概要
『クトゥルフ 〜死もまた死すべし〜』は、協力型のボードゲームである。日本語版を出しているアークライトの公式商品ページによれば、メーカーは CMON Limited、ゲームデザインは Rob Daviau と Eric M. Lang、原題は *Cthulhu: Death May Die*、日本語版の発売は2019年12月19日[1]。
公式の紹介文は、本作の核心を一文で示している[1]。
時空を越えて現れる恐怖を打ち倒すには、狂気に身を任せつつ、全員が力を合わせる必要があります。
「狂気に身を任せる」ことが、勝つための条件として書かれている。
題名の出どころ
原題 *Death May Die* は、ラヴクラフト「クトゥルフの呼び声」(1928年)に出てくる一句に由来する[4]。
That is not dead which can eternal lie, And with strange aeons even death may die.
(永遠に横たわるものは死してあらず、奇怪なる永劫のもとには 死すらも死するなり)
この二行が作中でどう置かれているかも、原文から確認できる[4]。
…the deathless Chinamen said that there were double meanings in the Necronomicon of the mad Arab Abdul Alhazred which the initiated might read as they chose, especially the much-discussed couplet: “That is not dead which can eternal lie, And with strange aeons even death may die.”
((前略)不死の中国人たちは、狂えるアラブ人アブドゥル・アルハザードの『ネクロノミコン』には二重の意味があると言った。秘儀を授かった者は好きなように読み取れるのだと。とりわけ、あの多く論じられてきた二行連句については)
この二行は『ネクロノミコン』からの引用として、作中人物の口を通して示される。しかも「二重の意味がある」「秘儀を授かった者は好きなように読み取れる」という但し書き付きである[4]。
つまり原典の側からして、この二行は確定した意味を持たないものとして提示されている。ゲームの題名がここから採られていることには、そうした含みもある。
同作は1928年の発表で、米国の著作権保護期間(発表から95年)を過ぎてパブリックドメインに入っているため、当サイトは原文を引用している。
製品名が、原典のもっとも有名な二行から採られている。日本語版の副題「〜死もまた死すべし〜」は、この一句の訳にあたる[1]。
基本情報
アークライト公式の「商品概要」による[1]。
| 項目 | 内容 |
|---|---|
| メーカー | CMON Limited |
| ゲームデザイン | Rob Daviau / Eric M. Lang |
| 原題 | Cthulhu: Death May Die |
| 日本語版の販売 | アークライト |
| 日本語版発売日 | 2019年12月19日 |
| 価格 | 13,200円(税込) |
| プレイ人数 | 1〜5人 |
| プレイ時間 | 90〜120分 |
| 対象年齢 | 14歳以上 |
90〜120分。Fantasy Flight Games系の3作(いずれも120分以上)より短い[2]。
クトゥルフ神話との関係
狂気を資源にする
公式紹介文は、探索者をこう説明する[1]。
プレイヤーは、独自の技能を備え、そして独自の狂気をはらんだ探索者として、クトゥルフ神話の様々な怪物と戦い、異なる 6種類のエピソード に隠された秘密を暴かねばなりません。
コンポーネントにも 狂気カード12枚 が含まれる[1]。
TRPG『クトゥルフの呼び声』が1981年に持ち込んだ正気度は、減ると不利になる数値だった。本作はその向きを変えている。
| 作品 | 狂気の扱い |
|---|---|
| TRPG『クトゥルフの呼び声』 | 減ると行動が制限される(罰則) |
| Cthulhu: Death May Die | 狂気に身を任せることが勝ち筋に組み込まれる[1] |
| Forgive Me Father | 狂気レベルが追加の力を与える[3] |
| Stygian | 正気度を失うと選択肢が増える[3] |
2019年前後に、正気度を罰則から外す設計が複数のメディアで同時に出ている[1][3]。本作はそのボードゲーム側の例にあたる。
「召喚される前に止める」
公式は状況をこう書く[1]。
古代より続く、終末を望むカルト教団が旧支配者をこの世界に召喚しようとしている。その出現は目前に迫っている!(中略)古のものが完全な力を得る前に 儀式を阻止 するのです。
目的は「倒す」ではなく「儀式を阻止する」である[1]。これは『アーカムホラー 第3版』の「エンシェントワンの行動を妨害する」に近く、『エルドリッチホラー』の「エンシェントワンを葬る」とは異なる[2]。
そのうえで公式は、最後にこう付け加える[1]。
きっと生きては帰れないでしょう。でも、その覚悟はありますよね?
