彼方からの狩人は、アメリカの作家クラーク・アシュトン・スミスが短編「彼方から狩り立てるもの」(The Hunters from Beyond、1932年発表)のために創造した、次元の狭間に潜む異形の捕食種族です。ラヴクラフト存命期のパブリックドメイン原典には登場しない、スミス独自の創作に由来する拡張神話の存在です。
概要
スミスの原作は、彫刻家シプリアン・シンコールが手がけた七体の異様な彫像をめぐる物語です。シンコールは、肉眼では知覚できない次元に棲む「彼方からの狩人」と接触してしまい、その存在は彫像に憑依する形で具現化し、シンコールをはじめとする登場人物たちを襲います。物語は、シンコールの従兄で語り手を務める人物の視点から進行し、次第に常軌を逸していくシンコールの創作活動と身辺の異変を追う構成になっています。後年、ヘンリー・ハッセの短編「The Guardian of the Book」を経てラヴクラフト/ダーレス系のクトゥルフ神話に取り込まれ、以後リン・カーターらの作品にも登場するようになったとされますが、この経緯については当サイトでは確認していません。
基本プロフィール
- 初出作品(年): クラーク・アシュトン・スミス「彼方から狩り立てるもの」(The Hunters from Beyond、1932年発表)
- 創造者: クラーク・アシュトン・スミス(神話体系への編入の経緯は当サイトでは確認していません)
- 区分: 独立種族(異次元の捕食者)
- 主な居住域: 肉眼では知覚できない別次元
- canon層: 拡張(スミスによる独立創作。ラヴクラフト自身の作品には登場しない)
原典での描写
彫像に刻まれた狩人(295ページ)
語り手フィリップが久しぶりに従兄シプリアンのアトリエを訪れる場面から、この節は始まります。部屋の中央には「長い部屋の中央を占める、野心的だが未完成の群像」が据えられ、周囲には粘土・青銅・大理石、さらにテラコッタや滑石で作られた作品が並んでいました。かつて凡庸で几帳面だったシプリアンの作風は一変し、フィリップの目には「狂乱した殺戮を好む悪魔ども、ニンフ狂いのサテュロス、死臭を嗅ぎまわる食屍鬼、犠牲者になまめかしく巻きつくラミア」の群れとして映ります。フィリップはその不気味さに、アトリエから逃げ出したいという衝動に駆られたと記されています[3]。
狩人の正体と召喚の力(301ページ)
追い詰められたシプリアンは、フィリップに自らの力の由来を打ち明けます。彼はポーやラヴクラフト、ボードレールが文学で、ロップスやゴヤが絵画でやり遂げたことを彫刻で成し遂げたいと願い、そのためには見えざる世界の住人を実際に目にする必要があると考えて、オカルトへ足を踏み入れたといいます。その力に「世間一般でいう意味での魔術は伴っていなかった――呪文も魔法円も、五芒星も古い魔道書から焚く香の煙もない」とシプリアンは語り、突き詰めれば意志の力にすぎなかったと説明します。彼の彫像はすべて「実物から、あるいは少なくとも生々しい記憶から」象ったものであり、その原型はオカルティストが精霊と呼ぶ存在で、この世界と隣り合う、あるいは重なり合う無数の異界に棲んでいるとされます[3]。
シプリアンはそれらを意のままに操れるようになったのち、「あらゆる次元の中でも最も低く、地獄の最果てにもっとも近いある次元」から、この新しい群像のために名づけようのない存在たちを呼び出したと明かします。その正体について「奈落の蛆虫のように忌まわしく、ハーピーのように悪意に満ち、毒々しい飢えによだれを垂らして」いると言いかけたところで、当サイトが確認できた本文の引用箇所はそこで途切れています[3]。
マルタを襲う場面(301ページ)
シプリアンが呼び出した存在たちにマルタから離れるよう命じても、彼らは顔をゆがめてよだれを垂らしながら「声なきざわめきのような、唇をゆっくりとよじる仕草」を見せるだけで、以前アトリエで見た群像そのままにマルタを取り囲みます。鉤爪でマルタの手や腕、体をまさぐり、彼女は黒い苦悶と正気を失わせる恐怖に満ちた悲鳴を上げて連れ去られていったと記されます。その瞬間アトリエは消え失せ、地獄の業火が幾百万もの亡霊じみた竜のようにのたうつ空の下、「広漠として泥濘む灰色の平原」に変わり、群がる存在たちに取り囲まれながらマルタがその泥の中へ沈んでいく光景が広がったと語られます[3]。
別名・呼称
英名 Hunters from Beyond。原作の訳題は「彼方から狩り立てるもの」のほか「彼方からの狩人」とも訳され、本記事のタイトルにもなっている後者の訳が神話体系の呼称としては定着しています。
形態と特徴
