(日本語版) 世界規模の旅
ボードゲーム Mansions of Madness[6] Fantasy Flight Games 2016年(日本語版) アプリ連動の演出
カードゲーム Arkham Horror LCG[7] Fantasy Flight Games 2016年 キャンペーンの物語没入
ボードゲーム Cthulhu: Death May Die[8] CMON 2019年(日本語版) テンポの良さ
ボードゲーム Elder Sign[9] Fantasy Flight Games 2011年 短時間で遊べる
デジタル Call of Cthulhu[10] Cyanide/Focus 2018年 TRPG原作の調査劇
デジタル The Sinking City[11] Frogwares 初版2019年 オープンワールド捜査
デジタル Stygian[12] Cultic Games 2019年 物語重視のCRPG
デジタル Darkest Dungeon[13] Red Hook Studios 2016年 ストレス管理
デジタル DREDGE[14] Black Salt Games/Team17 2023年 釣り×コズミックホラー
デジタル WORLD OF HORROR[15] panstasz 2023年 1ビット絵と日本語対応
デジタル Conarium[16] Stormling Studios 2017年 原典の続編的設定
デジタル Moons of Madness[17] Rock Pocket Games/Funcom 2020年 宇宙開発×恐怖
デジタル Sunless Sea[18] Failbetter Games 2015年 膨大なテキスト量
デジタル Call of the Sea[19] Out of the Blue Games/Raw Fury 2020年 明るい色彩の恐怖
デジタル(非公称) Bloodborne[20] FromSoftware 2015年 最高水準の評価

選び方の指針

神話そのものをじっくり遊びたいなら、TRPGや長期キャンペーン型のカードゲーム・ボードゲームが適している。原典に忠実な調査体験を求めるなら『クトゥルフの呼び声TRPG』、手掛かりの取りこぼしにストレスを感じたくないなら『トレイル・オブ・クトゥルー』、現代的な組織劇を求めるなら『Delta Green』が候補になる。

コズミックホラーとしてのゲーム的完成度を重視するなら、『Bloodborne』『DREDGE』『WORLD OF HORROR』『Darkest Dungeon』のような、神話の看板に頼らない作品が上位に来る。調査と雰囲気の中間を狙うなら『The Sinking City』や『Call of Cthulhu』、短時間で気軽に遊べる卓上体験を求めるなら『Elder Sign』や『Cthulhu: Death May Die』が候補になる。友人と複数人で長時間の協力プレイを楽しみたいなら『アーカムホラー』シリーズや『Eldritch Horror』、一人でじっくり読み進めたいなら『Sunless Sea』のようなテキスト主体の作品が向いている。

評価の絶対値だけでなく、「何を体験したくてこのテーマを選ぶのか」を基準に選ぶことが、この分野を楽しむ近道である。各作品の詳細な評価・原典との距離・日本語対応の有無は、上記リンク先の個別レビューを参照してほしい。

出典

  • [1] KADOKAWA公式「クトゥルフ神話TRPG」商品ページ https://product.kadokawa.co.jp/cthulhu/(取得日 2026-09-19) ↩
  • [2] グループSNE公式「暗黒神話TRPG トレイル・オブ・クトゥルー改訂版」商品ページ https://www.groupsne.co.jp/products/ToC/index.html(取得日 2026-09-19) ↩
  • [3] Arc Dream Publishing公式ストア「Delta Green: Agent’s Handbook」 https://shop.arcdream.com/products/delta-green-agents-handbook(取得日 2026-09-19) ↩
  • [4] アークライト公式「アーカムホラー 第3版 完全日本語版」商品ページ https://arclightgames.jp/product/%E3%82%A2%E3%83%BC%E3%82%AB%E3%83%A0%E3%83%9B%E3%83%A9%E3%83%BC%E7%AC%AC3%E7%89%88/(取得日 2026-09-19) ↩
  • [5] アークライト公式「エルドリッチホラー 完全日本語版」商品ページ https://arclightgames.jp/product/%e3%82%a8%e3%83%ab%e3%83%89%e3%83%aa%e3%83%83%e3%83%81%e3%83%9b%e3%83%a9%e3%83%bc/(取得日 2026-09-19) ↩
  • [6] アークライト公式「マンション・オブ・マッドネス 第2版 完全日本語版」商品ページ https://arclightgames.jp/product/%e3%83%9e%e3%83%b3%e3%82%b7%e3%83%a7%e3%83%b3%e3%82%aa%e3%83%96%e3%83%9e%e3%83%83%e3%83%89%e3%83%8d%e3%82%b9%e7%ac%ac2%e7%89%88/(取得日 2026-09-19) ↩
  • [7] Arkham Horror公式「Arkham Horror: The Card Game」 https://www.arkhamhorror.com/games/arkham-horror-the-card-game/(取得日 2026-09-19) ↩
  • [8] アークライト公式「クトゥルフ ~死もまた死すべし~ 完全日本語版」商品ページ https://arclightgames.jp/product/%e3%82%af%e3%83%88%e3%82%a5%e3%83%ab%e3%83%95%e6%ad%bb%e3%82%82%e3%81%be%e3%81%9f%e6%ad%bb%e3%81%99%e3%81%b9%e3%81%97/(取得日 2026-09-19) ↩
  • [9] Fantasy Flight Games公式「Elder Sign」商品ページ https://www.fantasyflightgames.com/en/products/elder-sign/(取得日 2026-09-19) ↩
  • [10] Steam公式ストアページ「Call of Cthulhu」(appid 399810) https://store.steampowered.com/app/399810/Call_of_Cthulhu/(取得日 2026-09-19) ↩
  • [11] Steam公式ストアページ「The Sinking City Remastered」(appid 750130) https://store.steampowered.com/app/750130/The_Sinking_City_Remastered/(取得日 2026-09-19) ↩
  • [12] Steam公式ストアページ「Stygian: Reign of the Old Ones」(appid 779290) https://store.steampowered.com/app/779290/Stygian_Reign_of_the_Old_Ones/(取得日 2026-09-19) ↩
  • [13] Steam公式ストアページ「Darkest Dungeon」(appid 262060) https://store.steampowered.com/app/262060/Darkest_Dungeon/(取得日 2026-09-19) ↩
  • [14] Steam公式ストアページ「DREDGE」(appid 1562430) https://store.steampowered.com/app/1562430/DREDGE/(取得日 2026-09-19) ↩
  • [15] Steam公式ストアページ「WORLD OF HORROR」(appid 913740) https://store.steampowered.com/app/913740/(取得日 2026-09-19) ↩
  • [16] Steam公式ストアページ「Conarium」(appid 313780) https://store.steampowered.com/app/313780/Conarium/(取得日 2026-09-19) ↩
  • [17] Steam公式ストアページ「Moons of Madness」(appid 1012840) https://store.steampowered.com/app/1012840/Moons_of_Madness/(取得日 2026-09-19) ↩
  • [18] Steam公式ストアページ「SUNLESS SEA」(appid 304650) https://store.steampowered.com/app/304650/SUNLESS_SEA/(取得日 2026-09-19) ↩
  • [19] Steam公式ストアページ「Call of the Sea」(appid 1042490) https://store.steampowered.com/app/1042490/Call_of_the_Sea/(取得日 2026-09-19) ↩
  • [20] PlayStation公式「Bloodborne」ページ https://www.playstation.com/en-us/games/bloodborne/(取得日 2026-09-19) ↩

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