協力型ゲームの商品説明が、勝利を約束していない。この一文は、本作が何を遊ばせたいかを示している。
同じ立場は、TRPG『クトゥルフの呼び声』が1981年以来採ってきたものでもある。探索者は勝つために作られていない——生き延びられれば上出来、という前提が卓上にある。本作はそれをボードゲームの箱の説明文に引き継いだ。
層としてはどこか
当サイトの神話の三層でいえば、本作は第3層——ゲームによる拡張——にあたる。題名は原典から採られているが、6種類のエピソードという構成や狂気の扱いはゲーム独自の設計である[1]。
内容物から分かること
公式が掲載しているコンポーネント一覧のうち、主なものを挙げる[1]。
| 種別 | 数量 |
|---|---|
| プラ製フィギュア | 45体 |
| 探索者ボード | 10枚 |
| エピソードカード | 6枚 |
| モンスターカード | 6枚 |
| 発見カード | 90枚 |
| 古のものステージカード | 8枚 |
| 古のもの配下カード | 2枚 |
| 神話カード | 64枚 |
| 狂気カード | 12枚 |
| 特製ダイス | 8個 |
| 触手マーカー | 30個 |
| タイル / ストーリーボード / トークン類 | 17枚 / 1枚 / 147個 |
フィギュア45体。CMONというメーカーの製品らしく、造形物の比重が大きい[1]。
「古のものステージカード8枚」という項目に注目したい[1]。旧支配者が段階を踏んで力を増していくことが、カードの枚数として表現されている。時間が経つほど相手が強くなる——本作の緊張はここから来ている。
探索者ボード10枚とエピソードカード6枚の組み合わせで、遊ぶたびに顔ぶれと筋書きが変わる[1]。
カードの種類が細かく分かれていることも、この製品の特徴である。発見カード90枚、神話カード64枚、狂気カード12枚、古のものステージカード8枚、古のもの配下カード2枚、エピソードカード6枚、モンスターカード6枚——7種類のデッキが別々に管理される[1]。
同じ協力型でも、『パンデミック:クトゥルフの呼び声』は手がかりカード44枚・遺物カード12枚・召喚カード24枚・オールド・ワンカード12枚という構成で[5]、本作より種類が少ない。扱う情報の量が、そのまま準備と片付けの手間になる。
同系列の中での位置
日本語で手に入る神話系ボードゲームを、公式情報で並べると次のようになる[1][2][5]。
| 作品 | 人数 | 時間 | 価格 | 発売 |
|---|---|---|---|---|
| クトゥルフの呼び声フラックス | 2〜6人 | 10〜40分 | 2,200円 | 2014年1月 |
| パンデミック:クトゥルフの呼び声 | 2〜4人 | 約40分 | 5,500円 | 2016年8月 |
| エルドリッチホラー | 1〜8人 | 120〜240分 | 7,480円 | 2014年4月 |
| アーカムホラー 第3版 | 1〜6人 | 120〜180分 | 8,580円 | 2019年4月25日 |
| Cthulhu: Death May Die | 1〜5人 | 90〜120分 | 13,200円 | 2019年12月19日 |
| マンション・オブ・マッドネス 第2版 | 1〜5人 | 120〜180分 | 14,850円 | 2016年12月3日 |
本作は「2時間以内で終わる重量級」という位置にある[1][2][5]。フィギュアの物量と価格は重量級だが、所要時間は中間にあたる。
どんな人に向くか
- 狂気を引き受けて戦う、という設計を面白がれる人[1]
- フィギュアの多いボードゲームが好きな人。45体が入っている[1]
- 2時間以内で決着させたい人。公式の想定は90〜120分[1]
- 逆に、価格は高い部類である(13,200円)[1]
より手軽なものは『クトゥルフの呼び声フラックス』(2,200円・10〜40分)や『パンデミック:クトゥルフの呼び声』(5,500円・約40分)にある[5]。全体の見取り図はクトゥルフ神話ゲーム総覧にまとめてある。
