概要
Chaosium(ケイオシアム[14])公式商品ページによれば、『Call of Cthulhu: Chaosium 50th Anniversary Slipcase Set』(読み:コール・オブ・クトゥルフ:ケイオシアム50周年記念スリップケースセット。中核となる『クトゥルフの呼び声』自体の日本語版はKADOKAWAより刊行されているが、本セット自体の日本語版は本稿執筆時点(2026年9月)で確認できていない)は、TRPG『クトゥルフの呼び声』第7版の中核をなす3冊——Keeper Rulebook・Investigator Handbook・Keeper Screen Pack——を、書き下ろしの新カバーとともに専用スリップケースへ収めたコレクターズセットである。価格は139.99ドル(PDF込み)、SKUはCHA23192-X、重量10.00ポンド、ISBNは978-1-56882-558-8と記載されている[1]。著者クレジットはサンディ・ピーターセン(Sandy Petersen)、マイク・メイソン(Mike Mason)、ポール・フリッカー(Paul Fricker)、リン・ウィリス(Lynn Willis)の4名、カバーアーティストはスウェーデンのオーラ・ラーション(Ola Larsson)、地図制作はステフ・ワージントン(Steff Worthington)と記載されている[1]。
商品ページの仕様欄には “Year Released: 2025” とあるが、後述するとおりChaosium自身の公式ブログは、この製品が実際に発売されたのは2026年4月29日だったと繰り返し伝えている[1][2]。この製品ページの年表記と実際の発売日のあいだの食い違いについて、理由を説明する公式資料は当サイトが参照した範囲では見つけられなかった。
どんな商品か
商品ページの説明文は、本セットを「特別な50周年記念コレクタブル・スリップケースに収めた、完全なクトゥルフの呼び声体験」と紹介し、冒頭にロバート・W・チェンバース『黄衣の王』(1895年)からの一節を掲げている[1]。そのうえで内容をこう説明する。
“The Keeper Rulebook, Investigator Handbook, and Keeper Screen Pack together in a premium collector’s slipcase, with all new cover art celebrating the 50th anniversary of Chaosium.”(訳: Keeper Rulebook・Investigator Handbook・Keeper Screen Packが、ケイオシアムの50周年を祝う新たなカバーアートとともに、プレミアムなコレクターズ・スリップケースにまとめられている。)[1]
3冊の内容は次のとおりである。Keeper Rulebookは基本ルール・世界観・進行の指針・呪文、そして表題にその名を残すクトゥルフをはじめとする神話生物のベスティアリーを収録し、ハンドアウトとプリメイドキャラクター付きの完全なシナリオを2本収め、『クトゥルフの呼び声』を他のホラーゲームから分かつサニティ(正気度)システムの全ルールを含む、キーパー(進行役)向けの中核ルールブックだと説明されている[1]。Investigator Handbookは、探索者の作成ルールを拡張し、100種以上の職業と技能の解説、探索者が所属しうる組織群、1920年代という舞台設定の詳細情報、そして新旧のプレイヤー双方への助言を収めた一冊である[1]。Keeper Screen Packは、1920年代ニューイングランドを舞台にしたすぐ遊べるシナリオを2本、世界地図・ラヴクラフト・カントリー・アーカムそれぞれの大判フルカラー地図、そして表側がオーラ・ラーションの新規アートワーク、裏側が重要なルール・数値・表をまとめた早見表になっている34インチのキーパースクリーンを含むという[1]。
編集体制を持つ業界専門メディアICv2は、2025年12月3日付の記事で本セットの内容についてこう伝えている。
“The contents of the books in this edition are the same as the current editions.”(訳: このエディションの本の内容は、現行版と同じである。)[3]
つまり本セットは新規のルール改訂やシナリオの書き下ろしではなく、既存の第7版3冊を新カバー・スリップケース仕様で再パッケージ化したコレクターズアイテムという位置づけになる。価格についても、発売当日付の公式ブログが「Physical Slipcase Set: $139.99 (price inc PDF)」「PDF: $69.99」という内訳を明記しており、物理版には電子版(PDF)が価格に含まれる形で付属することが確認できる[2]。
公式ブログが逐一伝えた発売までの経緯
本セットは、Chaosium自身の公式ブログが予告から発売まで複数回にわたって進捗を発表してきた製品でもある。
最初の言及は2025年11月5日付のブログ記事にさかのぼる。副社長マイケル・オブライエン(Michael O’Brien)名義の投稿は「今年、50周年の年を締めくくるもう一つのサプライズがある(“We have another surprise to close out the year of our 50th anniversary”)」と書き出し、Keeper Rulebook・Investigator Handbook・Keeper Screen Packをオーラ・ラーションの新規カバーアートで飾ったスリップケースセットの存在を明かした。同記事は「詳しい入手方法は今後数週間のうちにお伝えする(“We will have more information on how you can get your hands on this in the coming weeks!”)」と締めくくっており、この時点では価格も発売時期もまだ発表されていなかった[4]。
