TRPG — Delta Green: Agent's Handbook

Delta Green: Agent’s Handbook

現代の政府機関を舞台に、隠蔽・陰謀・正気度崩壊を描く現代版コズミックホラーTRPG。

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概要

『Delta Green: Agent’s Handbook』は、Arc Dream Publishingが刊行するTRPG『Delta Green: The Role-Playing Game』の、プレイヤー専用ルールブックである。版元公式ストアページによれば、商品コードAPU8107・定価39.99ドルのハードカバーで、購入者には無料のPDF版が付属する[1]。同ページはさらに、本書が『Delta Green: The Role-Playing Game』のデラックス・スリップケース版にも収録されていることを明記している[1]。

プレイヤーが演じるのは、現代アメリカに実在するという体で描かれる非公式機関「デルタグリーン」のエージェントである。国家権力の庇護を失った捜査官たちが、権限も支援も持たないまま神話的な脅威に立ち向かうという、この作品固有の設定は次節以降で扱う。

どんな本か——プレイヤー専用のルールブック

版元公式ストアページは、本書の位置づけを一文で説明している。

The AGENT’S HANDBOOK is a players-only rulebook for Delta Green: The Role-Playing Game.(訳: 『エージェンツ・ハンドブック』は、『デルタグリーン:ザ・ロールプレイング・ゲーム』のための、プレイヤー専用ルールブックである。)[1]

「プレイヤー専用」と銘打たれている以上、ゲームマスター(本作では「Handler」と呼ばれる)だけが目を通す情報は、この巻の担当ではない。当サイトのArc Dream Publishing記事が確認した範囲によれば、版元は本書とは別に運営側向けの巻を刊行しており、2018年6月には本書と運営側向けの巻を合わせた二分冊のスリップケース版が発売されている[2]。本書はその片割れであり、プレイヤーがエージェントとしてできること――キャラクター作成・判定・戦闘・正気度の管理――だけに範囲を絞って書かれている。

設定——1928年のインスマス急襲から、1969年のカンボジアまで

版元公式ストアページは、”Welcome to the Apocalypse”(黙示録へようこそ)という見出しの下で、デルタグリーンという組織の成り立ちを次のように語る。

Born of the U.S. government’s 1928 raid on the degenerate coastal town of Innsmouth, Massachusetts, the covert agency known as Delta Green spent four decades opposing the forces of darkness with honor, but without glory. Stripped of sanction after a disastrous 1969 operation in Cambodia, Delta Green’s leaders made a secret pact: to continue their work without authority, without support, and without fear.(訳: 退廃したマサチューセッツ州沿岸の町インスマスへの、米国政府による1928年の強制捜査から生まれた、デルタグリーンとして知られる秘密機関は、四十年にわたり、栄誉はあっても栄光のないまま、闇の勢力に対抗し続けてきた。1969年、カンボジアでの破滅的な作戦の後に公認を剥奪されたデルタグリーンの指導者たちは、密かな誓いを立てた――権限なく、支援なく、そして恐れることなく、自分たちの任務を続けるという誓いを。)[1]

この一文だけでも、本作が『クトゥルフの呼び声』のような1920年代の古典的な探索者劇とは異なる時間軸に立っていることがわかる。物語の起点は1928年のインスマスだが、プレイヤーが実際に演じるのは、組織が公認を失った1969年以降――つまり現代――のエージェントである。四十年にわたる公認の活動と、その後の非合法化という二段構えの年表が、本作のエージェントを「かつては国家の代理人だったが、いまは違う」という宙ぶらりんの立場に置いている。

版元公式ストアページは続けて、プレイヤーが担う役割をこう説明する。

You conspire to cover it all up so no one else must see what you’ve seen—or learn the terrible truths you’ve discovered.(訳: あなたたちは、他の誰も自分たちが見たものを目にせずに済むように――あるいは、自分たちが知ってしまった恐ろしい真実を知らずに済むように――すべてを隠蔽する陰謀に加担する。)[1]

エージェントの仕事は、神話的な脅威を打ち倒すことそのものよりも、その存在を隠し通すことに重心が置かれている。「勝利」の形が、敵を倒すことではなく事実の抹消であるという枠組みは、次節で見る収録ルールの構成にも表れている。

収録されているルール

版元公式ストアページは、本書に収録されるルールを7項目の箇条書きで示している[1]。

Rules for creating agents of all types.(訳: あらゆる種類のエージェントを作成するためのルール)[1] Rules for tense, fluid investigations. Players who use their agents’ skills in clever ways have the best chance to succeed — and survive.(訳: 緊迫感のある、流動的な捜査のためのルール。エージェントの技能を巧みに使うプレイヤーほど、成功し――そして生き残る――見込みが高い。)[1] Nerve-wracking rules for combat, where random disasters can undo the most careful planning.(訳: 神経をすり減らす戦闘のルール。偶発的な大惨事が、どれほど周到な計画をも台無しにしうる。)[1] Mind-melting Sanity rules that see agents gradually deteriorate — and sometimes snap.(訳: 精神を蝕む正気度のルール。エージェントは徐々に消耗し――時には壊れてしまう。)[1] Rules for “home” scenes where players see what their agents are fighting for.(訳: 「ホーム」シーンのルール。プレイヤーは、自分のエージェントが何のために戦っているのかを見ることになる。)[1] Quick, intuitive rules to determine equipment and assets.(訳: 装備と資産を手早く直感的に決めるためのルール。)[1] Dossiers on the federal agencies most likely to be featured in play.(訳: プレイに登場しやすい連邦機関の身上調書。)[1]