なお、アークライト公式は本製品について表記訂正(エラッタ)を公開している[1]。遊ぶ前に確認しておくとよい。
関連記事
- 正気度(SAN) — 本作が向きを変えた概念
- ネクロノミコン — 題名の出どころとなる二行が引用された書物
- 「クトゥルフの呼び声」 — その二行が書かれた作品
- クトゥルフ神話ゲーム総覧
出典
- [1] アークライト公式の商品ページ「クトゥルフ ~死もまた死すべし~ 完全日本語版」(該当ページ)。メーカー CMON Limited、ゲームデザイン Rob Daviau・Eric M. Lang、原題 Cthulhu: Death May Die、価格13,200円(税込)、プレイ人数1〜5人、プレイ時間90分〜120分、対象年齢14歳以上、2019年12月19日発売。コンポーネント(プラ製フィギュア45体/ルールブック1冊/タイル17枚/ストーリーボード1枚/探索者ボード10枚/エピソードカード6枚/モンスターカード6枚/発見カード90枚/古のものステージカード8枚/古のもの配下カード2枚/神話カード64枚/狂気カード12枚/特製ダイス8個/台座5個/触手マーカー30個/トークン類147個)。紹介文の「古代より続く、終末を望むカルト教団が旧支配者をこの世界に召喚しようとしている。その出現は目前に迫っている!」「時空を越えて現れる恐怖を打ち倒すには、狂気に身を任せつつ、全員が力を合わせる必要があります」「プレイヤーは、独自の技能を備え、そして独自の狂気をはらんだ探索者として、クトゥルフ神話の様々な怪物と戦い、異なる6種類のエピソードに隠された秘密を暴かねばなりません」「古のものが完全な力を得る前に儀式を阻止するのです」「きっと生きては帰れないでしょう。でも、その覚悟はありますよね?」。同ページに表記訂正(エラッタ)の案内があること(2026年9月16日確認)。 ↩
- [2] アークライト公式の商品ページ。「エルドリッチホラー 完全日本語版」(該当ページ、1〜8人、120〜240分、7,480円、2014年4月発売、「エンシェントワンを葬ること」)、「アーカムホラー 第3版 完全日本語版」(該当ページ、1〜6人、120〜180分、8,580円、2019年4月25日発売、「エンシェントワンの行動を妨害しなければなりません」)、「マンション・オブ・マッドネス 第2版 完全日本語版」(該当ページ、1〜5人、120〜180分、14,850円、2016年12月3日発売)(2026年9月16日確認)。 ↩
- [3] Steam公式ストアページ。『Forgive Me Father』(appid 1590910、紹介文「Be aware of your madness level which dynamically changes during gameplay and gives you additional power.」)、『Stygian: Reign of the Old Ones』(appid 779290、紹介文「正気度を失うことは単なるペナルティではなく、新たな選択肢を解き放ち、ゲームの展開を変えることもあります」)(2026年9月16日確認)。 ↩
- [4] H・P・ラヴクラフト「The Call of Cthulhu」の本文(該当ページ)。同作は1928年2月の『ウィアード・テイルズ』誌に発表されたもので、米国の著作権保護期間(発表から95年)を過ぎてパブリックドメインに入っているため原文を引用した。引用箇所は作中で『ネクロノミコン』からの引用として示される二行(2026年9月16日確認)。 ↩
- [5] ホビージャパン公式の商品ページ。「パンデミック:クトゥルフの呼び声」(該当ページ、2〜4人、約40分、5,500円、2016年8月発売)、「クトゥルフの呼び声フラックス」(該当ページ、2〜6人、約10〜40分、2,200円、2014年1月発売)(2026年9月16日確認)。 ↩