2025年11月29日、公式ブログは予約受付の開始を発表した。「予約は現在受付中です!2026年初頭にお客様の元へ発送されます(“Preorders are open now! It will ship to customers in early 2026.”)」と明記されている[5]。
2025年12月3日には、前出のICv2が本セットを紹介する記事を掲載し、「2026年第1四半期に店頭に並ぶ見込み(“which will hit retail in Q1 2026”)」という見通しと139.99ドルという価格、そしてこの発売がケイオシアム自身の50周年を記念するものだという説明を伝えた[3]。
しかし、この「2026年初頭」「第1四半期」という見通しどおりには進まなかった。2026年4月23日付の公式ブログは「来週発売(“is releasing next week”)」「4月29日発売(“Out on April 29th”)」と告知し[6]、実際に2026年4月29日付のブログで「発売中!(Out now!)」という発表がなされた[2]。第1四半期(1〜3月)という当初の見通しから見れば、実際の発売はおよそ1か月遅れたことになる。
創業年と「50周年」は本当に合っているか
本セットの名を冠する「50周年」がどの年を指すのか、Chaosium公式サイトの複数のページで独立に確認できる。About Usページは「ケイオシアムは、先見の明あるゲームデザイナー、グレッグ・スタッフォードによって1975年に設立された(“The Chaosium was founded by visionary game designer Greg Stafford in 1975.”)」と明記し、別の箇所で「ケイオシアムは2025年に50周年を迎える(“Chaosium celebrates its 50th anniversary in 2025.”)」と述べている[7]。1975年に50年を足すと2025年になり、この二つの記述は数字のうえで矛盾しない。
公式ブログもこれを裏づける。2025年1月2日付の投稿は「2025年はケイオシアムの50周年です。私たちの敬愛する創業者グレッグ・スタッフォードは、1975年に会社を設立しました(“2025 is Chaosium’s 50th anniversary: our revered founder Greg Stafford established the company in 1975.”)」と述べている[8]。さらに2025年10月31日、ハロウィン当日付の投稿は、創業の瞬間をより具体的な逸話として伝えている。
“On October 31, 1975 our founder Greg Stafford went down to the Alameda County Clerk’s office and filed the paperwork to officially register the company. Greg named us The Chaosium as a tribute to its birth as a ‘house of Chaos’ near the Oakland Colosseum.”(訳: 1975年10月31日、創業者グレッグ・スタッフォードはアラメダ郡書記局へ赴き、会社を正式に登録する書類を提出した。グレッグは、オークランド・コロシアムの近くで生まれた「カオスの館」への敬意を込めて、私たちを「ザ・ケイオシアム」と名づけた。)[9]
したがって、創業年(1975年)と本セットが掲げる「50周年」(2025年)のあいだに、当サイトが確認できた範囲での食い違いは無い。むしろ興味深いのは、前節で見たとおり、この「50周年」を祝うはずの記念セット自体が2025年中には店頭に並ばず、実際の発売は2026年4月29日、つまり50周年の年(2025年)がすでに終わったあとにずれ込んだという点である。予告と予約開始こそ2025年11月、50周年の年のうちに行われたが、消費者が実際に本を手にできたのは51年目に入ってからだったことになる。
原典との距離(神話の三層のどこに立つか)
本セットの中身であるKeeper Rulebook・Investigator Handbookは、当サイトの「クトゥルフ神話TRPGの刊行史」で扱った第7版(2014年刊行、日本語版は2019年)の系譜に連なる。『クトゥルフの呼び声』TRPGそのものは、サンディ・ピーターセンが1981年にケイオシアムから発表した作品であり、この起点は当サイトの「クトゥルフの呼び声TRPG」でも確認している[10][11]。今回のセットに新しいルール改訂は含まれておらず、ICv2が伝えたとおり内容は現行版と同一である以上、これは新たな一次創作ではなく、既存のTRPG設定を新装丁で再提供したものだ[3]。
当サイトの「原典/ダーレス系拡張/TRPG設定——三層で読み解くクトゥルフ神話」で整理した区分に沿えば、Keeper Rulebookに収録されたサニティ・システムや神話生物のベスティアリーは、いずれもTRPGが独自に体系化してきた第3層(TRPGによる拡張)に属する内容であり、ラヴクラフト自身が書いた1920年代の原典そのものではない[12]。本セットが変えたのは表紙のアートワークと梱包形態であって、原典との距離という観点では、収録されている第7版ルールそのものが持つ立ち位置——1981年の初版からサンディ・ピーターセンらが積み重ねてきたTRPG的体系化——から動いてはいない。当サイトの「第6版と第7版はどう違う?」で扱った、能力値のパーセンタイル表記への統一やプッシュロールといった第7版の改訂点も、本セットにそのまま引き継がれている[13]。
