概要
『Erase -missing link-』が、Steamストアページに「Coming soon(近日発売)」として掲載されている[1]。開発・発行元は「PermanentPapyrus」[1]。ジャンルはアドベンチャー・インディーに分類されている[1]。
どんなゲームか
Steam公式の説明によれば、主人公は中学生の夏八木うずら。カードゲーム「イレイズ」で最高ランクを目指しながら、同級生や町の人々と関係を深めていく中で、町で不可解な連続死が発生するという物語だ[1]。ゲーム系メディアの試遊レポートによれば、舞台は京都で、実在する三条商店街や鴨川デルタとのコラボレーションが発表されている[2]。
ゲームシステムはカードゲームとパズルを組み合わせたもので、対戦画面には手札に加えて画面中央にブロックパズルが配置され、「同じ色を3つ繋げて消すと自ターンのカードコストとなり、カードが使用可能になる」という独自の仕組みが採用されている[3]。日常パートでは、あらゆるイベントに「1D100」のダイスによる成功判定が用意されており、これはクトゥルフ神話TRPG(『クトゥルフの呼び声』)自体が採用しているパーセンテージ・ダイス判定と同じ方式だ[3]。10年以上にわたってクトゥルフ神話TRPGのシナリオを作り続けてきたサークルが手がける作品でこの判定方式が採用されていることは、偶然の一致というより、TRPGのルールブックそのものへの敬意を反映した設計だと見るのが自然だろう。カードゲーム・パズル・キャラクター育成という現代のデジタルゲームらしい要素の内側に、CoC TRPGのD100判定という骨格を埋め込んでいる構造になっている。正気度は「SAN(正気度)」というパラメータとして明示的に実装されており、低下すると狂気の影響を受ける[1][2]。カードゲームでの対戦、人間関係の構築、そして正気度管理という3つの要素を組み合わせた設計だと言える。早期アクセスの開始は2026年12月を予定している[3]。
開発元は「10年以上の実績を持つクトゥルフ神話シナリオサークル」
このゲームで特に記録しておきたいのが、開発元自身の説明だ。Steam公式ページは、開発元「Permanent Papyrus(日本語表記:永久パピルス)」を「クトゥルフ神話ジャンルで10年以上の活動実績を持つシナリオ制作サークル」と紹介し、本作を「クトゥルフ神話の謎に挑戦するカードゲームアドベンチャー」と位置づけている[1]。つまりこの作品は、ゼロから商業ゲームとして企画されたものではなく、長年クトゥルフ神話TRPGのシナリオを同人で作り続けてきたサークルが、その蓄積を携えて一本のデジタルゲームへ移行してきた事例にあたる。
実在する京都の街を舞台にする意味
舞台が、実在する京都の三条商店街や鴨川デルタといった具体的な地名とのコラボレーションで構成されている点も見逃せない[2]。ラヴクラフトの原典が、アーカムやインスマスといった架空の町を舞台にニューイングランドの実在の地理に重ねて恐怖を描いたのとは逆に、本作は実在する町の名前と風景をそのまま使う。プレイヤーが実際に歩ける場所で連続死の謎が進行するという設定は、恐怖の所在を「どこか遠い架空の町」から「今いる場所のすぐそば」へ引き寄せる効果を持つ。三条商店街(三条会商店街)は、堀川三条から千本三条にかけて広がる、京都最大とされるアーケード商店街だ[4]。鴨川デルタは京都市左京区、賀茂川と高野川が合流する地点に形成された三角地帯の通称で、亀形・千鳥形の飛び石が置かれた景勝地だ[5]。映画やドラマのロケ地としてもたびたび使われてきた場所である[5]。森見登美彦の小説『四畳半神話大系』との関連については、当サイトでは確認できる出典が見つからなかった。実在の観光地・生活圏として親しまれてきたこれらの場所を、連続死という不穏な物語の舞台として使うことで、プレイヤーは日常の延長線上に潜む異変というリアリティを味わうことになる。
日本の同人TRPGシナリオ文化との接続
当サイトは別記事「日本のクトゥルフはなぜ『書く文化』になったのか」で、日本のクトゥルフ神話TRPGが、原典を「読む」文化より先に、シナリオを「書いて遊ぶ」文化として広がってきた経緯を扱った。同記事が指摘する通り、TRPGはキーパー(進行役)が毎回シナリオを用意しなければ卓が成立しないという構造上、遊ぶ側が同時に作る側へ回りやすいメディアであり、この土壌から数多くの同人シナリオサークルが育ってきた。