彼方からの狩人そのものは通常、人間の肉眼では直接知覚できない存在として設定されています。原作では、彫刻家シンコールが象った粘土製の七体の彫像がその依り代となり、狩人がこの世に姿を現す際の媒体として機能します。彫像に憑依した際の姿は、常軌を逸した異形として描かれます。
性質・生態
彼方からの狩人は、輪廻転生の環から脱落した狂人・狂女の魂を狩って捕食する存在とされます。音もなく忍び寄り、獲物となった人間の正気を次第に蝕んでいくという性質を持ち、彫刻や像といった人工物に憑依・具現化することが知られています。原作では、彫刻家シンコールが手がけた七体の彫像それぞれに狩人が宿るとされ、粘土という可塑的な素材そのものが、本来知覚不可能な存在をこの世につなぎとめる依り代として機能する点が、スミス作品らしい発想として評価されています。
他の存在との関係
原作の時点では他の神格・存在との明確な結びつきは描かれていません。後年ヘンリー・ハッセが短編「The Guardian of the Book」でこの種族をラヴクラフト/ダーレス系のクトゥルフ神話に組み込み、以後リン・カーターらの作品にも波及したとされますが、この経緯については当サイトでは確認していません。
主要登場作と読みどころ
- 「彼方から狩り立てるもの」(1932年発表): 唯一の原型となる原作。彫刻家シンコールが自らの手で象った七体の彫像に、次第に自分自身が追い詰められていく展開は、スミス作品らしい退廃的で幻想的な筆致で描かれます
- ヘンリー・ハッセ「The Guardian of the Book」以降: この作品を経て彼方からの狩人がクトゥルフ神話に組み込まれ、リン・カーターらの作品にも登場するようになったとされますが、当サイトでは確認していません
- クラーク・アシュトン・スミスという作家: スミスはラヴクラフト、ロバート・E・ハワードと並んでWeird Tales誌の三本柱と称される作家で、詩人としての経歴を活かした濃密で装飾的な文体を特徴とします。「彼方から狩り立てるもの」も、幻想的で退廃的な語り口によって、視認できない怪物という抽象的な恐怖を具体的な情景として描き出しています
よくある誤解
Q. 彼方からの狩人はラヴクラフトが書いた存在ですか?
A. いいえ。彼方からの狩人はクラーク・アシュトン・スミスが1932年の短編「彼方から狩り立てるもの」で創造した独立した存在です。ラヴクラフト自身の作品には登場しません。後年ヘンリー・ハッセの作品を経てクトゥルフ神話に組み込まれたとされますが、当サイトでは確認していません。
Q. 彼方からの狩人はどんな姿をしているのですか?
A. 単一の確定した姿は設定されていません。狩人そのものは肉眼で知覚できない存在とされ、原作では彫刻家シンコールが象った七体の粘土彫像に憑依する形でこの世に姿を現します。彫像に宿った際の見た目は常軌を逸した異形として描かれますが、狩人本来の「素の姿」は作中でも明確にされていません。
出典
- [1] 彼方からの狩人はクラーク・アシュトン・スミスが「彼方から狩り立てるもの」(The Hunters from Beyond、1932年発表)で創造した種族であり、ラヴクラフト自身の作品には登場しない — Clark Ashton Smith, “The Hunters from Beyond”(1932), (一次資料未確認) [↩](#shn-fnref-1) ↩
- [2] ヘンリー・ハッセ「The Guardian of the Book」を経てラヴクラフト/ダーレス系ミソスに編入され、以後リン・カーターらの作品にも登場するとされるが、この経緯は一次資料では確認できておらず、当サイトでは確認していない — Henry Hasse, “The Guardian of the Book”, (一次資料未確認) [↩](#shn-fnref-2) ↩
- [3] Clark Ashton Smith, “The Hunters from Beyond”, Strange Tales of Mystery and Terror vol. 2, no. 3 (October 1932), pp. 295–301(掲載誌スキャンから当サイトが本文を確認できた範囲。物語全体の完結ページは未確認)。掲載誌スキャン(archive.org、識別子 StrangeTalesOfMysteryAndTerrorV02N03193210): https://archive.org/details/StrangeTalesOfMysteryAndTerrorV02N03193210 。訳文は当サイトの試訳。 [↩](#shn-fnref-3) ↩
*用語集にも彼方からの狩人(概略)として簡潔な解説があります。*