関連して読むなら
- クトゥルフの呼び声TRPG — 本セットに収録された第7版ルールの土台となる、TRPG本体を扱った記事
- クトゥルフ神話TRPGの刊行史 — 1981年の初版から現行の第7版までの版の変遷
- 第6版と第7版はどう違う? — 本セットに収録されているルールそのものの改訂点
- サンディ・ピーターセン——クトゥルフ神話をゲームに翻案した男 — 本セットの著者クレジット筆頭に名を連ねる原作者の記事
- 原典/ダーレス系拡張/TRPG設定——三層で読み解くクトゥルフ神話 — 本稿で使った三層の区分を解説した記事
- クトゥルフ神話 2026年 — 同じ2026年にケイオシアムが刊行した他の新作の動き
- クトゥルフ — Keeper Rulebookのベスティアリーに名を連ねる神話生物そのものの記事
記事化候補(当サイトに未収録の固有名詞)
- マイク・メイソン(Mike Mason)——2013年から『クトゥルフの呼び声』ラインのクリエイティブディレクターを務める、本セットの著者の1人。
- ポール・フリッカー(Paul Fricker)・リン・ウィリス(Lynn Willis)——同じく本セットの著者クレジットに名を連ねる第7版の共著者。
- オーラ・ラーション(Ola Larsson)——本セットの新カバー・キーパースクリーンのアートを手がけたスウェーデンのイラストレーター。
出典
- [1] Chaosium公式商品ページ「Call of Cthulhu: Chaosium 50th Anniversary Slipcase Set」(取得日 2026-09-13)。価格139.99ドル(PDF込み)、SKU CHA23192-X、重量10.00ポンド、ISBN 978-1-56882-558-8、著者Sandy Petersen・Mike Mason・Paul Fricker・Lynn Willis、カバーアーティストOla Larsson、地図制作Steff Worthington、仕様欄の “Year Released: 2025” という記載、Keeper Rulebook・Investigator Handbook・Keeper Screen Packそれぞれの内容説明、”The Keeper Rulebook, Investigator Handbook, and Keeper Screen Pack together in a premium collector’s slipcase, with all new cover art celebrating the 50th anniversary of Chaosium.”との記載を確認。https://www.chaosium.com/call-of-cthulhu-chaosium-50th-anniversary-slipcase-set/ ↩
- [2] Chaosium公式ブログ「Out now – the Call of Cthulhu: Chaosium 50th Anniversary Slipcase Set」(Michael O’Brien、2026年4月29日付、取得日2026-09-13)。”Out now!”、”Physical Slipcase Set: $139.99 (price inc PDF)”、”PDF: $69.99″との記載を確認。https://www.chaosium.com/blogout-now-the-call-of-cthulhu-chaosium-50th-anniversary-slipcase-set/ ↩
- [3] ICv2「Chaosium Unveils ‘Call of Cthulhu: 50th Anniversary Slipcase Set’」(Jeffrey Dohm-Sanchez、2025年12月3日付、取得日2026-09-13)。”which will hit retail in Q1 2026″、”Chaosium marks its 50th anniversary as a games company by releasing this premium collector’s set of Call of Cthulhu books.”、”The contents of the books in this edition are the same as the current editions.”、価格139.99ドルとの記載を確認。https://icv2.com/articles/news/view/61138/chaosium-unveils-call-cthulhu-50th-anniversary-slipcase-set ↩
- [4] Chaosium公式ブログ「Coming soon: Chaosium 50th Anniversary Call of Cthulhu Slipcase Set features new cover art by acclaimed Swedish artist Ola Larsson」(Michael O’Brien、2025年11月5日付、取得日2026-09-13)。”We have another surprise to close out the year of our 50th anniversary…”、”We will have more information on how you can get your hands on this in the coming weeks!”との記載を確認。https://www.chaosium.com/blogcoming-soon-chaosium-50th-anniversary-call-of-cthulhu-slipcase-set-features-new-cover-art-by-acclaimed-swedish-artist-ola-larsson/ ↩