「Permanent Papyrus」が10年以上のシナリオ制作実績を経てビデオゲーム制作へ進出したのだとすれば、これは同人TRPGシナリオ文化のもう一つの発展形と言える。紙のシナリオとダイスで卓を囲む形式から、カードゲームとダイス判定を組み込んだデジタルアドベンチャーへ――媒体は変わっても、「探索者(あるいはそれに準ずる主人公)が謎を追い、正気度を管理しながら真相へ迫る」という骨格は共通している。
これは、当サイトが別記事「個人制作のCoCシナリオが、池袋のコラボカフェになった日」で扱った現象とも並べて見ることができる。同記事では、個人の同人作家が作ったCoCシナリオの登場人物が、配信文化・ファンアートを通じて育ち、最終的にコラボカフェのグッズになるまでの過程を追った。今回のケースは、シナリオそのものではなく制作サークルの技術・世界観の蓄積が、紙のシナリオという枠を越えて商業ビデオゲームという新しい媒体へ結実した例にあたる。届く先(グッズ化かゲーム化か)は違っても、同人TRPGシナリオ文化が閉じた趣味の輪の中に留まらず、外側へ染み出していく力を持っていることを、どちらの事例も示している。
神話の三層で見るとどこに位置するか
当サイトが整理している原典/ダーレス系拡張/TRPG設定という三層に照らすと、10年以上にわたって同人シナリオを作り続けてきたサークルの作品は、TRPG設定という第3層のさらに上に積み重なった、個々の書き手による堆積の一つにあたる。今回のようにビデオゲームという新しい媒体へ移行した場合も、この位置づけ自体は変わらない。むしろ、一つのサークルが10年という長い時間をかけて蓄積してきた設定・作風が、初めて紙のシナリオ以外の形で世に出るという点で、同人クトゥルフ神話シナリオの厚みを測る一つの指標になる。10年以上という活動年数そのものが、日本の同人クトゥルフ神話シナリオシーンが一過性のブームではなく、継続的な創作の蓄積によって支えられてきたことを裏付ける数字でもある。
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出典
- [1] 開発・発行元「PermanentPapyrus」、発売日「Coming soon」、ジャンル「アドベンチャー、インディー」、主人公夏八木うずら(中学生)がカードゲーム「イレイズ」で最高ランクを目指す設定、町で不可解な連続死が発生する筋書き、「SAN(正気度)」パラメータの実装、開発元が「クトゥルフ神話ジャンルで10年以上の活動実績を持つシナリオ制作サークル」であることの記載がある — Steam公式ストアページ「Erase -missing link-」, store.steampowered.com ↩
- [2] 舞台が京都であること、実在する三条商店街・鴨川デルタとのコラボレーションが発表されていること、主人公名が「夏八木うずら」であることが記載されている — Denfaminicogamer「クトゥルフ神話カードゲームADV『Erase-missing link-』試遊レポート」, news.denfaminicogamer.jp ↩
- [3] 早期アクセス開始予定が「2026年12月」であること、対戦画面の手札とブロックパズルの組み合わせ、「同じ色を3つ繋げて消すと自ターンのカードコストとなり、カードが使用可能になる」というシステム、日常パートで「あらゆるイベントに『1D100』のダイスによる成功判定がある」ことが記載されている — Game*Spark「『夢が叶うカードゲーム』を信じますか?」, gamespark.jp ↩
- [4] 三条会商店街が堀川三条から千本三条にかけて広がる、京都最大とされるアーケード商店街であることが記載されている — 京都三条会商店街公式サイト, sanjokai.kyoto.jp ↩
- [5] 鴨川デルタが京都市左京区にあり、賀茂川と高野川の合流地点に形成された三角地帯であることが記載されている — 京都市左京区役所「サキョウ見聞録 その18 鴨川デルタ」, city.kyoto.lg.jp。飛び石が1993年に整備され、矩形・亀形・千鳥形あわせて計83基が置かれたこと、鴨川デルタが『パッチギ!』をはじめとする映画・ドラマのロケ地としてたびたび使われてきたことが記載されている — 日本経済新聞「京都随一、水辺の行楽地「鴨川デルタ」の記憶」, nikkei.com ↩