7項目のうち、捜査・戦闘・正気度の3つは手続き型のルールであり、残るキャラクター作成・ホームシーン・装備と資産・連邦機関の身上調書は、それを支える設定と運用のルールにあたる。捜査の項目が「巧みに使うプレイヤーほど生き残る」と明言している点、戦闘の項目が「周到な計画すら台無しにする」と明言している点は、この作品が力押しでの解決を前提にしていないことを示している。

ホームシーンが数値化しているもの

7項目のうち、他の同系統のTRPGにあまり見られない要素が「ホーム」シーンのルールである。版元の説明は、これを「プレイヤーが、自分のエージェントが何のために戦っているのかを見る」ためのルールと位置づけている[1]。正気度のルールが「徐々に消耗し、時には壊れる」過程を追うのと対になる形で、ホームシーンは、その消耗と引き換えに守られる、あるいは守られない私生活や人間関係を扱う。

版元の設定説明は「権限なく、支援なく、恐れることなく」任務を続けると謳う一方で、エージェント個人は家庭や職業といった、組織とは無関係の生活基盤を抱えたまま任務に従事する。正気度の劣化・戦闘の致死性・ホームシーンでの人間関係――収録ルールの7項目が示すこの3つの軸は、いずれも「エージェントが何を失いうるか」を数値やシーンの形で追跡する仕組みだと読める。戦闘のルールが「周到な計画をも台無しにする」と明言し、力による解決を前提にしていないことも、命・正気・私生活のどれかを犠牲にしてでも隠蔽を続けるという、本作の主題と結びついている。

『クトゥルフの呼び声』との関係と、単体RPG化

デルタグリーンという設定は、もともとChaosiumのクトゥルフの呼び声TRPG向けのサプリメントとして生まれた[2]。当サイトのArc Dream Publishing記事が確認した範囲によれば、2015年にArc Dream PublishingがKickstarterキャンペーンを立ち上げ、『デルタグリーン』を単体のロールプレイングゲームとして刊行した[2]。本書『Agent’s Handbook』はその単体化以降のプレイヤー向け基本ルールブックにあたり、2016年のENnie Awardsで最優秀サプリメント部門の銀賞を受賞している[2]。同時期にクイックスタート版として無料公開された『Delta Green: Need to Know』も、同年のENnie Awardsで最優秀無料ゲーム部門の金賞を受賞した[2]。

版元の商品説明は、クトゥルフの呼び声TRPG向けサプリメントという出自を本書のページで改めて語り直してはいない。それでも、正気度のルールという骨格を引き継いでいる点に、両作の連続性は表れている。一方で、現代を舞台にすること、探索者ではなく政府機関の捜査官を演じること、隠蔽そのものを目的とすることは、クトゥルフの呼び声TRPGの古典的な探索者劇とは異なる方向へルールを作り替えた結果である。

原典との距離(神話の三層のどこに立つか)

当サイトが整理する三層で読み解くクトゥルフ神話の区分に沿えば、「デルタグリーン」という組織そのものは、ラヴクラフトの原典にもダーレス以降の拡張にも存在しない、TRPGの制作者による独自の発明――第3層に属する設定である。版元の設定説明が語る「1928年のインスマス強制捜査」「1969年のカンボジアでの作戦」という年表も、デルタグリーンというゲーム独自のフィクションとして組み立てられたものであり、本稿が参照した版元公式ストアページの範囲では、これらの出来事とラヴクラフトの個々の作品との対応関係までは明記されていない。

版元が挙げる収録ルールの7項目は、キャラクター作成・捜査・戦闘・正気度・ホームシーン・装備・連邦機関の身上調書という、すべてプレイヤー側の手続きに終始している[1]。神話生物そのものをどう扱うかは、「プレイヤー専用ルールブック」という位置づけからして、この巻の外側に置かれていると読める。

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出典

  • [1] Arc Dream Publishing公式ストアページ「Delta Green: Agent’s Handbook (hardback)」(商品コードAPU8107、価格39.99ドル、2026年9月18日確認)。ハードカバーに無料のPDF版が付属すること、『Delta Green: The Role-Playing Game』のデラックス・スリップケース版にも収録されていること、”Welcome to the Apocalypse”の節にある設定説明、”The AGENT’S HANDBOOK is a players-only rulebook for Delta Green: The Role-Playing Game.”という位置づけの文言、収録ルールを示す7項目の箇条書きを確認した。https://shop.arcdream.com/products/delta-green-agents-handbook ↩
  • [2] 当サイト「Arc Dream Publishing」記事(https://shinenshoka.com/history/arc-dream-publishing/)。デルタグリーンが元はケイオシアム社の『クトゥルフの呼び声』向けサプリメントだったこと、2015年にArc Dream PublishingがKickstarterキャンペーンを立ち上げ単体RPGとして刊行したこと、『Delta Green: Agent’s Handbook』が2016年のENnie Awardsで最優秀サプリメント部門の銀賞を受賞したこと、『Delta Green: Need to Know』が同年、最優秀無料ゲーム部門で金賞を受賞したこと、2018年6月に二分冊のスリップケース仕様が発売され『Handler’s Guide』が加わったことの記載を確認した。 ↩

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