- [5] Chaosium公式ブログ「Preorders open now for the Chaosium 50th anniversary Call of Cthulhu Slipcase Set」(Michael O’Brien、2025年11月29日付、取得日2026-09-13)。”Preorders are open now! It will ship to customers in early 2026.”との記載を確認。https://www.chaosium.com/blogpreorders-open-now-for-the-chaosium-50th-anniversary-call-of-cthulhu-slipcase-set/ ↩
- [6] Chaosium公式ブログ「The Call of Cthulhu Slipcase – Chaosium 50th Anniversary Edition releases April 29」(Michael O’Brien、2026年4月23日付、取得日2026-09-13)。”is releasing next week!”、”Out on April 29th.”との記載を確認。https://www.chaosium.com/blogthe-call-of-cthulhu-slipcase-chaosium-50th-anniversary-edition-releases-april-29/ ↩
- [7] Chaosium公式サイト「About Us」(取得日2026-09-13)。”The Chaosium was founded by visionary game designer Greg Stafford in 1975.”、”Chaosium celebrates its 50th anniversary in 2025.”との記載を確認。https://www.chaosium.com/about-us/ ↩
- [8] Chaosium公式ブログ「2025 is Chaosium’s 50th Anniversary」(Michael O’Brien、2025年1月2日付、取得日2026-09-13)。”2025 is Chaosium’s 50th anniversary: our revered founder Greg Stafford established the company in 1975.”との記載を確認。https://www.chaosium.com/blog2025-is-chaosiums-50th-anniversary/ ↩
- [9] Chaosium公式ブログ「Today, on Halloween, The Chaosium officially turns 50 years old」(Michael O’Brien、2025年10月31日付、取得日2026-09-13)。”On October 31, 1975 our founder Greg Stafford went down to the Alameda County Clerk’s office and filed the paperwork to officially register the company. Greg named us The Chaosium as a tribute to its birth as a ‘house of Chaos’ near the Oakland Colosseum.”との記載を確認。https://www.chaosium.com/blogtoday-on-halloween-the-chaosium-officially-turns-50-years-old/ ↩
- [10] 当サイト「クトゥルフの呼び声TRPG」記事(https://shinenshoka.com/reviews/call-of-cthulhu-trpg/)。サンディ・ピーターセンが1981年に発表したテーブルトークRPGであることの記載を確認。 ↩
- [11] 当サイト「クトゥルフ神話TRPGの刊行史」記事(https://shinenshoka.com/trpg/call-of-cthulhu-rpg-history/)。1981年のケイオシアムによる初版刊行、サンディ・ピーターセンによる設計、現行第7版という位置づけの記載を確認。 ↩
- [12] 当サイト「原典/ダーレス系拡張/TRPG設定——三層で読み解くクトゥルフ神話」記事(https://shinenshoka.com/trpg/mythos-three-layers/)。原典・ダーレス以降の拡張・TRPGによる拡張という三層の区分の記載を確認。 ↩
- [13] 当サイト「第6版と第7版はどう違う?」記事(https://shinenshoka.com/trpg/6th-vs-7th-edition/)。第7版(2014年刊行、日本語版2019年)が能力値のパーセンタイル表記統一・プッシュロールなど第6版から大きく改訂された版であることの記載を確認。 ↩
- [14] 4Gamer「Focus Home Interactiveが,TRPG「クトゥルフの呼び声」のケイオシアムと独占契約を締結。新規パブリッシング計画も次々に発表」(奥谷海人、2019年4月12日、2026年9月13日取得)。編集体制を持つ国内ゲームメディア。本文中で「ボードゲームの出版社であるケイオシアム(Chaosium)」という表記が使われていることを確認。Chaosium社のカタカナ表記の裏づけとして参照したもので、本セット自体を扱った記事ではない。https://www.4gamer.net/games/371/G037106/20190412033/ ↩

